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初めての実戦

 ミノちゃんの後に続いて転移した先には、今までの畑とは異なる光景が広がっていた。


 樹木と見まがうほどの太い幹の天辺に実る大きな赤い実、葉はなくその代わりに蠢く蔓が伸びている。その実の丈は10メートル程、全体の背丈は優に50メートルは超えている。とても巨大な植物が一株、その場に鎮座していた。


「……なんですか?この出鱈目なのは?」


 見るからに怪しいそれは蔓を振り回しながら少しづつこちらに近づいて来る。こんな異様な光景なのに三人は平然とそれを眺めている。


「わー、今回のは特別大きいねー」


「見事に実っていますね」


 二人は通常運転でこの光景に驚きもしていない。過去にもこれを見たことがあるのだろう。


「もう少しはよ収穫せにゃならんやったが、侵略のごたごたで収穫が遅おなってまったんやで」


 後で聞いた話だと、こいつはブラッティヴァインもしくは、一粒ブドウと呼ばれる特殊なブドウでワインの原料になるらしい。


 普段は侵略者の死体を処理するのに使われていて、こんかい大量の侵略者の死体と、復興に気を回していて放置された為、異常な大きさにまで育ってしまったとか。


 本来はこの半分ほどの大きさで収穫するとの事。今回育ちすぎた為、ブラッティヴァインの戦闘能力が想定されていたものより上がってしまい第5フロアの戦力では収穫が困難になっていたとか。


 結果、この問題は後回しにされ放置されてたとか。結局そのせいで更に収穫が困難になっていたのだが、このフロアの危機管理能力はどうなっているのか一度聞いてみたいものだ。


「ちーと、おーじょうこいとるんやわ、これの収穫を手伝ってや」


 こんな化け物植物、そんな簡単に頼んで良いものじゃないだろ……。


「ほえ~、楽しそー、まかせてー」


 その笑顔はキラキラと輝いている。


「これは作戦を考えませんと、無傷での収穫は難しいですね」


 シエラさんもそう言いながら心なしか楽しそうだ。もう二人にはこれの討伐……収穫は決定事項だ。これはもう逃げられない。


「ほーやら、実は傷めたらあかすか」


「大丈夫です。四人で掛かれば問題なく収穫できます」


 そう言ってシエラさんは、収穫作戦の概要を説明しだした。まずキキさんとミノちゃんが迫りくる蔓を牽制、隙が出来たところでシエラさんと俺が果実へと突撃、シエラさんが果実を切り落としたところを俺が収納の魔道具に仕舞って収穫完了の流れになる。


 これは作戦と呼べるのだろうか甚だ疑問が残る。そういえばアレクさん達以外は個人スタイルとか言っていたから、最初から連携など視野に入れていないのかもしれない。


 そんな不安を抱える俺を他所に、三人は戦闘準備に入る。最初に準備を整えたのはキキさんだ。その手には巨大な針……多分、槍だろう。先端は鋭く尖っていて石突辺りには穴が開いていてそこからロープ……糸が伸びていた。いくら服飾のスペシャリストとは言え武器まで針とは……これが職人の拘りなのだろう……違うか。


 次にミノちゃん、彼女はある意味創造道理だった。彼女が肩に担いだのは巨大な鉞だ。刃は片方にだけ取り付けられており、柄も人間が持つには過分に太く長い。巨大な鉞を軽々と扱うその腕力に恐れすら抱く。


 最後にシエラさんの手には、これまた巨大な鉈だ。刃渡りは優にシエラさんの身長の二倍、刃は内側にやや反っていて、切ると言うより引きちぎる為の作りをしている。普段何のために使われているのか甚だ疑問だ。それに、あの細身の身体のどこから巨大な鉈を扱う膂力が生まれるのか……謎は深まるばかりだ。


 俺はこれといった武器を所持していないのだがどうしようか。まあ、持っていても武器を使う訓練をしていないのであまり意味は無いのだけれど。


「ピットさんは、回避に専念して下さい。露払いは私達で行います」


 やはり戦力としては考えられていなかった。


「そろそろ来るよー、準備して~」


 振り向くと、そこにはブラッティヴァインが迫って来ていた。俺は慌ててキキさんとミノちゃんの後ろに陣取る。三人の堂々とした態度は非常に頼もしい。


「よーし、それじゃー始めるよ~」


 間延びした合図と共にキキさんは駆け出した。最初に狙われたのは先頭を走るキキさん、太い蔓が先程とは打って変わって素早く迫ってくる。蔓は触手の様に不規則な動きで彼女に向かう。


 しかし、彼女はその不規則な動きをものともせず軽やかにかわし、神速の突きを放った。その次の瞬間には蔓は地面に縫い付けられていた。視認することが敵わないほどの早業、流石第9フロアの幹部と言った所だろうか。その後も迫りくる蔓を避けては縫い付ける早業を披露する。


 しかも、彼女が縫い付けた蔓は複雑に編み込まれブラッティヴァインは更に動きを鈍らせる。


 次に接敵したのはミノちゃん、その手に持つ巨大な鉞で蔓を次々と切り捨てていく。キキさんの様に全ての蔓を避けることは出来ないようだが、それを補うに余りある力で迫りくる蔓を片っ端から切り捨てる様はまさに牛猛なる戦士だ。切られた蔓からは汁が飛び散っているのに濡れた形跡がない、これも彼女の力量の高さ故だろう。


 二人が次々と蔓を処理する事で、一部に蔓の手が伸びない空白地帯が生まれた。


「ピットさん行きますよ」


「はい」


 二人の後ろで待機していた俺達は即座に二人を追い抜き、果実が実る幹を目指して駆ける。いくら二人が蔓を処理しているとはいってもブラッティヴァインの持つ蔓の量は非常に多く、俺達の行く手を阻もうと迫ってくる。俺はそれをなんとか避けることができた。キキさんの動きを参考にしたのが功を制したのだろう。


