12、温泉
雪が空から音もなく降りてくる。無数に降りてくる雪を、曇天で薄暗い夜空を背景に見上げていると、ボクはなんだか宇宙旅行へと独り旅立った気分になる。
当てのない、終着地の無い旅へと。
野乃花「センセ、女子より長風呂とかそれはないと、ボクは思うんだよね。」
先生「あぁ。ついつい「湯あたり↔雪で冷却」の無限ループに陥ってしまってな。」
野乃花「それはわからなくもない……。ですがセンセ、流石に雪にダイブとかはしてないよね?」
先生「一応、公共の場ではあるし、そこは泣く泣く控えて。」
野乃花「……。センセはやっぱり、体育会系のノリだと、ボクは思うのです。」
先生「いやま、これほどの解放感と壮大さとあってはだな。」
野乃花「とはいえセンセ、雪景色を見ながら入る露天温泉は格別だと、ボクは同意するのです。」
先生「外気との温度差がすごいよな。髪がバリバリに凍ったしな。」
野乃花「そこは、喜ぶべきところじゃないと、ボクは思うんだよね。」
先生「……、そうなのか?」
野乃花「そうだよ、センセ。」
先生「そうそう体験できることじゃないし、ちょっとテンションが上がったんだがな。」
野乃花「ボクは、降ってくる雪と温泉から立ち上る湯気が、ゆらゆらと風に流される様が楽しかったです。」
先生「まさに風流。」
野乃花「これぞ風流。」
先生「風流な。」
野乃花「風呂上がり。」
先生「つまり。」
野乃花「お風呂上がりには、カツゲン。」
先生「俺的にはビールといきたいところではあるんだが。」
野乃花「年の瀬ですね、センセ。」
先生「そうだなぁ。年の瀬だなぁ。」
野乃花「つまりは。」
先生「師走?」
野乃花「師走と言うことで。」
先生「師は走れと。」
野乃花「帰り道の運転、頑張ってねセンセ。」
先生「2時間は長い。」
野乃花「ボクが運転出来るようになったら変わってあげるよ。」
先生「それを待つのも長いな。」
野乃花「きっと帰り道にはオリオン座が見えると、ボクは思うよ。」
先生「そうだな。さて帰るとするか、湯冷めする前に。」