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部屋へといきます!

 ギルドで話を終えて、マルセインたちは次の任務があるからと、ギルドから出ていった。もう夕方なのに?と思って、聞くと


「最近、夜間の方が多いんだよ…アンデッドだと厄介だからな」


 そういって、ポーションを買っていこうとしたので、手持ちの薬を渡すことにした。


「これなんだ?」

「血止めの軟膏です。弱いですけど、自己回復の効果もあるので、そのポーションは買わないでくださいね」

「へぇー。これが軟膏ってのか」


 鞄から取り出した軟膏は、普段から使っている。医術院でも処方されるようなありふれた薬だ。

 ふたを開けて、臭いを嗅いでいるマルセインと、どのようなものか気になっているオリエ。花の匂いの軟膏は、素材のせいなんだけどね、女性にも評判だ。初めてみるというようなヒューブは、もうさすがだとしかいえない。


「あら?ヒューちゃんは知らないの?あたしは使うわよぉ…つかって」

「黙れ、猥褻物!」


 マルセインの拳がうねる!が、ヴァルは簡単によける。

 軟膏を使うなんて、あかぎれとか?もしくは、書類が多いから、肩こりかな?


「何よ!いいじゃないのぉ!戦場じゃ、必需品なのよ!」

「そりゃ、お前のようなやつか、何でもいいやつらだけだ!滅べ!末代まで恥をさらす前に!」

「あたしで末代よ!」


 一発もあたっていないが、本気で殴り掛かっているな、あれ。

 …戦場で軟膏ってそういう使い方か…それ用の軟膏も作り方は知っているんだよな…もちろん、その目的用じゃない。貴族や文官は座りっぱなしだから、ジ主になることもある。

 領地は少ないけど、大ジ主だ!

 って貴族が夜会で使う冗談とも本音ともいえる話は聞いてきたからな。


「で、小僧。わしのところへいつ来るんじゃ?わしはいつでもええぞぉ」

「すいませーん。お兄ちゃんに近づかないでくださーい。腐敗臭と加齢臭が移るんでーはやく土葬か火葬されてくださーい」


 遠い目をしていると、耳元で鼻息を荒くする老人に、肩を触られかけた。そのまま、足で蹴りはらうのはよくないぞ、ゲール。


「なんじゃ…ふん。お主が小僧の代わりでもできるのか?ん?どうなんじゃ?」

「あ、弟は無理というか、壊滅的に才能がないです。母のお墨付きです」


 もれなく爆発します。魔力が多すぎてろくに作れないんだよな。


「ふん、ならやはり小僧…お主でよいわ…の?優しくするか」

「この犯罪者!師とマルセインの師を呼びます」

「いやじゃあああ。鬼と蛇野郎はああああ」


 オリエが叫んで、詠唱ををしようとするのを床にはつくばって、足をばたつかせる…駄々っ子ってやつか?それをしているゲル爺。

 げらげらとヒューブは笑っている。


「なぁ。兄上、戦術魔法(オーバーマジック)を」

「それはなし…身の危険感じたら許可するけど」


 冷静に最善策を導き出さないで。ちょっと心惹かれたから。

 とりあえず、混沌としすぎている。



 マルセインたちをみおくり、ゲル爺は明日にでも少し話すことで、納得してもらい、解散となった。

 ギルドの二階が仮眠室になっているそうだ。ギルドの性質上、年中無休。真夜中でも仕事の報告や急な依頼が入るらしく、何名かは交代で常勤しているそうだ。

 とはいっても、何部屋もあるわけではなく、四部屋で二人ずつ、多くても八人が夜勤ができるようにしているらしい。

 どうも、ここは昔は砦の一角だったらしく、兵士の寝泊りが可能なつくりをそのまま利用したらしい。


「ここが二人の部屋よぉ。トイレは外の突き当りの所にあるのと、ちょぉっと汚いからおすすめしないけど、ギルドホールの飲食スペースにもあるわ。あと、体を綺麗にしたいとかなら、お湯ならもってこれるわよぉ。蒸し風呂は、ギルドをでて、右手の川を目指して歩いていけば、黄色い屋根の大きな建物がそうだから、行くときは声をかけてちょうだいねぇん…あたし出禁だから一緒に入れないのが残念だけど」


