面接・・・?いえ、説明会です。
「あの、質問が有るのですがよろしいですか?」
「あら?何かしら?」
突然歓迎すると言われても何が何だか分からない俺はどんな状況なのか聞くことにした。
「俺は今、何を歓迎されるのでしょうか?突然知らないところに来て、自分でも状況を理解していないのですが……」
「あの子達に案内されてここに来たのではないの?」
「『あの子達』が誰のことを仰っているのか分かりませんが、私は一人でここに来ました」
「あら、そうなの?あの子達に貴方を連れて来るように言っておいたのだけど、頭に変な鳥の帽子をかぶった子を見なかったかしら?」
どうやら俺を捕まえようとしていた片割れの少女はこの人の知り合いらしい。
「その方でしたら途中で見かけましたが、彼女は俺の姿を見る事が出来ないみたいです。」
本当は俺が捕まらないようにやり過ごしたのもあるのだが些細なことなので伏せておいた。
「ああ、貴方スピリットみたいだから、其のままではあの子達には見えないわね」
どうやら俺はスピリットと言うものらしい。色々な情報をあの何も無い空間で集めていたつもりだったが、まだまだ知らないことが沢山あるようだ。
「あの、スピリットとはなんでしょうか?」
「そうね、今教えてあげても良いのだけど、何方にしても一から説明してあけないと駄目ね」
彼女はそう言うと作りの確りした豪華なソファーが有る所に移動して
「話は長くなるでしょうからこちらに掛けて話しましょうか」
俺は彼女に勧められるがままソファーに腰掛けた。
「取り敢えず、自己紹介をしましょうか。私はこのダンジョン第9フロアのフロアマスター、ゴーストプリンセスのアイリスよ」
「あ、俺は……」
自分の自己紹介をする時になって、初めて自分に名前が無い事に気づいた。
「そういえば俺、名前有りません」
「あらそうなの、じゃぁ私が考えてあげるわ。そうね……君はスピリットだから~……『ピット』ってのはどう?」
『ピット』それが今日から俺の名前だ。決して不満が有るわけではない、『ローガン』とか『アイデン』とか『源次郎』なんて渋い名前が良かったなんて言わない。貰った名前だ、大切にしよう。
「ありがとうございます。大切にします!」
「そう、気に入ってもらったみたいでよかったわ。さて、名前が決まったことで早速だけど、貴方がいまどんな状況に置かれているかを一通り説明するわね」
そう言って彼女が説明してくれた事で、俺の中にあった疑問が色々判明した。
まず、俺が吸い込まれた扉は、召喚する為の魔法陣がその空間に合わせて象ったものらしい。扉は最も求める者の近くに現れるとか。そしてこの場所は『墓城』と呼ばれるこのダンジョンの、命なき意志有る者が守護する第9フロアの象徴にして、俺達が守る本丸だと言うこと。俺が出口を探して、こそこそしていた時に出会った人たちは、ここで働くこの第9フロアの幹部の方々だとか。
なんと驚くことに俺の事を見てきた鎧もここで働く第9フロアの住民、その中でもNo.2だとか。俺はあの鎧が何故鍬を持っていたのか、非常に興味を持ったのだが後で自己紹介をするとの事でこの場は我慢した。
そしてある意味最も謎である俺自身の事、この世界には多種多様な知的生物、及び知的霊体がいて、俺はその中でも知的霊体の『スピリット』と言われる物理的な肉体を持たない種族としてこの世界に召喚されたとの事。なんでも本来の存在ではこの世界に存在しない者の場合、召喚される際にこの世界の存在として認識されるために最も相応しい形を取るのだとか。肉体を持たないが為、彼女達は俺を見ることが出来なかったらしい。最も、ある一定の強さを身に着けると関係ないらしいが。
「そうなると、俺はある一定の強さを持つ人以外にはずっと見えないんですか?」
「いーえ、そんなことは無いわよ。今の貴方でも霊体に色を付けるくらいは出来るわ」
アイリスはそう言って手を差し出してきた。シミ一つ無く綺麗で美しい手、俺はその時になって初めて気が付いた……彼女の身体はうっすらと透けていたのだ。
「私が手伝ってあげるわ、手に触れなさい、そして自分の内側に意識を集中するのよ。そこから色を付けるイメージをしてみて」
(ああ、彼女も人外なんだなぁ……し、しかし、この手は……)
俺は思わずその美しい手を、両手で優しく包み込むように握った。その手はほんのり暖かく、とても滑らかなきめ細やかな肌触り、そこから延びる指はほっそり長く美しい。まさに天女の美手!嗚呼、ずっと触れていた、この手を放したくない!俺の内なる葛藤をしていると
「ちょっと貴方、全然集中していないでしょ?」
「あっ、すみません!」
全く別のことに集中していたのだが、取り敢えず謝っておくことにした。それにしても俺はどうしてしまったんだ?一瞬自分の意思とは関係なく動いてしまった。
「ちゃんと集中してね」
「はいっ」
よしっ!気を取り直して……って、自分の内側って何だろうか?
