意外なところに意外なヒントがある
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格玉の吸収が終えて、自らの質の向上を感じて居ても立っても居られなくなったので、自主的に訓練を行うべく、俺は訓練所にやってきた。
訓練時間外の為か、訓練所には誰一人いない。誰かに仮想実体構築についてアドバイスを貰いたかったが、そもそも第9階層のメンバーでも、使える知り合いは限られているのだから最初から望むは薄かっただろう。
それに誰にも邪魔される事なく訓練に打ち込めるのは有難い。取り合えず、アイリスさんから聞いた情報を元に訓練を行ってみよう。
俺は地面に座り、リラックスできる姿勢を取る。実体化した時に空中に浮いていては落下してしまうので、これは重要なことだ。
準備が出来たら早速訓練に取り掛かる。『実体を得る』呪いを準備して、自分の周囲を念で囲う。呪いの困られた球を格玉を取り込む要領で胸元に追い当てる。
その途端に自分の身体に重みを感じた。俺の身体は無事に仮の肉体を得たのだ。以前質も呪も大して向上していなかった時に、試した時は実体を得ることなく呪いが拡散してしまって、何も変化することがなかったので、俺は自分の成長を感じた。これも日々の訓練の賜物だ。
こうして日々の努力が実ったことを喜んでいたが、呪いはすぐに拡散してしまい。元の霊体の姿に戻ってしまった。
「あれ?念の押さえつけが足りなかったか?」
喜びのあまり念の操作が疎かになってしまっていたのかもしれない。今度は先ほどよりも念に込める力を増して、もう一度仮想実体構築を試してみる。しかし、先ほどと大して変わらず、すぐに呪いは拡散してしまった。
一瞬でも実体を得ることに成功しているのだから、呪いが発動していない訳ではない。こうなると念の使い方に問題があると思って違いないだろう。
俺は念で加える力の加減を色々と試行錯誤しながら訓練を続けた。何度も何度も練習を繰り返すが、一向に上手くいかない。何一つ手応えを感じることなく、気が付けば俺の目の前にはアイリスさんとテトが立っていた。
「あれ?二人してどうしたんですか?」
この二人が一緒に行動していることは見たことがない。二人の間に何かあったのだろうか?
「何言ってんだ。訓練の時間になったから来たんだよ」
「まさかピット君ずっと一人で練習してたの?」
なんと俺は練習に集中するあまり、丸一日近くの時間が過ぎていたようだ。
「はい、全く進歩はないですがね」
自分でも驚くほど進歩がないことに思わず苦笑いしてしまう。正直、難しいと言われていても何かしら手掛かりさえ見つければ、すぐにでも習得できるだろうと踏んでいたのだが、完全に見込みが甘かったとしか言いようがない。
「仮想実体構築は本当に難しいわ。気長にやらないとダメよ」
「てか、もう仮想実体構築の練習してるとかどんだけだよ」
「にゃううん?」
二人と話していると、聞き覚えのある鳴き声が聞こえた。テトをよく見てみると、頭の天辺にはルリが乗っかているようだ。座り込んでいる俺からは死角になって見えなかったようだ。
「お?ルリもいたのか。テトはちゃんと面倒みてくれてるか~?」
「にゃぁぁぁ♪」
ルリの頭を優しく撫でてやる。頭から耳、そこから顎へと撫でる場所を変えていくと、ルリは気持ちがいいのかゴロゴロと甘えるような音を出す。キャスパリーグになっても子猫みたいな行動は変わらない。種族的な観点から見たら、スピリットよりもキャスパリーグの方が遥かに上位に存在するが、これだけ可愛いと、そんなことも忘れてしまう。俺はルリを撫で続けながらテトに聞く。
「結局ルリの面倒はテトが見ることになったのか?」
「ああ、シエラさん所の部下を一人つけてもらってるが、基本的に俺から離れないんだ」
どうもルリがテトを気に入ったのもあって、ルリのお世話係に就任したらしい。しかもこれは正式な仕事扱いになるらしく、今までの雑用と兼任してルリの世話をするらしい。勿論、正式な仕事なので給料が出る。しかもその額が今までの給料の10倍もするらしく、テトは複雑な心境のようだ。
さらに将来的にはルリは第9階層の幹部として採用すると言う話も出ているらしく、テトの責任は重大だ。
それに、可愛いルリに気に入られている事が女性メンバーには気に入らないらしく、最近周囲の当りが冷たいらしい。それは正直同情を禁じ得ないが、運命だと思って諦めて貰うしかないだろう。合唱。
ただ、テトの給料が増えれば、俺に抜かされてしまった質を向上させるのにも役に立つのだから、頑張ってもらいたい所だ。
俺がテトと話しているうちに、何時の間にかルリが俺の指をチュパチュパと吸い付いていた。本当にこの子は指を吸うのが好きなのだろう。今度おしゃぶりをプレゼントしても良いかもしれない。今はまだ歯が生えそろってないので痛くはないが、そのうち吸われるたびに噛まれそうで怖いところだ。それにキャスパリーグに進化した為か、吸い付く力が強くなっている。このままではテトみたいに指が伸びてしまう。
俺はテトの頭を引き延ばして素早く自分の指とすり替える。このすり替える時のコツは、吸い付きが一瞬弱くなったところを見極めるのが重要だ。こんな無駄なコツを覚えるのではなく仮想実体構築のコツを————。
「閃いた!!」
天啓が下りるとはこのことか!?
