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第三話 天道リリの家はお金持ち


「あのっ………チョコ……1個ください…」目の前には顔を真っ赤にしてモジモジしている男の子の姿。


「はいっ☆お買い上げ、ありがとうございます♪このリストにお名前とクラスを記入してください!バレンタインデー当日に朝か、お昼休みか、放課後に届けに行くので教室で待機しといてくださいね。」


「えっ!届けにくるんですか?」意外そうな顔をする後輩くん。うーん、恥ずかしかったか…


「下駄箱の中にこっそり入れておくこともできますよ?どうします?」


「じゃあ、それでお願いします……」急いで下駄箱の場所を記して、100円玉を置くと、帰って行く。

やったー!またお客さんゲットだぜ!

私はさっきの子が置いていった100円玉に頬ずりする。


「佳乃〜どう?お客さんゲットしてる?」ミナホが手を振りながらこちらに走ってくる。


「うん!昨日ミナホがポスターばら撒きながらシャウトしてくれたおかげだね!さっきので、30人目だよ!」私はミナホに満面の笑顔で伝える。いやいや、お金が貯まっていく幸せとはこのことだ。顔がにやけてしまう。


「ほら!頑張ってる佳乃に差し入れのお弁当だよ。どうせ今朝も食べてないんでしょ?」綺麗に包まれたお弁当箱を差し出しながらミナホが微笑む。私には今のミナホが女神様にしか見えない。


「ミナホォォォォ!」涙が溢れてくる。そのままミナホに抱きつく。


「うわぁ!佳乃!どんだけ食べてないの!ほら、早く食べる!」ミナホがお弁当箱を開けると……………


まず、目に飛び込んでくるツヤツヤ白米、そしてこんがり綺麗に焼けた卵焼き、カリカリジューシーな唐揚げにポテトサラダまでついている!

「はわぁぁぁ!」泣きながらお弁当を口に詰めこむ。ご飯食べるの久しぶりだ!カリカリ唐揚げのこの食感!スルッと喉を通っていく白米!卵焼きがかもし出すハーモニー!


「おいひぃ!おいひいよ〜!」

叫ぶ私を珍獣でも見ているような顔で見つめているミナホ。


あっという間に食べ終わってしまう。うん!元気百倍!


「ありがとう!ミナホ!私、頑張るね!」私の顔はツヤツヤだ。


「いままで何食べて生活していたの佳乃……?」今のミナホは顔を真っ青にしてガタガタと震えている。


私がミナホの質問に答える前に誰かに声をかけられる。


「あの、チョコ、ください……」またまた顔を真っ赤にして立っている男の子。お客さんだ!


「はいっ☆お買い上げありがとうございます♪このリストにお名前とクラスを記入してください!バレンタインデー当日に朝か、お昼休みか、放課後に届けに行くので教室で待機しといてくださいね。」すぐに営業スマイルになる私。


よーし!これで目標の50個まで売るぞ!




***************


今日だけで38人もチョコ買ってくれました!明日も頑張るぞ!

明日は、学校が終わったら、バイトに行ってからスーパーで材料を買ってチョコ作りに取り組もう。バレンタインデーはもうすぐだ。

そんなことをぼんやりと思っていたせいだろう。私は廊下の角から飛び出してきた人とぶつかってしまった。


「あっ!」その拍子で私の手の中にあったお客さんのリストが床に散らばってしまう。


「ごっ、ごめんなさい!」顔を上げると飛び込んでくる金髪。

この人は……天道リリ……


「ちょっと、あんた何なの。」そう言って散らばったお客さんリストに目を落とす彼女。

その瞬間、赤い唇がニヤァっと広がる。


「なるほど、あんたが変なチョコをバレンタインチョコ大セールとか言って売り歩いてるわけね。」青い目が私を捕らえる。蛇に睨まれたカエルの気分だ。


「あんたみたいなブスがそんなことやって、リリさんが迷惑してるのよ!」リリの背後から現れる取り巻き達。

天道リリは日本人とアメリカ人のハーフで家はお金持ち。はい、ここ重要だからもう一度言います。

い・え・は・お・か・ね・も・ち


いいなぁ………


この学校でも有名で、見惚れてしまうような金髪、宝石のような青い目に赤い唇でとっても美人。いつも取り巻きの女子達を引き連れている。敵にまわしたら絶対にいけない相手だ。

その人が今、取り巻き達と前に立っている。


ヤバイ……どうなっちゃうの、私。


私が必死で集めたお客さんリストが彼女の美脚によってクシャッと踏み潰される。


「ふんっ、あんた、司にも無理矢理チョコを売って金儲けしようとしているんでしょう。すぐにやめなさい。」

ゆっくりと、私を睨みつけながら綺麗な声で脅してくるリリ。私の肩に手を置く。


「確かに、司にもチョコは売りましたが、無理矢理ではございません。あと、これはやめることはできましぇん。」同じ学年なのに敬語になってしまうし、噛んでしまった!怖い…これがお金持ちの怖さか……


私の返事を聞いてリリの顔がキュッと歪み、彼女の綺麗な形の爪が私の肩に食い込む。

痛い。振り払いたいけど、金縛りにあったように体が動かない。


誰か!助けて!


そう叫びたいけど声が出ない = 誰も助けに来ない

簡単な式が頭に浮かぶ。ああ、もうだめだ……





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