第六話 シュファラウシア再戦 一
リッターがその報を聞いたのは、出勤してすぐだった。
フラーセイン級宇宙戦艦は、ブレーケン・シュナイツェウツァウィーンが就役するまでの間は最大級の艦であり、また就役したあともブレーケン・シュナイツェウツァウィーン級と比べて最高船速、機動力で勝っている。そのフラーセイン級が3隻もいたのだ。それに加えてリマイデン級、グローゼフュールト級、オロール・ポンセロ級といった各種巡洋艦 、朝潮級、ルポーソン級などの駆逐艦、哨戒艦42隻、つまり合計45隻もいたのだ。負けるはずはない、徹底的に潰せ、と出撃前に旗艦「狭義」の艦長であり士官学校の2年後輩でもある本木にリッターは伝えた。
しかし、実際には旗艦「狭義」は沈没、「フラーセイン」「アドミラル・ブチャリモフ」はそれぞれ中破、その他巡洋艦5隻、駆逐艦11隻、哨戒艦1隻を失い、フーヴェル側の圧倒的敗北となった。それも被撃沈艦の半分以上は一隻の敵艦によってだ。
戦闘詳報には「仮称突撃艦」と記されている重装甲高速艦のことである。艦を破壊するほどの衝撃波、ほとんど傷をつけられない艦首装甲、高い加速力など、とても信じられないような事ばかりだが、戦闘詳報に嘘を書くような必要はない。それに加え自分が戦闘に参加してない以上、それを信じるほかない。そんな事を考えながら基地の中を歩いていたリッターだが、自室に着くと一つの封筒が置いてあった。本部からの第二次シュファラウシア攻略戦への出撃命令だ。
「……という訳だ。」
戦艦「ブレーケン・シュナイツェウツァウィーン」の会議室にて、リッターは艦の出撃命令が下ったことを伝えた。
「自殺行為ですよ!止めるべきです!」
フェスカが大声をあげてリッターに言った。もう既に例の艦の情報は伝わっているのだ。
「命令が下った以上、それを実行するのが軍人だ。」
「しかし……」
「フェスカ、君が言いたいことはよく分かる。だがな、我々の目的は浮遊惑星の進行を止める事だ。そこにアイツが邪魔をしてくるならソイツも潰すしかない。」
「……」
フェスカが黙り、しばし会議室が沈黙に包まれる。
「艦長。」
ハイデンが口を開いた。
「なんだ。」
「私に一つ、考えがあるのですが。」
ハイデンはそう言い、珍しく笑みを浮かべた。
「そろそろだな。」
リッターが呟いた。
目の前には小さく自由浮遊惑星シュファラウシアが見え、回りには多くの友軍艦が見える。
今回の参加艦艇は戦艦7隻、巡洋艦20隻、駆逐艦34隻、哨戒艦2隻である。
そのうち戦艦はブレーケン・シュナイツェウツァウィーン級の「ブレーケン・シュナイツェウツァウィーン」に加え二番艦「ガルスト・ブラウグスト」が参加している。本来ならまだ完熟運転の途中だが、本作戦開始にあたって急遽参加する事となった。そしてフラーセイン級の「ロン・ファスカル」「備石」「アドミラル・ロチャーフ」、浦海級の「アドミラル・チェリエーネ」「フリードリヒ・シュナウフ5世」である。浦海級は他二艦種と比べると旧式の戦艦であるが、まだまだ現役だ。今回はこの戦艦群と巡洋艦、駆逐艦、哨戒艦が作戦を遂行する。
(本木や艦の乗組員の為にも、仇を討つ…)
リッターはそう自身の胸に誓った。
「前方、艦影多数!突撃艦の姿も認む!」
不意にレーダー士が叫んだ。
「来たか。」
リッターはそう言い、指示を待った。今回の旗艦は「アドミラル・ロチャーフ」である。敵の配置によりその「アドミラル・ロチャーフ」から何らかの指示があることになっている。
「信号受信、作戦案B1。」
「前進最大戦速!」
「前進、最大戦速!」
無線士が口を開き、言い終わったのとほぼ同時にリッターが下令し、その命令をフェスカが復唱した。作戦案B1は敵突撃艦の存在が正面に認められた時のものだ。「ブレーケン・シュナイツェウツァウィーン」が最大戦速でその突撃艦に向かっていき、巡洋艦、駆逐艦は左右に分かれ戦闘、その他の戦艦は後方で待機、というものだ。そしてその作戦通り、前方には例の突撃艦がいた。
「1から4番魚雷菅、粒子拡散魚雷装填!」
ハイデンが魚雷菅室に指示を出した。突撃艦は前回の結果に余程自信が付いたのか、そのままこちらに艦首を向けた。
「掛かったぞ…!外すなよ…!」
フェスカが緊張した面持ちでハイデンに話かけた。ハイデンはそれに答えることはなかったが、自信に溢れた笑みを浮かべた。
「敵艦距離近づく!」
どうやら向かってきているようだ。そう確信したハイデンが「魚雷発射」を命じた瞬間に魚雷発射菅から魚雷が飛んでいく。敵に回避する様子は見られない。恐らく、破られないとでも思っているのだろう。
「勝ったな。」
リッターが僅かに笑みを浮かべた。回避しなければこちらの思い通りだ。そう言っているかのようだった。
「着弾!」
「一番、二番主砲発射!」
もちろん粒子拡散魚雷なので装甲は破れない。しかし、ハイデンは主砲塔に指示を出した。
「もらった!」
ハイデンが喋ったのと同時に主砲が敵艦の左舷側に着弾し、穴を開けた。そして敵が左舷からの衝撃により右舷側へよろけた。
「回避右10度。」
「回避右10度!」
リッターの指示にフェスカが答え、舵を切った。そして「ブレーケン・シュナイツェウツァウィーン」の左舷を高速で通過していった。
「三番四番主砲発射!」
そうハイデンが命じるのと同時に後部の二基ある主砲から青白い光が真っ直ぐ突撃艦に飛んで行き、着弾した。
後部に着弾した衝撃からか、突撃艦は急激に速度を緩めた。そして突撃艦が突っ込んでいった先には、6隻の戦艦が待ち構えていた。そしてそれぞれの艦が突撃艦に砲火を浴びせた。
これほど喰らってはひとたまりも無かったのか、あっという間に突撃艦は爆発、四散した。
「よくやった、ハイデン。」
「ありがとうございます。」
リッターがハイデンに言葉をかけた。この作戦を立案したのはハイデンだったからだ。
ハイデンは突撃艦が重装甲とはいえ、厚い鉄の類いを取り付けているわけではなく、特別なこーティングをしているのではないかと考えた。装甲が厚ければあのような機動は出来ないはずだからだ。そしてあれほど硬いとコーティングはエネルギーコーティング以外あり得ない。そのエネルギーを粒子拡散魚雷で剥がし、そこに砲撃を加えた訳だ。そしてこの突撃艦が旗艦だったのか敵の動きが乱れ、巡洋艦と駆逐艦があっという間に75%以上の敵を撃沈し、敵は星に逃げ帰っていった。
「さあ、最後は星への攻撃かな。」
フェスカが先行する巡洋艦、駆逐艦群を見ながらそう呟いた。しかし、艦の乗組員はその星から、一筋の光が一番戦闘の巡洋艦に照射され、一瞬で粉微塵になるのを目撃した。そして、リッターたちはその光が自分たちに向けられようとしていることにも気が付いた。