 ため息を悩まし気にしているヴァルだが、出禁の原因は、たぶんヴァルだからじゃないかな。

 しかし、蒸し風呂か。お湯に漬かりたいが、部屋で体を拭くぐらいにしよう。僕とゲールの背中には、羽が生えているからな。目立ってしまうだろう。


「ありがとうございます。あ、服飾関係の店でいいところを知りませんか?何着か買っておきたいので」

「服飾…ああ、服の店ね…安い所の方がいいわよね」


 ん?服飾関係だと高い店しかないのか。僕としては、溶け込めるような服だったらいい。一応、僕の今の格好は変じゃない。ロープで隠しているし、旅装束だ

 問題はゲールなんだよな。


「ゲール君のも買うのかしら?」

「そのつもりです」


 ゲールの服をマジマジとみつめて、ヴァルは納得したようだ。


「その方がいいわねぇ…こういってはなんだけど、その服だと目立っちゃうのよぉ。ただでさえ、その容姿でしょぉ?…子供向けの古着屋は少ないんだけど、駆け出しの子たちが利用するところなら、服もある程度直してくれたりするから、そこにしましょうかしらねぇ」


 その古着屋というのが、ギルドに入ったばかりの成人したてが利用するというので、有難かった。手持ちもそうだが、背丈の関係で、ノーマンの服はそれこそ小さめなのを着ないといけないだろうと思ったのだ。

 ビフレストでは、子供の服は親や兄弟姉妹の古着を直して着るそうだ。どんどんボロボロになっていくが、それは多産の種族ならだが、魔族は基本子供は少ない。貴族でもなければ、子供の服を用意するのはもったいない。だから、子供の服というのはあまり売っていない。代わりに、他の種族の成人向けの服を子供に着せたりとかはある。大事な行事のときの正装などで着たりするそうだ。


 城下で治療したときや、女中のちょっした雑談で仕入れた知識だが、ノーマン種も同じようだ。まぁ、彼らは多産だからな…子供服は着る期間も短いだろうし、成人したてなら、背もすぐに変わるから、売りにだすのかもしれないな。


 すぐにでも店に連れて行ってもらおうかと思ったが、先ほどゲールと並んで立っていた受付の女性が、ヴァルを呼んだ。


「ちょっと失礼するわねぇ…用事が済んだら行きましょう。ここからなら、あたしの『鍵』ですぐだもの」


 そういって、腰元の鍵束をたたく。知っている店だから、転移で行けるのか。それなら、時間はかからないだろう。


「すいません。ご迷惑をおかけします」

「ありがとー!おにおねぇさん」


 お礼をいうと、ゲールが子供の演技で礼をいったんだが…なんだ、おにおねぇさんって。


「あら!ゲールくん、おねぇさんなんて、この子ったらもぉ!…食べちゃいたいわぁ」


 後半しか聞こえてないとは、耳用の薬を調合しようか。

 あと、ゲール。重心を落とさないで。その構えはいけない。抜刀禁止ね。


「おい、兄上。あの不可思議生命体はなんだ。新しい種族だったりするのか?」

「それについては触れてはいけない…というか、ゲール。お前、違う服はなかったのか?」


 ヴァルが出て、扉を閉めたとたんに、ゲールがいつものような態度に戻った。そっちの方が安心する。

 僕の疑問がいまいちわかっていないゲールは、服をつまんで、首をかしげる。


「部屋着以外じゃ、夜会用の服か、鎧しか持っていない」

「鍛練用の稽古着はどうしたんだ?」

「ボロボロだったから、さすがに着てこれなかった…さっきからなんなんだ?目立っていないはずだったが、違うのか?」


 本当にわかっていないようだ。

 こういうところは、貴族の子なんだなぁとは思う。特に、子供のときから、修行ばかりで、あまり城下で遊んでいないゲールの場合は、自分が持っている最低の物なら、城下の人に紛れ込めると思っているのかもしれない。

