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ギルドに戻ってみつかります!

「アンデッドには生前の意思などなく、行動だけを真似て生者を殺していました。目的などなにもないのです」


 アンデッドは生者にひかれる。

 生者の中にある命にひかれるということだ。だから、アンデッドは生者の中身を欲して、引き裂く。犠牲者が肉体だけでなく、ときに魂もバラバラにされるのはそのせいだ。アンデッドによっては捕食の真似事もするそうだ。

 そして、彼らの死は伝染する。例外はあるがバラバラにされた肉体や魂は、瘴気によってかき混ぜられ、新たなアンデッドが生まれる。


「しかし、ここ最近この街周辺にいるアンデッドは違うのです。それこそ、噂に名高い死の都。ル・フェの女王が率いているアンデッドのように意思があるような行動をしているようなのです」


 例外の一つが、死の都のアンデッド。彼らは意思をもって、死の恐怖、生の苦しみの解放を善意で行っている。一体たりと正気のアンデッドはいない。みな、狂っているが死の都では新たな住人に都市の名前のとおり祝福を与えているつもりなのだ。


「実は今日も、俺たちはギルドの依頼で俺たちもゴブリンを討伐にいっていたんだ。以前なら、村の近くまででてこなかったはずの臆病なゴブリンがウルフと共同で村を襲っているなど、普通ではない」

「討伐そのものは、簡単ではあるけど。数が増えてるの」

「追い払える程度の強さのやつらが、まるで選別されたような強さになっていた」


 マルセインやオリエがそう話す。


「生き残って強くなっていたんだろうが…ゴブリンを襲うやつなんて、腹をすかせた他の魔物か獣…アンデッドぐらいのものだ」


 本で読んだことだが、 ビフレスト以外のゴブリンはとても臆病だ、生活環境が変われば牙をむいてくるが、こちらから駆除をしなければ、そこまで必死に襲おうとはしない。森の掃除人にとして、獣が増えすぎないように自浄作用もあるそうだ。

 ビフレストだと、ゴブリンも魔法を使うし、指導者のような個体もいる。まぁ、弱いけど。


「だから、ギルドとしては優秀な冒険者や新人が欲しいのよぉ。このガーディさんのような優秀な薬師ももちろん大、大、歓迎!」


 ヴァルが、手を唇にあててから、僕にむかって「んちゅう!」という音をたてる仕草をする。悪寒がまた走った。


 しかし、アンデッドか。

 僕の専門ではないが、アンデッドは魔女の研究対象なのだ。なにせ、古王国はいまではアンデッドの国になっているが、元は魔女たちの研究の都。多くの研究資料や古代の英知がそのまま残っている。国をアンデッドから取り戻す、同胞をアンデッドから解放することは魔女の悲願でもある。

 母上も研究をしていたが、古王国のような元魔女で意思があるようなアンデッドを倒すのは不可能に近いようだ。なにせ、彼らも研究をいまだにしているのだ。対抗策もすぐにされてしまう。


 ガーディ老の研究がもしかしたら何かに使えるかもしれない。

 魔法薬というものは、少なくてもビフレストにはない。それで何か研究に役立てれれば、国の魔女の人たちも喜ぶだろう。


「その、ルーフェさん…できればなのですが…医術を修めている薬師と見込んで…その…治療されて厚かましいお願いなのですが…」

「なんでしょうか?」


 どうにか、その研究をしれないかなぁと考えていると、申し訳なさそうにガーディ老がいう。


「もしよろしければ、私の研究を手伝ってはいただけませんか?代わりといってはなんですが、私が開発したいくつかの魔法薬をお教えしますので」

「はい!喜んで!研究を手伝います!」


 願ってもいない!むしろ、合法的に解決できそうでありがたい!しかも他にもとか!

 いってから気づいた。

 いや、僕、明日には逃げるつもりでいたんだった…まぁ、研究が終わったらにしよう。他の魔法薬の作り方も教えてもらえるようだし!色んなことに応用がきくかもしれないし。

 水の中で息ができるようになる魔法薬とか、鉱山の有毒ガスに効くようなら、採掘で使えるだろうし…いや、そういう薬ももうあるのかな?血中に酸素を送れるなら、医術転用も可能?

