第11話 いいコンビ
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
「良かったのか? あのままで」
「ん? 何がだ?」
フォールとカラに十分に休息をとらせた後、レイン達は再びナミルに向かうための準備をしていた。休憩をとったカラ達は御者を手伝って準備を進めている。レイン達も手伝おうとしたのだが、カラとフォールの二人に止められて出発の準備が整うまで僅かな時間休憩をすることにしたのだ。
「カラのことだよ。お前のことだからてっきり魔法でも使って誤魔化すのかと思ってたんだけど」
「バーカ。そんなことするわけないだろ。あれでいいんだよ」
「でも……」
「カラみたいなやつはどうやったって出てくる」
「そうだけど……」
聖女のことを信奉する人が多い一方で、カラのように聖女の戦う姿を見て恐れを抱いてしまう人間も一定数いる。それは避けようのない現実なのだ。
「まだカラなんてマシな方だろ。もっと酷い奴なんか私達に触られることすら拒否する。それが無かっただけ良い方だ。それにカラの場合は恐怖っていうよりも……もう一つの方が問題かもな」
「もう一つ?」
「無力感」
「無力感って……自分に対するか?」
「そうだ。魔物と戦って、私の力を見て。本当に自分達の力が必要なのか……大方そんなことでも考えてるんじゃないか?」
ユースティアの視界の先ではカラとフォールが作業しているが、カラはフォールと違ってどこか切羽詰まっているように見えた。
「自分の力が無くても聖女様には何の問題もないのではないか。では自分は何の役に立てるのか……それがわからなくなってるんだろうな。学校とかで優秀だった奴ほど陥りやすい」
「なるほどな……」
それはレインにも覚えのあるものだった。レインも昔同じようなことで悩んでいた時期があったからだ。
「私達を怖がる気持ちは慣れていけばどうとでもなる。でも、一度感じてしまった無力感を払拭するのはそう簡単じゃない。私達の力を見るたびに無力感なんて覚えてたらキリがないしな。そんなんじゃ長くは続かない。その点じゃフォールは大丈夫そうだけどな」
「確かに……」
フォールはカラと違って、ユースティアに力を見た後も特に態度が変化した様子はない。むしろ聖女の力を間近で見られたことでやる気がさらに増しているように見える。
「鈍感なのか図太いのか……まぁ、あれくらいの方が贖罪官としてはやっていきやすいだろうな」
「意外とちゃんと見てるんだな」
「はぁ? 何がだよ」
「フォールとカラのことだよ。興味無いかと思ってた」
「別に見てるわけじゃない。たまたま視界に入ってただけだ」
「たまには素直になれ……っていただだだっ!」
「ふ・ざ・け・る・な! とにかく、あいつら……特にカラに関して私からできることは何もない。後はフォールと先輩であるレイン、お前の仕事だ。前途ある若者の未来を摘み取らないようにちゃんとケアしてやれよ。お荷物抱えて仕事するのは嫌だからな」
「はいはい、頑張りますよ」
「全く、人も魔物くらい単純だったら扱いやすいのに。あ、そうだレイン。思い出した」
「なんだ?」
「おそらくナミルにいるのは『暴食』の罪を犯した人間だ」
「なんでそんなことがわかるんだよ」
「今回処理したグラトニーワームは暴食からしか生まれない魔物だ。つまり、ナミルには暴食の咎人がいる」
「なるほどな……」
「お前ももう何回もやってるんだからそろそろわかるようになれ」
「無茶言うな。魔物がどれだけ種類いると思ってるんだよ。見ただけで何の魔物かわかるなんてティアくらいだろ」
魔物の種類はとんでもなく多い。その全てを覚えることははっきり言って不可能とも言えるレベルだった。グラトニーワームですら、他にラースワーム、グリードワームなど種類があるのだ。見ただけで判断できるのはそれこそユースティアくらいなものなのだ。
「慣れれば簡単なのに」
「こっちは戦うので精一杯なんだよ」
「まぁいい。まぁとにかくだ。暴食の咎人が関わってるのは間違いない。問題は、咎人が見つかってないことだ」
「確かに……そんなことあり得るのか?」
「あり得ない。魔物を生み出すほどの罪に犯された咎人が発見できないなんていうことはな。だがこれは普通であれば、の話だ」
「じゃあどんな可能性があるっていうんだよ」
「誰かが咎人を隠している」
