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乗り切ります!

 捕まって再度ギルドの小部屋に連行された。

 ああ、逃げたい。城下で何度もみたが、売られる家畜ってこういう気分になるんだろうな。


 もし、普通の魔法が使えるのなら、それを使って逃げ出すのだが、まともに使えるのは医術のみ。護身術程度に剣もお爺様に教わったが、才能なしの太鼓判付き。

 どうにか穏便に誤魔化せないだろうか。使える…お金も少しぐらいならだせる。


「さぁて…ルーフェちゃん。素直に吐いちゃいなさい」

「そう。そして、さっきの薬を売って欲しい」


 ヴァルとオリエの二人が食い気味に迫る。薬を売るのはやぶさかじゃないんだが、これを材料に交渉できないだろうか。

 美容目的のとかも少しぐらいなら、確か、鞄にいれてきたはず。


「ちょっとぉ。オリエ。あたしの分も残しなさいよ?」

「交渉はあとでしてあげる。今はルーフェに売ってもらうのが先よ」


 二人はそういって、男性陣は肩をすくめる…ゲル爺だけは先ほどまでと異なって、静かにしているのが、どうにも不気味だ。


「あ、その前に少し聞きたいのよぉ」

「なんでしょうか?」

「あなた、出身地どこよ?」

「えっとぉ、そのぉ、僕、記憶が」

「あ、もういいわよ、それ。普通の坊やならそのまま流していたんだけどね、さすがに、教会に喧嘩売るようなことをする子をそのままにはできないのよ」


 冷や汗が止まらない。

 やはり記憶がない設定はもう使えない。次からは違うのを使おう。

 しかし、聞き捨てならない。喧嘩を売るってどういう意味だ?


「僕、教会に喧嘩を売るようなことをしていませんが」


 どこかで混ぜられていた毒薬の対応をしたぐらいだしたことも、簡単な解毒薬を作ったぐらいだ。


「あのね、さっきのポーションは、教会が正式にギルドに卸している商品なのよ。それを毒薬認定なんてしちゃったうえに、さっきのようなことが起きたでしょ?ギルドでもすぐ噂になるの。そしたら、すぐ教会の耳にはいるわ」

「でも、あれはどうみても毒薬ですよ?身体の構造を無理やり変えるような薬は毒でしかありません」

「あたしらからすれば、あれは普通の薬だったの…まぁ、あなたのおかげで、普通じゃないといわかったんだけどね。だから、爺じゃないけど、保護をすべきと判断したの」


 どうもあれは、毒薬ではなく、副作用の強い薬として売られていたようだ。しかし、あのような毒薬…失敗作にしかならないものが流通しているのか。僕が調合してきた薬で、もっと安全で副作用の少ないものとかあるんだけど。

 何より、鞄の中には新しい研究成果も持ってきている。


 しかし、どうしたものか。

 教会は元々、魔族を目の敵にしている。喧嘩を売られることはあっても、売ったことは…少なくても父上の代ではない。お爺様のときには、小競り合いはあったそうだが、そんなに大きなのはもう数十年以上起こっていない。

 世界的に流行り病が発生したため、人口が減ったのもあって、戦争をしどころではなかったのだろう。教会も祈ってばかりではいられなかったろうし。

 まぁ、このまま見過ごすのも嫌だな。毒薬が普通の薬なんておかしい。


「一ついいかの?」

「なによじじい。変んなことしたら、潰すわよ」


 教会への対応を今後どうすべきか悩んでいるとゲル爺が口を開いた。


「お前は叔父に対して尊敬するということをせんのか!」

「何度もあんたのしでかしたことの尻拭いをさせられてたら、尊敬とかなくなるわよ」

「失礼なことをぬかすな!お前にそこまで迷惑をかけてないぞ!」

「何よ!あんたの親族だからって、苦情処理をさせられる身にもなりなさいよ!さっきだって、あんた周りが見えてなかったじゃないの!そんなのでまともに話ができると思うわけないじゃないのよ!」

「同感だな。あれは酷い」


 正直、死んでしまうかもしれないと思った。攻撃性の高い魔法をいきなり使うような狂人のいうことを、誰も信じなだろう。


「ふん!わしも気になることがあるから、もう無理じいはせんわい!」

「信用ならないわ」

「右に同じ」

「以下同文」


 完全同意。

 みんなうなづいた。


「まったく…わしがききたいのはじゃな、お主、さきほどからやたらと古語になっておるが、気づいておるかの?」

「古語?」


 古語というほど古い言葉は使っていないが?創世言語のルード語とかもはや誰も使っていないし。

 ゲル爺は机をこんこんと音をたてて指でたたく。


「今、わしらが手をついているこれはなんじゃ?」

「?机ですよ?」


 たたいているが、別に普通の木の机だ。魔法がかかっているわけでもない。


「そうじゃ机じゃ。おい、マルセインの坊主。これは机じゃな」

「ん?ああ…机だな。テーブルっていうほうがしっくりくるんだが」


 てぇいぶる?


