第12話 ナミルへの到着
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ナミルにたどり着いたレイン達だったが、ナミルに入るための検問に時間がかかっているようで思わぬところで足止めをくらってしまっていた。
「ずいぶん時間がかかっているようですね」
「そうですね。もうかれこれ30分近くは経っていると思いますが」
「それだけ丁寧に検問しているということなのでしょうが……ナミルに来る人が多いのは何か理由があるんでしょうか?」
「あ、それなら知ってます。確か明後日からナミルで葡萄の収穫を祝ったお祭りが開かれるそうです」
「お祭りが。そうなんですね」
「今年も無事に葡萄を収穫できたこと、そして来年も無事に収穫できるようにと。毎年開かれているそうですよ。ナミルでは一番大きなお祭りなので、外からも多くの商人やお客さんが来るそうです」
「なるほど……そういうことですか。そうなると少しタイミングが悪かったかもしれませんね」
「どうしてですか?」
「それだけ人が集まるということは咎人の発見が難しくなります。人が多いと気配も混ざりやすくなりますから」
「なるほど……」
「それにしても時間がかかりすぎでは? 自分が行って直接話をつけてきます!」
なかなか検問が進まず渋滞が解消されないことに苛立ちを隠しきれなくなるフォールは馬車を出て直接検問官達に話をつけに行こうとする。
「それは許可できませんフォール君」
「しかしこれ以上ユースティア様をお待たせするわけにはいきません! それにこうしている間にも咎人が魔物を生み出している可能性があるのに」
「魔物に関してはそれほど心配することはないでしょう。気配を全く感じませんから。私の持っている【悪魔の瞳】も反応していません」
ユースティアが取り出したのは中心に黒々とした瞳に取り付けられた銀の装飾が施された腕輪だ。かつて存在した『万眼』と呼ばれる魔人の目を利用することで作られた道具。皮肉なことに魔人から作り出された道具が咎人や魔物、魔人を見つけ出すことに役立っているのだ。この【悪魔の瞳】は咎人や魔物などがいるとその目を開く。そしてその視線の先に咎人や魔物がいるのだ。
(まぁ、今回はこの【悪魔の瞳】をあまり信用することもできないがな)
すでにナミルにやって来たはずの贖罪官が同じ【悪魔の瞳】を使って咎人を発見することができなかったのだからあまり期待はできないとユースティアは考えていた。それでもその名前を持ち出したのはフォールを止めるためだ。
「しかし……」
「贖罪官である我々が緊急時を除いてその権威を振りかざすようなことをしてはいけません。ここで待っている人々はそうした行為を決して快くは思わないでしょう」
「……そうですね。申し訳ありません。差し出がましいことを言いました」
「いえ、気にしないでください。今のうちにできることをしておきましょう」
「できること……ですか?」
「はい。ナミル内でフォール君とカラさんにしてもらうことです。レインは通常通り私と行動を共にしてもらいます」
「はい。わかりました」
「フォール君とカラさんはナミルの人々への聞き込みをお願いします」
「聞き込み……ですか?」
「はい。ここ最近で起きた奇妙な出来事について調べて欲しいのです。些細なことで構いませんから。ナミルのことはナミルの人に聞くのが一番ですからね」
「わかりました。全力で聞き込みします!」
「えぇと……あまり無茶なことはしないでくださいね」
「もちろんです!」
「ならいいんですけど……カラさんもよろしくお願いします」
「はい。わかりました!」
フォールのやる気が空回りしそうで不安なレインとユースティアだったが、そこはもうカラに任せるしかない。
「私達はナミルの領主であるロイツ男爵の元に行きます。ナミルに入り次第本格的に動き始めます。いいですね」
「「はいっ!」」
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それからしばらくして、ユースティア達はようやくナミルへと入ることができた。レンガ造りの建物の立ち並ぶその光景はレインが思っていた以上に圧巻で、想像以上に発展した街だった。二日後から祭りが始まるということもあってか、街の中は非常に賑やかであちらこちらで飾り付けをしている様子が見て取れた。
「ふぅ、ようやく入れましたね。ですがここからが本番です。先ほども言った通りに動きましょう。午後六時の鐘が鳴る頃に宿に集まって成果を報告しましょう」
広場に置いてある時計を指さしてユースティアは言う。その時計が指し示す時刻は正午前。なのでちょうど六時間後の再集合となる。宿はこのナミルにいる贖罪教の人間が事前に予約をしていたため、レイン達は荷物を置いてからそれぞれの仕事へと取り掛かることになった。
「もし何か緊急の事態が起きた場合はどうすればいいかわかっていますね」
「はい。自分の命を最優先に考え、ユースティア様かレインさんに伝える、です」
「その通りです。無茶は禁物です。怪しい人物がいたとしても深追いをしてはいけません。いいですね」
