第25話 カラvsグラトニータイガー
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
カラと相対しているグラトニータイガーは低い唸り声を上げながら警戒するようにカラのことを睨みつけている。
(獣系の魔物は力が増幅しているだけで、能力自体は普通の獣と変わらないはず。あの魔物も虎を模しているだけで、特別な能力は無いはず。しっかり見てから動けば対処できるはず)
カラは魔物の注意がユミィへと向かないように少しずつ移動しながら、次の行動を考える。カラの予想した通り、グラトニータイガーに特殊な能力は無い。しかしその代わりに身体能力は非常に高い。普通の魔物よりもはるかに。カラが最初に戦ったゴブリンやコボルドなど比べ物にならない。
魔力を使えばある程度身体能力を向上できるとはいえ、それで埋めることができるほど甘くはない。だからこそカラは頭を働かせる。この密閉された空間の中でどうすればグラトニータイガーを倒すことができるかということを。
「もしここにみんながいたら……ううんダメ。ここにいるのは私だけ、私がユミィちゃんのことを守らないと」
カラは自身の持つ武装を確認する。出かけるだけだと考えていたカラは最低限の武装した装備していなかった。持っていたのは剣と小さなナイフが二本、それといくつかの魔道具だけ。どれも対魔物用ではない。
「持ってるのは暴徒鎮圧用のがいくつかだけ。グラトニータイガー相手じゃ効果は望めない。じゃあ剣で倒すしかない? でもどうやって——っ!」
考え込みそうになったからだったが、それを隙と見たグラトニータイガーが飛び掛かって来る。すんでの所で直撃は躱したカラだったが、それでも左腕がわずかに斬り裂かれてしまう。
「っぅ——っ、ダメだ。深く考えてる時間は無い。私はフォールみたいな脳筋じゃなのにっ! ユミィちゃん、目を塞いで!」
追撃を加えられる前に距離をとったカラはグラトニータイガーに向けて閃光石を投げる。閃光石に攻撃力は一切ない。効果はただ目も眩むような光を放つだけ。それでも一瞬グラトニータイガーの目を潰すには十分だった。
「今のうちにっ」
グラトニータイガーが目をくらませた隙にナイフを構えて距離を詰める。隙をついてナイフで仕留める。それがカラが瞬時に考えた作戦だった。正面から戦っても勝てるはずが無いからこその判断だ。しかし、グラトニータイガーの体にナイフを突き立てた途端、刃が折れてしまう。
「っ、硬いっ……ぐぅっ!」
グラトニータイガーが無茶苦茶に振るった前脚がカラに直撃し、壁まで吹き飛ばされる。グラトニータイガーの視力が完全に戻っていなかったため、クリーンヒットではなかったがそれでもカラの体には大きなダメージだった。
「ナ、ナイフが折れるなんて。とんでもない硬さ。それに一撃でこの威力。次くらったら耐えられない」
「グルルルゥ……」
そうしているうちにグラトニータイガーが完全に視力を取り戻す。痛みを訴える体の主張を無視して、カラは剣を構えた。
(つぅ……、今の一撃であばらやられたかな。でもまだ動ける。まだ戦える。でもあの硬さをどうやって突破したら……。考えろ。考えなさいカラ。この場でユミィちゃんを守れるのは私しかいないのっ!)
ユミィは今にも泣きそうな表情でカラのことを見ている。グラトニータイガーの気に当てられてしまったのか、恐怖で動くことすらできないでいる。もしここでカラがやられてしまえばユミィの命も無いだろう。
(レインさんもフォールもここにいるはず。だったらせめて、二人がユミィちゃんを見つけるまでは耐えないと——来るっ!)
姿勢を低くし、突進の体勢を取るグラトニータイガー。そのまま真っすぐ飛んできたグラトニータイガーを横に跳ぶことで回避する。激しく壁にぶつかったグラトニータイガーだが、それでダメージを受けることもなく壁に穴をあける。
「閃光石は何回も使うと効果が薄れる。使いどころは考えないと……あと使えそうなのは——っ! あぁもう、考える時間くらいよこしなさいよ!」
壁の向こうから瓦礫を撥ね退けて再び突進してきたグラトニータイガーを迎え撃つカラ。できるだけ時間を稼げるように、無理な反撃はしない。というよりもできない。カラの攻撃力ではグラトニータイガーに傷つけることができないと理解したからだ。
(グラトニータイガーの攻撃は速いけど単純。避けることは難しくない。力で勝てないなら先読みするしかない。もっとしっかり視て、対応する!)
