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「先ほどの魔力はどいつの仕業じゃ!さっさと名乗りでぇい!」


 唾をまき散らしながら、白髪の茶色いロープ、手には赤い宝石がついた杖を持った老人がこちらに一直線にむかってくる。


「うわぁ、面倒なじじいがきたわぁ」


 ヴァルが嫌そうにしながら「しっっしっ」といいながら、手で追い払うしぐさをする。


「何が面倒じゃ!ヴァルヘイムのくそ坊主が!」

「誰が坊主よ!それに、あたしは、ヴァルってかわいい名前に改名したって何度もいってんじゃないのよ!あんたのくたびれたブツ引きちぎってゴブリンに食わしてやるわよ!」


 ヴァルより頭一つ低い老人の額をぶつけるが、割れていないのが不思議な音がした。ごん!ではなく、ばきゃっ!と凄い音がした。

 男らしい名前だったが、今のがヴァルの本名なのか。


「あのじいさん、何者だぁ?あのヴァルさんが遠慮してんじゃん。いつもなら、アイアンクローからの投げ飛ばしだろ?なんでだ?」

「ああ、ヒューブはしらねぇだろうな。あのご隠居のことは」


 あれで遠慮ってどういうことなんだろう。見ていて痛そうだ。

 いつものヴァルも気にはなるが、マルセインはあまり関わりたくないというのを隠そうともせず、老人の正体を明かした。


「基本、ギルドに来ない人なんだ…元ギルド素材流通の元締めにして、国有数の転移魔法の使い手。ゲルミュルド・ドラグスト・ホーミルト伯爵。『風伯』のゲルミュルドっていわれたじいさんだ。通称はゲル爺。もしくは、神出鬼没の魔法馬鹿」


 ギルドのお偉いさんで、貴族…確かに面倒な人が来た。


「あのじいさん、貴族かよ!ただの魔法使いかと思った」


 貴族位の魔法使いにしては確かに、身なりがあまり上等とはいえない。まぁ、魔法使いの中には身なりにこだわっている人間よりも、魔道具や研究素材に金をかけている者の方が多いかもしれない。

 僕も研究にお金をかけたい方だし、母上も本や素材は多く残したが、宝飾品などは興味がまったくなく、父上が母上の気をひくために貴重な素材の採取権を許可して仲良くなったぐらいだ。


「神出鬼没の魔法馬鹿ってどういうことですか?」

「元は男爵らしいけど、若いころから功績をあげまくっていてな。本当なら、金も結構あってもおかしくねぇんだけど…趣味が魔法や魔術の研究っていう人なんだ」

「付け加えると、周囲がみえなくて、迷惑料、建物損害の賠償金も払っているから、私としてはさくっとお迎えが来てほしい人」


 マルセインに聞くとオリエが補足して説明してくれる。

 趣味が研究か。気持ちはわからないでもないが、研究の結果で被害がでているのか?


「ちなみに、俺の師匠の友人。オリエの師匠の好敵手(ライバル)兼兄弟弟子」

「そこは訂正。私の師匠の研究を横から邪魔してきた加害者。早く自首して欲しい」


 ああ、だから、さっきからオリエは嫌そうにしているのか。


「わしの知らない魔力を感じたんじゃ!もう、ビンビンとな!ビン!ビン!じゃ!」

「うっさいわよ!あんたがビンビンとかただの卑猥じゃないの!色ボケじじいが!あんたより、若い果実のビン!ビン!の方があたしもビン!ビン!するわよ!」

「いや、ゲル爺よりも、ヴァルの方が卑猥だろ、常識を考えろ。それかさっさとお縄についてこい」


 杖をビンとしながらわめいているが、女性も近くにいるというのに、なんというか、ギルドの偉い人というのは変わり者でないとなれないのか。はたまた、偉くなると変わり者になるのか。

 僕、魔王だったけど、変わっていないから、これはきっとギルドの偉い人が変なんだな。そうに違いない。


「わしの空間範囲内で、あのような感じたことのない異質で深い魔力…そしてそれを実行するなど、どのような術式か、ぜひ知りたい!ほら、どいつじゃ?わしと、いいことしようやぁ…長年のテクですべてぶちまけてもらおうぞぉ!」

「あ、じじいも同類だわ」


 転移系魔術が得意な魔法使いか、よほど魔力の制御と感知に特化していないとわからないことが、この人にはわかるようだ。変人ではあるけど、実力は本物なのかもしれない。

 しかし、異質な魔力にそれを実行する術式か…どんな人が術式をおこなったのだろうか。


 もしかしたら、身の危険があるかもしれないと、避難経路の確認をする。どんな人物かはわからないが、ゲル爺とかいう老人が気にかけるのだ。僕のような魔力が不得意な半魔では、何かあったとき対応できない。自分の身を守らないと。