「にゃ、にゃ、にゃあああああああん」
「なんだよ!びっくりするだろ。ほーらよしよし、びっくりしたね~」
俺が突然叫んだせいで、驚いたルリが泣き出してしまったようだ。これは言い訳の余地なく俺が悪い。俺はお詫びの印にスティックキャンディーをプレゼントしてご機嫌をとる。直なルリはそれだけで機嫌を直してくれた。楽でいい。
「それで、何を閃いたのかしら?」
「あ、はい。ルリの行動で念の使い方が間違ってたんじゃないかと気が付いたんです」
「間違っていた?体を包み込むように抑えてたんじゃないの?」
「えーっと、取り合えず合ってるか分からないので、実際にお見せします。それの意見も聞いてみたいですし」
俺はそう言ってもう一度地面に座り、仮想実体構築に取り掛かる。右手に呪いを準備する所までは先ほどと変わらない。違うのは念の使い方。今までは外に零れていく呪いを、手で包み込むように押さえつけることで留めようとしていたが、先ほどルリの行動から着想したのは、自分の内側に吸い込み続ける事による拡散の防止だ。
念は空間に作用する。自分の中に念を使ってはいけないなど誰も言っていないのだ。それにルリに手を吸われたことで、自分の内側に持続的に吸い付けるイメージもできた。
右手に溜めた呪いを自分の胸に押し当てる。自分の身体に重さが加わるのを感じる。そして自分の内側で念の力を用いて呪いを吸い付けるように体内に留める。呪いを指に見立て、ルリの口を念で再現する。
先ほどと違い、呪いは拡散せず実体を保ったまま効果を及ぼす。
俺はついに見事に仮想実体構築を成功させた。
「できた。成功、成功だ!」
「おーやったじゃん。これって難しいんじゃなかったのか?意外と簡単?」
「にゃうにゃうん?」
俺の喜びの言葉にテトが気楽に答える。確かに一日の訓練で成功するとは思ってもみなかった。何一つ手掛かりがなかった時とは大違いだ。
「ピット君……、それはどうやって呪いを留めているの?私には念を纏っているようには見えないのだけれども……」
驚いた顔をしたアイリスさんが質問してくる。俺は何か間違っているのだろうか?実際に実体を得ているのだが。
「えーっと、ルリが指を吸い付くのから着想して、念を霊体の中で発動して呪いを吸い込む続けてるんです」
「抑え込むではなく、吸い込み続ける……ね」
アイリスさんは一度仮想実体構築を解除すると、もう一度発動する。アイリスさんほど熟練した腕があれば、手に呪いを溜める必要も無い。俺もいつかこの領域にたどり着きたいものだ。
再び仮想実体構築を発動したアイリスさんは、先ほどよりもなんだか奇麗に見える。もともと美人なのだが、より一層メリハリのできた美しさ、何がどう変わったのか分からないが何かが違って見える。
「これは……すごい、すごいわ!こんな方法思いつかなかったわ!」
普段のアイリスさんからは想像がつかないほどテンションが高い。
「ピット君!お手柄よ。これなら仮想実体構築が使える人が増えるわ」
彼女は俺の手を握り締めて喜びを伝えてくる。何が何やら分からないが、彼女の手に包み込まれた実体を伴った俺の手は、霊体の時では感じ取ることが出来なかった細かい感触まで感じ取ることが出来る。幸せ。
「あ、アイリス様。何があったのですか……?」
「にゃにゃん?」
突然のアイリスさんの反応にテトも戸惑いを隠せないようだ。ルリは周囲の雰囲気にのっかっている。
「ピット君が見つけた仮想実体構築方法が今までの物とは根本的に違うのよ。この方法なら今までよりも低い能力でも実行可能だわ。発動方法もそれほど難しくないし、少し練習すれば今のテト君でも使えるわよ」
アイリスさんの言葉に俺もテトも大いに驚く。俺は自分が新しい方法で仮想実体構築を編み出したことに、テトは本来言われていた格よりも低いのに仮想実体構築を使えることに、ついでにルリは両手を挙げて驚いた顔をしている。テトの真似が好きなのだろう。
「これは素晴らしいわね。次のピット君の次の給料にはボーナスを付けておくわ。今日は自主訓練よ!ピット君はテト君に先ほどの方法を教えてあげてね」
アイリスさんはそう言い残すと、ご機嫌な足取りで訓練所を出て行った。取り残された俺たちは、展開の速度についていけず————。
「とりあえず訓練するか?」
「ああ、頼むよ。ピット先生」
「にゃぷぷぷっ」
先生違うから、ルリ笑うんじゃない!
本来ならもう少し長く修行パート入れるつもりだったのですが、ルリ登場で予定が変わったのでサクッと習得させました。