「「はいっ!」」
「それでは行きましょう」
「必ずご期待にそえるよう、成果を出してみせます!」
「私も頑張ります!」
そう言ってカラとフォールは走り去る。よくもまぁあれだけやる気が保てるものだとレインはたった二つしか違わないフォール達の若さを羨ましく思う。もっとも、レインが十五歳だった頃にカラ達ほどのやる気があったかと問われれば答えは否、なのだが。
「はぁ、やっと行ったか……よし、私達も行くぞ。っと、その前に着替えだな」
「着替え?」
「当たり前だ。こんな目立つ格好で動き回れるか」
ユースティアの着ている服は聖女専用の服である【戦闘聖衣】だ。戦闘時に魔力を注ぎ込むことでその形状と色を変化させる。突発的に戦闘に巻き込まれることのある聖女はいつ何時なにが起きても大丈夫なようにその服を着ることを義務付けられているのだ。
「脱いでいいのかよ」
「私がいいって言ってるんだからいいんだよ」
「なんだその理論……後でバレて怒られてもしらないぞ」
「私を怒れる人間がどこにいるって言うんだ」
「ダレンさんとか」
「ちっ、あのじじいか……ま、お前が告げ口しなければ済む話だ。【戦闘聖衣】を常に着てないといけないことを知ってる奴なんて少ないしな」
「何かあっても知らないからな」
「それこそ無意味な心配だ。私をどうにかできるやつなんてこの世にはいない」
「はいはい、わかったよ」
服を着替えに戻ったユースティアを部屋の外で待つレイン。待っている間レインは道行く人々を見続ける。道行く人は全員楽しそうで、ナミルで魔物被害が増加していることなど全く知らないかのようだった。
「平和な街だな。こうやって見てる分には魔物被害があるなんてとても思えないけど。見えないところでってやつなのかね……」
ここを歩いている人の誰もが咎人になる可能性を秘めている。そう思うだけでレインは目の前にいる人たちが化け物に変わったかのような錯覚を覚える。思わず武器を抜きそうになる気持ちをグッと抑える。
「なに考えてるんだろうな……俺。情けない」
頭を振って想像を振り払うレイン。その次の瞬間には化け物に成り果てていた人たちが普通の人に戻る。そんな自分をレインは自嘲する。
ユースティアが宿から出てきたのはその直後だった。
「準備できたぞ」
「遅い。着替えるのにどんだけ時間かかってるんだよ」
「うるさい。大人しく待つのがお前の仕事だ」
「そんなの仕事内容に含まれてねーよ」
ユースティアと言い合いをしていると心が落ち着くのを感じるレイン。非常に、レインにとっては非常に認めがたいことなのだが、ユースティアと一緒にいることでレインの精神は安定しているのだ。
「それよりどうだ?」
「どうだって……何が?」
ふふん、と自慢げに胸を張るユースティアだが、レインはユースティアが何を言いたいのかわからず首を傾げるしかない。
わけがわからないという反応をしたレインを見て、自慢げだったユースティアは一転して不機嫌な表情になる。
「服に決まってるだろこの鈍感。普通何よりも早く気付いて言うべきだ」
「なんでだよ!」
「はぁ……だからモテないんだお前は」
「モテないは余計だろ!」
「事実だろうが。彼女いない歴=年齢のくせして」
「ほっとけ! それならお前だって同じだろうが! 彼氏なんていたことないくせに」
「私は彼氏ができないんじゃない。作らないんだ。この私に相応しい男なんていないからな」
「そうやって理想ばっかり高くなって嫁ぎ遅れるんだな」
「なんだと!」
「なんだよ!」
レインとユースティアが言い合っていると、クスクスという笑い声が聞こえてくる。ハッとして周囲を見回すと、道行く人々がレイン達の方を見て笑っていた。そこでレインは思い出す。自分達がどこにいるのかということを。
道行く人々には、今のレインとユースティアのやりとりはまるで痴話げんかのように見えていただろう。気合いを入れて選んだ服を褒めて欲しい彼女とそれに気づかない鈍感な彼氏。何も知らない人からすれば今の二人はそんな風にしか見えなかった。
それに気づいたレインとユースティアはボッと顔を赤くする。
「い、行くぞレイン」
「あ、あぁ。わかった」
恥ずかしさに耐え切れなくなったレインとユースティアは脱兎のごとくその場から逃げ出すのだった。
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「全く、レインのせいで恥かいたぞ」
「なんで俺のせいなんだよ」
街の中をブラブラと歩きながらユースティアはレインに文句を言う。今のユースティアは帽子を被り、眼鏡をかけ服装もラフなものに変わっている。この姿を見てユースティアだとすぐに気付くものはいないだろう。
「とにかく。まずはご飯だ。朝から何も食べてないからお腹空いてるんだよ」
「言われてみれば……確かに」
「だからさっさと食べてエネルギーチャージだ」
「おう」
そしてユースティアとレインは昼ご飯をたべに向かうのだった。
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