最初は基本、案内されます
俺達は、アイリスさんの部屋を退出して長い廊下を歩いていた。途中、シエラさんと半蔵さんは自分の仕事が有るとの事で別れ、今は、俺とキキさん、それに暇なのかテトさんも一緒に墓城の中を案内してもらっていた。
「今私達が今居るここが居住区だよー、私室はこの区画にあるの。他にも食堂、図書館、お風呂、ショップなんかは此処にあるよ~。あ、あと訓練所もここにあるから覚えておいてねー」
間延びした話し方で案内をしてくれるキキさん、俺の前を歩いて案内してくれるのだがピョコピョコ跳ねる様に歩く姿が気になって仕方がない。
「ピットや俺みたいな物理的な肉体を持たない連中には、使えない施設も多いけどな」
キキさんの説明の不足分をテトさんが補ってくれている。
「テトさんや俺みたいな人も多いんですか?」
「ああ、沢山居るけど基本的にそういった奴らは墓城の外が担当だな。あと、俺の事はテトって呼び捨てにしてくれていいぜ!」
「わかったよ、テト」
「おう」
そんな風に俺達が友好を深めていると、前を歩いているキキさんが突然。
「あー、テットン狡い!ピーちゃん、私の事もキキとかキーちゃんって呼んで良いからね。ね!」
と自らも仲間に入れてほしいのか、要望を伝えてきた。
「えっと、流石にそれはどうかと?それとピーちゃんって……?」
呼び方云々はともかく、まるで鳥のペットの付けるような名前で呼ばれて狼狽えた。
「諦めろピット、キキさんは一度呼び方を決めると、それを変えてくれることは決してないからな……」
テトが実感の篭った声色でそう教えてくれた。
「えー?なんでー?ピーちゃんって可愛いじゃない?それにテットンのことを呼び捨てにっするなら、私の事も気軽に呼んでくれていいんだよ~?テットンも私の事、キーちゃんって呼んで良いんだよ?」
キキさんは自分の要望を押し付けるためグイグイくるな……。
「流石にそれは勘弁してください。このフロア最古参の先輩を呼び捨てとかむりです」
なんとキキさんはフロアの古株らしい。見た目からは分からないものだ。
「もーテットンすぐ私をお婆ちゃん扱いする!シーちゃんに言いつけてやる!」
「ちょっ、ちっ違います。違いますよ」
テトがそれはそれは焦っている。シエラさんは怒らせたらいけないタイプの人なのだろう。気を付けよう。
「まぁまぁ、キキさん俺も教えを受ける立場ですので呼び捨ては勘弁してください。テトの事は、俺からもシエラさんに伝えておきますから」
「ちょ!ピット裏切る気か!」
俺はこの場を、テトを生贄に捧げることにより難を逃れることにした。
「むー、それなら仕方ないかな?ピーちゃんは許します。でもテットンはダメ」
俺は許されたようだ。そもそも何もしていないのだが……。
「まっ待ってください。シエラさんは,シエラさんだけはどうか勘弁してください」
テトのシエラさんへの恐怖が留まるところを知らない。
「ピット、お前からも何か言ってやってくれ!俺達友達だろ!?」
この後、テトは必至の謝罪により、キキさんの持つぬいぐるみに一日憑依して、可愛く振舞う事を条件に許しを得たのである。
キキさんのご機嫌を取りつつ、俺達は居住区を後にして、続いて製造区にやって来た。
「ここは製造区だよー、各フロアでダンジョンの中で必要な物を担当分けして製造してるの、普段私はここでお仕事してるよ~」
そこには色々な種類の看板を掲げた工房が所狭しと並んでいた。
「ちなみに第9フロアでは加工がメインで、各フロアから素材を運んでもらって製造しているぞ」
「ここでは何を作ってるんだ?」
「第9フロアの担当は、魔道具、呪具、木工、生活用品全般、服飾だな。キキさんはその中で服飾の最高責任者だぞ」
テトがそう言うと、キキさんはドヤ顔で仁王立ちした。
「欲しい洋服が有ったら私に言ってね!何でも作ってあげるよ!」
余程自信が有るのだろう。俺達の洋服作成を申し出てくれた。
「キキさん、ピットも俺も肉体が無いから服着る事は無いですよ?」
肉体を持たない俺達には無縁だと告げると、キキさんは途端にしょんぼりしてしまった。
「テットンは私が作る洋服なんて着たくないんだ!そうなんでしょ!」
途端にご機嫌斜めになってしまったキキさん。慌てふためくテト。仕方がないので助け船を出してあげよう。
「キキさん、テトは着る服では無くて、憑依できるぬいぐるみが欲しいのですよ。あ!俺は服を着れるようになったら、かっこいい洋服作ってくださいね」
俺がフォローを入れるとキキさんは途端に上機嫌になった。
「なんだー、テットンはぬいぐるみが欲しかったのね~。ピーちゃんには素敵な洋服を作ってあげるから楽しみにしててね~♪」
「な……に……」
俺の巧みなお願いで無事キキさんのご機嫌を取り戻す事が出来た。そんな時、ぬいぐるみを欲しがっているテトが小声で話しかけてきた。
「おい、俺がぬいぐるみを欲しがってるってどういう事だよ!?」
テトは小声で叫ぶなんて高等技術を披露してきた。なかなか引き出しの多い男かもしれない。
「唯否定するとキキさんの機嫌が悪くなるだろ?何か不利益があるわけでもないんだし合わせとけよ」
何か不都合が有るわけでも無いのだから態々相手を否定する必要も無いだろう。
「そ……それもそうか……ピットは頭いいな」
テトの『頭が良い』の基準の低さに、俺は新しくできた友人を少し不憫に思った。
製造区での一幕も良い落としどころが見つかり、俺達は次の場所に移動していた。
「ピーちゃん、これから案内する場所は、侵入者と戦闘が行われる場所だから、注意して付いてきてね~」
どうやら次は、侵入者の入ってくる場上居場所のようだ。しかし、侵入者は来たことがないこのフロアで、何に気を付ければいいのだろうか?俺がそんな疑問を抱いていると
「戦闘区はトラップとかも設置されてるから、気が付かずに発動させると、怪我をするかもしれないし、再設置には給料から天引きされるから,このフロアで最も注意が必要な場所だぞ」
なんと外敵による危険度よりも、自らを守るはずの防衛システムが、我々に牙を剥く。防衛とは何だろうか?
