第2話 食堂での騒動
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ユースティアが聖女会合をしていたその頃、レインは贖罪教本部の中にある食堂で休憩していた。基本的にユースティアの傍に侍るレインだが聖女会合の間はその限りではない。さすがのレインも聖女会合に参加することはできない。だから聖女会合が終わるまでの間はいつもこうして食堂で時間を潰すのだ。
贖罪官達でワイワイと賑わう食堂だが、レインに近づこうとする人は誰もいない。それもいつものことだ。特殊な境遇にあるレインは敬遠されている。魔力を持たず、まともに戦えないのに贖罪官となり、聖女の従者となった少年。それが多くの贖罪官がレインに持つイメージなのだから。
努力して贖罪官になった者達からすればとてもではないが認められるものではない。そんな贖罪官達の気持ちを理解できるからこそ、レインは敬遠されていることに対してなんとも思っていない。
しかし、そんなレインに近づく人が三人。その人達はレインの座るテーブルに近づくと、高圧的にレインのことを見下ろした。
「よう、レイン。久しぶりだな」
「……ドルツェン」
レインに声を掛けてきたのはタルム・ドルツェン。グラフィス州を治めるドルツェン公爵の三男だ。カルムは嫌そうな顔をするレインに対して、小馬鹿にしたような態度で話しかける。
「おいお前如きがオレのことを呼び捨てか? ドルツェン様、だろ。様をつけろよ」
「そうだぞレイン、不敬だぞ!」
「ユースティア様の腰巾着め!」
タルムの後ろにいた男二人も合わせてレインのことを非難してくる。ユースティアの腰巾着というのはレインに対する蔑称のようなものだ。この男達に限らず、レインのことを腰巾着と陰で呼ぶものがいることも知っている。
(腰巾着はお前らの方だろ……)
レインはそう言いたくなる気持ちをグッと抑える。いつもタルムの後ろについて回っている二人だ。まさに腰巾着と言うに相応しいだろう。
そんな状況だが、レインは決して言い返さない。そんなことをすればタルムが怒るのはわかりきっているし、何より下手に問題を起こしてユースティアに迷惑をかけるわけにはいかないからだ。
「贖罪教に入った以上、身分は全員平等なはずだぞ」
贖罪教に入った以上、貴族も平民も関係なく全員平等に扱われる。その中で働きに応じた職位を与えられるのだ。贖罪教の最高位に位置するのが教皇だ。ユースティア達聖女は神に選ばれた存在として教皇に次ぐ地位を持っている。そして職位という点で言うならばレインもタルムも同じ祓魔師であり同格で、それは皇族であっても変えられない決まりなのだ。
しかし、少数の貴族が爵位を振りかざし、平民の贖罪官を下に見ていることもまた事実。魔力を持つ平民が少なく、また貴族の方がより魔力量、そして質が高いことが原因の一つだ。
「オレとお前が平等だと? あははははっ! 笑わせるなよ。お前如きが、オレと一緒なわけないだろうが。家柄も、実力も何もかもオレの方が上なんだよ。なんだったら、今それを教えてやってもいいんだぜ。お前の身を持ってな」
「そんなことするわけないだろ。第一、俺はユースティア様から勝手な私闘を禁じられてる」
「ちっ、ビビりが。あぁ、違うか。そうやっていつも上手に逃げるんだよなお前は。ユースティア様の名前を出して逃げるんだ。いいよなぁ。聖女様の従者ってのは楽で。羨ましいよ」
「そう思うならそう思っとけよ」
タルムは明らかにレインのことを挑発していたが、その挑発に乗るほどレインはバカではない。タルムの言うことなどどこ吹く風といった様子で受け流す。そんなレインの態度を見て、タルムはさらに苛立ちを募らせたのか、舌打ちしてレインの机を叩く。
その音の大きさに食堂にいた周囲の人々がビクッとして何事かとレインの方を見るが、そこにいるタルムの姿を見てすぐに視線を逸らす。触らぬ神に祟りなし。タルムに目をつけられたくないのだ。
「おいお前、いい加減あんまり調子に乗るなよ? 平民風情がオレにたてついて……お前如き、ドルツェン家の力を使えばどうにだってできるんだぞ」
グイっと顔を近づけ、レインのことを睨みつけるタルム。その様子は大貴族の息子というより平民の不良のようだった。それに追い打ちをかけるように取り巻き二人がレインのことを挑発し始める。
「おい何とか言えよ。ビビってるのか?」
「言っとくけどな、ここでお前を助ける奴なんて誰もいないぞ」
