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罪喰らいの聖女  作者: ジータ
第二章 最強聖女と偽りの聖女
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プロローグ 始まりの朝

誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 ここはどこだろうと少女は当惑しながら周囲を見回す。しかし目に映るのは鬱蒼とした木々だけで、少女の望むような情報はどこにもない。


「…………」


 なぜこんなこんな所に私はいるんだろうか。そもそも私は誰だ? 名前は? ここに来る前の記憶は?

 どれほど頭を悩ませても答えはでない。立ち上がろうとするとふらりと体が揺れる。転びかけて気に手をついた少女は自分の体が疲弊していることに気づいた。それと同時に小さくお腹が鳴る。


「お腹……空いた……」


 空腹を訴える体だが、周囲に食べれそうなものは何もない。そもそもが知らない場所なので、どこに食べ物があるかもわからない。このままでは待っているのは緩やかな死だけだと理解していても、その心に焦燥は浮かんでこなかった。むしろ、心のどこかで死ねるかもしれないとまで思っていた。なぜそんなことを思ったのかは少女にもわからなかった。


「どうしよう……」


 ボーっとしたまま悩んでいても答えは出ない。その時だった。近くの茂みからガサガサと音がした。何かが近づいて来ることに気付いた少女は音のした方向へと目を向ける。そこから現れたのは二匹の獣だった。しかしそれは普通の獣ではない。禍々しい体躯に、鋭く伸びた大きな牙。その瞳は赤く染まっていた。そう、それは獣ではなく魔物だった。

 少女の前に姿を現した魔物は獲物を見つけたと言わんばかりに目を輝かせる。捕食者として被食者を見つめる。今にも襲いかからんとする二匹の魔物を前に、それでも少女に焦りはない。その代わりに浮かんできたのは——食欲だった。


「美味しそう……あなた達、とても美味しそうね」


 そこで初めて少女は笑みを浮かべる。その瞬間、捕食者と被食者の関係が入れ替わった瞬間だった。少女から放たれる異様な雰囲気に呑まれかけた二匹の魔物は、それでも少女に牙を突き立てんと飛び掛かった。向かって来る二匹の魔物を前に少女はゆっくりと手を伸ばし、そして——。





 数分後、そこに残っていたのは少女だけだった。その目の前には物言わぬ骸となった魔物が二匹いるだけ。少女はもぐもぐと口を動かしながら魔物の血肉を嚥下する。


「あぁ……やっぱり思った通り……美味しいですね」


 そう言って少女は笑みを浮かべるのだった。






□■□■□■□■□■□■□■□■□



 朝。うららかな朝日の差し込む部屋の中、ユースティアはベッドでぐっすりと眠っていた。ユースティアの眠りは非常に深い。それこそちょっとやそっとのことでは全く起きない。ユースティアの部屋の中に入れるのはユースティア自身とレインだけで、それ以外の人物は扉に触れただけで【迎撃魔法】が発動するのだ。


「すぅ……すぅ……ん……」

「寝顔見るなとか言う割に朝自分で起きないんだもんなぁこいつ」


 ベッドの縁に立つレインは頭を悩ませながら、どうやってユースティアのことを起こそうかと考える。何事も無い日ならば自分で勝手に起きるまで放置もできるのだが、今日は予定があるのでそうもいかない。

 普通に起こせばいいのではないか? と言われるかもしれないが、そうもいかない。なぜなら、ユースティアの寝起きは非常に悪いからだ。


「まぁとりあえず一回普通に起こすか。おいティア、起きろ。もう朝だぞ」

「…………」


 反応無し。やはり普通に起こす程度ではユースティアは微動だにしない。しかしそんなことはレインも織り込み済みだった。なのでレインは次の手段に打って出る。


「くらえ、ホットミルクチョコ」

 

 レインはユースティアのすぐそばに出来立てのホットミルクチョコを近づける。ユースティアは甘いモノが大好きで、その匂いに釣られてフラフラとキッチンまでやって来ることもあるほどだ。その習性を利用して、匂いで起こすことができないかと考えたのだ。


「……ん……甘い匂い……」


 そしてレインの予想通り、匂いを嗅いだユースティアはピクリと反応して薄目を開く。


「お、やっぱり反応あったか。おい起きろティア。ホットミルクチョコだぞー、甘いぞー。温かいうちに飲まないと勿体ないぞー」


 手をパタパタと扇のようにして、ユースティアに匂いをかがせるレイン。そのホットミルクチョコの匂いに釣られてユースティアの意識が少しずつ浮上してくる。後少しだと思ったレインはさらに一歩近づいてユースティアのことを起こそうとした。しかし、それがレインの間違いだった。


