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閑話:テットンおつかいに行く(後編)

 森の入り口に到着した。


 そこは聞いていたよりも、鬱蒼と生い茂る木々が立ち並ぶ暗い森だった。森の中には多くの生き物の気配が感じられる。ミリィは恐怖のあまり両翼で俺を抱きしめている。役得だと背中の感触で理解する。


「本当の本当に、この中に入っていくんすか?」


「仕方ないだろ?これも仕事。俺が付いてるから大丈夫だ。ほら行くぞ」


「うー、うーー……」


 ミリィは恐怖の為か俺を抱きしめる力が更に強くなる。あまり力を入れられると形状が保てなくなるからほどほどでお願いしたい。


 ここまでの反応で分かる通り、ミリィは怖い者、特にお化けが大の苦手だ。俺も一葉霊体種でもろにお化けだと思うのだが、明るい所では平気らしい。


 俺はミリィを促して森の中へと入って行く。数十メートルも先に進むともうほとんど外の光は入ってこないようだ。予想より暗い森の中に、ミリィは視覚が確保できているのか聞いてみた所、流石は幹部、魔力を操作することで光集量を高めて視界を確保できるらしい。俺は普段から薄暗い墓城の中での生活が基本なので全く問題ない。こんな時は便利だ。


 俺たちはペットを探す為に森の奥へと進んで行く。そういえば今更なのだが、そのペットの姿形はどうなっているのだろうか?


「本当にいまさらっすね!?」


 ちょっと怒られてしまった。ミリィも話していると気がまぎれるのか、聞いても居ないことまで色々と教えてくれた。まずペット……チョンチョンと呼ばれる種族は人の頭ほどの大きさの胴体と片翼50センチメートルほどの翼を持つ魔物らしい。鳴き声が独特で話すこともできる。見た目もそのまま人の頭で耳の部分に翼が生えているらしい。それを聞いて俺は、え?マジ?と思った。


「え?マジ?」


 思ったことがそのまま声に出てしまうほどに。


「マジもマジっすよ。正直キモイっす。後、魔力もなんだか濁ってて気持ち悪いっす」


 休憩所で会ったハーピィたちの嫌そうな顔はこれが原因らしい。とにかくその見た目がハーピィといわれる種族にとっては醜悪にうつるとのこと。正直フロアマスターの感性にはついていけないとかだんだん愚痴も混ざり始めた。


 俺達がそんな風に話しながら森を進んでいると、ある時、森が異様に静かに感じた。先程まで五月蠅いくらいの虫の鳴き声も、獣が凄く気配も感じない。


「ミリィ警戒を怠るなよ。森の様子が変だ……」


「お、おおおお、お化けっすか!?」


 俺の真剣な声にミリィは恐怖を思い出したのか震えている。


「違う、森の気配がおかしい。虫も獣の気配も感じねぇ」


「……た、確かにちょっとおかしいっすね」


 ミリィはもはや恐怖値が振り切ってしまいそうなほど震えている。歩き方もなんだかぎこちなさを覚える。そんなガチガチの状態で森を歩けば、ある意味この結果は必然だったのだろう。


 盛大にこけた。


「うぐぅ」


「うぎゃあ」


 女性としてどうなのだろうと思う声を出すミリィ。俺は彼女がこけた拍子に前に突き飛ばされ、盛大に木に激突した。たいした痛みは感じないが突然のことでうまく対処ができなかった。強い衝撃を受けてしまったため、普段より大分崩れた形になってしまった。見る人が見ればアメーバと呼ぶだろう。


「あたたた。大丈夫かミリィ?」


きっとこれがいけなかった。


「はい。大丈夫っす。テトさんはだいじょ—————。」


 ミリィが起き上がろうとして頭を上げ、俺を直視した時にそれは起こったのだ。


「ぎぃ……」


「ん?」


「ぎゃああああああああああああっす」


 ミリィは俺を見るなり全速力で駆け出した。それはもう見事な走りだった。森の複雑な地形をものともせずに森の奥へ奥へと駆けて行く。完全に置いてけぼりだ。


「おい、ちょ、待てよ」


 必死で後を追いかけるも、明らかに彼女の方が早い。あっと言う間に彼女の姿は見えなくなってしまった。「この時、俺は自分の格を上げることを決めたね」将来きっと俺はこんなセリフを言うだろう。翼を持つ種族に足で負ける。これ程悔しいことは無い。


 必死で追いつこうと頑張ったが、一向に追いつく気配がない状況に諦めようとした時、前方からまたミリィの叫び声が聞こえた。俺はその叫び声にミリィの身に危険が迫っていると思い、自分の限界ギリギリの速度で移動する。先程の衝撃で崩れた身体を酷使して急いで叫び声が聞こえた方に向かって行った。


