強襲をされます!
冒険者たちについて山頂を目指して歩き出した。
核となるオーガアンデッドを完全に破壊したからか、魔法の直撃をさけたアンデッドも灰になっていっている。
これほどの人数を集めたのかと思うと、かなり前から準備をしてたようだ。ゴブリンやワイルドウルフのような魔物ならともかく、ノーマンを用意するには時間がかかる。
その顔をみて違和感に気づいた。
「…どういうことだ?」
「おい、兄上。さっさと行かないと先に『鉄塊』に取られちまうぞ?」
ゲールが促すが、僕はまだ原型の残るアンデッドの顔をまじまじと見つめる。
確かに、生前と変わるだろう。干からびたり、腐敗しているのだから。
「それは困る。でもね…これ、気になるんだ」
指をさしてゲールに指摘をしていると、遠慮がちにテシアたちが近づいてくる。
「どうしたの?…ルーフェ君」
僕たちと接しているときは、年相応な口調と雰囲気になるみたいだ。他の冒険者の前では高圧的というか、壁を作って距離を取らせるように仕向けている。
「ああ。テシアさん。いいんですか?こんなところで、僕らと話をしていても…用件は先にあるんでしょ?」
「なんで…わかったの?」
僕の指摘にあえて驚いたようにみせている。かなり警戒している。彼女の中で僕らの存在は知らない情報だったのだろう。いや、僕が医術を使えることが気になっている。
「焦っているのはわかりますからね。それに先にいっておきますが…僕は教会の関係者ではありませんから」
「そう…ね…私はあなたを知らない。
だからこそ、気になるの。何を気づいたの?」
彼女は誤解をしていないらしい。ただ、どう対応するのか考えているのだろう。
右手が後ろ手から動いていないのはそのためかな?
けれど、それよりも厄介なことの方が先だ。
「切り捨てられたアンデッドをよく見てもらえますか?特に
干からびた死体を」
徐々に灰になりつつあるが、まだ原型をとどめている。
顔がはっきりとわかるだろう。
「何か変なところがあるの?」
「…どれも同じだ」
「同じ?何がなの?」
テシアはわからなかったようだが、トリィが言葉を探すように言いあぐねながらテシアに教える。
「顔…同じ…一緒な…顔」
アンデッドのノーマンは全て同じ顔だった。年齢が少し幅があるようだが、それでも全く同じ顔が数体。血縁関係よりも本人の生き写しといえる。
ホムンクルス。魔法使いたちが新しい魔法を試すときに、己の血を使って人間に似た生物を作ることがある。魔女も古くは作って薬品の試験に使っていたり、医術の研究に使ったりしていた。最近はほとんど作らない。だいたいの病気や人体は研究を終えているから、必要がないのだ。
ただ、それらは肉体だけのものだ。何かを考え、命令を受けるようにするには、別の…魔術がいる。
「ホムンクルス?工房の禁術じゃない!」
テシアが吐き捨てるようにいうが、ホムンクルスを否定しているのは、一部の国だけだ。命の冒涜だと叫んでいると本で読んだ。
魔法使いの多い国ではいまでも使われている。奴隷を実験に使う国よりはましだ。
本来のホムンクルスは自分の髪の毛や爪のようなもの。肉の体はあるが、作っても生命活動は一度もしないのだから、冒涜もなにもないはずだ。
「よくご存じですね、テシアさん。でも、魔法使いたちには、禁術ではないですよ」
「…ルーフェ君は賛成なの?こんなこと」
「何を変なことを?だって、生きていないんですよ?一度も息をしない。骨を培養したり、目を培養したり、腕を培養したり、それがだめなんですか?」
怪我で取れた腕をくっつけるのは簡単だ。でも、魔物に消化された腕は戻ってこない。必要なら患者のホムンクルスから移植をする。
生きるために必要なことだろう?
