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話します!

「そうなの…大変ねぇ。でも、覚えてないのは、この街にきてからの用事ってことでしょ?」

「はい。お恥ずかしながら、お話した以上のことは、おぼろげにしか思い出せません…すいません」


 ギルド内の座れる場所に案内され、そこでかいつまんで、僕のことを話した。

 街へむかっている途中、魔物に襲われ、命からがら逃げた先の丘で、記憶の一部を失って、ぼうっと立っていたら三人に声をかけられた。

 名前と薬師に弟子入りするために街へ来たこと。忘れたのは、村の名前と家族の名前、街の誰に用があったかなどだ。


 我ながら、こんな明らかに怪しい僕の話を三人は一応、信じてくれた。若干、お人好しな気もするのだが、やはり見た目が子供に見えるというのは、有効なのかもしれない。個人的にはあまりいい気分ではないけど。

 流れ的には上手くいきそう…だが、


「ふーん…まぁ、どんな理由でもいいわ。お互いの領分にズカズカ入り込むのは、いけないこと…ね?」


 ヴァルは半分ほどは信じたような感じだ。ぺろりと上唇をなめてから、軽くうなづいた。

 もちろん、信じてくれたという確信はない。あくまでも僕の願望込での憶測だけどね。


「お、そうだルーフェ。せっかくヴァルがいたんだ。ギルドのことや薬師のことを聞いたら、なんか思い出すかもしれんぞ?」


 マルセインがそういって、ヴァルを指した。確かに、色々聞いておいた方がいいのかもしれない。

 今更ながらな話だけど、立場上、各国の国力や組織はわかる。でも、こういった民間の組織はよくわかない。魔族でもわからないのに、ノーマン種の民間組織なんて、それこそ、うちの国でも知っている人は限られるんじゃないだろうか。


「そうねぇ。一応あたしこのギルドでも古株なのよ。薬師もほとんど顔馴染みね。ある程度のことなら、教えることができるわぁ」

「そんなら、適当に飲み物でも買ってくるから、話を聞いとけ」


 マルセインはヒューブと連れ立って、飲み物を買いに行く。机にはオリエとヴァルと僕の三人が残り、オリエはヴァルに説明を任せてその間に任務報告書を書き上げるといって、いつの間にかヴァルが持っていた紙を受け取って書いている。

 ヴェルに僕は次のこと尋ねることにした。

 ギルドというものの成り立ちと、組織の流れ。薬の売買等の流れ。薬師とギルドの関わり。これは特に今後の僕の生活にも関わってくるから聞いておきたい。

 ヴァルはパイプの灰を机の上の皿にいれ、パイプをふいて懐にしまうと、それじゃあ、と話し出した。


「ギルドは、もともと魔物の討伐、商売の流通の二つが元でできているの。色々な国のしがらみなんて、関係なく、自由にやりましょう、そしてお互い豊かになりましょうっていうね。それでも平和な今と違って昔は傭兵とかが主体で国の争いに参加したりもしたそうなんだけね、色んな事件とかあっちゃって、魔物の討伐と護衛時の盗賊とかの殺傷だけにしましょうって、お偉いさんが決めたのよぉ。あくまでギルドは、平和と商いで自由に豊かに…だったんだけどねぇ、魔物を退治すれば、魔物から素材が手に入るでしょ?それを色んな所へ卸すことで、総合的に利益を生まれるの。ここまではわかるかしら?難しかったらいってねぇ?あそこのお馬鹿なヒューブちゃんにわかるようには無理だけどねぇ」


 その言葉に、オリエが肩を震わせている。あんまり表情が動かないが、オリエは意外と笑い上戸なのかもしれないな。

 それにしても…なるほど。ギルドがどうして薬と関わるのかわかってきた。

 流行り病などの原因の一つとして考えられるのは、魔物の存在だ。魔物が出すなんらかの物質、魔物の排泄物や体液といったものや呼気に含まれる毒素といったものが、病を起こす事例もある。無論、それ以外に、魔物の素材によって治療薬を作ることもある。