「この水が入っているのは?」

(さかずき)ですね」


 杯もおそらく安物の玻璃(はり)で作ったものだろう。先ほどギルドで飲んだときも、城下で治療したときに、お礼で果実水をもらったときにも使ったことがあるのだ。普段は使ってなくても、間違えるわけがない。


「杯っていうほどのコップか?杯っていうのは高いグラスとかじゃねぇ?」

「こっぷ?ぐぅらす?」

「素材はわかるか?」

「玻璃ですね。少々質が悪いですが」


 僕とかが普段使っているのは、細工が少しついている。夜会だと、少し過剰かな?ってくらい華美な杯を使う。


「なぁ、オリエの姐さん。はり?ってなんだ?」

「玻璃はガラスのことよ」


 ヒューブは玻璃はわからなかったようだが、ぐあらす?硝子(がらす)かな?硝子だとわかったようだ。まぁ、玻璃と硝子は厳密には異なるのだけど、いい慣れているんだよね、玻璃(はり)(さかずき)をもて、とか夜会の開会の礼儀作法だし。


「ふむ。だいたいお主の素性はわかったぞ」


 ゲル爺は、少々身を乗り出すようにして僕をみた。


「まず、お主が話す言葉の端々は古臭い」

「ふる…」


 確かに、少し若者らしくないし、城下にお忍びで治療していたころも、子供たちから「お年寄りみたい」とはいわれたけど、それは歳が近い人がいなかったからで…。従弟君なんて、剣の稽古をはじめてから、口調が荒くなったけど、若者らしいって評判があるらしいし。


「どこに安物のコップを杯とかいう、ガキがおるんじゃ。よほどの気取り屋か、世間知らずか…恥も外聞もなく自然といったのじゃぞ?そして、医術が使える。わしが思うに、お主の家はかなり位があるのじゃろう」


 まずい。非常にまずい

 魔王とばれたのか。な、なんとしても誤魔化さないと!


「あ、あのですね」

「ずばり、お主…古王国の出身じゃな」

「え?」


 思わず、首をかしげる。ゲル爺は何をいってるんだ?


「古王国って、あの何千年も前に滅んだ?」

「死の都がある、アンデッドだらけのあの?魔王がいるビフレストと並んで冒険者殺しで名高い?人なんているのか?」


 オリエとマルセインがそうはいうが、訂正させてほしい。別にビフレストにいる魔族が乱暴というわけではない。過酷な環境と魔物のせいで、どちらかというと非力なノーマン種とかは死んでしまうだけだ。強いノーマン種は生き残るし、本当に少ないけど国民になっている人たちもいるらしい。

 二人の言葉に、ゲル爺は首を横に振る。


「最近の若造どもは…流石に、ル・フェの王宮にはわしも行ったことはないが、その周辺ぐらいなら、わしも何度か行ったことがある。人なら住んでおるわ。古王国といってもいくつもあった国々の末裔たちが小さな集落を点々として暮らしておる。国として成り立たぬから、滅んでいるというので間違いないがの」

「それで、どうして、ルーフェちゃんがその国だと思うのよ。古語だけなら説得力がないわよ」


 確かにあの辺は住んでいる人がいる。細々とした交流はしてある。なにせ、隣の大陸だし。

 それに、そこが出身という種族もいる。


「そりゃぁ、こやつの魔力。そして医術が使えるっていうことは…こやつに魔女の血が流れていると考えるじゃろ?そうすれば、あの国の関係者であると考えるのが普通じゃ。それに、つけくわるなら、名前が死の都にちなんでいるのは、古王国関係者じゃからじゃろう」


