4、スイミンクラブ
セミダブルベッドと簡易な机の置かれた質素な部屋に、レースのカーテン越しに柔らかい日差しが入ってくる。
静かな春の昼下がり。「春眠、暁を覚え」なくても、春はいつでも眠くなると、ボクは思うんだ。
先生「よし、美味しい味噌ラーメンも食ったことだし、心地よく昼寝するとするか。」
野乃花「うん。」
先生「なんだ元気が無いな。そんなんじゃ全国大会には行けないぞ。」
野乃花「そんなことも、そんなものも無いよ、センセ。」
先生「うむ、これは言葉の綾というものだ。」
野乃花「あやだけに。」
先生「あやかりたい。」
野乃花「あやしげな。」
先生「うらめしや。」
野乃花「センセ。そう言いながら枕を中央に配置して、ポジションを取るのはずるいと、ボクは思うんだよね。」
先生「そんなことないぞ。しっかりと右側は空けてあるからな。」
野乃花「今日は水曜日だから抱き枕係は、センセの番だよ。」
先生「そうだったか?」
野乃花「そうだよ。センセはいつも右向いて寝るんだから、もっと右に寄らないとダメだと、ボクは思うんだよね。」
先生「最近、曜日感覚が無くてな。」
野乃花「大人はすぐ言い訳するよね。」
先生「うむ、これは言葉の綾と言うものだ。」
野乃花「あやだけに。」
先生「あやとり。」
野乃花「あまやどりは。」
先生「のきのした。」
野乃花「センセ、春と言えば?」
先生「うーん、芝桜だろうかなぁ。」
野乃花「センセは意外と、メルヘンだよね。」
先生「評価がいまいちわからん。芝桜が山一面を覆う姿は圧巻だな。」
野乃花「ボクは庭先にちょこっと生えてるぐらいのが、好きです。」
先生「ノノも結構メルヘン。まあ、普通の桜と同じで咲くのは来月だろうけどな。」
野乃花「待ち遠しいね、センセ。」
先生「待ち遠しいなぁ。」
野乃花「果報は、」
先生「寝て待て。」
野乃花「春の訪れも、」
先生「寝て待つか。」
野乃花「おやすみなさい。」
先生「あぁ、おやすみ。」
野乃花「良い夢を。」
先生「良い春眠を。」