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お祝いは突然に

 何はともあれ、メンバーは決まった。


 多少不安は残るものの、頼もしい仲間ができたことには違いない。こうなると次に必要な事は物資の確認だろう。確か、必要な物資は支給してもらえるって話だったので、それを受け取って確認しなければならない。


「ところで~、ピーちゃんは外出用の洋服はあるの~?」


 外出用の洋服? 霊体で作り出せるから必要ないのでは?


「だめだよ~、戦闘の返り血や宿で汚れ物を洗ったりするサービスがあるからー、脱げない服は厳禁~」


「そうですね。洋服や装備類はきちんと用意した方がいいでしょう」


 先輩二人の意見を聞く限りでは、支給される物だけでは色々と不足している事が判明した。こういった時に経験者の意見は有難い。実務経験の無い俺の足らない所を補ってくれる存在と言うのは心強いものだ。


「だからー、ピーちゃんの服は私に任せてねー!」


 そう言えばキキさんは服飾のスペシャリストだ。そちら方面であれば彼女に任せておけば間違いない。


「それでは私は軽鎧を見繕いましょう」


「え? それは悪いですよ、シエラさん」


「問題ありません。幾つか余っている鎧があります。それに真新しい鎧よりも周囲に溶け込みやすいと思いますよ」


 シエラさんの言い分では、買ったばかりの真新しい鎧では、周囲の人から新人と間違えられて目立ってしまう恐れがあるらしい。


「よーし、じゃあ私の工房でやろ~」


 その後、俺は引きずられるようにキキさんの支配する工房へと連行され、普段構築している仮想体に合わせて採寸をしてもらい。目の前で瞬く間に服が出来上がる所を見ている。


 衣服のサイズを出すために、普通なら型紙や紐で寸法を出すものだが、キキさんは目寸で布を切り分けていく。そして早い。もの凄く速い。


 一着の上着を完成させるのにかかった時間、僅か10分。凄すぎて何が凄いのか分からないレベルの話である。


 下のズボンも直ぐに出来上がり、試着(?)してみれば、サイズはピッタリだった。


「んー、目立たない服だとこれが限界だね~」


 俺の目から見れば、細部まで細かく縫われたこの衣類は非常に高い評価をするに値する。縫い目も目立たず、ほころび一つなく、巧みな針捌きで縫われた刺繍は一種の芸術にも見える。ボタン一つとっても、芸が細かく、着心地もまた抜群だ。


 それでも、キキさんには今一つ納得できない所があるらしい。服飾にかける情熱が中途半端を許さないのだろう。素人目には素晴らしい出来栄えで何一つ文句ないのだが、傍から見たら旅人に見えるのも、任務の無い様に適していて良いと思う。


「やっぱり、クマちゃんフードはほしいよね~……」


 価値観の違いだろう。


 今の俺の見た目は、麻でできたズボンとTシャツに革のジャケットだ。しかし、その内側には謎の素材で張り合わせてあり、着心地は非常に良い。見た目は完全に平民、外套を着れば旅人に見えるだろう。因みに外套は、昔侵入者から剥ぎ取った物を使用する。こうする事で見た目が新人には見えなくなるのだ。後は中身が伴えば完璧である。


 キキさんの早業で思いの外早く終わった準備だったが、丁度良くシエラさんが鎧を持って入って来た。その手に持つ鎧は、急所のみを守る、必要最低限のものだが、旅人を装うなら最も相応しいものだろう。どちらにしろ攻撃を受けても、仮想実体構築が解除されるだけなので命の危機は無い。


元々命がないのだから。


「ピットさん、この鎧を試着してみてください」


「体をその鎧に合わせることもできますよ?」


「緊急時に対応できない可能性があるので、飽くまでも普段意識している姿を基準にしたほうが、結果的に都合がいいので鎧の方を合わせます」


 後から聞いた話では、俺達ダンジョンの陣営に所属する者が、人間のテリトリーに情報収集していることを知られないために、細心の注意で任務を行っているらしい。特に俺のような霊体の身体の持ち主だと、咄嗟に仮想実体構築が解除されてしまう可能性も考慮して作戦を考えるのが普通なのだとか。正直俺が予想していたよりも遥かに重要度の高い任務だ。