 一応、二人で城下を散歩するときは、僕は今の格好で、ゲールには鍛練用の麻の服を着せて歩いている。が、その服がないから、今の状況になっている。


「まず、生地がもう少し悪い物のを使った服か、ローブを着てくればいいだろ?なんで、シルクワームの服を選んできたんだ?」


 シルクワームは、ビフレストに生息する魔物だ。この魔物の糸は高級品で、ノーマン種にも例の商会を通して販売されている。生地の重さの十倍の金貨が相場だ。場所によってはさらに値が上がるようなものを、子供が着ているなど、普通じゃないだろう。


「別にアラクネシルクでも、糸竜(いとりゅう)のでもないんだがな…一番質が悪い生地だぞ?兄上だって知っているだろ。一緒の店で仕立てたんだから」


 アラクネは亜人であり、ビフレストの国民であるが、少数民族である。彼らの紡ぐ糸は本当に着ているのかわからないほど、重さがない。そのうえ、手触りが柔らかく、丈夫であるが、生産数はとても少なく貴重品だ。十倍どころか、百倍の金貨でも足りないときもある。

 糸竜はそのアラクネに並ぶ上質の糸を吐き出す上位の亜竜の魔物だ。糸竜の糸は魔法耐性に優れていて、魔法使いの服やローブ、魔法使いに対抗する騎士の下着に使われているそうだが、一流しか着ない。値段もアラクネシルクとそうかわらないからだ。

 どちらもビフレスト国内でも高級品であり、貴族でも持っていない者もいる。


「王都の老舗で部屋着を頼んでの最低がそこなんだからな。普通の店なら最高級だぞ?…お前の服で身分が高いとばれたのもあるんだぞ?」

「そうなのか?」


 思わず、もう少し連れまわしておけばよかったと後悔した。

 王都は遷都してから、まだ千年も経ってはいない。だが、その王都でも老舗であり、王族御用達で、王子の部屋着を代々請け負っているような店が、仕立てているのだから、安いはずがないだろう。一着で、国民一人の年収…中級の商家で金貨五十にいかないぐらいか…それよりも多いんだから。


「次に…一番大事なことだけど、なんで、翼をだしたままなんだ?隠せよ」


 ローブを脱ぎ、僕はようやく、背中をかける。あー翼の付け根がべたべたしてるし、かゆい。


「それこそ、なんで兄上は隠しているんだ?蒸れて病気になるからと、俺の服に穴あけのをすすめてきたのは、兄上じゃないか」


 羽が抜けないように、丁寧にかいて、一息入れる。

 確かに蒸れる。夏場なんて最悪だろう。皮膚病だってなりやすくなる。油も出ているが、念の為に保湿の油も常備しているぐらいだ。僕だって気兼ねなくだしていたい。


「ここはノーマンの国だぞ?羽のあるヒト種はいないだろ?それに、僕の翼は、部屋以外で出すようなものじゃない」


 見すぼらしいから、人前でだしたくないんだよな。


「俺のも小さいほうだが、兄上の翼はな…でも俺と違って動くんだろ?いいよなぁ」

「動いても、そんなに高くは飛べないんだぞ…父上や叔父上のような高速飛行は無理だし」


 この翼。飾りでもただ生えているわけでもない。一応飛べるのだ。

 とはいっても、羽ばたかせるのではない。魔力波を翼がだして、魔力同士をぶつけ合って飛行するそうだ。風の理の浮遊魔法とは少し違う。魔力が満ちているこの世界なら、音もなく風すら動かさず飛ぶことができる。

 僕の飛行限界はゲル爺の魔法のときに飛んだ高さだ。思わず使ったんだが、自分の魔力を使うから、魔法というわけでもないので、ゲル爺はわからなかったようだ。裏技を使えばもう少し飛び上がることはできるが、飛行はあの高さが限界だろう。翼がもう少し大きければ、もっと高く早く飛べるだろうけど。