「今貴方は光を捉えて物を見てるわけではないの、でも周りが見えてるでしょ?それは貴方が周りを見ようとしているからなの、その要領で内側を見ようと意識すればいいのだわ」
「な、成る程」
言われてみれば俺には身体がない、今まで周りをどのように見ていたかなんて意識したことは無かったからな。しかし自分の内側なんて見た事無いからな……あ!俺はあの何も無い空間で、他の意思を色々覗いてた、その要領でやってみよう!
そこからはすんなりと自分の内側を覗く事が出来た。何か核の様なものがあって、その周りをぼんやりと希薄な何かが覆っていて、人の形を模っていた。
(ああ、これが俺なのか、これを見る限り俺は人間がもとになってるのかな?)
自分の内側を見るなんて珍しい体験に、俺は少し興奮していた。
(この、ぼんやりしてる所に色を付ければ良いんだな……バスタブに入浴剤を混ぜるイメージでいいかな?)
そうして入浴剤がゆっくりバスタブのお湯と混ざり合って行くように、俺の身体は乳白色の人間の男性のシルエットを模った。
「上手くいったようね」
そこには先程まで何も無かった空間に、男が一人座っていた。
「はい、ただ意識してないと元に戻っちゃいそうですけど」
「それは慣れね。そのうち意識しなくても出来るようになるわ」
身体は淡色だが、光を捉えて影が生まれ人らしい姿に見えることだろう。
「慣れてくればパーツ毎に色合いも変えられるわ……それと手は放してもらっても大丈夫よ?」
俺は言われて初めてまだ自分がアイリスの手を握っていることに気が付いた。
「あ、すみません」
俺はこの麗しい手を断腸の思いで手放した。
「ふふふ、気に入ってもらって何よりだわ。それでね、貴方の置かれている状況は理解できたかしら?」
「はい、それで何故俺は召喚されたのでしょうか?」
「それはね、私達の仲間になって貰いたいのよ」
「仲間……ですか?」
「そうね、仲間になれって言われても分からないわよね。詳しく説明するわね」
そう言って彼女が説明してくれた事をざっくりまとめると、アイリス達はダンジョンのフロアガーディアンで、その仕事を俺にも手伝ってもらいたいらしい。仕事の内容は侵入者が来た時の防衛と、各々の得意なことに分けて振り分けられる雑用らしい。と言ってもこの第9フロアには未だに侵入者が辿り着いたことは無く、基本毎日1~2間訓練するだけで残りは自由時間だそうだ。これだけ聞くと、とても楽そうに聞こえる。
「あの、雑用って何をするのですか?」
「そうね、ピットの特性を考えると情報伝達……伝言を頼んだり、ちょっとしたお使いを頼むくらいね。ただ雑用は時々あるくらいよ」
聞く限りでは、中々魅力的な提案ではないだろうか。
「それに最初から役職付きだからお給料も期待できるわよ」
聞けば聞くほど魅力的に感じる、なによりも俺はあの何も無い空間に戻りたくはない。
「さぁ、どうする?」
そう考えたら何一つ悪いことは無いではないか。
「俺をここで働かせてください!」
迷いは無い、俺はここで働くことを決めた。




