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先輩と挨拶と責任と

 テトとの勝負の行方について少し語ろう。


 結果は俺の圧勝。観客は大ブーイング(一部大爆笑)。しかし、何時まで経っても元の形に戻らないテトに、一切の手抜きがないと観客も分かったのか、割と早く静かになった。


 表彰式では、アイリスさんからお褒めの言葉を頂いた。他にも、各工房長達(俺にベットしていた人達)から優勝賞品を貰ったりもした。そして賭けに勝った俺は、今日手に入れた給料のさらに10倍ほどの格玉が手元に舞い込んできた。


正直言ってウハウハ(私語)である。


これで自室のコーディネートも捗るだろう。チェスも買えるかもしれない。俺が格玉の使い道を考えていると、テトが帰って来た。


因みに、先程ブーイングをしていた連中は、現在『走れ走れ大会』を実施している。距離を決めて全力疾走、一番速かった者の勝ち。シンプルで分かりやすいルール、これこそ万人が楽しめる方法だろう。キキさんを中心に、工房長たちが勝者にちょっとした粗品を提供している。皆楽しそうだ。


戻って来たテトに待ち受けていた運命は、アイリスさんのお小言だ。テトはアイリスさんを失望させてしまったと酷く落ち込んでいた。そして、それに追い打ちをかけるのがシエラさん。彼女はテトを引きずり人の居ない所へと消えていった。後日、テトはその時の事をこう語る。


「新しい道が開けそう」


 彼はもう駄目かもしれない。


 まあ、不完全燃焼ではあったものの、楽しいイベントになったと思う。意図したものでは無かったが。あれだけ住民が集まるのなら、今度何かイベントを企画してみようと思う。今日はその下準備と、優勝賞品を提供してくれた工房長達に挨拶回りだ。珍しくテトが仕事なので今日は一人だ。


「ピーちゃん、次はどこ行くの~?」


 訂正しよう。一人だった。


「はい、次は鍛冶工房のエトナさんの所ですね」


 一人で工房へ挨拶に向かっていたのだが、最初に訪れたキキさんの工房で捕まってしまったのだ。ある意味必然とも言えよう。シエラさんが居ない時に彼女に会うと、大抵付いてくる。普段、忙しそうにしているが、本当は暇なのではないだろうか。


 今から向かうのは、俺がよく訪れる工房の一つで、第9フロアでも屈指の鍛冶職人が仕切る人気の鍛冶屋だ。工房を指揮しているのは、ゲノモス族のエトナさん。彼女は女性ながらに、屈強な男たちを率いて、日夜鍛冶に励んでいる。身長僅か1mほどだが、自分の倍以上の身長を持つ男性鍛冶師を、蹴り飛ばす光景はなかなかに刺激的で、正直怖い。


「エトっちの所だね~、楽しみ~」


 キキさんは楽しそうにフラフラと歩いて行く。目を離すと直ぐに何処かへ寄り道するので目が離せない。(そのまま置いていくと怒る)。

普段自分が関わる工房以外は、物珍しいのかなかなか離れてくれないのだ。


「遊びに行くわけではないですよ?」


「分かってるよー、私にドーンと任せなさい!」


 何を理解しているのか不安だが、製造区ではキキさんの顔は広い。知らない人は居ないのではないかと思うほどに、道行く住民と楽しそうにお喋りしている。結果、一向に前に進めないわけで、工房までの道のりが遠い・・・・。


「そういえば、ピーちゃんお仕事決まったんだって~?」


 おや?キキさんの興味が俺に移ったようだ。


「はい。工房長達の推薦もあって、商品開発部長の肩書を頂きました」


「ほえ~、ピーちゃんは凄いねぇ~」


 キキさんは、心の底から驚いた様な顔をする。この人は本当に裏表がない人だと思う。俺の教育係とされているが、初日のフロア案内と城外へ出た時くらいしか、それらしい働きはしていないと言えるだろう(補足者用必須)。その代わり、普段時間が有る時は、アルバイトの最中であろうとジャレテ来る。この前、オオカミを模したパイロット帽をかぶっていた時など、構ってほしい犬のようだった。


「じゃあ~、私も今度、ピーちゃんにお仕事お願いしようかな~♪」


「俺で役に立てる事なら何でも言ってください」


 俺の返事に、キキさんはニコニコ顔だ。彼女のこういった所が人を引き付けるのだろう。







 そんなこんなで、時間は掛かったが目的地の工房へとやってきた。そこは通りから入った場所を店舗として、その奥では鍛冶を行う作業場として利用できる一般的な工房の作りだ。壁に並べられている様々な武器から、日常生活で欠かせない道具まで、多種多様な品ぞろえを誇っている。


 店舗の方には、誰も居ないみたいで、奥の作業場から何か作業している音が聞こえてくる。


「やっほー、エトっち~遊びに来たよ~」


 違います。挨拶に来たんです。


「こんにちは、ピットです。エトナさんはいらっしゃいますか?」


 俺達が工房の奥に声をかけると、中から返事が返ってきた。


「おーう、ちと待っててくれや」


 店の奥から聞こえてきたのはエトナさん本人の声だろう。男勝りなしゃべり方で子供のように少し高い声だ。しばらく俺達は店舗にある商品を眺めながら待っていると、先ほどまで作業をしていたのであろう、分厚いエプロンをしたエトナさんが顔を出した。