 わくわくしてきたな!


 にやりと笑うヴァルとゲル爺が見えた。

 くっ…計画していたのか。


「そうと決まれば拠点か」

「宿とか泊まる金…はありそうだな」


 ヒューブは僕がお金をたくさんもっているように思っているようだ。


「残念ながらそれほどないです」


 換金もしていないから、どれほど持っているかわからないけど、少ないだろう。

 魔王といって、好き勝手にお金を使えない。そもそも、お金を使う機会が少ない…ほとんどないかな?引退したあととか、趣味や息抜きで抜け出して、城下で買い物をすることはあるし、時には少し遠くまで行くこともある。王族として城下で正しい物価になっているのかをみるのと、買い物の練習が通過儀礼であるらしいから、絶対にないとはいわないけど。


「あ、ルーフェちゃんは宿はなしよ。今日は、ね」

「そうね。ヴァルのいうとおりね」

「その方がよろしいでしょうな…私の部屋が広ければお泊りしてもらいましたが…男一人の小屋ですのでね…」


 ヴァルやオリエ、ガーディ老まで、僕が宿をとるのはよくないという。ガーディ老にいたっては自分の家に泊めれたら泊めるとまでいってくれた。

 元とはいえ教会の関係者なのに優しいな。理由は、なんとなくわかるけど。


「身の安全…まぁ、その程度に思ってちょうだい」


 すでにギルドで調合した薬のことは知られている。どこかにいる教会関係者の耳にはいっている可能性もある。僕を消すのが一番楽だろう。

 どれほど強いかによるけどある程度なら逃げれる。さっきのように街中だからと遠慮しなければだけど。


「とりあえず、ギルドのあいてる部屋を今日使えばいいわ。明日にはきちんとした宿を紹介してあげるわねぇ」

「まぁ、下手に子供が一人で宿に泊まるとな…いい宿は値が張るし」


 一人で泊まらしてください。

 実は背中の小さい羽が汗でかゆくて、そろそろ一度ふきたいんだ。有翼種だと怖いのが蒸れなんだよ。かぶれたら、羽がなくなるし…僕のは小さいからさらにみすぼらしくなる。


「なんじゃ、わしの屋敷にくればいいじゃろ?なあ、小僧」

「遠慮します」

「くたばればいいわぁん、くそ爺」

「突き出しますよ?」

「師匠に転移でくるように手紙送りますよ?ゲル爺」


 色んな意味で身の危険だから遠慮します。


 最後のマルセインの言葉をきくなり「いやじゃあああ!鬼はくるなぁぁぁ!」と絶叫している。

 どんだけこわいんだろうね。


 ギルドに戻るまで、ゲル爺はぶつぶつといっていた。

 とりあえず、今日の僕の寝床の確保だ。明日からは、ガーディ老と楽しい研究をしようと思う。見せてもらった魔法薬も、破傷風の効果もあるが、それだけじゃなく魔物の瘴気を本当に防いでいるようなのだ。これは胸が高鳴る。早く明日にならないかなと。


 ギルドに入ると、受付にいた女性…だけじゃなく、女性がかたまっている?きゃーきゃーと騒いでいるが、何かあったのかな?


「あらん?仕事を放りだすなんて…なにかしらん?」

「おーい。お前ら!ヴァルがきたぞぉー!鍵でぶっ刺されるぞ!」


 マルセインがそういうと、女性たちはそそくさと離れていく。

 ん?関係ない男の冒険者がなんでか、お尻を押さえている。ヒューブもだ。


 女性たちが離れて、受付の女性だけがその場にのこ…え?