 例えば、蜂型の魔物でラビットビーと呼ばれる魔物がいる。山間部の貴重な栄養源である野生のウサギの体の中に巣を作る魔物で、巣にされたウサギと知らずに狩ると狩ったものを襲って新しい巣にしてしまうという魔物だ。狐や野犬など徐々に巣を大きくしていき、酷い場合は、狩人が巣になることもある。

 そんなラビットビーだが、鉱山毒にきく薬の材料なのだ。巣にされているウサギの体液を少ない酸素と栄養で生かすために、血液の循環をよくする液を分泌している。これによって、巣にされても生きているのだ。

 正直、取り寄せた時にも思ったけど、できればあまり触れたくない材料の一つだ。


 他にも宝飾に仕えそうな魔物もいるので、ギルドはそれこそ、色んな所へ卸している。

 何をどこへ卸したか把握していれば確かに総合的な利益…戦争をしそうだとかの予測もつくわけか。


「はい」

「あらん、ちゃんと意図がわかっているようねぇ。賢いわねぇ。薬師の弟子志願もうなづけるわぁ…それでね、ギルドに入った人はね、色んな任務をこなすのよ。まさに、冒険の日々ね!だから冒険者とも呼ばれるの。あたしみたいなギルド職員も、前はそれなりに冒険してきたのよぉ!もちろん、残念だけど、派手な魔物退治だけではなく、例えばそうね…護衛とか、ちょっとした物の捜索とか。そんな地味なことの方が多いわよぉ。ようは何でも屋って面もあるわ。そ、れ、か、ら…あそこにあるような薬関係も一応うちが窓口になってるのよぉ」


 そういって、売店?と思わしきビンがたくさん棚に置かれている場所を指さした。職員らしき女性がそのビンを客だろう、ギルド内にいるにしては、主婦のような普通の格好をした女性に売っているようだ。


「ああやって。街の人もうちにわざわざ買いに来るのよ。よく効くし、なにより、ギルドが直接売る物っていう安心感もあるのよ」


 なんだ、本当にただの主婦だったのか。


「では、そこで売っている薬もギルドの管轄なんですか?」

「ルーフェちゃんがいたところだと、どうだったのかしら?」


 面白そうな顔をして質問を返された。

 うちの国だと母上のような魔女たちや、病気に詳しい種族などが医術者という職について、薬や治療を行っている。何人かの医術者が集まって、医術院(いじゅついん)というものを作ったりしている。そういった施設も都市はもちろん、人口が万単位の街にはつくってある。ただ、千に満たない村単位には、さすがにそういった施設は普及していない。

 家庭や村の薬師が簡単な薬を調合して対応しているはずだ。流行り病といった国難は、早急に報告の義務はだしているが、それ以外はどんな治療をしているかなどは把握しきれていない。生活が落ち着いたら、今後の課題ということで。国に陳情書を出そう。


「簡単な薬は、各家庭でも作っていた…と思います」

「そうね。よく、覚えているようでよかったわ…さっきの人みたいにギルドに直接買いに来る人もいるけど、簡単な打ち身とかの薬は街でも売ってるわよ?といってもそれはギルドの管轄でね。材料から調合までうちが世話してるのよ。でもね…あそこに置いている薬は違うのよ」


 含みのあるような言い方が気になったが、ついもっと気になる方へと意識がむいてしまう。

 あそこといって指さしたのは売店の向かい側にあったもう一つの同じような売店だ。違う点は、最初の売店は、ギルドの二階に掲げてあった紋章が使われていたが、次に指した方には、羽と鍵が交差している紋章がかかげられている。


「あの薬は教会が各国に売りつけている薬なの。もちろん効果があるから、うちみたいな怪我の多いとこはありがたいんだけどね」


 教会?でも、この国ってその教会から離反したかできた国じゃなかったっけ?


