さらなる進化
アイリスさんの部屋を出て、格玉を使うために自室へと向かう。大量の格玉を使うからあまり人目に付きたくはない。
そう言えば、部屋の模様替えをどうしようかと考えてはいたが、未だに手付かずのままだ。今回、仮想実体構築を習得できればこちらにも手が出せるだろう。
殺風景な部屋で格玉を広げて並べてみる。こうして並べてみるとやはり多い。これだけあるとなると期待が膨らむ。どれ程質が上がるのか、楽しみで仕方がない。
俺は並べられている格玉を一つ取り、胸元に充てて自分に取り込む。胸が暖かくなり身体なのかに何かが入ってくる。
「うーん。やっぱり一個じゃ質の上昇は無理だったか」
質を上げていない状態だったら極玉を取り込めば質の上昇も見込めるだろうけど、かなり質を上げた現在では極玉でもまだまだ上がる気配がない。質は上げれば上げるほど次の段階に進むのにかなりの量が必要なようだ。
次々と格玉を取り込むと、半分を消費するころには数回の質の上昇を感じる事が出来た。流石にいくつもの極玉は使うとなかなかの上昇だ。この調子で残りの格玉も取り込めば、更に数度の上昇はみこめる。
俺が残りの格玉に手を伸ばそうとした時、誰かの来訪を伝える音が聞こえた。
「ピットー、居るかー?」
どうやら来訪者はテトのようだ。
「ああ、居るよ。入って」
「お邪魔するぜー」
そういって扉を潜って来たのは、いつも通りの逆雫型のテト。ただ、いつもと違うのはその頭には何か小さな者が昼寝をしている事だ。
「テト、その頭に乗っけてるのはなんだ?」
それは、体長30センチの小さな子供の女の子の姿、そして頭に生えるのは可愛い猫耳、腰にはすらりと伸びた尻尾が生えている。確か第6フロアに住んでいるケットシーと言われる種族だったはず・・・・ただ身体が透けてるけど。
「あーこいつか、さっきシエラさんから世話するように頼まれたんだ」
「へー、確かケットシーだよね?その子供かな?」
成人したケットシーは身長1メートルほどまで成長するから、目の前の子は子供、それも赤子に近いとみえる。
「正確にはケットシーの霊体だな。どうも事故で死んだらしいんだが、元々強い力を秘めてたみたいで霊体種に転生したみたいだ。シエラさんの受け売りだけど」
よく聞いてみると、強い力を持った者には稀にあるらしい。しかし、こんな小さな子が強い力を持っているとはびっくりである。
その時、眠っていたケットシーが目を覚ましたようだ。自分の見知らぬ場所に辺りをキョロキョロと見回す。そしてその目は俺が広げていた格玉を捉えたようだ。その姿を観察する事数秒、小さなケットシーは格玉に飛びついた。
「ちょおっ!」
並べられた格玉に飛び込んだケットシーは、転がる格玉に頭突きにキック、そして猫パンチの応酬を加える。綺麗に並べられていた格玉は、あちらこちらへと転がっていった。
「あっちゃー、滅茶苦茶だな。ってこれ全部格玉じゃねーか!?」
そんな中、小さめの格玉に足を取られたケットシーは、盛大に転んでしまったのである。そして、その転んだ先には極玉があり、それを抱き込むようにコロコロと部屋の中を転がった。
「あーあ、ちゃんと見てろよテト」
俺は転がるケットシーを受け止めて抱き上げた。その小さな体はとても軽い(質量0)。目を回しているケットシーを左手に抱きなおして様子を見る。小さいせいか頭が少し大きく見える。来ている服は上下いったい物で、尻尾の辺りに穴が開いているだけのようだ。髪もサラサラの黒髪で可愛らしい容姿をしている。
「はぁ。それでこの子、どうするんだ?」
取り敢えず、部屋の惨状は後回しにして、この子猫の扱いに対して考えなければいけない。
「いやー、どうするって言われても、預けられただけだしな。シエラさんは少しの間って言ってたから、直ぐに迎えに来るだろ」
「それまでは預かってないといけないんだな?」
「だな、それでピットに協力してもらおうと思ったんだが・・・、この大量の格玉は何なんだ?」
「俺の給料だが?」
「はああああ!?こんなに稼いでるのか!?」
本当はこの倍はあったのだが、それは黙っていた方がよさそうだ。
「ああ、結構売れたみたいでその分給料が……どうしたんだテト?」
テトはなんだか奇怪な形になって、なにやらブツブツと呟いている。腹でも壊したのだろうか?声を掛けてもゆすっても反応が無いので、俺は先に部屋を片付ける事にした。
今は格玉を取り込むことも出来ないので、元々入っていた袋に入れていく。部屋全体に散らばってしまっているが、こんな時は念の力で一気に集められるから苦にもならない。
部屋に散らばっている格玉は全て集め終わったのだが、小さなケットシーが抱えている格玉だけ回収ができない。無意識のうちに念を発動しているのか、まるで動く気配も無い。
俺はこの時、衝撃を覚えた。俺の念の力で動かすことができないってことは、既にこの小さなケットシーは俺よりも念の使い方に長けていると言うことだ。テトの話では霊体種になったのは最近だと言っていたから、どれだけの才能を持っているのだろう?もしかしたら、他も俺よりも上にいるのかもしれない。
とりあえず、今後この子をどうするか決めなければならない。
「おい、テトいいかげん戻ってこい!」
「……お?おお、どうしたピット?」
「どうした?じゃない!この子をどうするんだ?」
やっと戻って来たテトだが、自分が何を任されていたのか、すっかり忘れているようだ。
「あ!そうだ、どうすればいいんだろう?」
「とりあえず気絶してるから、起きるまではこのままでいいんじゃないか?それでこの子の名前とかってわかるか?」
すやすやと寝ているケットシーを見ていると、この子の名前すら知らない事を思い出したのだ。世話をするにも名前くらい知らなければ話にならない。
「そういえば、名前は教えてもらってないな。名前があるのかもわかんないけど」
なんとも頼りにならない相棒だ。俺はケットシーのぷにぷにのほっぺたを突きながら考える。霊体種であるいじょう食べるものは必要ないから、起きた時にまた暴れないかを気負付けなければならない。
そんな時、ケットシーは無意識なのか、ほっぺを突いていた指を口に含んだ。そしてその指をチュパチュパと吸い出す。これは確か子猫なんかに見られる行動だったはず・・・・。幼いころに命を落としたから、その頃の幼児的行動がまだ残って居るのだろう。
なんだか必死に指先を舐めている姿は微笑ましい。俺は意外とこういった子供が嫌いではないのかもしれない。
その時だった。ケットシーが抱え込んでいた格玉が淡い光を放ちながらゆっくりと吸い込まれていったのだ。これは俺もよく知っている。先程まで自分もやっていたことだからだ。ケットシーはその身に格玉を取り込んでしまったのである。
「ああ!?俺の格玉が!!」
おもわず声に出てしまう。いくら沢山あるとはいえ、極玉は大量の格を内包する貴重なものだ。極玉一つで通常勤務一か月分の給料なのだ!
「あらら、取り込んじゃったな」
目の前の光景を見て、テトはヘラヘラと笑っている。なんだか少し悪意を感じるぞ。
「くそう、俺の極玉が……ん?」
そんな時、俺はある違和感に気が付いた。先程まで視界の端で揺らめいていた尻尾の数が、一本増えているのである。目の前に持ち上げると、腰の辺りから日本の尻尾が生えていた。
「おい、ピット……これって……」
「あ、ああ……まさか……」
この子、進化したみたいだ。




