デリバリー
俺がダンジョンに召喚されて、2週間ほど経っただろう。毎日の訓練も充実している。今は、呪も念も万遍無く鍛えているのだが、最初はどちらも酷いものだった。
呪の訓練は,自分の内を覗くのと、動かすのでは全然難易度が違った。最初は腕を動かす事すら出来なかった程だ。もっとも今では歩く動作がぎこちないながらも出来る。もっとも、この訓練で俺が得た最大の収穫は、見た目の改善だ。今まで乳白色一色だったのが、見た目殆ど人間と変わらない色合いに、調整することに成功したのだ。少し顔は濃いが、なかなかのイケメンだと自負している。
並行して呪術の訓練もしているのだがこちらも順調だろう。青い炎や呪いを込めた玉を放出出来るようになったのだ。訓練中に一度、的を外してテトの当ててしまったのはご愛嬌と言えるだろう。本来無いはずの便意を覚えたテトが「出そうで出ない」としきりに言っていた。正直済まなかったと思う。ただキキさんには大受けだったがな!
更に酷かったのが、念を鍛える訓練だった。最初など、2キロのダンベルを持ち上げる事すら出来なかった。これを鍛えるには只管に筋トレだ。アスリートも真っ青なストイックな筋トレを実行し、俺はそれを成し遂げた!今では30キロの重さまで持ち上げる事が出来る。まさに努力の結晶だ。
他にも、俺はアルバイトで少しだが、格玉の入手に成功した。俺が見つけたアルバイトは、新作料理の調理スタッフ及びアイディア出しである。俺はこの時、初めて自分の知識が役に立つと確信した。あの何も無い空間で集めた知識が、この世界の常識とはまるで噛み合わなかったことに、少なからずショックを受けていたのだが、ここにきて俺の知識が火を噴いた。
彼らからすれば、斬新で革新的なアイディアを、俺は披露した。それこそシェフは涙を流すほど喜んでいたのだ。報酬には少し色を付けてもらったほどだった。これからも是非協力してくれと頼まれるほどで、協力は吝かではないので小出しに知識を披露しよう。金の生る木を見つけ、思わず顔がにやけてしまいそうだ。
ちなみに稼いだ金はまだ使っていない。家具を買うにはまだ足りないし、部屋の構想がまだ固まりきっていないからだ。部屋のレイアウトを考えるのに、誰か相談できる人は居ないだろうか?
小さな悩みはあるものの、俺はこの新しい生活を楽しんでいる。そんな俺は、今日も訓練を終えて、この後どうやって過ごすのかをテトと相談していた。
「今日はどこに行こうか?」
「そうだなー、墓城の中は殆ど行ったからな」
広い墓城内であっても、一日数時間訓練するだけで、残りの時間を自由に過ごせる俺は、墓城の粗方の施設は経験積みだ。そんな俺達に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あー、ピーちゃんにテットン!なにしてるの~?」
「こんにちは、お二人ともこの様な場所で如何なされたのですか?」
我らが大先輩、キキさんとシエラさんだ。
「こんにちは、俺達はこの後どうするか相談してたんですよ」
「こんちはー、二人してどうしたんですか?」
彼女たちは、いつもの奇抜な服装と、メイド服なのだが、背中には大きなバックパックを背負っていた。
「私達は、商品のデリバリーで城外に行くとこだよー。マーちゃん達が沢山注文してくれたの~」
「キキさんは、マミーの集落から定期的に、大量の注文をお受けになるのです」
なんと二人は、これから城の外に出掛けるらしい。これ程の荷物を持って行くのは、大変ではないだろうか?
「収納の魔道具には、入らないのですか?」
俺と違って、他の人たちは便利道具を持っている。それなのに何故、二人は背中に荷物を背負っているのだろうか?
「えへへ、私の魔道具の中は、もう入らない程物が入ってるから、使えないんだよね~。えへへへへへ」
キキさんは物があふれていて入らないらしい。シエラさんは、どうなのかと目線を送ると、彼女はすかさず目線を反らした。おや?
