第34話 暗躍する影
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ユースティアがケルジィを倒すまでの流れを、レインは驚嘆の眼差しで見ていた。レイン達が手も足もでなかった相手、レインが奥の手を使ってようやく追い詰めたケルジィを一瞬で倒してしまったのだ。しかし、ユースティアならあり得ない話ではないと心のどこかでは思っていた。
「一瞬かよ……」
「当たり前だ。私を誰だと思ってる」
「世界最強の聖女様……だろ。あらためて実感したよ」
「この程度聖女なら私じゃなくたってできる。私を楽しませたいならもっと強い魔人を連れてこいという話だ」
「これ以上とか勘弁してくれ……」
「今回の魔人は今までで最弱の部類だな。特異な能力でも持ってるかと思ったけど、持ってたのは単純な変身能力だけ。それも力押しだ。ただ一つ他と違う点があるとするなら」
「あの道具か?」
「あぁ。影を操る道具。なかなかにユニークだ。昔戦った魔人を思い出した」
ユースティアがケルジィが塵となって消えた場所に行くと、そこにはケルジィが落とした道具が残っていた。飾り気のない漆黒の腕輪だ。
「……特に罠が仕掛けてあるということはないか。奪われる可能性は考慮してなかったのか、奪われてもいい程度のものなのか……まぁなんにせよ、これは持って帰る価値がある。ルーナルにでも渡せば嬉々として調べるはずだ」
「確かにルーナルは喜びそうだな。そういうの」
「後は……あいつらだな」
ユースティアの視線の先にいたのは倒れ伏すカラとフォール、そしてユミィだった。ユースティアとレインが近づくと、ユミィはあからさまに怯えたような表情を見せる。そしてその視線はユースティアではなく、レインに対して向けられていた。
「…………」
それを見たレインは表情を曇らせる。守るために仕方がなかったとはいえ、レインは魔人としての姿をユミィに見せてしまった。そして、その状態でユミィのことを殺そうとした。ユースティアが間に合わなければレインは確実にユミィのことを殺していただろう。恐怖を抱かれても仕方のないことをレインはしてしまったのだ。
(それでも……子供からあんな目で見られるのは結構キツイな)
「下を向くなレイン。お前はお前の正しいと思うことをしたんだ。それが最善でなかったとしても、お前は間違ってない」
「ティア……」
その言葉にレインは少しだけ救われたような気持ちになる。ユースティアはそのままユミィに近づくと、防護壁を解除しユミィの前に立つ。
「ユ、ユースティア……」
「怖かったかもしれないが、もう大丈夫だ」
「ひぐっ……うぅ、うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
堪えていた恐怖が噴出したのか、泣き出してユースティアに抱き着く。そんなユミィの頭を撫でながらユースティアは告げる。
「ユミィ、今回私達の不手際でお前を危険な目に合わせた。そうはどう言葉を取り繕っても言い訳できない事実だ」
「……ユースティア?」
「そして私とレインの秘密を知ってしまった。私達の秘密は隠し通さないといけないものなんだ。だから……悪いとは思ってる」
「あ……」
ユースティアが【睡眠魔法】をユミィにかける。抵抗することなどできるはずもないユミィは、そのまま深い眠りに落ちてしまった。すぅすぅと穏やかな寝息をたてるユミィを見て、レインは複雑そうな表情を浮かべる。
「消すのか? 記憶」
「そうするしかない。レインの秘密を知られてしまった以上、そのままにはしておけない。レイン。この部屋に来たのは何分前だ」
「大体二十分とかそれくらいだと思うけど」
「ならそこからの記憶だな。カラとフォールには見られてないな?」
「あぁ。あの二人は気を失ってたはずだ」
「そうか」
ユースティアはそう言って短く返事をすると、ユミィの頭に手を置く。ポウッとその手から光が放たれ、ユミィの全身が包まれる。レインに言った通り記憶を消しているのだろう。長時間に及ぶ記憶の消去は問題も起きることもある。だからこそユースティアは短い時間だけ記憶を消していた。