 程なくして前方に、へたり込んでいるミリィの姿が見えてきた。彼女は腰を抜かしたのかおしりを地面につけて震えている。


「おい、大丈夫かミリィ!」


 彼女は俺の声に気が付き、ゆっくりと後ろを振り向く。そして……。


「—————っす」


 そのセリフ(?)を最後に彼女は気絶した。恐怖の中にあってもキャラを立てることを忘れない彼女は立派だと思う。








「なんやいわれ、こんな所でなにしとんねん」


 俺が気絶してしまったミリィをどうしようかと考えていると不意に声を掛けられた。声の主を見ようと視線を向けると、そこには人の頭に翼の生えた生物が一匹、そして丸い目が特徴的な手のひらサイズの獣が一匹、そこに佇んでいた。


「ん?ミリィの嬢ちゃんやないけ。それに……おまはんは誰や?」


 これは間違いなく目的のペット、チョンチョンだろう。もう一匹の方は原獣民?


「あ、どうもはじめまして。第9フロアの幹部テトって言います。あなたはトゥリーさんのペットのチョンチョンさんですか?」


 ペット相手なのだが人の顔があるからだろうか、思わず丁寧な対応をしてしまう。


「なんやわれ、ババァの使いか。ワイは戻らへんでぇ」


 あの綺麗なフロアマスターをババァ扱いとは、こいつは色々駄目な奴かもしれない。


「あの、そういわず話だけでも聞いてもらえませんか?もし何か不満があるなら是非それをお聞きしたいです」


 この鳥の家出の理由も分からないので、現状無理やり連れて帰るしかない。しかし、もし逃げられたら次捕まえるのは更に困難を極めるだろう。ここは穏便に彼の不満を解決する方法で攻めるしかない。


「ほぉ、話聞く気があるんか。なら説明したるわー、あのババァはなぁ—————。」


 彼の無駄に長い話を纏めると、彼は甘未が大好きなのだが第6フロアで採れた果物は飽きたのでお菓子をよこせと要求していたらしい。そしてトゥリーさんはその場では了承するのだが、一向にお菓子が出てくる気配がない。なので昨晩普段よりもはっきりと要求したのだが今は出せないと断られてしまったとか。


 だから彼は家出を決行したらしい……。なんだそれ


 そして彼は旧友の居るこの森にやって来て話を聞いてもらっていたとか。ちなみに旧友とは彼の隣にいる手のひらサイズの獣、種族はスローロリスと言うらしい。ちなみに彼の旧友、スローロリス君は話すことができない。


 それとこの鳥、会話の節々で「アカーン」って叫ぶのは何故だろうか、もしかして奇妙な鳴き声ってのがこれだろうか?


 兎に角、この我儘な鳥を何とか説得するしかない。


「あの、今戻るのでしたら俺の方からもトゥリーさんにお菓子を出してくれるようにお願いしてみますから、一度戻ってみませんか?」


「いややわ、あんなババァのとこなんか戻りとーないわ」


 もはやかれは意固地になっているのだろう。こちらの話を聞く耳すら持っていない。


 そんな風に彼との話し合いが平行線で、一向に進まない時に、気絶していたミリィが目を覚ました。


「ん、んん、あれ?ここどこっすか?」


 俺は一旦話を終えて、慎重に彼女に話しかける。また気絶されたらたまったものではない。


「ミリィ大丈夫か?探し鳥は取り敢えず見つかったぞ。ゆっくり振り向け、大丈夫だからな」


「あれ?テトさん?みつかったんっす————ヒィ?!」


 ゆっくりと振り向いたミリィは俺達の姿に驚いたものの、先程の様に気絶することは無かった。もっともヒィ?!は失礼だと思う。


「なんや嬢ちゃん、相変わらず失礼なやっちゃな」


 奇しくもこの鳥と考えが同じことに遺憾の意を覚える


「あ、ちちち、違うんすよ。突然の事で驚いただけっす」


 彼女は両翼をバタバタと暴れさせながら言い訳する。そんな彼女を俺達はジト目を向ける。彼女は居心地が悪くなったのか辺りをキョロキョロと見回した。


「あ、この子可愛いっすね。何て言う子なんっすか?」


 彼女はそう言って手のひらサイズの獣、スローロリス君に顔を近づける。


「アカーン、ロリス君は強力な毒持っとるさかい、噛まれたら嬢ちゃんなんか簡単に死んでまうでぇ」


 チョンチョンさんの言葉で、ミリィは素早く後ずさる。それはもう見事なまでの切り替えの早さだ。


 兎も角、ここで何時まで話していても状況は先に進まない。なんとかこの鳥を連れて帰る方法を考えないとアイリス様から頂いた任務が達成できない。ミリィはあまり当てにならないし正直途方にくれる。


