第六話 友チョコ?
「その、これ、受け取ってください……………お客様…」
思ったよりも恥ずかしいなこれ…ミナホが手伝うのを拒否した理由が今になってよくわかる。
これで最後のお客さんだから気を引き締めて!
私は前に立っている男子ににっこりと微笑む。微笑みすぎて顔の筋肉がバキバキだ。私の笑顔、引きつってなかっただろうか…
「あ、はい……」私の手の中から袋が消える。よかった!これで全てが終わった!
私は最後のお客さんに深く礼をすると、教室からそそくさと逃げ出す。
リストを取り出して全員に配ったか確認。うん、生徒は配り終えた。先生達も校長先生にも配った。
後は……これもお客さんと呼ぶのか?でも買ってもらったことには変わりない。
私は最後の力を振り絞って、校庭のグラウンドの方に向かって走る。
「司ぁ!」一人でリフティングの練習をしていた司が振り返る。
「一人で練習?偉いね。」
「まあな……」司は少し目をそらすとぶっきらぼうに答える。
「こちら、受け取ってもらえますか?お客様?」私はチョコの包みを差し出すと、にっこりと微笑む。さっきまで顔の筋肉がバキバキだったはずなのに、司の前では自然に微笑むことができた。
司は私の喋り方に少しびっくりした顔をしたけど、すぐにニコッと笑い返すと私の包みを受け取ってくれた。
いつも見ているはずの司の笑顔に心拍数が上がる。これだから、バレンタインデーは嫌いだ……
「これ、金。」100円玉を私の目の前に持ってくる。私は黙ってその手を自分の手で包む。
「ううん。やっぱりいらないや。これは私からの友チョコってことで。」友チョコと言う時に少し胸が痛む……ミナホにももらったからね。彼女にはホワイトデーにお返しをしないと。
また少しびっくりした顔をする司。
「………本命じゃなくって?」ボソッと何か呟くが私にはうまく聞こえない。
「え?何?」司の顔は夕焼けのせいで赤く染まっている。
「………だから……俺、最初っから乗り気じゃなかったんだ。佳乃がチョコセールすること。」そう言いながら、司は私に顔を近づける。
「義理でも、他の奴にチョコを渡してる佳乃なんか見たくない。」司の整った顔がすぐ近くにある。夕焼けのせいじゃないかもしれない。私の顔も真っ赤になってるだろう。司は急にもう一方の手で私をグイッと引き寄せた。
私達の顔は夕焼けよりも真っ赤だったに違いない。
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なお、この一部始終はしっかりとミナホに目撃されており、翌日、私と司はミナホにいじられた。
チョコが売れた数は惜しくも49個。私が司の100円玉を受け取っていれば、50個になったのだが、あれは友チョコだったしね………訂正する。あれは本命チョコだ。
私は未だに、バレンタインデーはバレンティヌスが死んだ日。よって、チョコなどを渡す日ではないと思っている。でも、ここは日本。たまにはチョコレート会社に利用されてもいいかなとも思った。
随分と短いです。
皆さん!ハッピーバレンタインデー!
チョコレート……食べたい!




