第29話 【黒影魔法】
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
【縛封陣】を破壊し、贖罪官を連れてきたユースティアはリエラルトが使用した【呪具】を破壊するための準備を進めていた。
「私はロイツ男爵の解呪をします。他の方は使用人の方たちのケアをしてください。数名は別の部屋にいる咎人の方の保護を」
「「「わかりました!」」」
ユースティアの指示で贖罪官達は動き出す。そんな光景を見ながらリエラルトは額に脂汗を滲ませながら自嘲気味に笑う。
「……わ、私などのことを構っている時間があるのですか? ま、魔人の狙いは……あ、あなたの仲間なのですよ」
「そうなのでしょうね。もちろんわかってます。ですが私は誰も諦めません。その中にはもちろんあなたも入っているのです。ですから、大人しく救われてください」
「……はは、叶わないな」
そう言ってリエラルトは自身の顔を覆う。それは泣いている自分の顔を隠すためか、それとも自分の醜い姿を見られたくないからか。ユースティアは気付いていて何も言わない。何も言えない。
「呪具を装着してから時間が経ちすぎています。早ければ問題なかったのですが……あなたの左腕は諦めてください」
「いっそ殺してくれ……と言えたらどれだけ楽なのでしょうね」
「もしそんなことを言えば私でも怒ります。あなたは生きていなくてはいけない。生きて自分が何をしたのかということを理解しなくてはいけません。死の救済はあなたには赦されない」
「手厳しいですな」
「一瞬痛みます。堪えてくださいね。それと、できれば見ない方がいいですよ」
道具で解呪を完了したユースティアはリエラルトの左腕を切り離す準備に入る。もう少し早ければ呪具だけを外すことができたのだが、リエラルトの腕に着いた呪具は深く根付いてしまっており、腕ごとでなければ外せそうになかった。
痛覚遮断の魔法をかけたユースティアは剣で腕を切り離す。ユースティアの言った通り一瞬だけ痛みが走ったのか、顔を顰めるリエラルト。腕を切り離すと同時にユースティアは【回復魔法】を使って傷口を塞ぐ。
「終わりましたよ」
「……腕がないというのは、不思議なものですな。動かそうとしても、その先に感覚がない」
「それもまたあなたの行動の結果です。受け入れるしかありません」
「そうですな……」
「これは気休めのような言葉になってしまいますが……娘さんは無事ですよ」
「っ!」
「すぐには無理でしょうが、いずれ意識を取り戻すでしょう。ちゃんと話してあげてくださいね」
「……ありがとう。ありがとう……ございます」
「それが私の仕事ですから。それでは私はこれで。後の事は他の方に頼んでありますので」
「ユースティア様」
「なんですか?」
「私のかけるべき言葉でないことは理解していますが……お気をつけて」
「……えぇ。もちろんです」
そしてユースティアはリエラルトの屋敷を後にするのだった。
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リエラルトの屋敷を出たユースティアはそのまま急いで宿へと戻った。しかしそこにレイン達の姿は無く、荷物だけが置いてあった。
「いないか……予想はしてたけど」
宿の従業員に聞いても、レイン達がどこへ向かったかは聞いていないという。しかしユミィも一緒だったならばそれほど遠くには言っていないはずだと見当をつけて店が立ち並ぶ場所へと向かう。しかしレインの気配を感じることはできなかった。
「……おかしいレインがいたら確実にわかる。私がレインの気配を見逃すはずがない」
店の従業員に聞けば確かにレインの姿を見たことがあるという。ならばレインは確実にここにいたはずなのだ。しかしユースティアはレインの気配を感じることができていない。そのことがユースティアには不可解だった。
「あ、あの……」
どうやって探したものかとユースティアが考えていると、一人の少女がユースティアの声を掛けてくる。そしてユースティアはその少女に見覚えがあった。
「あなたは……ダレンさんと一緒にいた」
「は、はい……断罪官のフウカ・ミソギです」
ユースティアはほぼ初対面に近いフウカのことがあまり好きではなかった。ダレンと戦っている間もフウカがずっとレインの方に意識を向けていることに気付いていたから。フウカがレインに対してどんな感情を抱いているかは知らない。しかし、なんであれレインに近づこうとする女をユースティアが気に入るわけがなかった。