「ええーー!」

「うおっ!びっくりした!」

「お前そんな大きな声でんのかよ!」


 マルセインとヒューブが驚いたようだが、肺活量には自信がある。朝議(ちょうぎ)とか、椅子に座って返事するからね。複式がいいんだ。

 じゃなくて。


「いや、まって、え、なんで、そんな、え?はい?」


 目の前に見えているものが信じられなくて、脳が拒絶する。いや、視界情報がなんらかの魔術を受けているのかも。幻影魔法とかかけられたのかもしれない。

 ありえないだろう。


「わーい!お兄ちゃーん!こんなところにいたんだぁ!」

「よかったねー。お兄ちゃんが来てくれて」


 受付の女性が安心したように笑う。

 横にいる少年は誰の目からみても普通の枠組みにはいないだろう。


 その子は一言でいうならとてもかわいい。人形のような子だ。だから、女性受けもいいだろう。

 身長は僕よりも低い。146センチほどになるだろう。

 黒髪、緑の目。色は新雪のように白く、服もその子のために仕立て上げられた燕尾服だ。今は見えないが、背中には黒い子供の手ぐらいの羽の飾りのようなものがついている。さらに燕尾服の尻尾の所には、小さなバラの模様がついているだろう。薄青いシャツは、胸もとに乳鉢と翼の紋章がついているだろう。

 なにせ、まったく同じものを僕も持っている。違うのは紋章が僕の場合、薬研(やげん)と翼に杖を混ぜた紋章を使っているということだ。


「お兄ちゃーん!」


 そういって、僕に抱き着いて、耳元に口をよせ、ぼそりと小声でいった。


「おい、兄上。何黙っていなくなってんだよ」


 僕の従弟であるゲールが表情は子供のようにしながら、声はできる限り低くして囁くのだ。

 そうだね、ゲールはまだ声変わりきてないもんね。僕は最近きてきたけど。魔族は成長が遅いからね。


「いや、ゲールそれについては色々あってね。じゃなくて!なんで来てんの!書置きしてきたよね!僕!」


 思わず現実逃避しちゃったけど、なんでいるんだよ!

 ってか、なんでばれたんだ!ちゃんと転移先がわからないような魔道具を使ったというのに!


「それについては後で聞く。説明もな。早く、ここから離れようぜ?ばれる前にさ」


 ゲールがあごで指す方をみる。


「なんだ、ルーフェ。お前、弟がいたのか」

「かわいい。それに服もいいものね」

「やっぱり、いいとこのぼっちゃんか」

「あらぁん。二人ともかわいくてあたし…ぬれちゃうわぁ」


 ヴァルはなんだか変だけど、まぁうん。

 ゲールの表情がどんどん無になっていってるんだけど。


「潰すぞ、くそノーマンどもが。魔王陛下に対して図が高いぞ」

「うん、やめてね。そんなので戦争になっても困る。戦争は嫌い。疫病起こりやすくなるし」


 はーいギルドの人もこの子を刺激しないでください。この子見た目はかわいいけど、中身はそれこそオーガなら指ではじけば頭も吹き飛ばせるぐらいできる子だからね。

 あと、ノーマン種が好きじゃない。ノーマン種がビフレストに攻めてきたときに、病も持ってきた。はしかとかいうこの病は、なぜか子供の魔族にしか感染しない。僕もゲールも発症したけど、ゲールは特に高熱が続いて、その恨みもあるんだと思う。


 個人的に、戦争をしたあとの死体が疫病のもとになるから、戦争はしてほしくない。無関係なところまで病が広がることもある。

 僕は平和主義だけど、やられたらやりかえす主義ではあるからね。こっちからふっかけちゃいけない。きたらきちんと対応するけどね。こさせないことも大事だ。


 舌打ちをしたが、なんとか引き下げさせることは成功した。が、ゲールは僕の腕を掴んだ。


「それにしても…もう!お兄ちゃん急にいなくなるから、みんな心配しているんだよ?俺も怒ったからね!ぷんぷんだよ!」

「ひぃぃ!」

「そんな悲鳴あげても許さないから!」


 いや、悲鳴をあげる。腕は痛くはない。それよりも精神にくる。ほんと、きっつい。だって、お前自分の年齢と立場を考えてくれ。


 うちの国、ビフレストで成人前から将軍をしている者は今まで一人としていなかった。もちろん、成人したてで将軍になる者はいたことがあった。

 その通念を覆した存在。それが歴代最年少の十二歳で『剣王』の称号を得て次期魔王…僕が推挙した『冷微笑の将軍』の二つ名持ちである、ゲール・ファルシュテイン・オーディ・アスサリルだ。