「あれ?シエラさんも魔道具の中、整理でk「違います」え?」
彼女は俺の言葉に被せ気味に否定してきた。
「でも、荷物を背中にせおt「違います。その口ふさぎますよ」あ、はい」
背中に冷や汗を感じる。どうやら触れてはいけないようだ。
「そのデリバリー、俺とピットも付いて行っていいですか?俺の魔道具ならまだ荷物入りますよ?」
テトがそんなことを言い出した。
「墓城内は粗方ピットも体験したので、城外も案内したかったんですよ」
どうやらテトは、俺の為に申し出たようだ。アイリスさんが絡まなければ、面倒見が良く、非常に優秀な男だ。
「ピーちゃんとテットンも付いてきてくれるの?わーい」
「それは良い考えですね。よろしくお願いします」
こうして俺達は、マミーの集落へ向かうことになった。
マミーの集落は、墓城を出て徒歩で一時間ほどの場所にあるらしい。城外には転移で出られるが、そこからは歩いて行かないといけない。城外は意外と利便性が悪いようだ。その城外だが、そこには一面お墓が立ち並んでいた。一定の間隔を空けて、同じような大きさの墓石がずらりと並ぶ様は、神秘的でもあった。
「ピーちゃん、墓城の外はどうかな~?何も無いでしょぉ~?」
「城外にはお墓以外の物が有りませんからね」
「基本、用事がないと来ない場所だしな」
みんな思っていることは、大体同じようだ。
「住民も侵入者が来るまでは眠ってばかりいますからね」
どうやらこの墓石ばかりの場所にも、住民は存在するらしい。みんな墓石の下で惰眠を貪っているようだ。
「まあ、いつまでも此処にいても仕方ないし先に進もうぜ」
「そうだそうだー、早くいこー」
確かに何時までも此処にいるわけにはいかない。俺達はマミーの集落まで歩を進めた。
ある程度進むと、本当に何もない荒れた地が広がっている場所に辿り着いた。
「ここら辺は墓石すら無いんですね」
「はい。第9フロアは、広大な大地に集合墓所が多数点在する形で、構成されています」
「そだよー、墓城ある場所は、第9フロアでも最大の墓所になるんだよ~」
「まあ、墓所って言うくらいだから、結局墓しかないけどな」
墓しかない場所、住民に不満はないのだろうか?いや、墓の下で惰眠を貪るってのも有りか・・・・。各フロアにコンセプトが有ると言っていたが、以前水晶で第5フロアを少し見たが、他のフロアの事も一度見てみるのも良いかもしれない。
俺がそんな他のフロアに思いをはせていると。
「ピーちゃん!マーちゃん達のお家はすぐそこだよ!張り切って行こー」
そう言ってキキさんは、先をズンズンと進んで行く。俺達は置いて行かれない様に、急いで後を追った。
程なくして俺達はマミーが住んでいる集落に辿り着いた。
そこは他の集落と左程違いは無く、墓が立ち並ぶごく普通の集合墓所だ。正直、同じような光景が続いて辟易していた俺が、多少なり変化を求めたのは間違っていないと思う。そんな俺の心情を他所に、キキさんは墓所の中心へと入って行った。
「マーちゃん達ー、ご注文の品、おっ届けにー、来ましたぁー!」
キキさんは、墓所の中で一番大きい墓の上に立つと、大きな声で叫んだ。人の家の上に立つのは、罰当たりではないだろうか?俺がそんなことを考えていると、周りの墓からモゾモゾと動き出し、そこから包帯まみれの人たちが這い出てきた。
全身に包帯を巻いている。包帯の隙間から見える彼らの肌は、水分がないのかカラカラに乾いているようだ。這い出てきた彼らの包帯には、所々土で汚れているが、個々で巻いている包帯のデザインは皆違う。複数の柄を組み合わせているお洒落さんも中に入るようだ。
「キキサマ、オマチシテオリマシタ」
彼らの中で、一際大きなマミーが挨拶をした。喉までカラカラなのだろう、所々声が掠れていた。
「はーい、お待たせしましたー。テットン出してあげてー」
そう言ってキキさんは、テトに催促する。
「了解です」
テトは地面にシートを敷いて、取り出した荷物を並べた。並べるときも、種類ごとに分けて並べる気配りが出来る男だ。もっとも、全て包帯だが。
「みんなー、注文書を持って並んでね~」
キキさんの号令で、マミー達は綺麗に一列に並んだ。その列を、シエラさんが物凄い速さで捌いていく。その無駄一つない動きで、商品の受け渡しをこなす姿は、熟練の技を感じる。
「どうだいどうだい、今回も会心のできだよ~」
「ハイ、スバラシイデキデス」
どうやら彼らにとって、キキさんの包帯は、他とは一角を撰するようだ。確かに普通の包帯を巻いているマミーは一人もいない。
「コレデ、ムスメノヨメイリモ、アンシンデス」
娘の嫁入りに包帯が必要とは、種族が違うと常識も違うのだろう。マミーの嫁入り……同じ墓に入るのか?