 父上や叔父上は飛ぶのが上手い人たちだったから、凄い。スレイプニルよりも早かったからな。


「確かに、魔王様やあの人は飛べたからな。お爺様は背中に乗せてくれたりしたから、俺もああできたらいいんだけどな」


 残念ながら、生まれつき翼が動かないゲールは飛ぶことはできない。もちろん、浮遊魔法を使って飛行は可能だし、本人も利用している。

 お爺様の背中は大きかったが、僕には厳しいだろう。


「お爺様のような竜化は難しいだろうな…」

「兄上ならできるんじゃないのか?」


 お爺様はどうしてだか、竜族に変化ができた。遠いどこかで竜族の血が入ったのかもしれないが、記録に残っていないので、わからない。それほど昔の話になるほど、魔族に竜族の血が入るのはありえないことだ。

 そんなお爺様の羽は僕のように小さかった。ヒト型では、僕のように上手く飛べないのも共通している。


「それはわからないな…一応、お爺様と似ている羽だから可能性はあるかもしれないけど…」

「いいなぁ…俺は飛べないからな」


 まぁ代わりに、僕より色々できるよな、お前。

 しみじみそう思っていると、ゲールが関心したように僕にう。


「しかし、意外だったなぁ」

「何がだ?」

「兄上がノーマンとか普通のことを知っているなんてさ。研究や素材とかには詳しいとは思っていたけど、こういうことを知っているなんて意外だなって」

「お前、結構酷いこというな」

「いや、兄上。兄上は魔王の息子だぞ?王族ってそういう常識ズレてるものじゃないか」


 一般論的には、ゲールが正しいのかもしれないな。普通、王族は城下に遊びにでかけたりはしないそうだし。周辺国の王族も視察や外遊はしても、一般の市民の生活に混じることはないな。


「んー…少なくてもお爺様や、父上も似たような人だったぞ?」

「そうなのか?お爺様は剣の腕は確かだが…破天荒な方だったからな…魔王様は真面目な方としか思わなかったし」


 ゲールが物心つくころは確かにそうかもしれない。メリューのことで、母上も研究をさらに熱心にされたし、父上も魔王職が忙しく…お爺様は、お爺様だからな。


「母上が存命だったころの父上はなかなか破天荒だったよ。いきなり、母上と二人だけで旅行したり。僕を連れて三人で出かけたり」

「…それは、近衛とか側近には?」

「内緒だよね。いやー…泊まっていた宿の外に軍隊が勢ぞろいしていて、宿屋の主人が誘拐犯みたいな扱いをされたときは、申し訳なかったな…ちなみに、父上はそのあと母上から怒られてた。休暇がとれたとか嘘ついちゃうからだめだね」


 今じゃ笑い話にできるけど、当時の近衛長が腹を切るとか、護衛役が首をつりかけるとか、月一であったからね。心労がお互い溜まってのことなんだろうけど。


「まぁ、そうやって抜け出すことで、世間を知っていくってのもあるし、僕は母上の残してくれてた本とかを読んでいたしね」

「ほう…俺の知らないところで、また抜けだしていたと?今回みたいに?」


 やぶ蛇った。

 ぎろっと睨んでくるなんて、兄上は悲しいぞ。


「帰ったら、城の抜け道を全て教えてもらおうか」

「いやぁ。それは…あ、魔王になるには必要だな。教えるよ、うん」


 魔王しか知らない抜け道とか、いろいろあるんだけど、さすがに書置きにはできなったし、そこは教えておかないとな。時期魔王になるのだから。


「そこもだ。なんで、出ていった?なんで、俺を指名したんだ?ちゃんと納得できるように教えてくれ…家族に黙って出ていかないといけなかったのか?」


 だんだん、泣きそうな顔になるゲール。あまり泣かない子が泣きそうになっているのは、みていてつらい。

 しかも、ゲールには、僕しか家族がいない。無論、叔父上は存命だ。が、立場上、ゲールの側にはいれない。魔王に謀反を起こす可能性がある人物…そう噂もされているような方だ。決してそんなつもりはなくても、大公であり王族の血筋だ。そこに自分の息子がいるならば、魔王を弑して国を乗っ取る。そう大公派閥の一部が勘違いしている。