「もしかして、この国と教会のこと考えた?」

「はい。あの…この国って、その教会からすると反逆した騎士たちの国ですよね?…それなのに、いいんですか?教会の品がこの国に流れてきていて…その…安全性とか…」

「そうね…ルーフェちゃんって成人したてにしては、本当に賢いわね、お世辞ぬきにねぇ。その疑問の答えは簡単よぉ。ギルドは各国の各都市にあるの。あ、竜族と魔族の領域以外のね。あそこは人が踏み込んでいい場所じゃないもの。でねぇ、教会ってばうちのギルドの総本部も真っ青な守銭奴でねぇ。建前では、反逆者ではなく、魔物から人々を守るギルドなら…っていってねぇ、各ギルド相手に商売してんだから、楽して稼げて、うらやましいわよぉ」


 使用者が多ければ多いほど、少しの単価でも莫大な利益が生まれる。確かにいい商売だな。あれ?あの教会ってそういう教会だったかな?確か…なんて神だったかな?そういったことを推奨する神だったかちょっと思い出せない。


「あの薬は教会が作っているの。でも数が多く必要でしょ?だから、薬に使う素材とか、おそらく使うんじゃないかしらね?秘密主義であたしらギルドも、毎回発注用の調合レシピを変えてくるから、言い切れないんだけどねぇ…変な液とかをこの街の薬師をギルドが雇って調合して、教会に納品しているの。もしかしたら、ルーフェちゃんはその中の誰かに弟子入りしようと思ったんじゃないかしら?あとで、適当に声をかけておくわねぇ」


 といって、片目をつぶる、ウインクとかいうやつだ。とても破壊力があるそれを食らいつつ、ヴァルの含みの意図がわかった。

 これ、確実に弟子入り先があるって嘘ばれていて、適当なところへ紹介してくれるってことか。


 思わず乾いた笑い声をあげて、感謝の言葉をつげると、マルセインたちが帰ってきた。マルセインとヒューブの二人はエールで、僕ら三人は蜂蜜の入ったブドウの果実水だった。

 ごめん、今はお酒がよかったな…あと、僕結構呑めるんだけど…ははっ。それに、この味は僕には無意味なんだよなぁ。


「まぁ、他にも理由があってギルドは顔がきくから…そうだわ!ルーフェちゃん、せっかくだから、ギルドに入っちゃいなさいよ!」


 思わず、果実水が器官に入った。どうしてそうなった。


「マルセイン!あんた、ルーフェちゃんの身元保証人になってあげなさいよ。得意でしょ?」

「おい、なんだよその言い方。俺は別に好き好んで保証人になぞなるような男じゃねぇぞ!」


 嫌そうにしながらも、仕方なさそうにしているという不思議な雰囲気を出すマルセインに、目をキョロキョロとしだし落ち着きをなくすヒューブ。なんだろう。


「よくいうわよぉ…許可もなく田舎の村を飛び出してきた成人したての子の保証人にあんた、何回もなってあげてんじゃないのぉ。受理であたしも判子押すのよ?それに…助かったんでしょ?ヒューブちゃん?」


 顔を赤くしてそっぽをむいたヒューブ。ああ、だから成人したてのころを知っているのか。

 そうして、なんで、この三人が僕をギルドへ誘導したのかわかった。つまり、見た目が子供だからだけでなく、子供が一人で街にくる理由が、ギルドに入る目的ということが多いのだろう。下手な組織…例えば人身売買とかを生業にしているような組織とかの手に落ちないようにしてくれたのだろう。ただのお人好し三人組と思って申し訳ない。

