10、湖畔
山を埋め尽くす赤、黄色、茶色、そして常緑樹の濃い緑色が美しい。静けさと湖面に映るその色合いは、虚と実を表現しているようで、ボクはなんだか憂いを感じる。
もう少し枯れ散ったら、宿木のまあるいのが、ぽつらぽつらと姿を現すはずなんだ。
野乃花「センセ。もう焼けたんじゃないかと、ボクは思うんだよね。」
先生「いや、まだ早いだろう。」
野乃花「……。センセ、もう焼けたんじゃないかと、ボクは思うんだよね。」
先生「いやいやノノ。まだ乗せたばかりだしな。」
野乃花「センセ!」
先生「いやはやノノ。とりあえず焼きおにぎりでもひっくり返そうか。そんなこともあろうかと、隣で焼いているフランクは好きなタイミングで食べていいし。焼けてなくても食べれるし。」
野乃花「センセ、ボクを軽んじてはいけないと、ボクは思うんだよね。」
先生「いやはやノノ。軽んじてはいないが、「あ~ぶくたった、煮えたった~」並の返しじゃないか。」
野乃花「あーぶくたった。」
先生「煮えたったー。」
野乃花「煮えたかどーだか。」
先生「味見も禁止だぞ、ノノ。」
野乃花「センセ、センセはやっぱりボクを軽んじてると、ボクは思うんだよね。」
先生「軽んじてはいないが、フランクを食べているノノを見ると、用意していたのは間違いじゃなかった、とは思うな。」
野乃花「この時期は、鮭、秋刀魚、牡蠣、ウニ、シシャモが旬です。」
先生「ほう。」
野乃花「本日のメインのちゃんちゃん焼きは、やはり生鮭に勝るものはありません。」
先生「ほうほう。」
野乃花「秋刀魚は目黒に限るとの逸話がありますが、この時期は刺身もいけます。」
先生「ふむ。」
野乃花「牡蠣は語尾にRがつく月が旬ですが、最旨なのは今月です。」
先生「ふむふむ。」
野乃花「ウニはそれぞれの地域で禁漁期が違います。今の時期はここ、道南です。」
先生「そいつは知らなかったな。」
野乃花「そしてシシャモは、世界中でこの道南でしか取れない、この時期しか取れない逸品なのです。」
先生「そんなことないだろ。」
野乃花「センセが思い描いているのは、代用魚のカラフトシシャモです。」
先生「……。近日中に漁港巡り決定だな。」
野乃花「異議なしだと、ボクは思います。」
先生「それでは秋の味覚祭りの皮切りに。」
野乃花「ちゃんちゃん焼きを。」
先生「いただきます!」
野乃花「いただきます!」
野乃花「忘れてはいけないのが、落葉キノコとボリボリの最盛期がそろそろ終わるということです。」
先生「帰りにキノコ狩りしようか、ノノ。」
野乃花「羆に遭遇した時にはセンセが相手してくれると、ボクは期待しているのです。」