「キキさん、全ての商品の受け渡しが終わりました」
「おー、シーちゃんありがとねー。私じゃこうはいかないよー」
大きなバックパック二つ分の商品が、一瞬で捌けた。
「流石シエラさんだぜ、仕事が異様に早い……」
「あれは真似できないね……」
あのスピードは頑張れば出来るってレベルを超えている気がする……格が上がればあんなことも出来るようになるのだろうか?
「よいしょっと……今回はありがとねー。それじゃ又のご注文お待ちしてるねー」
キキさんはお墓から飛び降りると、挨拶もそこそこに帰り支度をはじめた。まだ此処に来て5分と経っていないのにもう帰宅……俺は何をしに来たのだろうか?
「ハイ。マタ、ヨロシクオネガイシマス」
お互いに淡々と済ませていく。これが当たり前なのだろうか?
「なあ、こんなに淡々と進めるもんなのか?」
「ああ、城外の住人は基本こうだな。あまり長時間活動すると頭痛がするらしい」
なんと頭痛持ち、彼らに頭痛薬は効くのだろうか?
「よーし、ピーちゃんにテットン、帰るよー」
そう言ったキキさんの手には、何やら道具が握られていた。
「何ですかそれ?」
「はっはっはー、これはキーちゃんのスペシャルアイテムだよー」
その道具は、ロープで吊るした地球儀の様な形をしていた。
「魔道具工房一番の腕を持つ職人が作った一級品ですよ」
一級品……きっとお高いのだろう……。
「何をする道具なんですか?」
「これはねー、なんt「登録された場所に転移するための道具です」お!シーちゃん!?私が説明したかったのにー!!」
シエラさんにセリフを取られたキキさんは、怒りを身体で表現するように地団駄を踏んでいる。こんな怒り方は初めて見た。
「キキさん、時間切れです。彼らを見てください」
振り向くとそこにはマミー達が頭を抱えていた。長時間活動が出来ないって言っていたが、たかだか数分で頭痛になってるんだが……。
「あやや、結構早く来ちゃったね。ほらピーちゃん急いでこれ握って!テットンも!」
俺とテトは急かされるままに、魔道具に繋がっているロープを握った。
「それじゃ行くよー」
キキさんが魔道具を掲げたとたん、強い光が周りに溢れた。光は徐々に収まり周りが見えるようになるとそこは部屋の中だった。
「おお!転移の道具って凄いな!」
テトは転移に興奮しているようだ。普段墓城の転移には慣れているが、道具を使った転移は滅多に体験できることではない。
「ここは何処なんですか?」
と、聞いてみたものの、正直予想はついてる。部屋の中には、色々な着ぐるみと帽子に溢れていた。
「ふっふっふー、ここは私の部屋なんだよ~。すごいでしょー」
普段着ている熊の着ぐるみの他にも様々な種類の着ぐるみがある。普通の洋服は見かけない。
「キキさん、ご自慢のお部屋をご紹介したいのは分かりますが、次がありますので移動しましょう」
キキさんが話を切り出す前に、シエラさんが先回りして話を変えた。二人にはまだまだ仕事が残っているようだ。
「そっかー、仕方ないねー、ピーちゃんもテットンもまた今度遊びに来てね!」
それから俺達はキキさんの部屋を退出して、二人は早々に次の仕事に出掛けて行った。テトと俺はその場に残され、また今日の予定を話し合う。
「……さて何処に行こうか?」
「次は慌ただしくないのが良いかな」
これがここ最近の俺の日常だ。




