お出迎え。
神出鬼没のメイドこと、シエラさんが現れた。シルキーなる種族は未来を予知する類の能力を持っているのか。若しくはシエラさん個人の能力の可能性もある。
俺も格を上げれば便利能力を手に入れられるかもしれない。矢張りテトとの勝負で格玉を能力向上に使ったのは正解だろう。もしかしたら既に、新しい力に目覚めているかもしれない。
「おー、シー坊ぉ、よう来たな。待っておったわ」
……
「お呼びとお聞きしましたが、何か御用でしょうか?」
まさかのシエラさん、お呼ばれしてのご登場でした。前回の事があるから深読みしてしまった……。恥ずかしい。
「じつわよぉ、平原の連中から農具やら工具の注文が入ってよぉ。作ったはいいんだが届けるすべがねぇんだわ。ちょっくら運んじゃくれねぇかい?」
流通の滞っている今、復旧に必要な道具が届けられないのは大変だ。エトナさんはその為にシエラさんに運び屋を依頼するようだ。確かに幹部であるシエラさんなら、なんら問題ないだろう。
「構いません。どちらを運べばよろしいですか?」
シエラさんは即快諾だ。エトナさんは品を取りに奥へ入って行った。そして直ぐに聞こえてくる金属同士がぶつかり合うガチャガチャ音。結構な大荷物なのではないだろうか。
「こいつらを頼まぁ」
そう言ってシエラさんは、運んできた品を「よっこらせ」なんて掛け声と共に床に置いた。両開きの扉をギリギリ通れるくらいの大きさの箱、それにギッシリと農具や大工道具が詰まっていた。
こんなに大量に物が入った箱が壊れない事に驚けばいいのか、これほどの荷物を平然と運んでくるエトナさんに驚けばいいのか、ここには本当に規格外な住民ばかりだ。
そして活用されていない収納の魔道具。
「かなりの量ですね?」
「まあな、それだけ被害がでかかったってこったぁ」
第5フロアで被害を受けたのは、主に農場と家畜小屋に集中している。かなりの作物を持って行かれたそうだ。不幸中の幸いは、家畜は放牧されて被害地から離れたところに居た事だろう。
「よおけ有るけんど頼んだでのぉ」
「畏まりました」
ここは是非、俺も協力させてもらおう。
「あ「はい、はーい!私とピーちゃんも付いて行くよー!」の、え?」
「お二人が、ですか?」
「私とピーちゃんもこの後暇だからね~」
「え?あ、はい。大丈夫です」
何だろう。状況は俺が望んだ通りの結果を得ている。しかし、俺の予想していた過程とは大分離れているな。まあ、結果オーライってことで気にしないようにしよう。
「それではピットさん。荷物をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「はい、任せてください」
俺は大きな荷物の前に立って手を向ける。改めて近くで見ると、本当に大きな箱だ。一辺が俺と同じくらいの大きさをしている。しかも上から道具の柄がはみ出して見える。どんな種族が使うのだろう。まさかケン・タウロスが農業……いや、それは無いな。まあ今は気にしても仕方がない、行けば分かることだ。
エトナさんに託された品を収納し、俺達は工房を後にした。向かう先は他フロアへ転移できる墓城の地下である。他フロアへの転移には制限がある為、警備は厳重に行われている。それにフロア内の転移門と違い、作りそのものが違う。俺達が普段移動に使っている転移門は、壁をすり抜ける様に移動する。それに比べ他フロアへの転移門は、淡く光るストーンヘッジの様な石柱が乱立し、中心部に光球が浮かんでいる。
「へー、ここは他とは雰囲気が違いますね」
漂う空気も他とは違う。神秘的、そんな言葉が相応しい、そう感じる。
「ここはねー、特別なんだよ~」
「フロアを移動できる転移門は、他の施設に比べ重要度が高いのです」
厳重な警備に、使用にも大きな制限が設けられている転移門。侵入者に使用される事を警戒すれば、当然なのかもしれない。行先を告げるだけで移動出来てしまうのだから、複数あるフロアの意味がなくなってしまうしな。
「さー出発するよー」
キキさんは転移門の中心で、此方にコイコイと手を振っている。シエラさんも既にキキさんの隣に立っていた。俺は慌てて二人の近くへ移動する。テトとの勝負で質の向上を図った為、移動速度はなかなかのものだ。
