任務開始です。
そこには、割と確りした集落が存在した。ダンジョンから僅か徒歩30分。木の壁で囲われて、多くの人が行きかう集落だ。
最初は、ここが今回の目的地である町なのかと錯覚してしまったほどだ。門を潜った先には色々な店や宿屋、それに大きな倉庫が併設された建物もいくつかある。ここはダンジョンへの侵略を試みる者達が、ダンジョンの外で休むための最後の砦だ。
他のダンジョンでは、モンスターを沢山産み出して外へ排出するスタンピードと言われる災害を引き起こして人々を周囲に寄せ付けないが、俺達の暮らすダンジョンでは、そんな無意味な事はしない。
魂を回収するのにダンジョンの外での殺害は理に反する。
それ故に、ここのダンジョン周辺は安全だと認識されており、ダンジョンへの侵入も他の場所に比べれば比較的安易に行える。それ故に侵入者の数を増やす事ができるのだ。まさに合理的な手段である。
「いやー、ここに来るのも久しぶりだねぇ~」
「キキさん、襟元が曲がっていますよ。少しジッとしてください」
今回の任務に当たり、キキさんとシエラさんに助力を頼んだ。そして今、俺の目の前にはこの任務最大の驚きが存在する。
それは、普段着ぐるみしか着ない女性、キキさんが普通の洋服を着ているのだ。『普通』と言ってしまえば、少し語弊があるが、一般的な冒険者の女性がするようなショートパンツに太腿まで覆うブーツ、そして麻のシャツに革のジャケットを着ている。普段被っている変な帽子の代わりにニット帽を被っている。
その姿は小柄で若くは見えるが、経験ある冒険者に見える。
シエラさんも、キキさんと似たような装備だが、もう少し成長した大人の女性に見える。キキさんと違ってニット帽は被っていないが、その艶やかな黒髪を結い上げた姿は非常に魅力的だ。
「さてー、ピーちゃん隊長~。この後は何をしますか~?」
「そうですね……、町に向かうのに乗合馬車を使おうと思うのですが、どうでしょう?」
「良いと思いますよ。乗合馬車ですと、こことは反対側の門の付近に併設されていた筈です」
俺達はシエラさんの教えてくれた方へと向かって進む事にする。ここの集落では、農民などは居らず、戦闘を生業にする者と、商売を生業にする者、それを支える産業に携わる者達で構成されているようだ。
周囲では店先でお客さんを呼ぶ大きな声が聞こえてくる。俺の第一印象は、異様に活気のある田舎、だろうか。集落の規模に見合わない人口密度をしている。
「それにしても、本当に人間が一杯いますね」
「だね~、町に行くともっと沢山いるよ~」
「聞いた話だと、王都にはそれすらかすむ程沢山の人間が居るらしいですよ」
「シエラさんは王都には行った事ないんですか?」
「私は無いですね。恐らくダンジョンに居る者で行ったことあるのはほんの一握りでしょう」
基本的に、ダンジョンの運営に携わる者が、長期的にダンジョンを離れる事は無いので、距離の離れている王都に行く事が無いらしい。
そういったダンジョンから距離のある場所には、協力者からの情報が重要になってくる。人間の中にも、利益の為に情報を流す物は一定数いる。そういった者達に接触して、対価おもって情報を得るらしい。これは今回の任務でも重要になってくることだ。そういった人を探し出すのも今回の目的の一つと言える。
三人でお喋りをしながら進んで暫くすると、大きな幌馬車が並ぶ場所が見えてきた。ここに辿り着くまでに、屋台での買い食いで時間を浪費したが、色々美味しい物に出会えたので良かった。人間が作り出す物も悪くないものだ。
「乗合馬車を利用する場合は、こちらの建物で料金を払って予約する必要があります」
そう言ってシエラさんが案内してくれたのは、馬車が並ぶ場所に隣接している建物だった。それ程大きな建物ではないが、この後馬車に乗り込むのだろう人達が待っている待合室と、受付用のカウンターが併設されていた。
