第7話 ユースティアとルーナル
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ルーナルの家の中はあまりにもごちゃごちゃとしていて、足の踏み場もないほどだった。ユースティアの家よりもずっと大きいというのに、そこかしこに発明の残骸が放置されていて、それだけでルーナルの性格が推し量れるというものだ。
「いやぁ、すまないね。片付けようとは思ってるんだが、なかなかどうしてこれが上手くいかなくてねぇ。私の頭脳をもってしても解けない問題だよ」
「普通に使わないものは捨てればいいだけでは?」
「そうは言うけどねぇ、いつか使うかもしれないと思うとなかなか踏ん切りがつかないのさ」
「それ典型的な捨てられない人の言い訳じゃないですか……」
「アハハハハッ、確かにそうだねぇ」
レインの言葉にもルーナルはさして気にした様子はなく。片付ける気が無いことは明白だった。一番後ろを歩いていたユースティアは足の踏み場が無さすぎて歩きずらい現状にイライラし始めているのか、ルーナルに聞こえない程度の小声でずっと文句を言っていた。
「それにこれだけの量を片付けるとなると人手が足りないだろう? 私一人では時間がいくらあっても足りない。誰かに頼むとなると金もかかるしねぇ。できれば開発以外のことに金は使いたくないのさ」
「捨てるというのでされば私がいますぐにでも全部燃やして差し上げますが? 安心してください。家は燃やしません。このゴミだけを的確に燃やし尽くしてみせましょう」
「勘弁してくれ。君が言うと冗談に聞こえないんだ」
「本気ですから」
ユースティアの目は本気だった。今すぐにでもやってやるぞと言わんばかりの目でルーナルのことを見つめる。
「どうしますか?」
「……わかった。次までには片付けておくよ」
「そうしてください」
観念したとばかりにルーナルは手を振る。それを見たユースティアも手に宿していた炎を消す。もしルーナルが片づけを約束していなかったら本気で燃やしていたであろうことは明白だった。
「まぁこの部屋は使いやすいように片づけてある。ここでのんびり話合いといこうじゃないか」
「できれば手短に済ませて欲しいです」
「……ホントに君は私に冷たいな。もう少し愛想よくしてくれてもいいんじゃないか。名声高い聖女の名が泣くぞ」
「……ニコッ」
「笑顔で誤魔化そうとしないでくれたまえ。レイン、君の主はどうなってるんだ全く」
「えーと、なんていうか……普段はこうじゃないんですけど」
ユースティアのルーナルに対する態度は誰に対するものとも違った。レインと一緒に居る時のように言葉遣いが横柄になるようなことはないが、フェリアル達がいる時のように優しく接することもない。ルーナル以外にこんな態度で接するユースティアをレインはみたことがなかった。
「こんな特別扱いは嬉しくもなんともないがね。まぁユースティアは大切な顧客だ。多少のことには目を瞑るさ」
ルーナルの案内した部屋の中は先ほどまでのように足の踏み場もないというほど散らかっているわけではなかったが、それでもまだマシだった。
「さぁ、それで今日は何の用事かな?」
「それはもうわかってるはずですが?」
「もちろんわかっているとも。だがお互いの意思疎通の言うのは大事なものじゃあないか。わかっているだろう、そんな風に思って話をしていたら全く違うこと話していました、なんてことにならないようにするためにもね」
「……はぁ。私達がここに来たのは、大きく二つの用事です。レインの銃の整備と補給。そして以前に渡した魔人の道具についてのあなたの見解を聞くこと。これが今日の目的です」
「うんうん、どうやら私の認識との齟齬はなかったようだ。安心したよ。それじゃあまずはレイン君の銃についてだね。もちろん整備は完了しているよ。えっとたしか……そう、これだ」
近くをゴソゴソと探ってルーナルはレインの銃を見つけ出す。どんな扱いだと思わなくもないが、しっかりと整備はされていたようで新品のような仕上がりになっていた。
「レイン、持ってみてどうかな? 違和感はある?」
「……いえ、特に違和感があるってことはないです。ちょっと軽くなったような気はしますけど」
「そう! そうなんだ! よく気付いてくれたねレイン君!」