「ミリィさんも起きたことですし、一度みんなで戻りませんか?今戻れば俺が持ってきたお菓子も残ってるかもしれませんよ?」


 きっと今日の俺の最大のファインプレーは、なんとなしに出たこのセリフであろう。劇的に状況が変わった。


「なんやて!?お菓子あるんか?どんなやつや?甘いんか?」


 突然、まくしたてる様にチョンチョンさんがしゃべりだす。先程までとは偉い違いだ。


「ええ、第9フロアでの新作で、作ったやつが言うには相当美味しいらしいですよ」


「ほんまか?!それならそうと先に言いや!急いで戻るでー」


 チョンチョンさんはそう言うが早いか、颯爽と飛び立って俺達の来た方に飛んで行った。取り残された二人と一匹は、数秒の沈黙の後。


「帰るか」


「はいっす」


「ギュイ」


 俺たち二人はスローロリス君に別れを告げると来た道を引き返す。来るときは怯えに怯えていたミリィも平常心だ……。


いや、多分俺と思いは同じだろう。虚しいのだ。


 彼女はチョンチョンさんを探す為に、必死に怖いのを我慢したのに終わりがあれである。俺も説得するのにかなり必死に訴えたのに、最後はお菓子一つで解決である。しかも俺達は置いてけぼりだ。


 行きは長く感じた森だったが、帰りはあっと言う間だった。そこからはミリィに運んでもらい、世界樹には直ぐに到着した。


 俺達は報告の為にトゥリーさんの部屋に向かっている。彼女の部屋に近づくと何か言い争っている声が聞こえてきた。


「なんやねん!このクソババァ。おどれは自分だけ楽しみよってからにぃ!」


「あらあら、そんなことありませんわ。貴方が居ないのが悪いのではなくて?」


 どうやらチョンチョンさんは無事に戻ってきているみたいだ。外で二人の言い争いを聞いている分けにもいかないので扉を叩く。中から入室の許可をもらって、今日二回目の訪問をする。


 迎え入れてくれた彼女はとてもご機嫌だ。とても先程まで言い争っていた人には思えない。


「あらあら、どうもご苦労様。やはり貴方は優秀なのね。こんなに早く見つけてきてくれて嬉しいですわ。あと、ミリィもご苦労様」


 よほどチョンチョンさんが帰って来たのが嬉しいのだろう。彼女は満面の笑みを浮かべている。それにしてもこの二人は何を言い争っていたのやら。


「ちょぉ、聞いてや。このババァお菓子全部自分で食いよったんやで!?」


 どもう原因はチョンチョンさんの目的であったお菓子を、トゥリーさんが既に全部食べてしまっていたらしい。お菓子を目的に帰ってきたら既に無し。まあ、怒りを覚えるのも分からないでもない。しかも、今度は逃げられないように大きな鳥かごに入れられている。ちょっと哀れだ。


「まあまあ、そんなに怒らずに。俺が手持ちで少し持ってるのを分けてあげますから」


 俺は自分様にとっておいた、ピットから貰ったチョコレートを籠の中に入れてやる。チョンチョンさんはそれに素早く近づき、一口で食べる。結構大きな塊だったのだが、流石鳥(?)なのだろう。


「おほおおおお、これ美味いやないかー。自分いいやつやなー」


 先程まで不機嫌だったとは思えないほどの態度だ。やはり鳥だからだろうか、でも頭は人間なんだよな……。


 兎に角、今回の任務はこれで終了だ。俺は挨拶をして帰ることにする。トゥリーさんは、また次もなんて言っているが、次が無い事を祈りたい。ミリィは転移門まで見送ってくれると言うので二人で向かう。俺達が部屋をでると中から二人の言い争いが聞こえてくる……。きっとこれが彼らの普段の姿なのだろう。


 ミリィと共に転移門に向う。道すがら今度はミリィが俺達の第9フロアに遊びに来いと誘っておいた。ミリィは元気よく「遊びに行く」と言ってくれたので、来たときは盛大に歓迎してやろう。悪い笑みが出てしまいそうだ。


 こうして俺は無事に任務を終えて帰って来る事が出来た。


 俺は帰って早々、報告する為にアイリス様元へと向かった。最初俺が報告の為に来たと告げた時、ひどく驚いた顔をしていたのは何故だろうか。兎に角、無事に任務を終えた事伝え、アイリス様からお褒めの言葉を頂き、俺の心は有頂天だ。


 報告を終えて、時間ができたのでピットと遊ぼうかと探したが、なにやら用事で他のフロアに行っていると教えられた。仕方がないので今日は一人の時間を楽しもう。まずは風呂だな。


 矢張り仕事終わりのひとっ風呂は最高だぜ!


「あ~、生き返るぅ~」



書き溜めの在庫が無くなりました。毎日投稿はここまでです。

今後は週一ペースを保てることを目標に頑張っていきます。

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