「いやーいやー、待たせちまったな。キー坊にピー坊よう来た」


 分厚いエプロンを脱ぎながら入ってくるエトナさん。相変わらず小さくて可愛らしい。キキさんと並ぶと姉妹の様に見える。こんな人が男共をまとめ上げて工房を仕切っているとは誰が想像できようか。


「今日はどうした?何か作って欲しいもんがあるんかい?」


 チビ可愛いエトナさんだが、その仕草一つ一つは男らしい。店のカウンターの上にドカリと腰を下ろすと、胡坐をかき右ひじを太ももに乗せながら顎を撫でる。左手は腰だ。


ドヤ顔が可愛らしい。


「いえ、今日は先日のお礼に参りました」


「私はピーちゃんの付き添いだよー」


 俺はそう言って菓子折りを取り出す。これは厨房長の所で先日作ったお菓子だ。あそこは俺の知っている知識を、ペラペラと喋るだけで、優秀なコック達がそれを見事に形にしていく。


このダンジョン、極端に技術が高い物と低い物がある。俺はその低い物に少しの光を当ててやるだけで、あら不思議、素晴らし新商品の誕生だ。


 ダンジョンという閉鎖的な空間だからこそ、歪な発展をしてしまったのだろう。俺はそれを少し解してやるだけで、優秀な職人達は新しい知識を吸収するのだ。


「おおう、こいつぁー新しいお菓子じゃねーか!あんがとよぉ」


 屈強な男共を従えるエトナさんだが、甘い物には目がない。その証拠に彼女の頬は緩んでいく。鼻の穴が小さく膨らんでいくのが可愛らしい。


「あー、いーなー、ピーちゃん私も欲しい~」


 横で自分への貢物を主張するキキさん。はいはい、後で差し上げますよ。


「しっかし、こんなに気を遣わなくてもよっかたのによ。いや、この菓子はもらうがよ」


 キキさんの目が、キラリと光ったのを敏感に察知して、お菓子を抱え込むように守るエトナさん。


「いえいえ、普段からお世話になっていますから、そのお礼も兼ねてです」


 エトナさんには、新しい調理器具の開発や希少な鉱石を融通してもらうなど色々と便宜を図ってもらっている。鍛冶工房の長だから偏屈な人かと最初こそ思っていたが、思考は柔軟で新しいことへの挑戦を怠らない人なのだ。ある意味、彼女が俺の開発案を取り入れてくれたことが、他の工房での俺の意見が採用される切っ掛けになったとも言える。


「そうかい、そうかい、アタイもピー坊には世話んなってるからねぇ。お互い様さ」


 ガハハハハハと、豪快に笑うエトナさん。お菓子を抱え込む姿には不釣り合いな笑い方だ。








 今日の目的はこれで一通り終わりだなと、考えていると、会話が終わるのを見計らってか、キキさんが普段より少し真面目な顔で話し出しだす。


「そういえばエトっち、前に頼んだ品の納品が遅れてるみたいだけど、どうかしたの?」


 空気が変わったのを察したのか、エトナさんも職人の顔に戻り、ゆっくりと話し出した。


「すまねぇなキー坊、今平原のゴタゴタで流通が滞っててな、材料が入ってこねーんだ」


 エトナさんは申し訳なさそうに、その先も説明してくれた。この話は、一月前の第5フロアへの侵略者達が事の始まりらしい。前回の防衛で、ケン・タウロス達は見事に侵略者を退けた。これは俺も水晶で見ていたので知っている。ただそれと並行して侵略者達は別動隊を使って生産施設を襲撃していたらしい。前回俺達が見ていたのは、正におとり部隊だったのである。


その結果、第5フロアは少なくない被害を出し、現在復興作業中だとか。復興は順調に進んでいるのだが、そちらに人手を取られてしまい、ケン・タウロス達が担っている通常行が一部滞っている。その一つが、ダンジョンのフロアを跨ぐ流通の業務になる。復興作業が終わるのは、早くても後一月は掛かるとの見込みだ。それまではダンジョンのフロア間の流通はどうしても滞ってしまう。これが今回エトナさんの納品が遅れた原因らしい。


「そうだったんだー、流石にそれはしょうがないね~」


「ホントすまねぇな、キー坊の所で使う鉱石は、普段出回る物でもねーからよ。フロア内を探しても欠片もみつからねぇーんだ」


 これはかなり大きな問題だな、外部の物資が手に入らないと、物価の変動も起こりえるだろう。


「今、ウチの弟子が仕入れの為に、他フロア移動許可を申請してる最中なんだ。許可さえ下りれば直ぐに作れっからよぉ。もう少しだけ待っててくれ」


 ん?


「そうだねー、あれは専門的な知識も必要だから、私が取りに行く分けにもいかないしね~」


 他のフロアに移動するのに許可を申請する必要があるのだろうか。


「他のフロアに行くときは申請が必要なんですか?」


 こんな時は、聞くに限る。


「一般の住民は必要だよー、でも私達幹部なら自由に移動ができるよ~」


 幹部と一般住民は扱いが違うようだ。これも一つの特権なのだろう。


「そういやぁ、ピー坊も幹部だったなぁ。忘れてたぜ」


 エトナさんはそんな事を言いながらゲラゲラと笑っている。いつもの調子を取り戻したようだ。


 しかし、これは一つの切っ掛けかもしれない。以前から、他のフロアにも一度は行ってみようと思っていたところだし、物流の改善は重要事項だ。これは一度誰かに相談してみるべきだな。こういった事に詳しいのは—————。


「お呼びになりましたか?」


 いえ、まだ呼んでませんよ。メイドさん。


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