「なんで…なんで…なんで、そんな!恐ろしいことをいうの!命をなんだと思っているの!そんな魔族みたいなことができるの!」
「では、貴女は足を無くした子供に歩けるようにさせてはならないと?腕を無くした兵士に腕をつけ自慢の剣を振るわせることも?目を奪われた花嫁に花嫁衣裳をみせてあげることも許さないと?貴女、何様ですか?」
「でも、そんな人道的じゃないこと!」
「人道的?お花畑出身ですか?違うでしょ?貴女は奪うことも、奪われることもよくご存じだと思っていましたが、僕の勘違いでしたね」
苛立ってしまう。確かに、生きている人間や、意識がある者から奪うのは人道的ではないだろう。
けれども、それに苦悩をしていないと思っているのか?例え意識はなくても、本人と似た存在だ。それを飲み込んで使う。
だから、魔法使いはや医術者、薬師は自分のホムンクルスを使う。他人のを使えば重罪だ。患者も全員が求めるわけではない。人によっては、生み出されたホムンクルスの灰を自分の墓に入れる人や、別に作る人もいる。
都合よく生み出されたホムンクルスに敬意を持たないものこそ、軽蔑すべき対象だ。
「おー。兄上が、きれたな…つーわけで、トリィ。動くとすぱっといくぜ?」
テシアをかばおうとでも思ったのか、トリィが剣を半分抜いて固まっている。その首筋には、ゲールが大剣を当てている。
テシアは蒼白になり、震えながらも歯を食いしばって僕を睨む。まるで僕がいじめたようじゃないか。
子供相手にむきになることはなかった。確かに僕がこの点は悪いな。
「…すいません。つい頭に血が上りました。ですが、これだけはいわせてください。例え、魔族といわれようと、必要ならば僕も作るでしょう。それが最善の治療ならば迷いません」
「…君とはわかりあえないみたい。残念だけど」
「そうですか」
重たい息をどちらとなくついて、どう動くのか待ってみる。テシアの判断次第では、悪いが僕はゲールを止めない。
彼女たちを始末することに、心が痛むことはない。彼女たちはノーマンで、僕らは魔族。仕事を同じくしても、分かり合えない人はいるものだ。
特に、彼らの正体がいまいち判断しにくい。
どちらなのか。
「おーい!お前ら何やってんだ!」
緊張感が高まってきている中で、聞いた覚えのある声が近づいてくる。
「まったく、団体行動はパーティの基本だぞ!おい、新人!お前らギルドでもめたそうだな!なんで、もめてんだ?先輩がいれば色々聞いておくのが生き残る術なんだぞ?」
ヒューブが、冒険者の一団から抜けて僕らを回収しにきたようだ。マルセインの指示とかだろうな。
顔見知りな僕らではなく、テシアたちを一番最初に注意しているあたり、色々とマルセインから聞いてきたようだ。
「ヒューブさん。彼らも色々とあるようなんで、その辺で」
舌打ちをするテシアから、よほど冒険者が嫌いなんだろうとは思った。それでも冒険者になっているのは、よほど大事な用事だからか。
しかし、ヒューブのおかげ毒気が抜けた。おかしな空気も霧散してくれたし、感謝だね。
「ルーフェにゲールじゃねぇか!ああん?なんか疲れてねぇ?」
「そんなことはありませんよ。ほら、元気です」
「いや、でも顔色」
「生まれつきです」
そこに触れるなら、怒るよ。
「しかし、なんで、お前らまできてんだ?危ないんだから、ギルドにいろよ?」
「そうもいってられないんですよ。用事ができたんで」
「用事って、なんだそれ」
ヒューブがなおも僕との会話を楽しみたいのか、それともギルドに戻るように説得をするようにいわれたのか知らない。
でも、気を抜きすぎはよくないな。
「まぁ、いいから、さっさとそこをどけよ?じゃねぇと、危ないぜ?」
「は?なんだ、ゲールその口調」
前方、山頂へむかう道が突如霧に包まれた。先行している冒険者たちが見えなくなるほどの濃霧だったが、その霧の中から影が見える。
そして、風に紛れてうなり声も響く。
こちらに向かってくるのは、ただのオーガ。
そう、三十体ほどのただのオーガだ。
「な!みんなどこ行った!やべぇぞ!」
ヒューブが慌てて、首から笛を取り出して吹いている。ギルドの決め事だったのだろうか?