 確かに大きな損益に関わってくることだから、失敗は許されないだろう。もう一度、この任務への心持を改めないといけない。


「調整は私がするから任せてね~」


 鎧の微調整をキキさんに任せて、俺はされるがままに立つ。


 胸元だけを守る鎧だが、背中に背負う剣を保持するための帯も取り付けると、下半身まで確りと固定する事になる。これが緩んでいると、背中の剣が暴れて非常に動きにくくなるのだ。こうして考えると、胸だけを守る防具も、全体の装備との兼ね合いの元に確り設計されていることが分かる。


 確りと鎧を取り付けて、剣も背中に添える。以前エトナさんに注文していた特注の剣だ。


「んー、攻撃特化の剣士って感じかな」


「なんだか、攻撃的な旅人ですね」


「何か変ですか?」


「鎧の割に武器がゴッツイよねー」


「旅人は護身用の武器くらいしか持ちませんからね」


 どうやら俺の持っている剣は、旅人が持つには分不相応なもののようだ。そうなると、普通の片手剣だけにした方が良いかもしれない。


「……いっその事、防具をもう少し追加しますか?」


「もっとゴツイ鎧ですか?」


「いえ、小手などが丁度良いかもしれません」


 シエラさんが言うには、小手と言う腕を保護するものらしい。武器を振るうのに邪魔にならない範囲で、最低限の範囲だが、敵の攻撃を受ける事が出来る部分が有るのは、命生きながらえるに有用な手段なのだとか。


「でも小手ってー、受注に時間かかるんじゃないの~?」


 腕に巻き、動きが阻害されないようにするために、小手は確りサイズを合わせないといけないらしい。


「本来ならそうなのですが、丁度良い事に手持ちのもので使える物が有るのです」


 そういってシエラさんが取り出したのは、左右の大きさが違う小手だった。右手の小手は肘辺りまでなのだが、左の小手は肩まで覆うような作りになっている。敢えて問題を上げるとすれば、俺の身長からして二回りは大きい事だろう。


「これかなり大きいですけど、大丈夫なんですか?」


「大丈夫ですよ。これは呪具になっているのでサイズは気にしなくても装着できますから」


 なんとも都合がいい機能である。そんな便利機能が付いている防具があるなら、他の防具ははやらないのではないだろうか?


「あえて問題を上げれば、霊体種の方でないと装備する事が出来ない事くらいですね。そういった意味ではピットさんにはピッタリです」


 はい。そんなに都合のいいものはありませんでした。この小手は、霊体種である上に、仮想実体構築を習得していないと使うことが出来ないらしい。何故シエラさんがそんなものを所持していたかは疑問が残るが、それなりに高価なものだと思う。


「私には使い道がないので差し上げますよ。仮想実体構築を習得したお祝いです」


 祝いだと言われてしまうと、断る理由が出てこない。ここは素直に受け取っておくほうが良いだろう。今度何かプレゼントしよう。


「あー、私もお祝いする~! 私からはこのブーツねー」


 何故かキキさんもプレゼントを取り出す。このブーツもシエラさんの小手と同じで霊体種でないと装備ができないものだとか。そんなに都合よく霊体種専用装備が手に入るものなのか疑問に思っていたが、昔エトナさんが種族特化装備を作った時にオマケでもらったらしい。


俺へのお祝いはオマケを横に流す事です。本当にありがとうございます。


 こうして俺の格好は、『旅慣れた感じの旅人』といったものになった。何時の間にか偵察任務に赴くときの格好をした二人も並んで、旅の一行となった。



キキさんが着ぐるみ着ていない所を初めて見たよ。




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