第35話 ユミィの決意
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その後のこと。影の世界を脱出したレイン達は怪我をしたカラとフォールを治療するために診療所へと向かった。カラなどは特に大怪我をしていたものの、ユースティアの【治癒魔法】の効果もあって命に別状はなかった。フォールも同様だ。
そしてユミィはユースティアが処置した通り、レインが魔人化したことはまったく覚えていなかった。ユースティアは最後の部屋に入ってからの記憶をきれいさっぱり消すことに成功していた。
そしてそれから二日後、ユースティアとレインは宿でダラダラとしていた。
「はー、まだ帰れないのか?」
「仕方ないだろ。ロイツ男爵があんなことになって、祭りもできなくなって。そりゃもうごたごたしてるんだから。フォールは起きたけど、カラはまだ眠ったままだし。置いて帰るわけにはいかないだろ」
リエラルトの一件はすでにナミルの住人の周知のこととなっており、当然のことながら混乱が起きていた。領主と魔人が繋がっていたなど一大事件だ。リエラルトが魔人に与した理由も広まっていたが、だからと言って許されることではない。
祭りは中止となり、ナミルの住人はその後処理に追われていた。
「この状況で私達にできることもない。帝都にはもう知らせてある。そのうちロイツ男爵の代わりが誰か来るだろ」
「それで混乱が収まればいいけどな」
「そこまでは私達の知ったことじゃない。私達のするべきことは罪の浄化と魔人の討伐。それだけだ。そして私達の仕事は終わった。だからもう帰る。それだけだ」
「薄情な……」
「じゃあ逆に聞くが、私達に何ができるって言うんだ? 代わりに領地運営でもしろって言うのか?」
「それは無理だけど……」
「強いてできることがあるとするなら、この混乱に乗じて罪を犯す人間がいないように目を光らせることくらいだ。そしてそれはもうこの街の贖罪官達にやらせてる。下手に首を突っ込む方が迷惑なんだ」
そこまで言われればレインはもう何も言い返せない。というよりも、ユースティアの言う通り何もできないことはレイン自身にもわかっていたからだ。それでももどかしい気持ちはなくならない。
「落ち着かないならカラ達の様子でも見てきたらどうだ?」
「……そうだな。そうするよ。ティアはいかないのか?」
「面倒だからパース」
「お前なぁ……」
「私が行っても変に気を使わせるだけだろ」
「はいはい。わかったよ。それじゃあ行って来る」
ゴロゴロとベッドに寝転がったままのユースティアを置いて、レインはカラ達のいる診療所へと向かう。その診療所はレイン達の宿から近いため、着くまでにそれほど時間もかからない。そして、診療所にたどり着いたレインはそのまますぐにフォールのいる部屋へと向かった。
「起きてるか?」
「あぁ、レインさん!」
「起きなくていいって。そのままで大丈夫だ」
「す、すいません」
部屋に入って来たレインを見て慌てて体を起こそうとするフォールだが、傷が痛むのかフォールは顔を顰めた。
「調子はどうだ?」
「はい。もうだいぶよくなりました。これならすぐにでも動けそうです」
「なら良かったよ。でもあんまり無理はするなよ」
「あ、そうだ。カラの方もさっき目を覚ましたみたいですよ!」
「そうなのか! 良かった。カラの方はだいぶ傷が深かったからな」
「はい。それと、今日もあの子来てるみたいです」
「ユミィが?」
カラが診療所に運ばれてからずっとユミィはカラの元を訪れていた。カラに助けられたことが原因なのか、随分とカラのことを心配してる様子だったのだ。
「そうか。まぁあいつだいぶカラに懐いてるしな。目を覚ましたっていうならちょっと行ってくるよ」
「はい。それと、オレも明日にはここを出れるそうです」
「そうか。良かったよ」
「元気だけが俺の取り柄ですからね! いつまでも寝込んでなんていられません!」
「ははっ、その元気俺にもわけて欲しいくらいだ。でも無茶はダメだからな。明日までは大人しくしとけ」
「はい。もちろんです」
「じゃあ、またな」
軽く挨拶だけして、レインはフォールの部屋を後にする。そしてそのまま隣にあるカラの部屋へと入った。
「入るぞ」
「あ、レイン!」
「レインさん、来てくださったんですね」
部屋の中に入って来たレインにユミィとカラが反応する。ユミィはレインが魔人化したことを忘れているおかげで、怖がるような素振りも見せない。
