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連れてかれます!

 さて、どうしたものか。予定が根本から狂ってしまった。

 当初の予定では、薬師の修行にでて、そのうちどこかの街で生活の基盤でも作ろうと思っていたのだが、それはあくまでも、誰からも奇異な目でみられず、溶け込めるようならばといいうことを念頭に置いていた。

 ノーマン種の国に飛んできたことも想定外だが、何よりもまさか彼らの感覚では、自分は成人したてのほぼ子供のように思われてしまうとういうことだ。

 だから彼らは優しく接してくれているのだろうな。僕だって、相手が子供に見えるなら、優しくするからね。


 少し考えこんでいると「そういや」とマルセインが僕をみる。


「ルーフェだっけ?名前と薬師の弟子以外で思いだせるのは、何かないのか?家族の名前とか、この街の誰に用があったとか」

「そうね、なんでもいいのよ?私たち、人探しも何度かしてきているから、なんだったら、伝手もあるし」

「ええ…その…確か…」


 マルセインの言葉にオリエも参加しながら、僕にそう提案してくれている。とても助かるんだけど、実際の所、この街に知り合いは確実にいない。そもそも魔道具の効果が『どこに行くかわからない』っていう効果が付与されているぐらいだから、使ってみるまでは行き先はわからなかったし。他にも、地名などの情報や、ノーマン種の知識についてだが、僕の知識はあくまで本に書かれている内容にとどまっている。その本自体も、母上が旅をしていた頃に手に入れた蔵書の一つだから、最低でも三十年近く前のものだろう。ノーマン種の最近の事情はわからない。

 せめて普通の若者ぐらいにみえるのなら、手持ちの薬とかを売ったり、どこかの薬師に弟子入りを申し込もうと思っていたんだけど、困った。

 彼ら基準の子供が僕ら魔族と同じかはわからないけど、子供一人で売買や弟子入りはさすがに不審に思われるか、断れるのが目に見えている。うちの国みたく、売買許可の証明書や、徒弟申請とかの書類が必要だろうし、仲介で誰かしらの保証人が必要になるもんだろう。


 何か手はないかな。子供にしか見えずとも、一応、成人したてという風には思ってくれている。三人の僕に対する空気から誤差範囲なのは否めないけど。

 成人したてでも不思議に思われないこと。

 職探しとか?ノーマンは成人したら職探しするんだよな?

 そういえば、三人が、任務の報告に行くっていていた場所は、どうなんだろうか?ヒューブも成人したてで所属したとか道中いっていたし、もしかしたら、僕でも可能かも。


「あー…ぎるぅど?とかいう場所は、薬の売買とか関係あります?」

「ギルドか?そりゃ、ギルドの売店にもポーションやら、魔法薬とかは置いてるけど」


 ぽぉうしょん?魔法薬?治療薬ではなく?

 その、ぎるぅ、ギルドか。ギルドという組織には、そういった薬が置いてあるそうだ。傷に使う薬屋、解毒薬といったもの。変わったもので、水中で呼吸をできるものがあるとか。

 驚いて口があんぐりとあいてしまった。そんな凄いものが世に出回っていたのか。僕の作る薬とは、かなり用途が異なっている。


「あん?ルーフェの知り合いでもいんのか?」


 ヒューブが首をかしげている。ん?知り合いがいても変じゃないよな?薬関係なんだし、何か間違えたかな?


「あの…もしかしたら、僕の知っている人がいるかも…なんて」


 いるはずがないけどね。


「んー、いや、あいつらの弟子って…なぁ?」

「確かにな。まぁ、もしかしたら、材料の納品やら他の関係の弟子かもしれんし。ギルドにいって聞いてみよう。ルーフェもかまわんな?」


 ヒューブとマルセインの二人は首をかしげ、オリエは黙って、何かしら考えているようだ。何か変なことをいったのだろうか?

 ちらっと僕をみたオリエの瞳が少し変わったような気がした。


 大通りをぬけ、途中パンなどの軽食を買ってもらい、腹に収めつつ、目的の場所へとたどり着いた。

 街のほぼ中央、三階建ての大きな建物がギルドらしい。二階部分に、天秤を持つノーマンのような女性を模った鉄製の紋章を掲げている。

 元は何らかの施設を利用したのだろうか。他の住宅や建物とは明らかに作りが異なる。いうなれば、司令塔のような強固さを感じさせる。


 人で賑わう開かれたままの入り口を抜けると、壁一面に紙がそこかしこに張られている。何枚かをはぎ取っていく人たち。活気に満ちて、笑い声や、喧嘩になりそうな声や、それをなだめる声も混ざってとてもにぎやかだ。

 入り口をまっすぐ歩くと、満面の笑みを浮かべた人物が立っていた。

 その人物は、長い紫色の髪を赤い布でまとめ、口元には竜の細工をしたパイプをくわえている。服は、ギルド内の人たちよりもかなり上質の白いシャツと、鎖と鍵束をつけたズボンをはいている。

