第27話 魔人のゲーム
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グラトニータイガーに勝利したレインは負傷しているカラの元へと向かった。隣の部屋ではフォールがカラの治療をしており、その様子をユミィが心配そうに見守っていた。
「レインさん」
「カラの様子は?」
「まずいです。右腕は完全に折れてますし背中は裂傷が酷いです。できるだけの応急処置はしましたけど。このままじゃ……」
荒い息で呼吸しているカラ。僅かとはいえ、意識があるのも不思議なほどの怪我だった。カラについている傷の全てがグラトニータイガーとの戦いの激しさを語っていた。
「どのみちこのままここに居たんじゃ話にならない。もうすぐ魔物達も追い付いて来るだろうし、急いで脱出するぞ。俺が前を走るから、その後をカラを連れてついて来い。ユミィはできるだけ俺とフォールの間にいるように意識してくれ」
「…………」
「ユミィ? どうしたんだ?」
「……ごめんなさい。私のせいでカラが……私のことを守ろうとしたから」
「泣くなユミィ。お前を守ろうとしたのはカラの意思だ。そしてカラはお前のことを守り切った。お前がするべきなのは謝罪じゃなくて感謝だ。後でちゃんと、お前の口からカラに感謝を伝えろ」
「……うん」
「……魔物が近づいて来てる。いくぞ」
「はい!」
負傷したカラを背中でしっかり固定したフォールは、レインの後に続いて走り出す。
「でもレインさん、どこに出口があるかわかるんですか?」
「わからん」
「え、それじゃあ今どこに向かって走ってるんですか!?」
「魔物が来てる反対側だ。あっちに戻るわけにはいかないからな。負傷したカラを連れた状態じゃまともに戦えない」
「でもそれじゃあ、こっちに出口があるって保証はないんじゃ……」
「確かに無い。でも可能性は高いと思ってる」
「どうしてですか?」
「魔物達の動きだよ。最初に俺達の所に現れた時から、どっかに誘導しようとしてるみたいな動きだった」
レイン達が最初に戦ってから数多くの魔物が現れたが、どこか一部魔物の壁が薄い箇所があった。それはまるでそこを突破しろと促しているかのように。途中からレインはそれに気付いていたが、無理に逆らうことができるような状況ではなかった。そして今も、まるで何かに導かれるように一つの方向へとレイン達は向かっている。
(この先に何が待ってるのか……まぁすんなり帰してくれないだろうってことはわかってるけどな)
カラ達と無事に合流できたことでレイン達の第一目標は達成した。後は脱出するだけなのだが、まだ姿を見せていない魔人のことがレインの頭に引っかかり続けていた。
「考えててもしょうがないか。なるようになるだけだ」
迷っている間にもカラはどんどん衰弱していく。レインは最悪【憤怒】を使って無理やり脱出することも視野に入れながら道を走り続けていた。すると、レインの視界の先に一際大きな扉が現れる。まるでレイン達のことを誘おうとしているかのようにその扉がゆっくりと開かれる。
(罠? いやでもあそこに行くしかない)
後ろから追いかけてくる魔物の群れを見て、レインはあそこに入るしかないと判断する。レイン達が飛び込むと同時に、扉は大きな音を立てて閉まる。
飛び込んだ先は巨大な講堂になっていた。祭壇のようなものも設けられており、その祭壇の中央には女性の像のようなものがあった。フォールは背負っていたカラをゆっくりと降ろし、近くに寝かせる。
「なんだこれ……」
「教会……みたいですね。あんな像は見たことないですけど」
それまでとは打って変わって静かになったことに警戒心を抱くレインとフォール。その時だった。パチパチと拍手の音が突如として鳴り響く。
「っ!」
弾かれるように音のした方向へ銃を向けるレイン。そうして暗がりから現れたのはレイン達をここに連れてきた張本人である魔人だった。
「魔人……っ!」
「やだなぁ。そんな怖い顔しないでよ。それに僕は魔人なんて名前じゃない。ケルジィっていう名前があるんだ」
「知るか。魔人は魔人で十分だ」
「冷たいなぁ。まぁいいけど。僕はね、君達のことを称賛してるのさ」
「称賛?」
「うん。だってまさかここまでたどり着くと思ってなかったからさ。途中で死ぬかなーとか思ってた。でもまさかあのグラトニータイガーを乗り越えてここまでたどり着くなんて。予想外だったよ」
クスクスと楽しそうに笑うケルジィの姿に、レインは苛立ちを募らせる。
「ふざけるな! お前のせいでカラは死にかけてるんだぞ!」
「それはそいつが弱いせいでしょ? 僕のせいにしないでよ」
