第二話 討伐作戦一
「えっ、討伐?」
「ああ。そうだ。」
ハイデンの問いに、リッターが答えた。
「ここ最近、謎の戦艦クラスの艦が補給線等を荒らし回っているらしい。なんでも、大量のエネルギー粒子を放出するミサイルを放って来るらしいが、詳しい事は生存者が確認されていないので分からない。そこで我が艦にお声がかかった。最重要命令は敵新型ミサイル艦の撃沈。副次目標は船団生存者の救出。」
「了解!」
リッターの説明に、ブリーフィングルームに居る士官全員が返事をした。
「あぁ、一つ言い忘れていた。敵ミサイル艦は複数隻居るらしいからな。」
「…えっ?」
「それってまずいんじゃ…」
一隻なら先に見つけ先制攻撃すればなんとかなる。しかし、二隻以上いたら一隻がやられた報告を受け警戒している筈だ。しかもとんでもないエネルギー粒子を放つミサイルを積んでいる。重装甲高火力のブレーケン・シュナイツェウツァウィーンといえど喰らったらただではすまないだろう。
「なんか文句あるか?」
「いえ、無いです。」
リッターが言うと皆口を揃えてこう言う。弱音を吐くと怒られるからだ。
軍人たるもの、弱音は吐くな。必ず方法はある。
リッターは事あるごとにこれを言っている。なんでも、リッターが士官候補生時代の教官によく言われていたそうだ。
「出港は明日09:00。総員解散!」
こうして、ブリーフィングは終わった。
艦長は「正体不明」が大好きだ。宇宙軍にも未知との遭遇を求めて入った(と、言っていた)ぐらいだ。「詳しい事は分からない」そう聞いて、艦長は嬉しそうだな、と、フェスカは思った。
~4日後~
「居ませんね。」
砲術長のハイデンが言った。敵出現データを元に出現しそうな所を航海しているが、一向に出てこない。
「だな。」
リッターが答えた。
「それより、この辺りがM118A4船団が消息を絶ったところです。生存者を探しては?」
フェスカが言った。確かに副次目標に生存者の救出がある。
「そうだな……残骸らしきものを探せ。」
リッターは艦内要員に命令した。
「艦船の残骸らしきものを確認。方位340、距離10光秒。」
暫く経つと、レーダー士が口を開いた。
「艦種識別。取舵20、第一巡航速力。」
「了解。取舵20。第一巡航速力。」
リッターの命令にフェスカが復唱した。
しばらくすると、見張り所からも目視で確認したとの報告が入った。艦橋からはまだ見えない。
「生存者はいるのでしょうか…。」
フェスカが呟くように言った。確かに、エネルギー放射を大量に喰らうと、生存者どころか船自体が跡形もなく消える可能性だってある。今回は残骸の一部が運良く残っているようだが……。
さらにしばらくすると、残骸が見えてきた。艦の前3/2ほどが無く、艦体左舷や艦橋根元付近に直撃弾があるようだ。
間違いない。この艦型は……。
「リマイデン級重巡洋艦だな。多分、M118A4船団旗艦ラウヴィッツ……」
フェスカが考えていると、ハイデンが呟いた。リマイデン級重巡洋艦はこのブレーケン・シュナイツェウツァウィーンの保有国であるオーラン公国をはじめ、サン・ベイテル共和国連邦、デキュイス王国、パラン連邦共和国等々、世界各国の宇宙軍が保有している量産型巡洋艦だ。そのなかでラウヴィッツは11番艦と、同型艦の中でも比較的古い。主砲は203mm三連装高圧縮光線砲3基、533mm魚雷発射菅10門等だ。少なくはないが、多くもない。
「調査班を送り込め。」
リッターが命じた。ボロボロなので可能性は低いが、生存者が居れば何か分かるかもしれない。フェスカは、そう思った。
「驚いたな……生存者が居たなんて。」
ハイデンが呟いた。此処はブレーケン・シュナイツェウツァウィーンの医務室。艦長以下、数名の士官が集まっている。先程、難破していたリマイデン級重巡洋艦はM118A4船団旗艦「ラウヴィッツ」と確認され、中から一人の生存者と、複数の遺体が確認された。生存者は重症を負っていたので直ぐに医務室へ運ばれ、手当てを施したところだ。
「目を覚ますまでどれくらいかかるか?」
リッターが軍医のロシュに聞いた。
「早くて三日後くらい、悪ければ一生覚まさない。」
ロシュは冷静に答えた。どうやら目を覚ますのを待ち敵の事を聞くより、此方から探しに出た方が良いようだ。
「分かった。」
リッターはそう言い、ここに居る士官全員に第二航空機格納庫へ行くよう促した。
リッターだけは残り、ロシュと会話している。
「誰か分かったのか?」
リッターが問いかけた。
「いいや、服の階級証から階級が二等宙佐であることしか分からんかったよ。」
二等宙佐は、巡洋艦の艦長や、護衛艦隊司令部の人員など、比較的高い位の者のはずだ。
「身分証とかは?」
リッターはさらに質問した。艦長なのか艦隊司令部人員なのか気になったからだ。身分証さえあればどちらか分かるのだが……。
「無かった。」
残念ながらなかったようだ。
「そうか…。じゃあ、私も失礼する。起きたら言ってくれ。」
そう言って医務室を出た。
(起きたらって……まだまだだろうがな……)
ロシュはそう思ったが、言わなかった。
リッターが第二航空機格納庫の管理室へやって来ると、既に宇宙葬の準備が始まっていた。リッターが先に行くよう指示していた士官たちもいる。
海の上で死者が出ると、水葬することがある。宇宙空間で死者が出た場合も同じということだ。
宇宙空間での遭難や沈没では、洋上とは違い生存の可能性が限りなく低い。海の上に放り出されても数時間程度は生きれるが、宇宙空間に放り出されてると一瞬で死亡するからだ。また、遺体が発見される可能性も宇宙の方が低い。こう言ってはなんだが、遺体が見つかっただけでも運が良いのだ。
リッターがやって来たのとほぼ同時に、宇宙葬が始まった。弔砲が発車され、全員が黙祷を捧げる。
仇はうつからな……。
ハイデンと同じ士官学校に居た者の遺体があった。彼に向かってハイデンは心の中で呼び掛けた。