 どこかの執事のような気品さもあるその男性が口を開いた。


「あんらぁ、マルセイン。あんたぁ、いつそんなかわいい子仕込んできたのよぉ?」


 思わず全身に鳥肌が走った。

 猫なで声の重厚なテノールと、女性のような言葉遣いが、こうも破壊力があるとは。


「俺の子じゃねぇよ…あいかわらず、背筋に悪寒を走らせることがはんぱねぇな、お前」


 平気そうなオリエと対照的に、僕やマルセイン、ヒューゴの男性三人は、同じように。腕をさすって彼?をみる。


「んまぁ、かよわい乙女に失礼しちゃうわ」


 しなり、しなりと腰をくねらせながら、彼がこちらへと足を進める。

 軽く一歩ひいてしまった。かよわいといいつつ見えた腕はそこそこ筋肉がついていたんだけど。


「お帰りなさい、マルセイン、オリエ、ヒューゴちゃん。依頼は無事に成功したのかしら?」

「おう。村の近くにいたゴブリンと、ワイルドウルフの討伐は上手くいった…まぁ、村の被害は仕方ないだろう。村人は体力がないからな」

「そう…持たせた物資が役に立たないのは、やっぱりつらいわ…オリエはどう?」

「私の見解は前にいった通りよ。一度、支援の見直しをすべきね。後味が悪いもの」


 三人が、頭を突き合わせながらぼそぼそと話をしている。耳が良い方の僕でも少し聞き取りづらいけど、依頼先で問題でもあったのかな?

 三人の方を見ていると、男性が僕の顔をじっとみて、にこりと微笑んだ。

 ちょっとまた背筋がぞっとしたけど、風邪でもい引き始めたかな。


「それで、そこの新顔の…お名前はなんていうのかしら?ぼ、う、や?」


 ぼ、坊や。やっぱり、身長が小さいから。もう156もあるんだけど。父上みたく165ぐらいは伸びる予定なんだけど。

 とりあえず、自己紹介はしておこう。


「僕の名前は、ルーフェといいます。以後、お見知りおきを」


 そういって、うっかり夜会の時のように腰をおって挨拶をしてしまった。いや、彼の雰囲気が知り合いの未亡人の伯爵夫人と似ていて、つい癖でやってしまった。

 きちんとしないと巻き付かれるんだよな。伯爵夫人はラミアだから。


「あら!ねぇねぇ、マルセイン見た?見たわよね?この子、礼儀正しいわよぉ。いい子ねぇ」


 きゃっきゃっと喜ぶ彼は、スキがあるようでスキがない。本当に伯爵夫人のような人だ。彼はパイプを緩くくわえて紫煙を吐き出しながら、どこか値踏みするように僕を見ながら名乗った。


「あたしは、オルテミュウズ支部の花形受付。ヴァル・シャーンというの。あなたみたいなかわいい子、あたし大好きよ?仲良くしましょ?」

「は、はぁ。よろしくお願いします」


 ヴァルと握手をする。ギルドの受付というだけあって、適度に鍛えているのか、かなり力強い。

 ただ、握手している親指で、僕の手の甲をさするのはやめてほしい。


「化け物に気に入られるとか、俺なら勘弁だな」


 一歩どころか、四歩ぐらい離れた距離でヒューブがささやいた。僕ぐらいしか聞こえていないのかと思ったが、ヴァルはぐるりとヒューブに顔をむけた。

 やっぱりこの人蛇っぽいんだけど。


「んふふ。ヒューブちゃん?あんまり調子乗ってると、夜の乙女たちの女子会で仕入れた、あんたが大人の階段を登った時の失敗談を、ギルドの掲示板に張ってあげるわよ?」


 真っ青で「や、やめてくれよぉ」とがたがたと震えだしたヒューブ。どんな失敗をしたのか気になるな。いずれ自分が失敗しないように参考にしたい。

 そういう話とかをしてくれるような人が周囲にいなかったもんで、いまいちわかんないんだよね。どうやったら、成功で、どうやったら失敗なのかとか。父上が倒れたから、許嫁も決めてなかったし、なにより、うちの方針は恋愛結婚だからな。みんな城を抜け出して伴侶を連れてきたらしいし。


「もう!ヴァル!まだこの子には早い話じゃないの!?」

「いやん、オリエ!怒るとシワになるわよー!そ、れ、に…そういう知識のない子にそっと教えるのって、退廃的じゃなぁーい!」


 オリエが、ヴァルから僕を引き離し耳を塞ぐ。いや、一応ある程度の性教育は済ませているんだけど。二十三だし。ただ、ノーマン種と違って、僕らには発情期があるから、発情期がこないとまったく興味がわかないけど。

 オリエとヴァルの口論というじゃれあいをききつつ、マルセインは困ったように苦笑している。ヒューブは矛先が変わったのでほっとしているようだ。

 いや、助けよう?


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