「ここに落ちてからの記憶も消した方がいいんだけどな。さすがに長すぎる」
「本当にそれでいいのか?」
「面倒事は少しでも減らしたい。ユミィが話さないって言っても、それを私は信用するわけにはいかない。知る人間は少しでも少ないほうがいいからな」
「そうだけど」
「記憶を消すことに罪悪感を覚えてるならそれは間違いだぞ」
「え?」
「もし消さずにいるなら、私達はユミィを監視しないといけなくなる。ユミィの自由を奪わないといけなくなる。それでもいいのか?」
「それは……良くないけど」
「はぁ……私だって消さずに済むならそれが一番だと思ってるよ」
そうしているうちに記憶を消し終わったのか、ユースティアはユミィを抱きかかえたままゆっくり立ち上がる。
「終わったぞレイン。これでとりあえずは大丈夫だ」
「そうか……」
「あぁもう! いつまでも暗い顔するなこのバカ!」
「バ、バカってなんだよ!」
「終わったことをいつまでもうじうじ考えてたってしょうがないんだ。受け入れて前に進むしかない。いくぞレイン」
ぷんすかと怒りつつ、ユースティアは歩き始める。その途中で意識を失ったままのカラとフォールもしっかりと回収することも忘れずに。レインは軽く息を吐くと、ユースティアについて影の世界を後にするのだった。
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「おや? おやおや? 一号君の反応がロストしましたか」
ごちゃごちゃとした部屋の中にその人物はいた。数多の機械がひしめくその部屋の中心で眠っていた彼女は、魔導モニターの一つが示した異変に気付いて体を起こす。
「って、二号君も三号君もロストしてるじゃないですかー。せっかく私の天才的発明品を貸してあげたのにー」
ぶーぶーと文句を言いながらその女性は魔導モニターで状況を確認する。
「西側の大陸に行って人間の街を壊滅させるだけの簡単なお仕事もできないなんて、やっぱりワンちゃんは飼い主付きじゃないと役に立たないですねぇ。えーと、とりあえずデータだけはこっちまでとんで来てますね。どれどれ」
魔導モニターに送られてきたデータを確認するその女性は、楽しそうにしながら魔導モニターに目を走らせる。
「おぉ、一号君は【縛封陣】と【影夢の腕輪】まで使えましたかー。うーん、二号君と三号君もそれなりと。【縛封陣】は対聖女用に調整しておいたはずですけど、あっという間に壊されてますね。強度の高い壁を作るだけじゃなくて、聖女の力を減退させる仕組みを作る必要がありそうですねー。それに【影夢の腕輪】も私が想定した以上に生贄を必要としましたか。これだと効率悪すぎだー。いやー、失敗失敗、大失敗ですね」
そう言いながらも女性は心底楽しそうに笑っていた。口では失敗したと言って嘆いていながらも、頭の中ではすでに次のことを考えていたからだ。
「まぁ新作の実験ができたから良しとしましょうかねー。一号君……えーと、名前なんでしたっけ? まぁ、一号君でいいか。あの子達のおかげで今回の作品が失敗作だってことはわかりましたし。失敗は成功の母。この経験を糧に私はさらなる発明家への道をひた走るのですー、なんちゃって」
一通り送られてきたデータに目を通した女性は、興味を失ったように魔導モニターから目を離す。その頭の中は他のことでいっぱいだった。彼女の言う一号君……ケルジィのことすらすでに記憶の中から排除されていた。
「いいですねぇ西側は。人が豊富で実験し放題。私も行ってみたいですねぇ。なーんて。まぁそれはまたの機会にしましょう。今度はそうですねぇ……彼女を使いましょうか」
そう言った女性の視線の先には、ポッドの中で眠り続ける少女の姿があった。
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