「な、なんですか急に」
「今回君の銃を整備するにあたって私は思ったのさ。このまま普通に整備してしまっていいものか、とね。以前よりも使いやすくしてこそではないかとね。そこで私はその銃に刻んだ魔術回路を見直すことにしたのさ。そしたらどうだい。昨日の自分より今日の自分とは言ったものでね。想像以上に無駄な回路が見つかったのさ。もっと早く見ておくべきだったと後悔したものさ。具体的には無駄を省けば新たに一つ魔術回路を組み込むことが可能なほどに無駄があった。これが滑稽な話でね、以前の魔術回路というのは——」
「あなたの話も無駄が多いですね。省きますか?」
「オ、オーケイオーケイ。いったん落ち着こうじゃないか。とりあえずその炎をしまってくれたまえ」
「魔術回路の話なんてされても私達には理解できません。どんな魔術回路を組み込んだのか、それだけ教えてください」
「まったく、少しは話を聞いてくれたっていいじゃないか」
「あなたの話は長いんです。まだ他の用も残っているんですから、そういうのは後にしてください」
「しょうがないねぇ。まぁ簡単に言うと組み込んだのは軽量化の魔術回路さ。少しでも取り回しがよくなるようにと思ってね。どうかな?」
「実際どれくらい動かしやすいかは使ってみないとわからないですけど、触って感じるくらいには軽くなってますよ」
「それなら上々。威力を上げるということも考えたんだがね。今回は動かしやすさを優先させてもらったよ。威力は銃弾で十分に補えるから」
「追加の罪弾は完成しましたか?」
「もちろん。君がナミルで倒したという魔人と、咎人から回収した罪。上質とは言えなかったけどね。《暴食》の罪弾は多く作ることができたよ」
罪弾。文字通り罪を埋め込むことで完成する弾丸だ。その能力はどの罪を使用したかによって変化する。ユースティアが咎人や魔人から罪を取り出し、それを利用してルーナルが弾丸を作る。罪を一つの塊にすることができるユースティアがいたからこそできた芸当だ。
「他の罪弾も作っておいたけど、数は確保できなかった。使う場所はよく考えるといい」
「だそうですよレイン」
「言われなくてもそれは……ちゃんと気をつけて使ってます。めちゃくちゃに高いですし」
「アハハハハッ、君がそれを気にするのかい? 金を払っているのはユースティアなのに」
「だからこそですよ。自分じゃ絶対払えない金額ですから」
「私としては気にせず使って欲しいですけどね。命あっての物種です」
「それもそうだね。命を守るための値段と考えれば特別高すぎるわけじゃないさ」
「いやそんな言葉で騙されないですからね」
罪弾の値段はべらぼうに高い。それこそ、弾丸一つで一つの家庭が一ヶ月は余裕で生活できてしまうほどに。特別な金属を使っているため値段が高くなってしまうというのがルーナルの言い分だ。
「聖女の稼ぎなら安いものだろう。いい加減慣れたまえよ」
「それは厳しいです」
「まぁこうしてユースティアが高い金を払ってくれるからこそ私は研究開発を続けれるわけだ。感謝しているよ」
「あなたの開発は私達にとっても有益なものになる可能性もありますからね。そのためのお金なら出しましょう。とはいえ、あまり無駄なことに使われるようなら考えを改めなければいけませんが」
ユースティアが言っているのは訪問してきた時の【爆炎魔法】のことだろう。あんなことにお金を使われるのであれば、出資を止めることもいとわないと言っているのだ。
「聖女ともあろうものがそんなに狭い考えではいけないなぁ。どんなことも糧として発明に生かす。成功も失敗もね。それが私のやり方だ」
「言い方はいいですけど、それで私達の迷惑をかけられても困ります」
「聖女に通用すれば大抵のものに通用すると考えていいからね。そういう点では前回の魔導人形は思った以上のできだったかもしれない。あれはまたちゃんと構想を練ろう」
「はぁ……その懲りない性格だけは称賛します」
「お褒めにあずかりありがとう」
「皮肉ですよ」
「もちろんわかっているとも。さて、それじゃあ次の話題に行こうじゃないか。おそらく今日の……一番の目的の話にね」
そう言ってルーナルは懐から漆黒の腕輪を取り出した。
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