「…相談もせず黙って出たことは謝る。ごめん。でも、僕は…」


 いっていいのか…そう思ったけどいわなければいけない。


「僕は、魔王に向いていないんだ」


 血筋だけで魔王になっていいわけがない。

 国の歴史をみても、愚王によって国が滅びかけたことはある。あの逆徒王だってそうだ。他に魔王になるべき王族がいなかったのではなく、血筋からだ。


「強くもない。統治も上手くできない。家臣も引っ張っていけない…何もできないんだ…」


 武力も魔力も統治力もなければ、愛想もない。どうしたって、僕の理想の魔王と、僕はかけ離れている。

 そんな風に思っているとゲールは「あははは」と笑う。

 おい、真面目に話しているのに笑うなんて酷いぞ。


「そうか。つまり、魔族が嫌いだとか、国が嫌になったとかではないんだな?」

「当たり前だろ?うちの国いいとこじゃないか。国民もいい人が多いし、何より、魔王への忠誠が高いじゃないか」


 春と夏が長いけど、過ごしやすいし、湿気も少ない気候。食べ物も素材はいいものがある。料理方法も他国から流入してきていて、改善されている。他種族だけど、国民は魔王への忠誠心も高く、徴兵も志願兵の方が多いくらいだ。何が嫌なところがある?


「俺は兄上にいったよな?兄上は本でも読んで研究していればいいって」

「そうだな。よく聞いたな」

「兄上が軍を指揮する必要はない。俺が兄上の望むように軍を采配してみせる。統治は宰相が兄上の望みに沿うよう整えてくれる。お爺様がいってただろ?適材適所で上手くいくって」


 お爺様は『剣王』といわれていたほど、武功のある方だった。統治の方は苦手で家臣や、王子だった父上が支えたそうだ。口癖のおようにいわれたのだ。


「自分は剣しか能がない男である。かわいい孫たちよ。自分のような男になってはいけない。が、もし、自分のようになるのであるなら、短所を補う人物を探すのである!適材適所で上手くいくのである!自分は国土防衛のためなら剣を振るい続ける所存であるぞ!」


 そんなお爺様は最期まで国のために剣を振るわれた。ご遺体はない。魔物を仕留めた時にお爺様もいなくなられたのだ。


「俺らは手足なんだよ。頭じゃない。兄上がこうしたいっていうから、その指針に沿って行動をしているに過ぎない。俺らが好き勝手に行動しているなら、ビフレストはすでに内乱状態でもおかしくないだろ?」


 僕の希望に沿って…そうはいうが、僕は何もできていないんだ。

 その言葉は口から出る前に消えた。


「あとな…兄上が研究してくれた薬で、国が救われているんだぞ?その才能を使わない方が、国民に対して不義理だと俺は思う」

「でも、僕一人じゃ」

「一人でする必要はないだろ?…いつも俺にいってるじゃないか。誰かのできないところを補ってあげればそれでその誰かも苦しまなくて済むって。あれは嘘だったのか?」

「ごめん…でも、今は自信が持てそうにないんだ…ごめん…」


 謝る僕に、困ったようにゲールが笑う。


「まぁ、兄上がそんな性分なのは、子供のころから見てきたから知ってるけど…この街にいる間に、心の整理をつけてくれよ?」

「うん…あ、宰相に手紙書かないとね」

「帰ってからでもいいだろぉ…俺、腹減った」


 少し沈んだ空気を払うように、明るくゲールがいうと、そういえばと空腹感が僕を襲った。

 ほぼ同時に、くるくると腹の虫が鳴いている。しかも、僕の方が大きな虫を飼っているようだ。恥ずかしい。


「じゃあ。買い物済ませてごはんにしよう。ヴァルさんに声かけようか」

「だな…あんま近づきたくねぇけどな」


 くすくすと二人で笑いあった。

遅くなりました!すいません。

台風がすごくて、更新できるか悩みましたが、何もなくてよかったです。

ブックマークやアクセスが励みになっています。ありがとうございます。

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