迎えにいかせよ
「まだなのか?コドリーロ宰相閣下」
「私も思いますがね、ゲール将軍閣下」
宰相である私は時間というものを重要視している。この年若い将軍にいたっては、魔王陛下が関わらないと短時間でも待てないような、短気な性分だ。
お互いを閣下といいあう嫌味が出るほどには、私もこの年若い将軍に八つ当たりするぐらい焦っているようです。
そんな私たち二人が今かまだかとせかしつつ、魔王陛下の居場所を調べている魔術官たちを睨んでしまうのは、仕方ないことでしょう。ええ。決して、こいつらの給与をどれほど削ってやろうかと算段するにとどめているだけです。隣の将軍のように、物理的に削られるよりはマシでしょう?寿命とかこの人平気で削りますよ?
「で?まだです?」
「も、申し訳ありません!その魔王陛下が使われた魔道具はどうも、目的地を設定しているような物ではなく、使用者を神の御手に託すようでして…」
魔術官でも、感知に優れているサイクロプス種の青年が、汗を出しながらしどろもどろにいい出しました。
さっさと答えられないなど、減給ですね。
そして、神の御手?その嫌ないい方はなんですかね。
「神の御手?つまりなんだ?」
ゲール将軍は、今すぐ首を引き抜きそうな顔をしています。一応、彼は優秀なので、手足を斬り飛ばすぐらいで勘弁してほしいです。将軍が怒りで我を忘れでもしたら、執務室が木っ端みじんになりますしね。
私よりもかなり低い背丈で、この城の人間が持つすべての魔力保有量よりも上っていう人ですからね。戦術特化でなければ、誰もが認める大公にでもなれるでしょうに。本人はなる気がないようですし、魔王陛下も大公にとは仰っていませんが、これから年を重ねたら、どうなるかわかりませんし。誰も腹の中に竜を飼いたくないでしょう。
「その…宝物庫の目録から察しますに…使われたのは『導きの羽箒』という魔道具でして…この魔道具の特徴がですね…使用者にもどこに転移するかはわからないのです。また、近隣諸国からも魔王陛下の魔力を感知できません…そのですね…あの」
魔術官はようはわからないといいたいらしい。
思わず、私も牙が鋭くなります。何人もいてわからない?魔術官とは、魔術が得意な者たちであったように思いましたが、質が低下しているようですね。
「つまりなんだ?貴様たちはここにきて、魔王陛下の所在はわからないと?一時間も、俺を待たせておいてか?」
執務室中に、ねっとりと、熱くそして冷たい…相反するはずの空気が満ちてきた。
呼吸をしていても、肺が焼かれるように、のどにまとわりつく。その発生源の表情は無。
「この者を責めてもしかたありませんぞ。まったく、苛烈なのは、先々代の魔王様譲りですか?私たち文官を威圧しないでもらいたいですな」
だから、その殺気と魔力は抑えてくださいね?そう言外に匂わせれば、舌打ちをしてなんとかおさえてくれた。
魔術官は気を失いたいだろうが、下手に魔術耐性を持っているせいで、気絶もできず、単眼がうるんで、助けを求めている。助けを求める前に、仕事をしなさい?減給額をさらに増やしますよ?
「俺の師匠だからな。その師匠からも、兄上はあまり剣が使えないから俺が代わりに守るように稽古をつけていただいていたんだ…なぁ、それなのに、今、兄上がどこにいるかわからないといわれても怒りを抑えているんだぞ?…何か手があるんだろ?」
「ほ、宝物庫の中に感知系の魔道具はありますが、宝物庫の扉は現魔王陛下の血脈でないと開きません!現在、国内では、前魔王陛下の弟君であるオーディ大公閣下しか入ることはできないでしょう。しかし、その…大公閣下は…」
落ち着いたかと思ったら、自分の言動で再度怒りが沸き上がるのは、やはり若さですね。私はもう、怒りが一周回って冷静になっていますよ。
先々代の魔王陛下は、魔王であると同時に『剣王』と呼ばれるほどの剣の達人で、在位されていた若いころは、攻めてきた勇者を返り討ちにしたほどのお方です。その方から、全ての剣技を受け継いだ将軍は、魔王には本当に不向きな人だ。
この人、国民のことはこれっぽっちも考えてませんからね。大事なのは家族だけらしいですし。
案の定、将軍は、魔術官の言葉に身が凍えるような笑顔を張り付けた。
「ああ。あの人しか入れないのか。なら、床を這いずらせて取ってこさせよう。物はなんだ?重くてもかまわないぞ?何、兄上の薬のおかげ生きているのだ。あの人だってこれからも、生きるためには床ぐらい喜んで這いずるだろう。呼ぶか?ああ、時間が惜しいな。なんなら、俺が今すぐ転移して持ってくるが」
身動きが取れない実の父に対してもこれだ。唯一、家族と思っている魔王陛下のことだけしか考えない。
大公陛下を荷物のように持ってこられても、手続きとかが面倒なんですがね…大公閣下も、悪い人ではないのですが、身内に甘い方ですし。病に倒れてからというもの、さらに領地経営を嫡男殿に教えることに頓挫されておられるようですし。