 安全を確認しているとマルセインはひょいっとゲル爺を猫のように釣り上げた。


「何をするんじゃ!マルセインの洟垂れが!師匠の友人にこのようなことをするなど、あやつも草葉の陰で泣いておるわ!」


 二十センチほど浮いた状態で、さらに大きな声でわめきだしたゲル爺に、マルセインはそのまま僕たちから少し離れた場所まで持っていって、手をぱっと放した。ヴァルの方をみて、顎をしゃくってついてくるようにうながした。とても嫌そうにしながらも、マルセインの隣に立って、腕をくんで睨んでいる。


「ゲル爺。さすがに落ち着けよ。あと、師匠は元気だから。今度帰ってきたときに、今日の件も含めて報告しますよ?」

「嫌じゃあああ!あの鬼は、わしの研究を捨てるから嫌じゃぁぁ!」

「…師匠に殺されますよ」

「あの鬼がいない今しか、研究ができぬのじゃぁ!」


 マルセインの師匠ってどんな人なんだろうか。ゲル爺の怯え方からすると、よほど怖い人なんだろう。

 こめかみに青筋がくっきり浮かんだヴァルが、指をつきつけながら怒鳴る。


「あんたが毎回そうやって、ちょっと珍しい術とか、秘匿(ひとく)されてる魔法を使う子を脅すから、このギルドは新人が入ってこなくなってるって自覚あんの?元職員でもあんでしょうが、くそじじい」

「わしのような老いぼれの楽しみに付き合うような優しい冒険者を育てるのも今の職員の仕事じゃろうが!」

「あのな…そもそもゲル爺が興味をもつような魔法使いはいませんよ。なぁ、オリエ?」

「そうですね。私より上の魔法使いは今、このギルド内にいませんから」


 冷たくオリエがいう。よほど嫌いなんだろうな


「しかし、空間の揺らぎから…間違いなく、術式…しかも、あのような四部構成…おそらく医術系を修めている者がいるはずじゃ」


 ぴくりと聞こえたことに反応したのはヒューブ以外の全員だ。


「教会から逃げてきたんじゃろうが、そやつの安全のためにも、はようわしによこせ。どの階梯(かいてい)まで修めているかによるが、高位階梯者であれば、色々と聞きたいのじゃ」


 目だけは真剣な表情だ。

 口から、よだれがたらっと垂れていなければ、真面目な話だったろう。


「真面目にいってるけど、爺さん、よだれ出てるわよ」

「これは、探求心の先走りじゃ!」

「はい、ゲル爺スリーアウトで、お仕置き部屋行きです」

「ふん!ここのはとっくにわしの持ってた権利で潰してあるはずじゃ」

「あたしが申請して作ってあるわよ」

「…三角は痛いから嫌じゃあああ!鬼がくるぅぅぅ!三角の鬼がぁぁぁ!」


 お仕置き部屋ってなんだよ。しかも個人用って。


「あの、おじいさん」


 そっと近づいてゲル爺という老人に尋ねる。


「なんじゃ、おしめのとれてないような坊主。わしは、今大事な要件をすまそうとしておるのじゃ。この探求心を邪魔する気か?ん?」


 目が血走っているが、研究者の中でこういう人は多い。変人奇人大集合というか、無駄に長く生きてる人もいるからな…うちの国の研究者とか、もっと酷い人もいるからね。脳を取り出して研究し続けたり、霊体になる人とか。


「医術系の術式はそんなに珍しいのでしょうか?」


 先ほど使った抽出の術式は、中級程度の作業だ。あれぐらいで珍しいのなら、もう少しおさえて活動しないといけない。どこかで僕のことが宰相とかの耳に入ってしまえば…持ってきた魔道具とか取り上げられてしまうかもしれない。それか、無断で持ち出したから、捕まるかもしれない。それは避けたい。


「珍しいもなにも…まともに使えるのは教会か…各国のお抱え医術者くらいじゃろう。表になかなかでてこぬでの。たまに家出してくる若いもんがいても、すぐに連れ戻されるか、秘密裏に殺されるからのぉ…医術者は貴重なんじゃぞ?知識も金になるが何よりも、術式が特殊じゃ…わしは、そやつの安全のためにも、早く保護をしてやろうと思っての」

「おい、じじい、よだれ、鼻息」


 貴重。医術者が。

 そうか。それがわかったらすることは一つだ。


「そうですか…あ、僕はちょっと用事があるので失礼しますねぇ」

「とっとと行くがよい。時間は有限じゃぞ!若いうちは知識を詰め込め!」

「はい、失礼しますね!お世話になりましたぁぁぁ!」


 いうが早いが、僕は駆け出した。とにかく逃げるんだよぉ!


「ちょ、ルーフェ!」

「おい、あいつ足はええぞ!」

「待ちなさい!」

「ちょっとぉ、そこの子捕まえてぇ!ルーフェちゃん!…待てやごらぁぁ!」


 捕まれば根掘り葉掘りきかれてしまう!僕が元魔王だとばれるかもしれない!

 ならば!

 僕はいま!風に!なるぅぅ!

これぐらいの分量を書いていきたいものです。

那由多彼方という作品の続きを書くためにも、リハビリ頑張ります。

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