閑話:テットンおつかいに行く(中編)
本丸を出るとそこには鬱蒼と生い茂る森の中だった。後ろを振り返ると想像をはるかに絶する巨木があった。なるほど納得、あの錯視効果満載の通路はこの巨木の年輪だったのだ。
確か第6フロアは巨大な森で構成されたフロアだと聞いたことがある。主に果物を栽培していてダンジョンで食される果物のほとんどがここで生産されている。貴重な果物は極玉一つと交換されるほど高価で、幹部クラスの俺でも未だにお目に掛かれたことが無い。もっとも、食べられないのだが。
他にも、ダンジョンで使用される木材は、基本的にこのフロアから伐採されたものが使われている。薪や建築材、道具に使用される木材も全てここで伐採されたものだ。
確かこの広大な森をドリアードであるトゥリーさんが一人で管理していると聞いたことがある。話の長い人ではあるがフロアマスターを任されるだけあって優秀なのだろう。
最も、その森を一人で管理できるほどの力を持っている彼女をもってしても、ペット探しは難しいのだから、今回の任務はかなり難易度が高いのだろうと推測できる。これだけでもアイリス様からの俺への信頼度が窺えるというものだ。
「それで、テトさん何処から探すんすか?」
「そうだな、まずは聞き込みが捜査の基本だと思うのだが、俺が来る前に誰かに聞いて回ったりしたか?」
まずは手掛かりに成る情報が必要だ。目撃情報の一つもあれば探す場所の候補をかなり絞れるはずだ。
「そうっすねー。世界樹の中の人になら聞いて回ったんすけど、外で作業している人にはまだ聞いてないっす」
世界樹、この巨木の名前なのだろう。その巨大さにと貫禄に見合った名前だと思う。
「よし、じゃあ住民が集まって居そうな場所に案内してくれ。そこで聞き込みだ」
「了解っす」
こうして俺達は、住民の集まる集積所と呼ばれる場所に向かうことに成った。どうやらこのフロアで生産された物を管理するための場所らしい。そこには各地で作業している住民も集まるので聞き込みをするには最適な場所だとミリィが教えてくれた。分かっていたなら先にそこで聞き込みをしていてもおかしくないと思うのだが、それは俺の心の内に仕舞っておこう。
彼女はハーピィだけあって移動する時は、歩くよりも飛んだ方が遥かに速い。ハーピィと言われる種族は保有する魔力の量と特異な魔法の属性で翼の色が変わるらしい。産まれたばかりの頃は、翼はほとんど黒色に近く、成長して魔力が高くなるにつれて色が薄くなり、翼はより美しくなる。
ミリィの翼は、薄い黄緑色だ。これは風の魔法特性が高く、更に保有する魔力量も多いことを示している。これは種族的に戦闘能力を図る上で重要な指標となる。彼女はフロア幹部だけあってかなり高い戦闘力を保有しているのだろう。
俺は魔法には詳しくないのだが、聞いた話によれば、風の魔法を得意とする者は素早い動きと高い機動力を生かした戦いが得意だと聞いたことがある。正直新人のピットにすら劣る俺の動きの遅さには想像もつかない程だ。正直少し羨ましい。
最も、その素早さを活かす為に、安全性を高める重い防具の使用は能力の低下につながるので一概に良いとは言えないが、もともとハーピィは軽装な上に、種族的にも素早さを活かす戦闘を得意としているので、彼女のスタイルには嵌っていると言えるだろう。
「テト君は足遅いっすね」
俺に足は無い!