「めんどくせぇな…燃やすのはなしなんだろ?土もか?」
本当に面倒なんだろう。あくびをかみ殺して、手っ取り早く済ませようとしている。
今、この場の誰もが焦っていないが、一番焦っていないのはこいつだろうな。
「下手に干渉して、敵に逃げられても困るから、剣だけで片付けて。こういう状況なら確実に生まれるから、素材の確保もね」
「なぁ、紛れて爺を」
「ダメ。作りかけの薬とか、僕が許せない。それに、他にも使うかもしれないからね」
せっかく素材が生まれる環境だから、利用させてもらおう。生きたオーガだからほぼ確実にアンダーテイカーゴーレムが発生することだろう。他のアンデッドも少なからずいるようだし、探しに行かなくて済むのはいい。
「なぁ、兄上…本気でいってるか?」
「本気。大丈夫。発生しているときは、目をそらして、出来上がったら討伐と採取で。できるでしょ?」
「魔王様だぁー」
「はっはっはっ。さぁー我の命令に従えー」
「ははぁーおおせのままにー」
そんな軽口を小声でいって遊んでいると、ヒューブは弓を構えた。
それよりもテシアたちの方が早く動きそうだ。緊張しているのかな?多いだけで、普通のオーガな分オーガアンデッドよりはマシだろう。
「おーい。テシア。弓で射貫いてくれないか?」
ゲールが声をかける。珍しく一番手を譲るみたいだ。
「…いいわよ」
テシアはそう言いながら、矢を三本構え、放つ。一本づつオーガの目を貫通する。
「があああ!」
「ぐううう!」
怒声をあげつつ、先頭の三体が倒れると、そのまま後ろから走ってきていたオーガに踏みつぶされて、ぐちゃぐちゃと湿った音と、短い断末魔が聞こえた。
生まれたばかりのオーガなのか、恐慌状態なのか、僕たちしかみえていない。
「うわぁ…すげぇ…あんな新人がいるのかよ」
口ではほめているが、かなり余裕がある。まだヒューブよりも弓は得意ではないということだ。
テシアは何度も弓を構えては矢を放つ。
けれども成功したのは最初だけだ。
「オーガ…!テシア!下がる!」
「このっ!なんで刺さらないの!」
テシアの矢は確実にオーガの眼球に当たっている。しかし、全てはじき返された。
眉間や首ならばはじくことは考えれる。オーガの筋肉や骨の頑強さを考えれば、目や口内を狙うだろう。
急に防御を上げてくるオーガに弓兵では難しいだろう。
トリィが走りだし、オーガと白兵戦に臨む気でいる。トリィの剣ならば、貫けるかもしれない。
でも集団対個では勝ち目がない。
「トリィ!ダメよ!戻って!」
テシア悲痛な叫びをあげる。
無謀なことをすれば、彼はオーガに潰されるだろう。
でもそうはならない。
「元気があるのはいいんだがよ!俺もお前らのお守りじゃないってみせてやるよ!」
ヒューブがなんでもないように弓を構える。
矢は一本。矢じりはネジのように溝が彫り込んである。
よくみないとわからないが微弱ながらも魔力が込められている。それに、ヒューブの右手からも何かの力のようなものが集まってきている。
「弓には自信があんだよ!『展開』!」
ヒューブが言葉とともに放った矢はトリィの目前まで迫ったオーガを狙う。
真っ直ぐに。
ただ真っ直ぐに。
オーガの眉間を貫いた。
「な!どうして!」
テシアの驚きは貫いた矢だけではない。
後頭部に抜けたはずの矢が、そのまま後ろのオーガを貫き、矢が戻って戦闘のオーガを次々と射貫いていく。
「あんなでたらめな動き!ありえないわ!」
確かに、初見だと不思議かもしれない。ヒューブのようなノーマンが使えることに僕も少なからず驚いている。
ヒューブの使った射撃は『魔弓』だ。エルフが得意とする弓術で、魔力の込められた矢を好きな方向へ飛ばすことができる。ただ、上手く扱うには『闘気』という人体の力を使うらしい。
しかしながら、半分ほどを射抜いた後、矢はオーガに捕まえられ握り潰される。
「マジか…オーガが掴むとか」
初めて動揺をヒューブがみせたが、すぐに次の矢をつがえる。
だが、それは放つ必要がなかった。
「面白れぇ手品だった。三十点」
「どうして…余裕?」