「よーし、準備はいいね~?」
俺達に確認を取ると、キキさんは右手を光球に向けて掲げる。
「転移、第5フロア~」
キキさんが行先を告げると、光球は強い光を放ち始めた。あまりの明るさに目が開けていられない。いや、俺が物を見るのに光は関係ないはずだ。これは唯の光では無いのかもしれない。
もっとも、この光が何であれ、眩しすぎる。転移時の注意事項を先に聞いておけばよかった。……今更だな。
どれだけの時間、眩しさに悶えていただろうか。光は徐々に弱まり、辺りが見える様になってきた。そこは、先程俺達が立っていた場所と似ているが、少し雰囲気が違う。
第9フロアの石柱は淡い灰色の光を発していたが、周囲にある石柱は淡い黄色の光を発している。それに空気にも草花の香り、それと少し甘い匂いも混じっている。
「ここが第5フロアですか?」
多少の変化はあるが、殆ど似たような光景に確信が持てない。
「そうだよー、ここは第5フロアの大岩の中~」
「第9フロアでは墓城に当たる場所です」
ここは第5フロアにとっての本丸になるらしい。大岩と言うくらいだからエアーズロックみたいな岩なのかもしれない。岩に穴を掘って生活しているのだろうか。……アナグマみたいな種族でもいるのだろうか。
「さ~て、早速外に出ようー」
キキさんは元気一杯、出口に向かって歩き出す。シエラさんと俺もその後に続いた。
転移門の間から出ると、そこは何処までも続く広々とした草原—————ではなく、洞窟のような場所だった。そう言えば大岩の中だったな、先程聞いたばかりなのに、俺は鳥頭か!?
自分に突っ込みを入れていると、俺達に声が掛けられた。
「ようこそいらっしゃいました。キキ様、シエラ様、ピット様」
そこに居たのは、屈強な肉体を持つ牛だった。二本の立派な角にキリリとした瞳、身体は引き締まりつつ、程よく脂肪が付いて見て取れる。鼻に付けているリングは、匠の技を感じる彫り物が施されており。首にはお洒落な蝶ネクタイ、汚れ一つ付いていない牛柄模様は、見事としか言いようがない。
四足歩行の牡牛だ。
「やっほー、モルちゃん。遊びに来たよ~」
「こんにちは、モルトさん。エトナさんからの預かり物を、お届けに参りました」
二人の知り合いらしい。しかし、何故俺の名前まで知られているのかは謎だ。
「初めまして、ピット様。私、第5フロア転移門の警護を任されている“モルト”と申します。以後、よろしくお願い致します」
「あ、どうも、初めまして、ピットです。何故俺の名前を?」
初対面の相手に名前を知られてるってなんだかムズムズする。
「私共は業務上、各フロアの幹部の方のお名前を記憶しております」
なるほど、言われてみれば確かに転移門の警護上、特に許可をとらずに使用できる幹部メンバーの顔は覚えておく必要がある。
「そうか、これからよろしく!」
「はい。私共は、いつでも皆様をお待ちしております」
モルト、その振る舞いは正に紳士だ。柔らかい物腰に、話し方も丁寧ときた。まさに理想の牡牛像だろう。
「モルちゃん~、またこんどお嫁さんのお乳飲ませてね!」
キキさんが突然凄いことを言い出した。
「ええ、丁度息子を産んだばかりなので、良質なお乳が出ますよ」
モルトも普通に返事をする。これが第5フロアの常識なのだろう。よく考えたらミルクの仕入れ先はこの第5フロアだったと記憶している。彼らにとっては日常的な会話なのかもしれない。
「モルトさんの奥様は、ミルクが上質だと有名ですからね。喜ばしい事です」
シエラさんも自然に会話に参加しているが、喜ばしいのは息子が産まれた事ではないのだろうか……。
この後も、三人はモルトの奥さんの話(主にミルクについて)で盛り上がっていた。所変われば常識変わる。俺は無理やり納得することにした。
三人が一通りミルク談義で盛り上がり、満足した所でいよいよ平原の方へ移動となった。モルトもどこか満足気な顔をしている。奥さんが褒められて嬉しかったのだろう。
「よーし、それじゃーしゅっぱーつ!モルちゃんまた後でね~」
「はい、行ってらっしゃいませ」
キキさんの元気の良い掛け声とともに俺達は出発する。モルトに見送られながら俺達は歩き出す。
こうして多少の疲労を感じるも、俺達は今回の目的地へと進んで行った。