失礼な物言いをするミリィに文句を言いつつも進んで行くと、そこは森の中に少し開けて、いくつかの建物が立ち並ぶ場所に到着した。
「ここが集積所っす」
そこには果物や木材が積み上げられた倉庫が立ち並ぶ場所だった。色々な種類の果物を入れた木箱が並んでいる。木材は丸太のまま積まれている。保管してある場所によって乾燥途中の物と乾燥済みの物が分けられているらしい。
他にも物資の輸送に使うためか荷車を引いている熊の数が多い。ミリィに聞いたところあの熊達はハーピィが飼っている使役動物だとか。力と体力が高く、ハーピィの苦手な作業を熟すのに最適なのだとか。
各地から物資の輸送の為に集まってきているが、皆忙しそうに仕事をしている。俺が声を掛けるは憚られるなぁ……なんて思っていたら、ミリィが少し離れた場所に休憩所があることを教えてくれたので、そちらに向かうことにした。
休憩所には沢山のハーピィたちが、疲れをいやす為に休憩していた。食事をする者、喉の渇きを癒す物、お喋りに花を咲かせる者もいた。
「おーい、みんなちょっといいっすか~?」
ミリィが声を掛けると皆の視線が集まる。
「おや、ミリィさんどうしました?」
一番入り口に近い位置に居たハーピィが代表して聞き返してきた。
「実はトゥリーさんのペット探しをしてるっす。それでちょっと協力してほしいっす」
ミリィさんが声を掛けると、皆一様に顔を顰める。声を掛けた彼女本人も苦笑い気味だ。
「多分みんなが想像してる事と違うっす。ペット捕獲の為に別のフロアから応援が来たっす。それで誰かペットを見た人がいたら教えてほしいっす」
ミリィさんの言葉を聞いて、みな安堵の表情を浮かべる。なんだろうか、そのペットの事がそれほどまでに嫌なのだろうか?
俺は周囲の反応に不安を覚えるも、一人のハーピィがおずおずと片翼を上げた。
「あの、私見ました。エヴァーダークフォレストに入って行くところを」
なんと聞いたら目撃者が一発で出てきた。彼女に詳しく聞いてみると、今朝方リンゴの収穫をしている時に、トゥリーさんのペットがエヴァーダークフォレストに入って行くところを見かけたらしい。この森には沢山の種類の鳥が生息しているから見間違いではないかと確認しても、トゥリーさんのペットは特徴的で、見間違えることは無いと断言された。
そのエヴァーダークフォレストと言われる場所は、一年を通して濃い葉が生い茂り、日の光がほとんど森の中に届かない場所らしい。夜目の利かないハーピィ達はまず立ち寄ることのない場所だとか。実際エヴァーダークフォレストに行ったことがあるハーピィが居るのか聞いてみたら、肝試しの為にモノ好きが数人行ったことがある程度だった。
因みに、その話を聞いたミリィの顔は真っ青だった。
場所を聞いてみると、ここからハーピィのっ羽で飛んで移動してだいたい30分程度の距離だと言われた。ただエヴァーダークフォレストの全容を知る者は居ないのでどれほどの広さなのかは分からないらしい。
空を飛んで確認できないのかと聞いてみたところ、昔試してみたハーピィが丸一日飛び続けても森の端は見えなかったと言っていたらしい。
どんだけ大きいんだよ。
兎に角、ペットの居場所を特定する情報が手に入ったのは大きい。俺達はみんなにお礼を言って休憩所を後にした。
「よし、それじゃエヴァーダークフォレストに行ってみるか」
「マジっすか?本当に行くんすか?!」
俺が行先を告げると、ミリィは凄く嫌そうな反応をする。
「だって、そこにペットが入って行ったんだろ?なら行くしかないじゃん」
「うー、そうなんすけど、行きたくないっす……」
「何言ってんだよ!早くいくぞ」
俺は嫌がるミリィを引っ張って、ハーピィ達に聞いた場所へと向かって移動した。道すがらミリィは散々ごねたが、「ここで行かないと最悪俺抜きで探しに行かないといけなくなぞ!」と脅したら大人しく案内してくれた。よっぽど行きたくない理由があるのだろう。
しかしこれも任務の為、心を鬼にしてミリィには頑張ってもらう。
少しハーピィの移動スピードを舐めていた。結局エヴァーダークフォレストに辿り着いたのは出発して2時間ほど過ぎたころだった。途中、ミリィが諦めた辺りで彼女に運んでもらって2時間である。本気で移動の遅さ改善を考えるべきだろうか……。




