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目の治療をします!

 蛍石でもめるとは思わなかったが、他の材料も置いていく。点眼薬の材料はほとんど他の薬の転用だ。なにしろ、他のことに使うこともあるが、ちょっと目が疲れたとにさすので、事前に粉末にしてビンにいれてある。

 蛍石は砕くと中の魔力や、中に閉じ込められた微生物が死滅してしまうので、砕くことはしない。蛍石を薄青くしているのが休眠中の微生物であることがわかってからは、採掘にや保存も注意するようになったという歴史がある。

 他に使うものは、黄金林檎の種の粉末、沼亀の甲羅の粉末。樹精の木片の粉末、あとは百年草とかといったものだ。


 それを全て抽出する。

 創世の陣の上で液体となっている。まぁ、これは蛍石の魔力が空中で触れると液体化する性質のせいで、他の素材はほとんど水分はない。取り込んだものを空気に触れさせず、体内に吸収させれように促す成分もあるので、点眼薬にはかかせない。あとは、のどにも非常にいい。

 薬を空いているビンにつめて、陣の上の灰を片付ける。蛍石が灰になるときに「もったいねぇ」とヒューブがいっていたが、薬の素材なんだから、使わない方がもったいないだろう。


「まずは、こちらの麻酔を使います」


 あいにくと目用の麻酔は常備していなかったので、少し弱い麻酔を用意する。目の移植ではないのでそこまで強くしなくてもいいだろう。

 魔力剥離はかなり痛みをともなう。なにせ、神経の上で固体化した魔力を溶かすのだ。そのために、麻酔をさきに目にさす。


「大丈夫なのか?」

「麻酔は作ってきましたが…眼球摘出でしか目には使いませんね」


 老人二人がそのようにいうが、二人とも止めようとはしない。逆にギルドも四人組が、いいのか?やめないか?などというが、笑顔で邪魔をしないようにいうと黙ってくれた。

 患者の許可はおりているんだ。邪魔はしないでもらいたい。

 ガーディ老に麻酔を点眼する。瞳孔の収縮を確認するように、ろうそくの明かりをもってきてもらう。うん、効いているようだ。


「次に、魔力を取り除き、失われている目の細胞、筋肉を補助させるために、こちらの点眼薬を使います」


 治療用の点眼薬をガーディ老の目にさす。


「そのまま目を閉じていてくださいね」

「はい」


 ガーディ老が目を閉じると、ここから外科処置となる。

 さっきゲル爺のせいで使ってしまったので、今日はこれで終わりにしたいところではあるんだけどな。


 指先で始祖神の陣を空中に書いていく。

 少し体が重くなるが、さっさとすませるか。


「最後に、今、剥離している魔力層を取り除く作業に入ります。ガーディさん。いいというまで、目を閉じたままでいてください」

「わかりました」


「それでは、術式解放します。始祖神の陣展開。解放術式展開、病巣指定抽出。


 一つだった始祖神の陣が二つにわかれて、そのままガーディ老の目の上でとまると。回転をしながら、キラキラとしたものを抽出しはじまる。

 どれほど酷使したのかわからないが何年分かの魔力だ。少量ずつぬいているが、それでも普通に見えるぐらい可視化されているほどだ。かなり激痛もあったと思うが、そこまで無理しないといけなかったのか。


「ぐるぐる回すでないわ!書き留めれぬではないか!」

「ちょっとは自重しなさいよ!くそじじい!」


 どこにもっていたのか、筆記用具を片手に、紙の上に必死で始祖神の陣を描きこもうとしているゲル爺を、ヴァルは呆れたように叱っている。

 別に模写をしてもいいけど、これは僕の始祖神だからね。始祖神の名前を変えないと使えないと思うけど。


「痛みはどうですか?」


 抜く魔力の量を少しずつ増やしながら、ガーディ老に具合を尋ねる。異変があれば、治療は中止だ。


「痛みはないのですが…かなり両目が熱いように感じます。ああ、少し奥がしみてきました」

「大丈夫なのか?」


 ゲル爺が少し不安そうに僕にきく。


「魔力が抜けたところに、薬がはいっているのです…はい、抜き取りました」


 傷がついての失明ではなく、神経の上に魔力の層がかたまって、視覚神経の邪魔をしているような状況だ。その魔力を抜いてすぐに目を使えば、それこそ目が潰れてしまう。そこで、なくなった部分を補いつつ、神経細胞を正常化させているのだ。黄金林檎の種は細胞の若返り効果が手持ちの素材で一番強いから、視力回復にも一役買うだろう。