 しかし、蔓は次々と迫ってくる。俺の持つ処理能力ではとてもではないが、全て避けるのは不可能だ。そんな必死に避ける俺の横では、シエラさんが流れる様に蔓を避ける。それどころか彼女はすれ違いざまにその巨大な鉈で蔓を切り裂く、その姿はまるで舞踊を舞っているかのようだった。


「うわっ」


 そんな彼女の動きに、気を取られた為か俺は蔓の動きに対処できずに足を掴まれてしまった。霊体ゆえに物理的な攻撃は効かないのではないかと言う淡い期待は通用しなかったようだ。蔓は鞭のように縦横無尽に動き俺を振り回す。余りの激しい動きに俺は自分がどちらを向いているのかも分からなくなってしまう。


「うわああああああああ」


 思わず叫び声がでてしまう。蔓は激しく動き俺は地面に叩きつけられた。


「ぐぅえ」


「ピーちゃん!?」


 まるでカエルがつぶれた時のような声が出てしまった。魔力が豊富な土は霊体の俺にとって十分に脅威になった。正直周りの声など入ってこない。


 この世界に召喚されて初めての痛み、正直俺は恐怖した。毎日の訓練は欠かすことなく熟しており、格も相当上げているにも関わらず、このブラッティヴァインは強い。


 蔓は再度俺の身体を持ち上げて振り回す。先程の痛みもあり、この状況を打破するための思考ができないでいた。


 動きが更に激しくなり、大きく振りかぶる、蔓が再び俺を叩きつけようとした時、蔓の拘束する力が緩まった。俺は必死の思いで念を全力全開、何とか蔓の拘束から抜け出る事が出来た。


 何故拘束が緩んだのかと先を見ると、シエラさんが華麗な動きで蔓の根元を切断していた。


「あ、ありがとうございます」


 俺が助けてもらったお礼を言うと、彼女は不思議そうな顔をしながら……。


「ピットさんは何故透明にならないのですか?」


「……あ」


 そう俺の種族はスピリット。本来の姿は透明で視覚で捉えることの出来ない存在……。ブラッティヴァインが視覚で視認しているのかと疑問が残るが態々自ら姿を晒す意味も無い。


 普段、意図的に姿を晒している身体を本来の姿に戻す。そこには他から見たら何も無い空間になった。


「そうです。あなたは姿を消せば、私でも認識できない程のステルス能力が有るのです。使わねばもったいないですよ」


 正直、最初に言ってほしかったという思いは有るが、自分の間抜けさをこれ以上晒したくないので黙っておく。


「幹を切断する時に声を掛けます。付いて来てください」


 シエラさんはそう言って再び駆け出した。俺もその後に続く。


 そこからの突入は先程とは打って変わって楽なものだった。蔓の攻撃は全てシエラさんに集中して、彼女はそれを軽々と捌いて行く。俺はと言えば彼女から少し離れて陣取れば何一つ妨害なく進む事が出来た。


 シエラさんは瞬く間に果実の生る幹までたどり着いてしまった。完全に俺が足を引っ張ていたのは明白である。


「切り落とします。ピットさん合わせてください」


「はい!」


 彼女はそう言って構えていた鉈を斜めに一線、その速度はキキさんの突きほど早くはないが、集中していなければ振り抜いた事に気が付くことは出来なかっただろう。


 少し経つと切り口がゆっくりとずれていき、果実が落下し始める。俺は素早く果実に近づくと急いで収納する。近くで見ると余りの大きさに少し怯んだが、落ち着いて果実を収納の魔道具の中に入れる。10メートルを超える果実が突然その場から消える様は少し衝撃を覚えた。


「お疲れ様でした。これにて収穫は終了です」


 シエラさんに言われて周りを見渡すと、先程まで元気よく暴れていた蔓は力なく横たわっていく。どうやら果実を失った部位は活動を停止するようだ。


「はー、おつかれ~。良い運動になったね~」


「流石あんたんたは強いもんで、頼りになるで」


 そう言って二人共こちらに近づいて来る。俺も視覚で捉えることが出来るように普段の姿を現す。


 三人ともあれだけ激しく動いたにも関わらず、顔色一つ変えることがない。流石に古参の幹部は実力が違う。同じ幹部として周りからは扱われるが、これだけ実力に差があるのを知ると流石に心穏やかでは居られない。


「ピットさんは能力的には兎も角、実戦経験の不足からくる動きの無駄が足を引っ張ていますね。最も召喚されて間もないのですからそれを鑑みれば十分優秀ですよ」


 俺が落ち込んでいるのを感じ取ったのかシエラさんは優しく(?)俺を慰めてくれる。


「あははは、ピーちゃんはこれからだよ~」


 確かに、召喚されて間もない俺が古参に張り合うなんて、そもそも不可能なことだ。今回は俺の至らないところが浮き彫りになった事を喜ぶべきだろう。今日の事を教訓に今後の訓練に生かしていける。


「兎に角、お疲れさんや。引き渡しは頼むで」


「はい。こちらで手配しておきます」


 どうやら果実の扱いについて二人は話しているらしい。果実を酒に加工するのは第8フロアの仕事らしく、その支店が第9フロアの製造区にあるのでその工房まで届けるまでが俺達の仕事らしい。


 果実の取り扱いについて決まったところで、今後の予定について話そうと思ったときに誰かが転移してくるのが見えた。


 それは立派な鎧に、自慢の鍬、右手にスイカを持ち、腰の手ぬぐいの横に自分の頭を掛けている寡黙なデュラハン、半蔵さんだった。


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