「断罪官であるあなたが、聖女である私に何の用ですか?」
「そ、その……レ、レインく——従者の方を探しているのではないかと思いまして」
「そうですけど……何か知っているのですか?」
「はい。その影に吸い込まれていくのを見たんです」
「影?」
「沈んでいくようにして消えていったんです。でもその後には何も残ってなくて……」
「影に吸い込まれた……何か特殊能力? それとも道具を使った? 【縛封陣】のような妙な道具も持ってましたし……」
「あの……」
「あぁ。すいません。ところで、そのことはダレンさんには伝えたのですか?」
「はい。ですがダレンさんはまだ万全に動けるような状況ではなくて……」
「なるほど……私のせいですか」
ダレンが動けないのはユースティアが全力で潰したせいだ。ダレンはユースティアが銃で撃ちぬいた傷が治り切っておらず、まだ完全には動けない状態だったのだ。
「あ、いえ。ユースティア様のせいでは……」
「ですが、それだけわかれば十分です」
「え、十分って……」
「影の中に移動する道具か、能力か。しかしその手の魔人は何度か相手にしたことがあります。そして、その対処法も……十分に」
「そんな、影なんてどうやって……」
「移動しますよ。ここでは少し狭いので」
「え、あ、はい。って早い!? ちょ、ちょっと待ってくださいユースティア様!」
フウカを置いて移動をし始めたユースティアの後をフウカは慌てて追いかける。そうしてやって来たのはナミルから少し離れた拓けた場所だった。
「ここなら大丈夫でしょう」
「はぁはぁ……ここで何を?」
「影を開きます」
「影を開くってそんなのどうやって」
「そこに立っていただけますか」
「は、はい」
ユースティアは目の前にフウカを立たせると、その影の中に手を突っ込む。しかしその手は地面に突き刺さることはなく、そのまま影の中へと吸い込まれていく。
「昔、影の中を移動する魔人がいました。あれは捕まえるのに苦労しましたが、その際に生み出した魔法があるんですよ——【黒影魔法】」
ユースティアがグッと手に力を込めると掴んでいた影が徐々に広がり始める。
「相手が影の中に逃げ込むなら、こっちも影に入ればいいんですよ」
「わ、私の影が……広がって……」
「見つけました。……影の中に別の世界を作ってたんですね。これほどの精度で構築するなんて……普通の技術じゃない。私でもここまでの物を作るのは……」
「え、いや、あの……こ、これ私の影なんですよね。だ、大丈夫なんですかこれ!」
「大丈夫ですよ。というかその反応、レインと一緒ですね」
初めて【黒影魔法】を作りあげた時、ユースティアはもちろんレインで試した。その時もフウカと同じような反応をしていたのだ。どこかレインを彷彿とさせるフウカの姿にユースティアはクスリと笑う。
「問題ありませんよ。影は影。あなたから切り離しただけでもう新しい影が生まれてるでしょう」
「あ、ほんとだ……」
「切り離した影を門にします名付けるなら『影門』ですかね」
「『影門』……」
「門はしっかり繋がったようですよ」
「あ……」
ユースティアが開いた影の先には廊下が広がっていた。薄暗く、君の悪さすら感じる雰囲気だ。
「当たりですね。この先からレインの気配を感じます。でもこの感じは……」
「この先にレイン君がいるんですね! い、行きましょう!」
「ダメです。あなたはここに居てください」
「な、なんで……」
「この先には魔人がいます。そんな場所にあなたを連れていくわけにはいきません」
「魔人がいるならなおさら私は!」
「あなたでは魔人に勝てない」
「っ!?」
「魔人は誰でも勝てるほど優しい存在じゃない。そして私の見る限り、あなたでは勝てない」
「っ……」
ユースティアはフウカに現実を突きつける。ユースティアは決して嘘をついているわけではない。フウカでは魔人に勝てない。これは事実だ。だからこそユースティアはフウカを連れていけない。連れていかない理由はそれだけではないが。
「今のあなたでは、圧倒的に実力不足です」
ユースティアはそれだけ告げて影の中へと入り、門を閉じた。フウカはその後を追いかけることはできず、ただその場に立ち尽くすことしかできなかった。
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