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菜食主義

作者: 黒猫ぺろり

男はある日を境に「肉」を食べる事をやめた。

つまり菜食主義者(ベジタリアン)になったのだ。


理由は単純だった。「肉」を食べるという行為が罪のない動物達の生命を

無闇に奪うような気持ちになり「嫌悪感」を抱いたからである。


同じ動物である人間が罪のない牛や豚などを殺しその肉を食べて生きていく。

人間という動物は自分たちが生きていく為には手段を選ばない。


人間とは何と恐ろしい生き物なのだ。動物はみな平等であるべきだ。

平等である為には動物を殺してはいけない。食べるだなんて言語道断だ。


それがその男の考えだった。


しかしながら現代社会は実に良く出来ている。

焼肉を食べる時に殺された動物の姿など思い起こすこともない。

それは「殺す」という過程が見えないようになっているからだ。


それはそれで幸せなのかもしれない。


しかし、男はその「殺す」という部分に過剰に引っかかったのだ。

己の手で牛や豚を殺めたこともないというのに…。

何となくなイメージだけで肉を食す事は悪だと思いこんだのだ。


しかしながら男はどこにでもいる普通の人間であり食べねば生きていけない。

そして男が取った行動はただ一つ。菜食主義になる事だった。


それから男はひたすらに動物の生命が原料になっていない食べ物だけを食べた。

男は自分は動物を殺していないという安心感と平和的なイメージに陶酔していた。


それはある日の事だった。

突如、何処からともなく声が聞こえたような気がしたのだ。



「あいつだ…」



気のせいかもしれない…。

男はそう思うことにした。


それからしばらくしてまた聞こえた。



「あいつだ、…を…のは」



言葉の断片が何処からともなく聞こえてきた。

気のせいだ、気のせいだと男は自分に言い聞かせた。


しかし、気のせいではなかった。

日に日に言葉ははっきりと聞き取れるようになった。



「あいつだ、なかまをたべたのは」



確かにそう聞こえた。男は病院に行き検査を受けたが、

異常は無かった。むしろ健康的だと言われた。


だが、日に日に言葉の種類が増えてきた。



「われわれにもいのちがあるのだ」



「いずれなかまがおまえにせいさいをくわえるだろう」



「われわれがいきものであることをおもいしらせてやる」



どれをとっても脅迫じみた内容だった…。


男は気が狂いそうになり。仕事も手につかなくなり、

藁にもすがる思いで心療内科へ行った。

ストレスが原因によるうつの初期症状ではないかと簡潔に診断され

とりあえず処方された精神安定剤を飲み続けた。


しかし、声は聞こえ続けた…。


男が気分転換に公園を散歩していた時だった。立派な木だなと眺めていると、

突然、大きな木の枝が目の前に落ちてきたのだった。


直撃していたら大怪我では済まなかったかもしれない…死んでいたかもしれない…。


そして声が聞こえた。



「つぎはこれではすまないぞ」



その声を聞き、男は瞬時にして悟った。「野菜」だ。

野菜いや「植物」が私に怒っているのだ。


動物の生命も植物の生命も「平等」だったのだ…。

男は改めてそのことに気付かされた。


安易な考えだけで「菜食主義」になった私に対して

植物が「復讐」しようとしている。


このままでは殺される…。


そう思った男は次の日から「肉」しか食べなくなった。

予想通り声は聞こえなくなった。


ある日、友人は男に聞いた。


「どうして菜食主義をやめて肉しか食べなくなったんだ?」と。


男は明るい表情で朗らかに答えた。


「死体は良いよ、何も語らないから」


(了)

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