「お前……」
「こっちだって可愛がってたグラトニータイガーを殺されたんだから、おあいこだよね。それよりもさぁ。せっかくこうして再会したんだし、もう少しお話を——」
パンッ、と渇いた音が鳴り響く。レインが銃を撃ったからだ。撃った弾丸は狂いなくケルジィの脳天を貫く。これ以上ケルジィの不愉快な声を聞いていたくなかったのだ。しかし、脳天を貫かれたはずのケルジィは倒れることはなく立ち続けたまま穴の開いた脳天に手を当てる。
「あぁ。酷いなぁ。僕だって痛いんだから。でも……そっか。それが君の答えなんだね」
「当たり前だ。お前と仲良く話すつもりなんかない」
「残念だなぁ。殺す前に色々と話しておきたかったんだけど。それが答えなら……もう終わらせるしかないかぁ」
心底残念そうに呟くケルジィ。その次の瞬間、一陣の風が吹いた。レインの視界からケルジィの姿が消える。レインは一瞬たりともケルジィから目を離していなかった。それでも捉えられなかった。それはダレンと戦った時と酷似していた。レインには何が起きたのか理解すらもできなかった。
「あがぁっ!?」
そして聞こえたのは、フォールの悲鳴。ハッと後ろを見るとケルジィがフォールの首を掴んで持ち上げていた。フォールの体はケルジィよりもはるかに大きい。奇妙な光景だが、ケルジィが魔人だと思えば不思議でもなんでもない光景だった。
ワンテンポ遅れてケルジィに銃を向けるレインだが、ケルジィはフォールの体を盾にしてレインの射線を塞ぐ。
「撃つなら撃てば? まぁこいつも死んじゃうけどさ。あははっ」
「くそ……」
撃てない。撃てるわけがない。たとえこれがケルジィの与えた最後のチャンスだとしても。
「撃てない? だから人間ってダメなんだよなぁ。せっかくチャンスあげたのにさ。ま、撃ったところでさっきと同じで効かないんだけどさ」
「あがっ!」
ケルジィが軽く手に力を入れるとフォールが小さく悲鳴を上げて体から力を失わせる。
「フォール!」
「大丈夫だよ。死んでないからさ。殺すのなんていつでもできるし。殺さない方が役に立つこともあるかもしれないしね」
「このっ……」
「あ、そうだ。教えて無かったよね。大事なことを言ってなかった」
ケルジィは興味を失ったようにフォールを投げ捨て、ポンッと軽く手を叩く。
「大事なことだと」
「そう。ここがどこかって話。これはゲームだからさ。君達にも勝利条件を教えておかないとフェアじゃないよね」
勝手に納得して、勝手に満足そうに話しだすケルジィ。その表情からわかる。レインのことなど全く脅威に思っていないということが。それだけの力の差があることをケルジィもそしてレインも理解していた。
最初の不意打ちで仕留められなかった時点でレインの不利は決定的なのだ。こうして今生きているのも、ケルジィが本気でないからに他ならない。
(フォールは……まだ生きてる。気を失ってるだけだ。カラもまだ。ユミィもカラの傍に居る)
ユミィはケルジィのことが怖いのか、カラの傍で蹲ったまま動かない。
(それでいい。下手に動かれてケルジィの注意がそっちに向いても困る)
「それで、なんなんだよ」
「あ、今度は聞いてくれるんだ。また撃たれたらどうしようかと思ったよ」
「いいから早く話せ」
「んもう、せっかちだなぁ。ここはね『幻影世界』って言うんだ。現実とは切り離された特別な場所さ。今回このために特別に作ってもらってね。すごいよね。【罪影珠】っていうんだけどさ。こんなものまで作れるなんてあいつはおかしいよ」
そう言ってケルジィは自身の腕につけた腕輪を見せてくる。飾り気のない漆黒の腕輪だ。
「罪と人の命をため込むことで使えるんだけどさ。ここまで大きな領域を展開したりするために集めるの大変だったんだから」
その言葉の意味を理解することをレインの脳が拒否する。ケルジィは罪と何を集めたと言ったのか。レインは吐き気を催しようになるほどの気持ち悪さを感じていたが、それを全く気にすることなくケルジィは話を続ける。
「この腕輪を壊すことが君達の勝利条件だよ。方法は何だっていい。不意打ちでも卑怯な手を使ってもいい。とにかくこの腕輪を壊したら君達は元の世界に帰れる。そしたら君達の勝ちだ。僕は手を引くよ」
「この野郎……」
「そんなに怖い顔しないでよ。さぁ、君達と僕のゲームを始めよう。必死に足掻いて、頑張って、絶望した顔を僕に見せてよ」
そう言ってケルジィは酷薄な笑みを浮かべるのだった。
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