「ビビッてないし、別に助けなんて求めてない。それよりお前らこそこんな所で油売ってていいのか? ずいぶん暇なんだな」
レインが軽く挑発した瞬間、タルムがレインの胸ぐらを掴み上げる。その表情はわかりやすく怒りに染まっていた。
「ユースティア様の従者だからって何もできないと思うなよ。その気になればお前を消すことくらい造作もないんだ」
「ユースティア様も何を考えてこんな汚らわしい平民を従者に選ばれたのか……あの方の素晴らしさは私達も認めるところだが、お前を従者に選んだことだけは納得できない。タルム様のような高潔で素晴らしい方こそユースティア様の傍にいるに相応しいというのに」
「全くだ。お前を従者に選んだことはあの方にとって唯一の汚点だ。この場に居ればすぐにでも進言するものを」
そう言ってレインのことを罵り続ける三人は食堂に入って来た人物に気付いていない。その人物の登場で食堂内の空気が明らかに変化していた。
「どんな卑怯な手を使ってユースティア様に取り入ったか知らないが、それがいつまでも続くと思うなよ。お前より、オレの方があの方の傍にいるのに相応しいんだ! オレこそがユースティア様の伴侶に——」
「私が……どうかしましたか?」
凍えるような声音がレインを取り囲んでいた三人の心臓を鷲掴みにする。ブワッと一瞬で全身に汗を掻く三人は。レインから視線を外し、ゆっくりと声のした方向へと視線を向ける。そこに立っていたのは、いつもの優しい笑顔ではなく険しい顔をしたユースティアだった。
「ユ、ユースティア様……」
「タルム・ドルツェン、ハンク・ファラファット、マテウス・ランダル……あなた達は今、何をしているのですか?」
「ち、違うのです! これは——」
「私は言い訳ではなく、何をしているのか、と聞いたのですが」
「っ……」
「……あなた達の声は食堂の外まで聞こえていました。レインが私の従者として相応しくないと……そう言っていましたね」
「そ、それは、その……そうです!」
ユースティアに凍えるような瞳を向けられて怯みかけたタルムだったが、これはチャンスかもしれないと思っていたことをユースティアに伝える。しかしそれは決してチャンスなどではない。話せば話すほどユースティアからの評価が下がるだけだということにタルムは気付いていない。
「この男は魔力も持たない平民です! それが贖罪官になるだけでも異例だというのに、ましてや聖女の……ユースティア様の従者に選ばれるなど、あってはならないことです! 聖女の従者には高貴な人間こそ相応しい、見合う身分というものがあるのです! 私のような人間こそ、あなたの従者に相応しいのです!」
「それはおかしな話ですね。贖罪教に入った以上、貴族も平民も関係なく平等。それが贖罪教の戒律の一つです」
「それは……そうですが……」
「レインを私の従者に選んだのは彼が私に相応しいと思ったから。高貴な人間であることも、相応の身分を持っていることも関係ありません。私が、彼を選んだんです。それにもし仮にレインがいなかったとしても、あなたを私の従者にすることはありません。絶対に、です」
そんなユースティアの様子を見ていたレインは想像以上のユースティアの怒り具合に、まずいかもしれないと少し慌てる。今のユースティアは冷静さを失いかけている。必要以上にタルムのことを追い詰めようとしているとレインは気付いてしまった。
「私の決定に口を出すということは——」
「ユースティア様!」
「なんですかレイン。私の話はまだ」
レインは冷静さを失いかけているユースティアの近くに駆け寄り、小さな声で耳打ちする。
「少し落ち着け。周り見ろって。注目を集め過ぎてる」
「っ!」
レインに言われてようやくユースティアは周囲の視線に気づく。一瞬だけ逡巡したユースティアだったが、やがて小さくため息を吐くとあらためてタルム達に視線を向ける。
「あなた達は気付いていないのかもしれませんが、レインは従者としてよくやってくれています。彼を選んで良かったと、私は心から思っています。あなた達も贖罪官として考えを改めてくださいね。私達は罪に立ち向かう仲間なのですから。行きますよ、レイン」
「あ、は、はい」
言うだけ言って、レインを連れて食堂を後にするユースティア。
その場に残されたタルム達は何も言い返せず、悔しそうな表情でユースティアについていくレインのことを睨みつけるのだった。
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