主人公殺し
本来であれば物語の最後に夢を叶える筈だった、社会から弾圧される若者たちの憂鬱と自由への渇望を代弁するミュージシャンを志す主人公を、中年の殺し屋が始末した。
殺し屋は豚に喰われてゆく主人公の最期を見届けた後、なんだかいたたまれない気持ちになり、近くにあった教会へと足を運んだ。
殺し屋は懺悔室で神父に事のあらましを伝えた後、言った。
「俺は今日、とても酷いことをしてしまった気がするよ」
すると神父は言った。
「あなたはこれまでどれ程の生き物を食べて来ましたか?」
殺し屋が、「覚えていない」と言うと、老いた神父はにっこりと笑い、言った。
「安心なさい、人は誰でも罪を抱えているものだ。そして自分が犯した罪を忘却しつ続けることこそが、人生という時の流れなのだよ」
殺し屋は救われた気がして、その通りに、主人公のことを忘却した。