 そんな様子をながめていると、書き終えたのか、背を伸ばしてから席を立ってオリエが肩をたたく。


「何かあったときは、ギルドが守ってくれるからいいと思うわよ?私たちも何かあれば助けるけどね」

「まぁな。ギルドってのはそんなもんだ」

「そうだぜ。俺がいうのもなんだけど…成人したてだったら、ギルドほど頼れるところは少ねぇからな」


 三人に促されつつ、いい機会かもしれないと思う。

 少なくても、ギルドに所属すれば当面の仕事先とか見つかるかもしれない。なにせ、素材集めと納品をしているのであれば、どこかの薬師と知り合えるかもしれない。上手くいけば弟子入りも可能かもしれない。


「…はい!マルセインさん、保証人をお願いします!」

「おっしゃ!任せろ!」


 いそいそと懐から書類をヴァルが取り出す。いや、どこにいれていたんだ、この人。

 出された書類に名前を書くと文字がゆらゆらとうごめく。もしかして、魔術証書だったりするのかな?

 そう思いつつ、名前を書いた紙をヴァルに渡すと、ヴァルは鍵束から鍵を一本取り出し、紙面をぐるぐると回しだした。


 契約書が光り輝き、二つに分かれ、一枚はヴァルの手元にそのまま残り、もう一つは徐々に縮んでいき、一枚の板へと変化していった。

 部外魔法の一種か。

 世界は六の部分でできているという古代の考えがあり、それにちなんで魔法は分けられている。火水土風光闇の六部魔法に対して、物質を変化させたり、契約や洗脳、身体強化といったものを部外魔法という。


 そして、魔法を物質に組み込む魔術というものがあり、さきほど書いた紙はその魔術が織り込まれた魔術証書だったようだ。魔法によって、物質を二つにわけ、片方を変化させるこれは、魔族だと誰にどのような印章があるかといったことまとめる紋章官たちがよく使っている。


「『締結せよ』はぁぁん。若い子がまたうちに入る…ああん…」

「普通にやれよ!」


 マルセインの拳をよけて、ヴァルは一枚の灰色の板を差し出した。しかも、拳をよけつつだ。


「はい。これはギルドカード。無くさないようにねぇ?このカードがあると、もしものときとかに探すのが便利なの。まぁ、直接関係しそうなランクに…ああ、そうねぇ…ランクの説明はもう少し大きくなったら、教えてあげるわ…私の寝室でね?」

「よけんじゃねぇ!んで、早く兵士につきだされろやぁ!」


 ひゅんひゅんと音を立ててい本気の拳をさらっとよけている。

 あ、そうだ。聞いておこう。


「あの、そのぽうしょん?はどんなものなんですか?」


 凄く効能がいいとは知らなかった。まぁ、教会が作っているらしいから、うちに流れてくるわけがないか。流れてきてもほぼ毒薬だろうし。

 あと切り傷だとうちでは、軟膏の方が重宝される。水棲の種族とか液体だと流れちゃうからね。


「ポーション?ルーフェちゃんは、もう少し大きくならないと使っちゃダメよ?高いし、便利なんだけど…ちょうどいいわ、あそこで怪我を治そうとしている子をみてごらんなさい?」


 やはり効きすぎるから、使用制限の年齢や体格でもあるのかな?それなら薄めたものを使用するようにすればいいのに。

 指さされた先には、所々出血している四人組の中年男性たちがいた。特に、今ポーション?というのを買ったらしき男の腕の傷は酷い。かなり大きな傷ができている。

 きゅぽんっと僕の耳に栓を抜く音と、わずかな嫌な臭いがした。

 男は、その場でポーションの中身を腕にかけた。


「こんなところで使うなんて、ほんと、血の気の多い子って困っちゃうわー」


 臭いわね。とヴァルがいい、他の三人も顔をしかめた。

 僕は顔をしかめるよりも呆然としてしまった。

 ひっかき傷が治っていく。

 酷い煙と知っている臭いをだして。


 気づいたら、男たちの元へと走っていき、そして、


「もう使ってはいけません!そんな毒薬!」


 僕の怒声に辺りは静まり、割れたポーションのビンから滴る液体の床を焼くような音が響いた。

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