というか、まず第一にですね。
「ゲール将軍。一応あなたの父上ですよ?せめて、もう少し尊敬しているフリ…敬意を持たれたらどうですか?」
「無理だな。よく知らない人だから」
すぱっと言い切りましたね…魔王陛下が戻ってこられたら、一度ご相談いたしましょう。成人する前から、軍にいれたのは、間違いだったかもしれません。陛下と本人の希望もあったのありますが、一刻も早く、魔王陛下の治世を安定させるために、腹心となるように将軍を軍へと勧めましたが…もう少し周囲に目を向けれるように配慮すべきだったかもしれません。
魔王陛下が将軍に推挙されたおりに、普通、権力の派閥で、魔王陛下派と将軍派でもできて、そこからもめてもおかしくなかったんですが…ゲール将軍が上官や同僚に好かれないのと、本人がこんななので、杞憂に終わって助かりましたがね。優秀でも中身が子供ですからね。
「病床の大公閣下をお連れする以外に手はないか?」
魔術官に他の手はないかたずねる。できれば、もう少し穏便にすむように。
むしろ、大公閣下までは知られてもかまわないが、あの嫡男殿に知られるのは面倒になるだろう。あくまで暫定の跡継ぎ殿だ。調子にのってもらっては困る。
「そうですね…魔王陛下の調合道具は?」
その言葉に首を横に振る。
「持ち出されておられた。いくつかの研究はまとめて、医術者たちが引き継ぎをするように指示も書かれてあった」
研究室にいくと、綺麗に整頓されていた。愛用品も持ち出されており、ほとんど完成している研究資料などが、残されていたぐらいのものだ。
段取りがいいというか、陛下の優秀さがこのようなときにも発揮されているとは。
「なんだ?兄上の道具が必要なのか?」
将軍がそのようにきくと、びくりと魔術官が肩を震わせ深呼吸をする。
「魔王陛下の魔力に触れていることが重要なのです。調合道具は、魔王陛下の魔力を浴びております。そういったものならば、陛下の魔力を感じて、陛下の御身まで飛ぶことが可能になるのですが…何か、魔力を浴び続けていそうなものは、残っていませんか?」
なるほど、陛下の魔力の残滓から、陛下本人の所まで転移するのか。
いくつか思案したが、どれもなくなっていたものだ。
「残念ながら、羽ペンなどの筆記道具、調合道具、その他の日用品なども持ち出されている。御璽はどうだ?」
「難しいですね。御子は魔力を浴びせるものではありませんし、何より、この国から持ち出せないように術式が組まれていたはずです。恐れながら…大陸外の可能性もありますので」
御璽などは、国外に持ち出せば、城に戻るように古の術式が組まれている。この城とオーディ城のどちらかも落城しないかぎり無理だな話だ。
それだけではなく、御璽は国を表すものだ。魔王陛下以外は触れることすら、禁忌の代物だ。国として大陸全土を領土と定めているが、それは古代の領地を含めている。今では小国や自治領もある。そういった場所に行かれていると思ったが、魔術官の口ぶりから私は血の気が引いていく。
「そうだったな。遠方の可能性もあったのか…しかし…それでは…ああ!陛下!陛下の身に何かあってからでは遅すぎるというのに…こうなれば、緊急招集をかけて」
「待て。そんなことをすれば、国が乱れる。兄上が悲しむことは宰相閣下も望んでいないだろう?」
私の考えを今になって、冷静になったようにみせている将軍が止める。
私は将軍の気でも触れたのかと、将軍を睨むと、将軍は生意気にもにやりと笑う。
「それに、兄上の魔力を帯びているものなら、ここにある」
そういって、腰元の剣をたたく。
「実験のときも、つねに腰に差して、一日一回は魔力をこめて振っていたんだ。これで兄上の場所がわかるな。ほら、早く」
そういえば、陛下は苦手だとはいっていたが、剣術の稽古をされていた。簡単な素振りだけでもと、魔剣を振るう姿を何度か拝見したのもそうだ。
しかし、将軍のあの笑顔はなんだ?
「将軍、本当にあなた一人で行かれるのですか?」
「それが手っ取り早いだろ。どんな場所かはわからないが、まぁ、俺なら誤魔化せるだろう」
「不安しかないんですが、大丈夫なんですか?」
あなた、もしかして将軍職や人間関係が面倒になっていませんか?どうも、晴れ晴れしている気がしてならないんですけど。旅行気分なんでしたら、私に代わりなさい。
私が行けば…なんですか、部下が呼んでる?処理ぐらいしなさい。私はいま、忙しいんです!
ああ!陛下!どうかご無事で!
編集をかたかたやって、ふと時間をみて、あ、今日の分…となって急いでかたかたしました。他の人どうやって書けるんですかね。知りたいです。
またもブックマークやアクセスが増えているので、え!本当に!ってなります。
ありがとうございます。少しでも時間潰しになればうれしいです。