グラトニータイガーは身体能力に任せた無茶苦茶な攻撃しかしていない。きちんと見れば動きが速くても対処できるとカラは考えていた。しかしそれはカラの体が万全であればの話だ。攻撃を避け続ける、なかであばらが痛み出し動きが鈍る。再び攻撃してきたグラトニータイガーに対してカラは再び道具を投げる。
「っ! 爆音石!」
今度投げたのは閃光石ではなく爆音石。地面にぶつかった瞬間、鼓膜が破れるのではないかと思うほどの爆音が部屋の中に鳴り響く。
「あぁもう、耳が……」
間近でその爆音を浴びたカラは顔をしかめるが、カラよりはるかに耳が良いグラトニータイガーにはもっと大きなダメージが入っていた。グラトニータイガーは怒り狂い、無規則に暴れ出す。地面や壁を壊しながら動き続けるグラトニータイガーから距離を取るカラだったが、グラトニータイガーの行く先にユミィがいた。
「しまった! ユミィちゃん、そこから離れて!」
「あぅ、わ、わかってるけど。あ、足が……」
その場を離れるように声を掛けるカラだが、ユミィは依然として動けないでいた。無理もない。初めて見た魔物、それもグラトニータイガーのような巨大な魔物を見て小さな子供が怖くないはずがない。
「ユミィちゃん!!」
とっさの判断。考えるよりも先にカラの体は動きだしていた。グラトニータイガーの攻撃がユミィに直撃するより一瞬早く、カラの手がユミィに届く。自分の腕の中に庇うようにしてユミィを抱え込んだカラ。しかしグラトニータイガーの攻撃を躱すことまではできなかった。グラトニータイガーの鋭い爪がカラの背中を切り裂く。
「あぁああああああっ!!」
「カ、カラッ?!」
「だい、じょうぶ……だよ……」
額に脂汗を流しながらも、カラはユミィを安心させるために笑顔を浮かべる。本当は気を失いそうなほどに痛かった。それでもここで倒れるわけにはいかないと腰のポーチから閃光石を取り出し投げる。
グラトニータイガーの目が眩んだ隙にカラはユミィを連れて隣の部屋へと逃げる。
「はぁ、はぁ……あいつが壁を壊してくれて助かった。これで少しは時間を稼げる」
「き、傷! 血が、血が出てる!」
「はは、大丈夫だよユミィちゃん。それよりどこか怪我してない?」
「わ、私なんかよりカラの方が、早く止めないと」
「そうだね。でも大丈夫だから。だからユミィちゃんはここで待っててくれる?」
「え? な、何しようとして……」
「このままここにいてもあいつに見つかるだけ。だから私が止める。そんな顔しないで。大丈夫だから。きっとすぐにレインさんとフォールがここを見つけてくれる」
「でもっ」
「それじゃあ、ここで大人しくしててね。隠れてて。動いちゃダメだよ」
「カラッ!」
引き留めようとするユミィの言葉を無視して、カラはグラトニータイガーのいる部屋へと戻る。
なかなかカラとユミィの姿を捉えられないことに苛立っているのか、グラトニータイガーは部屋の中で滅茶苦茶に暴れている。
「ガァアアアアアアアッッ!!」
「はは、元気いっぱいって感じだね。でももう少し私に付き合ってもらうから」
カラの姿を見つけたグラトニータイガーは怒りに任せて突っ込んでくる。二度の攻撃を受けたカラに先ほどまでと同じ動きはできない。こうして立っているだけでも精一杯なほどなのだ。今も爪で切り裂かれた背中が燃えるように熱い。しかしその痛みがあるからこそカラは意識を失わずに立つことができていた。
(もう道具もほとんど残ってない。体も思うように動かない。それでもユミィちゃんのところに行かせるわけにはいかないの!)
右手に剣を、左手にナイフを構えてグラトニータイガーを迎え撃つカラ。一度攻撃したことで普通の攻撃では通用しないことを理解していた。
(柔らかい場所を狙うしかない! だからまずは——目!)
カラは目を狙ってナイフを突き出す。しかし怪我で動きの鈍っているカラではグラトニータイガーを捉えることはできなかった。逆に懐に飛び込んできたカラを殴り飛ばす。
「っぁあああああああっっ!!」
カラの右腕があり得ない方向へと曲がる。あまりの痛みにつんざくような悲鳴を上げるカラ。壁にぶつかり倒れたカラにグラトニータイガーは追撃を仕掛ける。カラのことを潰そうと振り下ろされた前脚を床を転がるようにして避けるカラ。その一撃で地面が陥没する。もしカラに当たっていたらカラはトマトのように潰されていただろう。しかし一撃避けた所でもう逃げ場はない。
(あぁ。さすがにもう無理かな……ごめん、ユミィちゃん。守れなくて。ごめんね……)
死を間近に感じ取り、抗うことを諦めてしまったカラはユミィを最後まで守り抜けなかったことを謝りながら、静かに目を閉じる。そしてカラに食らいつこうとグラトニータイガーが大口を開き、噛みつく——その直前だった。
「【嫉妬】!」
飛来した弾丸がグラトニータイガーの目を穿つ。狂ったような叫び声を上げながらのたうち回るグラトニータイガー。
「大丈夫か、助けに来たぞ!」
「カラ、無事か!」
カラが視線を向けた先には、レインとフォールの姿があった。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク&コメントしていただけると私の励みになります!
Twitterのフォローなんかもしてくれると嬉しいです。
それではまた次回もよろしくお願いします!




