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買い物

 俺が仮想実体構築を会得してから一月。最初は安定しなかった実態も、日々の訓練のお陰で、今では意識しなくても維持できるほどだ。


 そしてここ最近のマイブームは、料理長と新作のメニューを考える事である。決して試食が目当てではない。これも俺の仕事の一つなのだから勤勉な姿勢と言えよう。


 寧ろ俺が真面目に仕事している中で、そのお零れに預かろうとするテトルリこそがハイエナだ。ルリはその身体に見合った量しか食べないからいいが、テトは身体の体積にそぐわない量を食べるので厄介である。最も、その分の金額は給料から天引きされるので問題ない。


「にゃうにゃう。ちゅぱちゅぱ」


 因みに、今俺はルリを伴って工房立ち並ぶ製造区に来ている。ルリの最近のお気に入りは、俺がプレゼントしたおしゃぶりだ。彼女はそれを夢中になって吸い付く。そのお陰で最近はテトが忙しい時には他の者にくっついているのだ。


 ルリを腕の中に抱いて通りを練り歩く。今日の目的は自室のリフォーム、と言うのも虚しい部屋を模様替えするために色々と揃える目的でやって来たのだ。前回の給料日から既に一月、前回よりも膨らんだ給料に多少戦慄を覚えるも、仮想実体構築の新しい習得方法の発見分は一回限りだと言っていたので、次からは元に戻るだろう。


 一つの工房でじっくりと品物を吟味して、自分のイメージに合う物を探す。その間ルリの世話は店の人が率先して行ってくれるので有難い。


 正直ルリの人気は異常である。その可愛さと人懐っこさが相まってその人気が留まるところを知らない。特にシエラさんの部下のシルキー達からは熱狂的なファンが続出している。テトは当初ルリを独占するあまりに、皆からヘイトを集めていて大変だったのだ。もっとも未だに夜寝るときは二日に一回はテトでないとぐずりだす。


 兎に角、今はテトルリのことは置いといて、俺の部屋の構想を考えねばならない。今の所イメージできているのは、アンティークとヴィンテージ、それを組み合わせたモダンなデザインで統一したい所だ。


 この第9フロア、職人の集まるフロアだけあってそういった物が多く眠っていたりする。それこそ数百年経っているのに高品質を保っているものや、偏屈な職人が作った通好みの物まで探すと色々あるみたいだ。それにここの住人は基本的に寿命が長かったり、寿命と言う概念がなかったりと、アンティーク物でも製作者がいまだ存命であることの方がほとんどである。


 それを今風にアレンジするのが俺の目指す場所なのである。


 今の所、ヴィンテージ物の背の低いテーブルとソファー。アンティーク調の巨大な

ベッドに、革張りのチェスト、自然の木の形を活かした机と椅子。完全にまとまりが無くなってきている。そして今探しているのが棚なのだが、木製の物はどれも無骨で部屋に置くには少し物足りなかった。そこで俺は他の方向性からのアプローチを求めて今金物屋であるエトナさんの工房へとやってきた。


「こんにちはー、エトナさん居ますかー?」


「にゃーん♪」


 挨拶は生きていく上での基本と言う教えをきちんと守るルリ。おしゃぶりを咥えながら器用に鳴くものだ。


「おーう、ちと待ってなー」


 工房の奥から元気な声が響き渡る。エトナさんはどんなに人がごった返していても必ず聞き分けられる声だと思う。


 しばらく工房の中を見て回っていると、作業着を着崩したエトナさんが出てきた。


「おう、久ぶりやなピー坊。それとそっちのがルー坊か?」


「はい、お久しぶりです。こっちの小さいのがルリちゃんです」


「にゃんにゃーん」


 片手を上げて挨拶を返すルリ。二人はどうやら初対面らしい。


「それで、今日は何か用か? 前注文受けた剣はまだできてないぞ?」


 実は、仮想実体構築を成功させた後に、調子に乗った俺はエトナさんの所に武器の注文をしたのである。何一つ武器を使ったことが無いのに武器の注文をした俺に嫌な顔せず親身になって聞いてくれた。結果的に背中に背負う片手である程度取り回しが出来る片刃の両手剣を作ってもらう事になった。因みにその武器を使うための訓練を今積んでいる所である。一月前のあの日から、なんだか訓練所に居る事が多くなったのは気のせいではない筈……。