十一体ほど残っていたオーガのうち、十体は上半身と下半身が分けられ、残った一体は左右に真っ二つにされた。
ちりんと鈴が鳴る音がようやく耳に届いた。
抜刀術『鈴過』亜空間に閉まってある剣を高速で抜き戻す。空間から剣を高速で抜き放つと鈴に似た金属音が聞こえる。それすら置き去りにするほどの高速で抜き放たれた刃は相手が動いた瞬間、細胞を切断する。
倒れこんだオーガたちはばたばたと手足を動かすがそのつど体はどんどん細切れになっている。
何回切りつけたか僕の目でもわからないが、まだお爺様ほどの腕ではないな。お爺様なら動いた瞬間全てが細切れになっていたからな。
「ってか、手を抜くのは?」
「ん?抜いたろ?魔法なし。軽めに振ったし」
呆然としているテシアやヒューブ、剣を向けるか悩んでいるトリィに気づいているのかいないのか…たぶん、興味ないな、これ。
「しっかし、まぁ…なんだ…俺がギルドに入ったときよりも才能あんな、お前ら。普通、あんな変なオーガがでたら、ちびるもんだぞ?」
少しやりすぎたゲールに拳骨を一つ落としていると、ヒューブがテシアたちをほめていた。
先輩らしい感じでいいと思う。ゲールに対してそこまで恐怖がみえないということは、マルセインからきいたか、実力があっても問題ないとみられたということかな。
特に、トリィが気に入ったのか、肩を組んでいる。テシアは少し離れて警戒しているようだ。
「トリィっていったか?お前すげえよ。今の歳でそれなら、確実に一級になれんじゃね?」
「それは…わからない」
トリィがじっとゲールをみる。
申し訳ない。こいつが規格外なだけだから。うちの国で一番だから。
ヒューブがトリィをほめたのにはわけがある。トリィは普通にオーガに飛び掛かって頭の頂上から、股下まで真っ二つにしてみせたのだ。
魔道具も魔力も闘気すら使っていない。一般人でも視認できるレベルの剣速でだ。
その年頃のノーマン種ができないことをしてみせた。だからこその賛辞だ。
「つええし、顔つきはこの辺りじゃ珍しいみたいだが…訛りとかなければ女にもてそうだな」
「そんな…こと…ない」
「おい、まさかまだなのか?…なんなら、いい店教えてやるぜ?興味あんだろ?」
「そ、そういうの…困る!ダメ!俺、子供。ダメ!」
おっと、こそこそと悪い話をしているみたいだ。耳がいいから聞こえるんだけど、トリィのいた地域か部族ではまだ子供ということか。
若干、その輪に混ざって話を聞いてみたいところだが、さっきから地面が微妙に脈を打っている感覚がする。
頭を押さえていたゲールも異変に気付いたのか、僕も地面に集中する。
「おいおい…下は使えるんだろ?ははぁーんなるほどぉ…あの嬢ちゃんに操立てかぁ?…練習は大事だぜぇ?本番でしっかりできないとなぁ?」
「ち、ちがっ!困る!俺、そんなんじゃない!」
「なんの話?」
遠くにいて、トリィを見守っていたテシアが、自分が呼ばれたと思って、こちらに歩き出す。
地面を踏みしめる音。波紋のように広がる。
「いいやぁ。テシアの嬢ちゃんにはできない、男の話!」
「何よ、それ?トリィ?」
「いや…その…」
トリィを問いただすがトリィはいえない。
ヒューブはそれをみてにやついている。
その平和な空気の中に酷くねばりつく地面。いや、地脈か?
「兄上」
「これは…陣?」
地面の違和感の正体がようやくわかる。
これはまるで僕が使う陣だ。
「くくっ…いいなぁ!新人はこういう空気がないとな!これからあんまり、活躍すんなよ?俺がしょぼくみえんだろ?」
いまだに問い詰めるテシアとなだめるトリィ。僕らも神妙になりながら、山頂を目指すように三人に合流をする。
先行する冒険者と合流して山頂を目指すために先頭を歩き出したヒューブの前に突如、黒い影が浮き上がる。
僕らには顔が見えない。
「ん?あんた」
声をかけた。
ただ、それだけだった。
それだけがヒューブにできたことだった。
「いてっ…あれ?」
僕らの視界に入ったのは何者かがヒューブの胸を貫いて、そのまま取り出した心臓を潰している姿だった。
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