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赤と赤

「ほいじゃ、何処からいこまい?」


 先頭を歩くミノちゃんが身体ごと回して聞いてくる。首はそれほど回らないみたいだ。


「イチゴ畑よろ~」


「まずはイチゴ畑の視察がよろしいかと存じます」


 二人の意見は一致していて、レスポンスもほぼ同時だった。キキさんに至っては涎が溢れている。食い気を隠す気すらない。


「ほーかほーか、ならイチゴ畑行かんとな」


 俺の意見を聞かれる前に行先が決まってしまった。この二人に主導権を握られたら俺に選択権は無くなってすまう。


「ミノちゃん、イチゴ畑は侵入者の被害は大丈夫だったのですか?」


「ほうやねー、少しおーじょうこいとるで、イチゴはよう狙われたんやて」


「イチゴは美味しいからね~」


「ダンジョンのイチゴは、外で高額で取引される作物の一つですね」


 ダンジョン産の野菜や果物は高額取引対象のようで、その中でもイチゴの取引は大人気らしい。ダンジョンの外では甘い物が元々希少な物なので、甘く希少価値の高いダンジョンイチゴは人気とのこと。最も、今回の様に大規模な被害を受けたのは初めてらしい。


「やっぱり甘い果物は人気あるんですね」


 ダンジョン内でもイチゴは人気がある品の一つだしな。イチゴを使ったショートケーキやイチゴのムース、チョコフォンデュにしてもおいしい。


「そうやね。でもイチゴは果物やのーて野菜やら」


「「「え?」」」


 あの赤く、瑞々しい果実が野菜……だと……。


「せやで~、ようさんの人がまちごうて覚えとるけどな~」


 他にも、スイカ、メロンなどもそれに当たるらしい。分類の仕方は場所によって違うらしいが、ここでは果実的野菜として分類して管理しているとのこと。果物と果実的野菜の違いは木になるのが果物、蔓の先に実るのが果実的野菜と区分されている。


「まあ、覚えんでも支障はあらせんけどな~」


「でも野菜なのに甘いのって不思議ですね」


「他の野菜も育て方次第で甘みが増すもんもある。よーわ、どうかんこーするかやな」


 そんな物なのだろうか。俺達が話している間に、キキさんとシエラさんはイチゴを試食している。やはり二人の目当ては食べる事だったか。


「んー、甘くて美味しい~」


「スッキリした甘さと、イチゴの優しい風味、控えめに言って最高ですね」


 二人とも絶賛だ。やはり侵略者が狙うほど美味しいのだろう。少し羨ましい。


「どうやね?今回のも、ようできとるやら」


 二人は返事も返さずに黙々と食べている。ただでさえ侵略者の被害を受けて数が減っているのに、こんなにも無遠慮に食べている二人に“遠慮”の二文字は持ち合わせていないのだろう。


この人達好き勝手やってるなー。


 しかし、ここのイチゴは本当に立派な形をしている。一粒一粒が大きく、その佇まいは女王を思わせる。その果肉に付いた雫が光を受けて輝き、丸々と実ったその身体を滴る。仄かに香るイチゴの優しい匂いが、心を落ち着かせてくれる。


思わず喉が鳴ってしまう。


「いやー、食べた食べた~。ミノちゃんのイチゴは最高だねー」


 お腹がくちくなったのか、キキさんは腹を抑えて戻って来た。口元が少し汚れているのはご愛嬌だろう。シエラさんは未だ黙々と食べ続けている。


「満足されました?」


「うん。最高だったよぉ~。ピーちゃんこのイチゴ使ったお菓子はつくれないの~?」


「先程ミノちゃんの話を聞いて思いついた料理ならありますよ」


「おお~、今度食べさせてね!」


 これだけ食べたのに、まだ食べ物の話ができるこの人は凄いと思う。


「それは勿論、私も頂けるのですよね?」


 何時の間にか食べ終えたシエラさんが戻って来ていた。この人はいつもと変わらないな。


「ええ、作った時は声掛けますよ」


 この人達がこんなにも食いしん坊キャラだったとは知らなかった。俺達は食道楽に来たわけではないのだが……。


 しかし、こうも二人が美味しそうに食べているのを見たら俺も食べたくなるのが人の性と言うものだろう。実際、今まで自分が助言をした料理も食べる事が出来なかった。俺も美味しい物食べてみたい……。


「ピーちゃんも早く食べれるようになるといいのにね~」


「ピットさんはもう少し格が上がれば仮想体化できますね」


 そう、霊体の俺達が食事をするのに必須技能、それが仮想体化だ。ある程度の格が上がると出来るようになる技能で、その名の通り仮初の肉体を作り出す。それによって俺達が普段感じることのできない、味覚と触覚を手に入れる事が出来るのだ。