「いえ、それとは別件です。実は今家具を探しているのですが、良さそうな物が他で見つからなかったのでエトナさんが何か在庫を抱えてないかと伺いに来た次第です」


 エトナさんは考え込むように顎に手を当てる。


「工房には置いてないが、倉庫には昔作った品も置いてある。正直商品としてはそれ程価値があるとは思えんがそれでも良ければ連れて行っても良いぞ」


「本当ですか!? そういった物が見たかったんです! 是非連れて行ってください」


「にゃ、にゃ、にゃ、にゃ」


 ルリのお腹をモニョモニョしながらエトナさんにお願いする。決して態とではない、つい興奮してしまったからだ。


「分かった。案内してやるから少し待ってろ」


 そう言ってエトナさんは工房の奥へと戻って行った。案内してくれると言ったが、まさかエトナさん自ら案内してくれるのだろうか?ルリから先程の報復に、甘噛み攻撃を受けながら考える。それから程なくして、軽装になったエトナさんが戻って来た。


「よし、待たせたな。倉庫に案内するぜ」


「エトナさん自ら案内してもらえるんですか?」


「……今暇なのは私しかいないんだよ」


 少し照れ臭そうに答えるエトナさん。その真意は分からないが、案内してもらえるのなら有難くお願いしよう。


 エトナさんの案内の元、俺達が向かった先は製造区の端っこに位置する倉庫が乱立するエリアの一つだった。そこには所狭しと金属製品が並べられており、日常でよく見かける物から用途不明の物まで様々な物が置かれていた。


 俺は探していた物が見つかる可能性に震えた。こういった場所にこそ部屋を飾るに相応しいものが見つかるはずだ。製作者本人ですら予想しなかった使い道と言うものも有るものだ。


 俺は戸惑うエトナさんにルリを押し付けると、倉庫の中に突入する。


 その中は流石金属を扱う工房なだけはあって、重厚感に溢れた物がひしめき合っていた。正直、見ただけでは用途不明のものが殆どで、無駄にでかい鉄の塊は、どのように使うのか見当もつかない。


 俺は外で騒いでいる二人を無視して倉庫の奥深くへと進む。使用用途は不明だが、自分なりに何に使えるか考えながら商品を見ているのは楽しいものだ。これでもクリエイターの端くれに収まった身、この場所は何かインスピレーションが刺激される気がする。


 色々と観察しながら進んで行くと、一つの商品が俺の目に留まった。それは特に目立つような物では無かったが、非常に実用性に優れており、デザイン性も良い。左右のバランスは悪いが、そこはかとなく品を感じる。


 それはアームガード付きの夫婦の小手だった。右手用はシンプルに肘までなのだが、左手には肩まで守る様な仕組みになっている。作りは繊細で、腕を動かすのに邪魔にならないような、特殊な稼働をするそれは、人の構造を考え抜かれている様にすら思う。


 結局その一組の防具だけが目に留まり、他に家具として使えそうな物は見つからなかったが、俺は思いの外気に入ったこの防具を譲ってもらう事にした。元々売れなくて、倉庫で眠っていた品だったのでかなりお安くしてもらえたのは幸運だったといえよう。


 品物は即座に収納の魔道具に仕舞い。エトナさんにお礼を言ってその日は後にした。


 その後も、素敵な棚を求めてうろつきまわったのだが、結局この日は棚を見つけるには至らなかった。


 ルリが買い物に飽きてぐずりだしたのを切っ掛けに、その日の買い物は諦めて、食堂でご飯を食べることにした。


 普段はテトが面倒を看てはいるが、いざ自分で面倒を看るとなると子守は大変だ。普段のテトの苦労を心の中でねぎらいながらも、この日はテトが戻ってくるまでルリの面倒をみて終わったのであった。


「にゃうにゃうにゃうん(私が面倒をみてあげてるのよ)」




次辺りで話が進むはず……

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