「あぁ。ユースティア様に様子を見に行くようにって言われてな。目を覚ましたみたいで良かったよ」
「すみません、気を使わせてしまったみたいで」
「気にするな。そもそも俺がもっとしっかりしてたらそんな大怪我することもなかったんだからな」
「そんな、それこそ気にしないでください! 私の実力不足のせいですから」
「いやいや、俺の方が——」
「いえ、私が——」
「あーもう! 二人ともうるさい! 謝ってばっかりだ。皆無事だったんだからそれでいいだろ!」
互いに謝り続けるレインとカラの間に割って入るユミィ。ユミィからそんなことを言われると思ってなかった二人は思わず目をぱちくりとさせ、笑ってしまう。
「な、なんだよぅ。私おかしなこと言ったか?」
「いいや、全然。むしろユミィの言うことが正しいなって思ってさ。まさかそんなこと言われるなんて思ってもなかった。そうだな。そうだった。皆無事だったってことを喜ぶべきだよな」
「そうだぞ。皆わかってないんだから……って、もう水ないや。私水貰って来る!」
水を飲もうとして水差しが空であることに気づいたユミィは水差しを持って部屋を出て行く。
「あの子……元気ですよね」
「あぁ。そうだな。本当に元気だ」
「でも一番泣きたくて、苦しいのはあの子のはずなんです。さっきあの子と話してた時に言ってたんです。私のママ達は、きっともういないんだって」
「っ!」
それは事実だった。リエラルトが生贄に捧げたユミィの家族がいたことはリエラルト自身が認めている。しかしそれはユミィには伝えていない事実だった。いつか言わなければいけないと思っていたが、気付かれているとは思っていなかった。
「子供って、結構鋭いんですよね。思い知らされました。それなのにあの子、元気笑うんです。あの子は……強いですね」
「……あぁ、そうだな」
それから少しして、ユミィが部屋へと戻って来る。
「お水貰ってきたぞ……って、どうしたんだ二人とも変な顔して」
「いや。なんでもないよ」
「あ、そうだ! なぁレイン、カラ。私決めたことがあるんだ!」
「決めたこと?」
「うん。私はしょくざいかん? っていうのになる!」
「「……はい?」」
「だーかーら。カラみたいなしょくざいかんになるって言ってるんだ!」
「いや、待て待て待て……えーと、本気か?」
「当たり前だろ。冗談でこんなこと言わない」
「なんで急にそんなことを……」
「急じゃないぞ。あの影の世界から戻ってきてからずっと考えてたんだから」
「いや十分急だろ。どう考えたらそうなるんだよ」
「……私のパパとママはもういないんだろ?」
「っ、それは……」
「隠さなくてもいいって、わかってるから。それがあの魔人が原因だってことも……」
少しだけ沈鬱な表情でユミィは言う。しかし、すぐにパッと表情を明るくするとカラの方を向いて言う。
「私さ、あの影の世界にいた時……もうダメだって思ったんだ。私はここで死んじゃうんだって。でもそうはならなかった。カラが私のことを守ってくれたから。必死で、命懸けで守ってくれたから。だから、私もそんな人になりたいって思ったんだ。ちゃんと前を向いて、誰かを助けられるような人になりたいって」
「ユミィちゃん……」
「お前……」
「な、なんだよ二人とも。私がこんなこと言ったら変だって言いたいのか!」
「……いや、その逆だよ。すごいよユミィ、お前は俺なんかよりもずっと強い」
「あぅ……ちょ、ちょっと外出てくる!」
急に恥ずかしくなったのか、ユミィは顔を真っ赤にするとそのまま走って部屋を出て行ってしまう。
「カラ、お前が命懸けで守ったからユミィは前を向くことができたんだ」
「レインさん……」
「お前はもっと自分に自信を持っていいと思うぞ。あの子を守ったのは、俺でもフォールでも、ユースティア様でもない。カラなんだから」
「はい……ありがとうございます」
「さて、あんまり長居しても迷惑だし。俺もそろそろ帰るよ。フォールにも言ったことだけど、あんまり無茶なことするなよ。大人しくしとけ」
「私をフォールみたいな脳筋と一緒にしないでください!」
「ははっ、それもそうだな。それじゃあまたな」
「はい。わざわざ来てくださってありがとうございました」
「俺は先輩だからな。これくらい当たり前だ」
ひらひらと手を振って、レインはカラの部屋を後にするのだった。
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