場所が場所だからなのか、カウンターの奥に居る人や、待合室で待っている人はガタイがよく、何かしらの武力を持っている様に見える。やはり、ここは彼らにとっては最前線なのだろう。
俺達は幾つかあるカウンターの一つに近づき、受付の人に話しかける。
「すみません、ヨーギの町まで三人お願いします」
「はいよ! 三名様ね。お客さん丁度いいタイミングだね、次の便は直ぐに出るよ」
俺達はある程度余裕をもってこの集落に来たのだが、屋台で時間をつかったのでギリギリの時間になっていたようだ。
「わーい、ナイスタイミングだね~。さー行こう行こう~」
「完璧なタイムスケジュールですね」
「……まあ、間に合ったので何でもいいのですが……」
馬車代を払い、割り当てられた馬車へと向かう。
今回俺達が利用する乗合馬車は、複数の馬車が連なって移動する一般的なものだ。複数で移動することによって危険を回避するのが目的だ。それに利用している客は殆どがダンジョンに侵入する者達故に、戦力的にも申し分ない。
受付が遅かったせいか、俺達の割り当てられた馬車は最後尾の物だった。他のお客さん達は、俺達が受付をしている間に乗り込んでいたらしく、乗り込む時には既に先客が居た。
先に乗っていたのは四人の冒険者のような恰好をした者達で、その雰囲気から彼らが知人である事が窺えた。
「こんにちはー! ご一緒ですね~、おねがいしまーす」
「失礼します。よろしくお願いします」
二人は馬車に入ると二人は先に居た人たちに挨拶をする。今回の任務では、人間の生活に溶け込む事が重要である。こういった小さい事をしっかりこなす事によって自然と人間の営みの中に紛れていくのだろう。これは俺も見習って行く必要がる。
「こんにちは、お邪魔します。よろしくお願いしますね」
俺達の挨拶に、先客の冒険者らしき客達も返事をしてくれた。
「やあ、こんにちは。こちらこそよろしくお願いしますね」
「「こんちゃー!よろしくねー」」
「こんにちは、よろしくお願いいたします」
先に乗っていたのは男女二人づつの四人で、物腰は柔らかいが、体格の大きな男性に、丁寧な話し方をする背筋がまっすぐな女性。そして同時に挨拶してきた二人は、性別こそ違うが、とてもよく似ている。恐らく双子なのだろう。
どうやらヨーギの町まで旅を共にするのはこの四人のようだ。体格の大きな男性は、短い槍と大きな盾を持っているようで、一つの席を大きな荷物が占領している。
余談だが、こういった大きな荷物を運ぶときは、席一つ分の料金を払う必要があるので少し割高になる。
そして背筋が真っ直ぐな女性は、その恰好から神職に携わる人だと予想出来る。白を基調とした服で、所謂修道着と呼ばれる物だろう。資料を読んだときに見た物と多少違い、動きやすいようにデザインが工夫されている。それに急所に成り得る処には簡素ながらも鎧に成る物が守っている。
見た目そっくりな双子は、どちらもレンジャーのようだ。しかし、その役割は大きく違うのだろう。片方はナイフ一本だが、小物を収納する物を多く持っていて、そこから罠に使うワイヤーが見える。もう一人は、弓をメインに使うのだろう。荷物の中に弓と矢筒が混じっていた。
一見、パーティのバランスは悪いが、この四人から感じる雰囲気は、待合室で屯していた連中よりも遥かに鋭い。熟練の戦士が醸し出すものだ。人間の中でも強者に入る者達なのだろう。昔の俺だったら分からなかったが、格玉を多く取り込んだ今の俺には、そういった感覚も感じ取る事が出来る。俺も成長している。
とにかく、俺達に加えて、この四人と御者のおっさんを含めた八人がこの馬車で移動する事になった。
予定通りなら、今日の夕方ごろにはヨーギの町に到着する予定だ。
こうして俺にとって初めての、ダンジョンの外での任務が始まった。
この普段と大きく違う環境を明一杯堪能しよう。
俺達が席に付くのを確認した後、業者の号令と共にゆっくりと発車した。