「不思議です。温かさが今度は、冷たくなっていくのですが、不快感がない。それどころか、楽に感じます」


 薬効が効いてきたのか、穏やかな顔をガーディ老は浮かべている。


「窓を閉めてもらえますか?それと。なるべく薄暗くしてください」


 部屋が薄暗くなるのを確認する。

 熱く感じていた薬が冷たく感じるのは、目の補修が終わってきている証拠だ。念の為に、光に強くなるように光に耐性のある沼亀の甲羅を使ってはいるが、念には念をいれる。


「ガーディさん。ゆっくりと目をあけてください」


 ゆっくりと、ガーディ老は目をあける。

 そこには、さきほどまでの濁った眼ではなく、透き通るような灰色の目が、僕をきちんとみていた。


「おお…!見えます…!」


 全員が口々に驚いて何事かいっている。僕は気にすることもなく、窓をじょじょに開けて、ガーディ老の目を光にならす。

 窓辺にいる僕を目を細めながら、頭の天辺から足の先まで、何度も往復するガーディ老。いや、視力確認に使うのはいいけど、そんな驚いた顔で僕をみないでもらいたんだけど。


「しかし、驚きました。お声からお若い方だとは思いましたが…これほどお若いとは。最初は女性かとも考えたのですが…成人はされておられるので?」

「ええ、成人していますよ…背はまだ伸びますので」


 なんで、そう素直に聞いてくれるのかわかった。この人、魔力で人を判断していただけだ。確かに、僕の声はまだ声変わりを迎えたばかりだけど、しっかり大人の声だと思うんだけど?まぁ、低い女性もいるから、うん。でもね。

 身長はまだ伸びるんだよ。そこはわきまえて。ね?


「たいしたものだな」

「そうね。魔力の流れが恐ろしく綺麗だった」


 マルセインとオリエが関心したようにいう。ヴァルの方は目がランランとしていて、正直ゲル爺の身内と聞いたのが納得だ。あの目は確実に何かに使うつもりの目だ。ギルドっていうのは討伐とか護衛が主体とかいっていたけど、なんか、治療するような任務でもあるのかな?


「しかし、その外科的処置ってやつ?そんなんも医術ってのはやるんだな。お前って薬師なんじゃねぇの?」


 明日には別の所へ移動しようと心に決めなおしていると、ヒューブがそう聞いてくる。

 医術者と薬師の違いか…どう説明しよう。


「そうですね…僕がいたところじゃ、医術も薬師は学んでいましたよ。昔は同一の職だったそうですが、薬師は薬学に特化していまして、日夜研究の毎日です。医術者は逆に外科の施術が多くて、研究は少ないですね。まぁ、大きな枠では医術者として含めていますが、研究成果の発表は医術者はしませんし」

「すまん、簡単にいってくれ」


 研究者としての一面がかなり強い薬師だが、それでも人体への影響がわからねばならない。地方によっては薬師が医術者だと思う人たちもいるぐらいだ。基本的に、医術者は外科的処置の専門家だ。僕は特別どちらも多くやっているだけで、普通は完全に分業だ。母上も薬師一筋だったぐらいだし。僕はかなりの変わり者かもしれない。

 そう思いつつ説明をすると、目を下に向けたヒューブが手をあげるので、かみ砕いた説明をすることにした。


「ほら、怪我とかで打ち身のときに、軟膏などを使うでしょ?その軟膏を良くして調合するのが薬師です。切り傷を縫うには医術者ですね」

「軟膏なんて高いもん使ったことないな。薬になる葉っぱなら、巻いたりするけどよ。縫うって、肉を縫うのか?」

「はい、傷口を縫い合わせます」

「腐っていくんじゃね?焼いたり切り落として、ポーションかけた方がよくねぇか?」


 なに、その乱暴な施術。体力ないともたないよね?