「……レイン? レインだぁ……」

「へ?」


 にゅっと布団の中からユースティアの腕が伸びてきて、レインの体を掴む。急なことに対応できなかったレインは予想外に強いユースティアの力でベッドの中へと引きずりこまれる。その際に手に持っていたホットミルクチョコを落として零してしまったが、そんなことを気にしている余裕もない。


「ちょ、ティア!? お前何を——!?」

「レイン……レインの匂いだぁ……温かい……」

「温かい……じゃないだろ!」


 必死に離れようとしても、ユースティアの無意識に魔力で力を強化しているのかレインの力ではビクともしない。ユースティアに抱きしめられて、胸に顔を埋める形になってしまうレイン。大きすぎず、小さすぎないユースティアの胸の中にあってその柔らかさや女性らしい匂いを感じてレインの一部が反応しそうになる。

 それを意思の力で必死に押しとどめてなんとかユースティアの腕の中から逃れようともがく。いっそ身を委ねたくなる天国のような温もりだが、それをしてしまったら最後、ユースティアが起きた後に地獄を見る羽目になってしまう。それがわかりきっているからこそレインは焦っていたのだ。


「まずいまずいまずい……っ!?」

「んむぅ……暴れるなぁ……」

「んぐっ?!」


 下手に暴れたせいでがっちりホールドされてしまったレインは最早動くこともできなくなっていた。ユースティアは比較的薄着で寝るタイプで、しかもレインが逃れようと暴れたせいであちらこちらがはだけていた。少し目を動かせばユースティアのきめ細かな肌が見える。気が狂いそうになる状況のなか、レインは必死に理性を働かせて耐えた。耐え続けた。

 そんな天国とも地獄とも言えない状況がしばらく続いた後、腕の中の違和感に気付いたユースティアが目を覚ます。そして目にしたのは、自分がしっかり抱きしめているレインの姿。


「………へ?」

「お、おはよう……ティア」

「おはよう……って、え? な、なんでレインが私のベッドに……え? え?」


 目が覚めたばかりのユースティアは状況が呑み込めていないのか、疑問を浮かべるばかりだった。そして気付いたのは、はだけてしまっている自分の服。それに気づいた瞬間、ユースティアは自分がカッと赤面しているのを感じた。


「この——」

「あぁ、やっぱりこうなるよな……」

「変態がぁああああああっっ!!」


 諦観と共にレインが呟いた直後、凄まじい衝撃がレインの体を貫きベッドの中から吹き飛ばされる。それでも意識が飛ぶほどではなかったのは、とっさにユースティアが手加減したからなのだろう。


「この変態! バカ、馬鹿、大馬鹿め! なんで私のベッドの中に入ってるんだ!」

「ちが、違うから! 俺が入ったんじゃないから! お前に引きずりこまれたんだよ!」

「そんなわけないだろ! 私はフェリアルみたいな痴女とは違うんだっ!」


 さらっとフェリアルのことをディスりつつ、ユースティアは羞恥と怒りで顔を赤く染める。


「っていうか、なんでもいいから動くなって! 動くと、その……色々と見えるんだよ!」

「っっ!? 見るなド変態大馬鹿レイン!」

「わかった、わかったから動くなって! 見える、見えちゃうから!」


 それからしばらくレインとユースティアの騒ぎは続いたが、ユースティアの【防音魔法】と【吸衝魔法】のおかげで、近隣の住民に気付かれることはなかったという。






約一時間半後、玄関のユースティアとレインの姿はあった。

ユースティアは髪も服装もばっちり整え、聖女として人前に出ても恥ずかしくない姿になっていたが、隣に立つレインは服装こそちゃんとしていたものの、ユースティアから鉄拳制裁をくらった影響で若干顔が腫れていた。


「いてててて……」

「……ふん、あんなことするからだバカ、馬鹿、大馬鹿め」

「お前が自分で起きないせいだろ。一回普通に起こしたのにそれでも起きなかったんだから」

「ぐっ……」


 自分が一度起きたらなかなか起きない性格なのはきちんと自覚しているので、そこについてはユースティアも何も言い返せない。若干バツの悪そうな顔でレインを見たユースティアは、無造作に【回復魔法】をかける。


「ティア? どういう風の吹き回しだよ」

「勘違いするな。私の従者がそんなボロボロな姿でいると私が恥ずかしいんだ。それだけだからな」

「……はいはい。わかったよ」

「治ったな。よし、それじゃあいくぞ。気は進まないけど」

「そう言うなよ。大事なことなんだから」


 向かう先は帝都にある贖罪教の本部。そこで行われる『聖女会合』へとユースティア達は赴こうとしていた。


今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

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それではまた次回もよろしくお願いします!

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