 部下がみたら、仰天して震えるぞ。


 頬を膨らませて子供らしくしているけど、それはゲールが本当に小さいころにやっていたぐらいで、今やると、その、親族としては目のやり場に困る。

 成人男性の子供の真似、それを魔族の国ビフレストの将軍がやっているというのは、色々心臓に悪い。

 軍の潜入任務が得意とか聞いていなかったが、誰もゲールを指導できなかったのかもしれない。あとで宰相に手紙を書こう。これはダメだ。


「じゃあ、お兄ちゃんがお世話になりました!おうちに帰ろうね!」


 ぐいぐいと引っ張ってギルドの外へ連れ出そうとしている。一度、街の外か見えないところで転移を使う気だな。


「ちょっと!ゲール!僕は!」


 戻るつもりはないと、力負けしているけど、なんとか踏ん張って見せる。

 ぐるりと、ゲールの首がこちらをむいた。


 ああ、目がいっている。

 逃 げ ん な よ ?


「まてぇい!小僧!まだわしは聞きたいことがあるんじゃ!さぁ、わしの家に行こう…なんなら、自白…口が滑りやすくなるお菓子をやろう…のぉ?」


 僕のあいていた右手を捕まえてゲル爺が舌なめずりしながら引っ張ている。

 左手にゲール。右手にゲル爺。間の僕はカエルのように顔色の悪い男だ、げるげーる。

 なんちゃって!


「ああ?殺すぞ、ノーマンの爺が」

「おーし、ゲール!僕を探して疲れたろ!お兄ちゃんがだっこしてあげよう!ほーら、ぐるぐるもだ!」


 やばい。目が殺す気だった。殺気で思わず脳内で喜劇が始まってた。

 ゲールとゲルミュッドことゲル爺って、名前が似てるな!なんて軽口もいえない。


 ゲル爺の手を振りほどいて、宣言通りゲールを持ち上げる。おお、重たくなったね。腕ぷるぷるだよ。


「兄上…成人している俺は重いだろう?」

「いや、筋肉だいぶついたなぁって思うけど…兄の威厳もあるんだよ?」


 何度か、ぐるぐるして、地面におろすと小声で話し合う。


 なるべく従弟っていうことを城の中ではいうようにしていたんだけど、僕にとってゲールは弟のようなものだ。思春期になってからそんなに仲良くしていないけど、まだ赤ん坊だったゲールを弟にと、今は亡きメリューにねだったぐらいだ。

 メリューは母上と同じ師を持つ姉妹弟子だった。自分のことを忘れて僕の育児、研究に明け暮れて倒れかけていた母上をいつも助けてくれていた。いつも笑っていて、母上と研究が失敗したときなんて、あんな小さい体からどんだけ大きな声が出るんだと、子供ながらに驚くような大笑いをしていた。


 僕の遊び相手としか城の中で思われていなかったゲールを、僕と同じくらい気にかけてくれたのは、お爺様だ。同じ孫でも、ゲールは継承権もなく、なにより…命を狙われていた。メリューが死んだのも継承権に絡んでのことだ。

 お爺様は剣の技をゲールに教え、父上はゲールの魔力の高さを秘匿しようとがんばっていた。僕にできることといえば一つしかなかった。


「今日は従弟といわないんだな。兄上」

「従弟だと周囲にわからすのも面倒なんだよ?」


 次期魔王の従弟。

 そう僕は城内でいい触らして回った。他の従兄弟たちのことは、従兄弟とはいわず、ゲールだけを従弟君と呼ぶようにした。僕が認めている従弟だから、手を出すなよって牽制もかねてだ。ゲールが継承権を放棄しても、命を狙うやつはいる。それに、魔王の遊び相手では、立場が低い。そう思って、いうようにしていた。


 けどまぁ…すっかり強くなっちゃって。将軍だからなぁ。もう誰も命を狙わないと思う。

 剣と魔法において、ビフレスト最強だからね。


 すっごくにこにこしているけど、このあとのお叱り時間、短くならないかな?

 乾いた笑いをこぼしながらも、僕は一生懸命どうにかならないかと頭を悩ませていた。

かなりアクセス増えててびっくりしてます。

ブックマーク、評価もありがとうございます!一回ぐらいランキングにのってみたいです。

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