「それって本末転倒なんじゃ……」
「確かにな、しかし仕方がない面もある。各フロアには最低限の罠を設置する義務があるのだ」
テトの口から語られる、罠の設置ノルマ、ダンジョン経営もどうやらお役所仕事の様だ。俺達は、他にも戦闘区での注意事項などを話してると突然————
「むむむむー、さっきからピーちゃんはテットンとばかり話してる!」
どうやらキキさんは、自分が話に混ざれない事に、不満を募らせていたようだ。
「テットン!ピーちゃんは私が案内するの!邪魔しないで!」
キキさんは、自分の役割が取られたと思ったのか、何だかお怒りモードだ。勿論怒りの矛先はテトだ。
「えぇ!?俺はキキさんのお手伝いが出来ればと思って、ピットに色々教えてたのですが」
「むー、それは、ありがとう。でも私もお話ししたい!」
これはキキさんが、相当なかまってちゃん説が浮上したな。これを、かまってキキちゃんと名付けよう。暫らくテトに相手をしてもらうのが吉か。
「おや、皆様この様な場所でどうされたのです?」
キキさんとテトが騒いでいると、突然俺達に声を掛けてくる人がいた。
「こんにちは、シエラさん。お仕事の途中ですか?」
現れたのは、箒を片手に持つメイドさんだ。仕事中とは思えないほど服の乱れが無い。
「こんにちは、ピットさん。今終わったところです。お二人は如何されたのですか?」
仕事を終えたシエラさんは、二人の騒ぎが気になるらしい。俺が今の状況を、どうやって説明しようかと悩んでるとキキさんが割り込んできた。
「ああ!シーちゃん。テットンが私を虐めるよ~」
おっと、今のでテトは一気に崖っぷちだ。
「テト?どういう事ですか?」
シエラさんは一瞬にして黒いオーラを纏う。彼女の視線の先にいるテトは、気泡一つ一つの大きさが小さくなり、青白かった身体は更に白さを増したような気がする。
「ええ、自分はキキさんがピットに説明している時に、補足していただけであります!」
「……それでは、何故虐めるなどと言う話になるのですか?」
尋問は続く、一つのミスも許されない状況だ。何故かテトの喋り方が変わっている。流石に少しかわいそうなので助け船を出してやることにした。これで貸し二つだ。
「テトの補足が的確だったので、思わず俺が色々質問をしたのが、キキさんにはご不満だったようです」
俺のアシストに、テトは首を懸命に上下に振る。首かどうか怪しいが……。
「そうですか……それでは仕方ありませんね」
なんとか状況の打破に成功した。しかしテトの恐れ様、シエラさんはそんなに怖いのだろうか?いや、黒いオーラは怖かったけど……。
「ピーちゃん、私の説明分かりにくかった?」
キキさんは、涙目&上目使い、のコンボで俺を見上げてくる。流石の俺もこの目には敵いそうもない。
「いえいえ、キキさんの説明は要点が纏まっていてとても理解しやすかったです。それに、一緒に見て周れて楽しかったですよ」
俺は渾身の笑顔と共に彼女を褒める。そうすると、あら不思議キキさんは笑顔増し増しだ。
「そっかー、ピーちゃん喜んでくれたんだー。よかったー」
そう言って彼女は小躍りをはじめた。その時、黒いオーラを仕舞ったシエラさんが、キキさんへある提案をした。
「キキさん、今日は珍しく、第5フロアに侵入者が到達したようです。ご都合が宜しいならピットさんに、実践を見学しながらの講義をしてみては如何でしょうか?」
どうやら新人教育の一環で講義をするらしい。
「おおー、ナイスタイミングだね!あと案内していないのは、統括区だけだったから丁度いいねー。」
どうやら次に案内される場所で、実践見学ができるらしい。
「よーし!みんなー、統括区にレッツゴー!!」
キキさんはスキップをしながら先頭を歩いて行った。なんだかその後ろ姿は、とても微笑ましかった。