 魔力が見えるのか。そして、医術からの連想でのゲル爺の推測は当たっている。僕は魔女の息子だ。

 そして、僕の名前は母上がつけてくれたのだ。

 確かに、今では死の都として有名だが、加護とか救済っていう意味があるから、悪い意味の名前ではないだろう。


 僕は関心したが、他の人たちはどこか腑に落ちない顔をしていた。

 なんでだ?正体がばれてもおかしくないはずなんだけど。


「なんじゃ?お主らそろいもそろって、古王国のことがわからんのか?オリエの嬢ちゃんはわかるじゃろ?」

「古王国が、魔法技術の栄えた国であったことと、不老不死の呪法が失敗したことで、王都が死であふれるようになったことは、わが師より学びました」

「なんとも情けない…よいか?古王国は名前すらも残らないほど昔に栄えた国であるが、女王が治める国であったと古文書などには書いてある」


 オリエの言葉にゲル爺は深いため息をついた。


「女王は、魔女じゃ。古王国は魔女の国じゃった」


 母上が語ってくれた昔話にもある。

 古王国の魔女たちは、永遠の若さを求めた。そこで医術で研究してきた魔法や様々な薬を改良しようとしたのだ。例えば、細胞は分裂の回数が決まっている。それならば、細胞の分裂を固定させよう。あるいは、同一の者を作り出して、精神を移し替えよう。

 そんな研究が上手くいくわけもなく、死ねない体、壊れた精神体だらけになっていった。近づく者たちも同じようにして、死から逃れられるように…善意として彼らは死者を増やす。

 何度も討伐が行われたが、それらが失敗したことで、生者なき死者の都になった。


「そして、お主が先ほどみせた始祖神(しそしん)の陣じゃったかの?あれは魔女文字でのみかかれておった。わしには解読不能じゃった…おそらく、魔女から直接学んだのじゃろうな」


 魔女文字が医術の共通で使われる。いわれるまで疑問にも思わなかった。

 母上の本で学びつつ、他の医術者や魔女に師事して医術を学んできたのだ。魔女文字を使うのは当然のことだと思っていた。


「そこから考えれば、古王国の貴族の末裔とかの子供じゃろ。ここにきたのは…おおかた転移の魔道具でも使って飛んできた…ようじゃな?顔をみればわかるわい」


 否定したい…が、否定できるような材料がない。ほとんど当たっている。

 母上は魔女の系譜であるが、貴族ではなかったそうだ。なぜなら、貴族は真っ先に死の都の住人になっているからだ。今の魔女たちの祖先は、研究目的で放浪していた者たちの末裔だそうだ。

 しかし、魔王であることはむろん、魔族であることもばれていない…半魔だからか?


 ゲル爺は僕の顔色をみて納得している。


「あの国の人間は時々じゃが、修行として色んな国を旅するそうじゃ」

「かなり詳しいわね」


 ヴァルが不審がってゲル爺に尋ねる。正直、ノーマン種がこんなにも知っていることには驚いた。ゲル爺の口から出た理由には、さらに驚かされた。


「そりゃ、わしの彼女は魔女じゃったからの」

「ちょっと初耳なんだけど!パパからも聞いてないわよ!そんなこと!」

「誰にもいっておらんからのぉ」


 自慢気に話すゲル爺。

 こういってはなんだが、魔女と恋人になるなんて、なかなか簡単なことではない。なにせ、僕の母上も研究に一途すぎて、調合結果が思った以上によかった興奮で産気づいたぐらいだ。種族的に研究にのめり込んで晩婚化したり、子供を師匠になる人の所へ預けて研究するとか、だから、魔女の師匠は母親で、姉妹弟子は姉妹みたいなものらしい。

 そんな中で、いくら魔法が使えても普通の人間が恋人になるのは凄いことだ。


 思わず尊敬した目でみてしまう。

 それに対して、ゲル爺は少しだけ照れて、寂しげに笑った。


「それにあやつはもう、死んでおるからのぉ。わしの若いときにの」


 部屋にはなんともいえない空気が流れる。とくに親族であるヴァルは少し気まずそうに、視線を動かした。

 空気を換えたのは、ゲル爺の咳払いの音だった。


「わしのことはいいわい。それでじゃ、坊主。お主はもしや医術の修行でここまできたのか?」

「は、はい。あの、薬師になろうかと」


 僕がそういうと、ゲル爺は酷くつまらなそうにしている。


「そうか。なら諦めるんじゃな。ここにまともな薬師はおらん…少し見に行ってみるか」


 え?どこへ?

ブックマークが増えていて驚きます。

ありがとうございます。励みになります。

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