もっとも他の感覚も普段とはとらえる方法が変わって違和感を覚えるらしいのだが、それを補って味覚と触覚を感じられるは大きい。


 仮想体化を習得には格を上げることも必要だが、難しい技能らしくかなりハードな訓練をしないと習得できないと言われている。もっとも俺にはその道のエキスパートであるアイリスさんが教官なので、それほど心配はしていなかったりする。


「確かに美味しい物は食べたいですが、焦っても仕方がないのでゆっくり格を上げますよ」


「確かにー、ピーちゃんは召喚されてまだ一月と少しだしね~」


「現状でも脅威的な速度で成長されていますからね」


「おんしは優秀なんかいの」


 次の給料で仮想体化を使えるようになるほどの格玉が確保できるか定かではない。美味しい物は食べたいが、現状どうにもならないからこの気持ちを忘れずに、食べれるようになった時に盛大に食べてあげよう。


「さて、次は何を視察に参りましょうか?」


 あれだけ食い散らかしたシエラさんが、しれっと次を要求してくる。やはり未だ腹は満たされていないみたいだ。これはもう食べ歩きツアー確定なのだろうか。


「せやなー、最近品種改良したトマトはお勧めやけー。えかっ?」


「え?あ、はい。では次はトマトを見に行きましょう」


 なんだろうか、ミノちゃんの喋り方は有無を言わせない力強さがある。ツアー参加者である二人も首を縦に振っていた。


 俺達は大人しくミノちゃんの後ろを付いて行く。途中、見かけたミノ・クリミアには色々話を聞くことができた。やはり彼女達も割り振られた仕事をこなすので精一杯で色々不満や不安を募らせている。


 もっとも、不満の9割は旦那さんに向けてのものだったが……。これは従事者への意識改革も念頭に置かないと改善は難しいかもしれない。仕事への誇りはあるが、現状の改善への意欲はあまり見られなかった。


 組織の末端に所属する者たちが危機感に薄いのは良くあることだが、それを鑑みても彼女たちの認識不足が顕著だった。個人主体の仕事の為か、自分の作業さえ熟していれば問題ないと考えている節がある。やはり情報の共有不足が上と下での危機感の差を更に広げているのだろう。


 キキさんとシエラさんのお蔭で完全に食べ歩きツアーに成る所だったが、思いの外色々と聞けたのは幸運だった。助力を求められた為か、物の見方が作業改善の方向に偏っていたのは致し方ないだろう。


 まあ、問題点も浮き彫りになって来たし、俺が提示した改善案で粗方の問題は解決するだろう……。俺こんな事ばかり考えてるな……。


「さあ、ここがトマト畑やで」


 色々考え込んでいたら目的地に到着した。


 そこには真っ赤に熟れ、大玉の実が垂れ下がっていた。一つの木に実るトマトは2~3と非常に少ない。これは栄養が凝縮されていそうだ。


「おお~、あっま~い!」


 キキさんは真っ先にトマトに飛びついていた。イチゴにも負けない貪り具合だ。その横ではシエラさんが黙々とトマトを食べている。先程と同じ光景を繰り返す二人。


「これはトマトとは思えないほどの甘みです。トマト特有の香りに凝縮された甘み、口の中で踊る果汁は口の中を侵略し、美味しさの海に溺れてしまいそうです」


 トマト単品の食レポとしては最上の物ではないだろうか。てか、シエラさん口に物を入れながら喋るのはお行儀が悪いですよ。


「ここのトマトはでぇれうまいやら~。かんこーからかしたんやて」


「確かに他の野菜と違って手の込みようは段違いですね」


「ほらぁ~、わっち個人の畑やからな~、旨さ追求した特別制やで~」


 なんとここはミノちゃんの趣味全開の畑だった。確かに全てのトマト畑がここと同じだったら、今の規模の数十倍になってしまうだろう。


 二人は相変わらず黙々と食べている。キキさんは先程腹を膨らまていたはずなのに食べている。甘いも物は別腹と言うが、甘いトマトもそれに入るとは驚きだ。


 しかし、案内をしてもらうはずなのに、唯野菜を食べてるだけとは如何なものだろう。しかも俺は食べられないのに……。どうせなら俺の見たことない野菜を見てみたいものだ。


「はーちょっと食べすぎちゃった~。少し食後の運動がしたいな~」


「大変美味しゅうございました。(けぷ)……失礼」


 大食らい達が帰って来た。可愛いとは思うのだがシエラさんはキャラブレが激しいな。


「運動かね。ほんなら収穫の手伝しやー」


「収穫ですか?確かに人手が足りていない今なら丁度いいかも」


「やぐい奴やとできへんやら。おんしらなら十分やで頼むな」


 このダンジョンにそんな住民は居ないと思うのだがどういう事だろう。最も二人はノリノリみたいで、楽しそうにしている。


「ほんなら案内するでね」


 そう言ってミノちゃんは歩き出す。今日は誰かの後ろを付いて行くばかりだな。いつになったら大平原に行けることやら。


 俺はそんな思いを抱きながら三人の後に続いた。



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