「そんなことできるのか?」
咎人になってしまったものは定期的に魔物を生み出し続ける。それを隠し続けるなど不可能だ。生み出された魔物は本能のままに人を襲う。もし咎人を隠していたとしても生み出された魔物まで隠すことはできないはずなのだ。
「だから、完全には隠しきれてないだろ。こうして私達に伝わるほどに魔物の被害件数が増加しているんだから。問題は……この地に派遣された贖罪官と断罪官の目を欺いたということだ。咎人の存在を発見できず、魔人も見つけられなかった。その理由がわからない」
どんな方法を使ったのか、ナミルにいるであろう咎人は贖罪官と断罪官の目を欺いた。それは容易なことではない。贖罪官は咎人の存在を調べるために【悪魔の瞳】と呼ばれる特別な道具を使う。それは咎人に反応し、その居場所を伝える道具だ。この道具の正確さは折り紙つきで、誤魔化すことはほとんど不可能だと言われている。その効果範囲は街一つを覆えるほどに広い。
「うーん……ナミルから逃げ出したとか?」
「可能性は低い。咎人になった人間を連れて歩けるはずがない。そんな奴がいたら目立つだろうしな。だからこそ魔人だ。あいつらがいる可能性がある。魔人がナミルで暗躍してる可能性は高い」
「魔人……」
「くく、咎人を見つけて贖罪するだけのつまらない仕事になる可能性もあるかと思ってたが……存外楽しめそうじゃないか」
「それを楽しめるのはお前くらいだよ。俺はストレスで胃が痛くなりそうだ」
「楽しめレイン。さぁ咎人と魔人はどこに隠れてるだろうな……待っていろ。今からこの私が狩りに行ってやる」
そう言って笑うユースティアの笑顔は、まるで悪魔のように輝いていた。
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それから約十分後、出発の準備が整ったユースティア達はふたたびナミルへと向かっていた。
「それでは、ナミルに着くまでの間にいくつか確認しておきましょう」
「はい」
「まず、今回私達が魔物に襲われたことによってナミルに咎人、もしくは魔人がいることはほぼ確定となりました」
魔人、という言葉を聞いてフォールとカラがゴクリと喉を鳴らす。学校にいた間も魔人の恐ろしさについては嫌というほど聞かされてきたのだろう。一体で国を滅ぼしたという記録もある魔人。
「あくまで可能性の話だからな。緊張しすぎるなよ」
「わ、わかってますけど……」
「それでも魔人というのは……魔物の比ではないくらい強いと聞いています。そんな地に私が行って何か役に立てるのでしょうか」
「……あんまり気負い過ぎるなよ。今回はユースティア様も、俺もいるんだ。それにお前は一人じゃない。フォールがいるだろ」
「そうだぞカラ! そんな自信の無いことでどうする! 俺達がフェリアル様からユースティア様の補助を任せられたんだ! この任を全うして先輩方に一歩でも近づこうじゃないか!」
すっかり消極的になってしまっているカラとは違い、フォールは緊張していながらもやる気に満ち溢れていた。大きな仕事を任されていることに責任感とやりがいを感じているのだろう。
「そういうの本当暑苦しい。もうちょっと頭使って考えなよ。だから万年二位なんだ」
「な、二位は余計だろうカラ! それに運動系科目は俺の方が得意だっただろう!」
「脳筋なだけでしょ! だからすぐひっかけ問題とかに引っかかるのよ!」
「脳筋言うな! だいたい学校の成績がなんだ、俺は贖罪官として結果を出す! そこに学校の成績は関係ない!」
「上等じゃない、私だって結果だしてやるわよ。ユースティア様の役に立って贖罪官としてもあんたより上ってことを教えてやるわ!」
ガミガミと言い争いを始めるカラとフォール。その姿を見たレインはふっと表情を緩める。フォールと言い争いをしているカラの表情にはさきほどまでの暗い雰囲気はすっかり無くなっていた。
「なんていうか……いいコンビだな」
「そうですね。どうやら私の心配は杞憂だったようです」
言い合いを続けるカラとフォールを見て、これなら大丈夫そうだと安心するレインとユースティア。聖女と従者と新米贖罪官二人。んな四人を乗せて、馬車はナミルへと到着するのだった。
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