「ポーションをそうやって使うんですか?」

「討伐とか、ダンジョンとかで怪我したら、毎回そうやってるぜ」

「だんじょぉぉん?なんですか?それ」


 僕の問いに、ヒューブとマルセインが二人して「男のロマンだ!」と声をそろえていう。

 なんだそれ。


「昔の城とか、墓場とか。あとは洞窟が魔力だまりに飲み込まれて異界化するんだよ。それがダンジョン」

「ああ。迷宮の一種ですか」

「迷宮って呼ばれてるダンジョンもあるな…お前、本当に古王国の出身なんだな。あっちじゃ『陽炎の迷宮』とか『死せる騎士軍の迷宮』って名前のダンジョンがあるからな」


 ヒューブのいうダンジョン?はわからないが、迷宮の一種だとわかった。うちも結構ある。かなり危険な場所だけど。マルセインが僕の正体を知ろうとしているな。


「それについては、黙秘します。僕は記憶がないんで」


 そういうことにしといてください。明日には新しいのを考えてから出立しますので。


「ああ、しかし、目が見えるようになるとは…驚きました。感謝します、ルーフェさん」


 ガーディ老は僕の手を握って嬉しそうだ。よかった。僕も満足です。


「お前の嫌いな魔女の関係者に治されても感謝するとわのぉ。よかったのぉ、なぁ?」

「こっちをみないでください。そこについても黙秘します」


 ゲル爺が見てくるが、僕は黙秘だ。下手なことをいうと、逃げ出せなくなるからね。


「無論、魔女は教義においては悪ではあります。ですが、医術は神の恩寵でありますからね。感謝こそすれ、罵倒などはいたしませんよ」


 改めて、頭を下げるガーディ老にが頭をあげて、ゲル爺をみる。


「それで、私の家にきた理由はなんですか?治療してもらったのですから、ある程度のお話はしますよ、ゲルミュルドさん」

「それはよかったわい。ぜひ、お前たちの使う魔術式を教えて欲しいんじゃが」

「それは秘事ですので、お教えしかねます」


 にこりとガーディ老が拒絶をすると、ゲル爺は僕を逃さないように、出口の方に体を移動させつつ、鼻息も荒く言い返す。


「ふん、まぁいいわ。最悪、小僧からでも聞けばいい」


 にちゃっあり。

 そんな悪い笑みをのせてきたので、そっと目をそらす。


「まぁ、本当の用はのぉ…少し話をして欲しくてな。この小僧は世間に疎いようだし、ギルドのもんですら、街の薬師が本当の薬師と思うておる始末じゃ。お主の口から、薬師のことを聞けば、ええじゃろうと思っての。話してやってくれんか」


 そういえば、薬師の話を聞きにきたんだっけか。つい、ガーディ老の病気が気になってそれどころじゃなかったけど。


「構いませんが…何か裏がありそうですね。どこまでむしるつもりですか?ゲルミュルドさんがなんの見返りも求めないなど、恐ろしいですよ?ルーフェさん」


 そう僕にいう。うん、その通りだと僕も思う。


「変なことをいうでないわ!こうやって恩を積み重ねて貸し付けておけば、こやつもすすんで、持っているなけなしの知識をわしに寄こすじゃろ?わしの狙いなど、かわいいもんじゃ」


 逆にすがすがしい。

 ガーディ老と僕のため息に、ヴァルがゲル爺と口論を始める音が部屋に響く。


「まぁ、現状からお教えしますよ…ところで、ルーフェ殿は、どなたに師事を?流派などは?」

「えっと…母と他の人にですね」


 わくわくしたようにゲル爺がみてきているけど、教える自摸はないよ。


「ふむ…始祖神の陣を見せてもらっても?」


 断って、机に描きこむ。一応、すぐ消せるけどね。


「確かにこれは、教会のものではないですね。始祖神の名が違います」

「読めるんですか?」


 こういってはなんだが…魔女の文字だ。ノーマン種が使う言語ではない。教会が魔女を嫌っているというのに、魔女の言語を使うのは…変だ。


「不思議に思うでしょ?教義においては敵である魔女の文字が読めるというのは」


 僕の疑問に、ガーディ老はどこか含みがあるような微笑を浮かべる。まるで、何かの秘密を打ち明けるような、そんな気がした。


「それでは薬師の話をしながら、私がいた教会…ガルセディ教の女神フリッガの話もいたしましょう」


 そういって、ガーディ老は暖炉の上に置いてあった一冊の本を取り出した。

少し遅れました。ぎりぎり毎日投稿していたのですが。

ブックマークと評価されていることに、かなりびっくりしてます。三度見しました。

ありがとうございます。面白いと思ってもらえたら嬉しいです。こんな小説あるんだと知ってもらえると嬉しいですね。

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