八話「心を持たぬ兵士」
八話「心を持たぬ兵士」
ルイ達は舌打ちしていた。トラックの中から姿を見せたの
は彼らが予想していたものだった。白銀の装甲の機械。全
長は人とさほど変わらない。国際魔法機関でも以前正式採
用されようとしていた自律行動可能な人型兵器。通称ファン
トム。動力源は魔力であり、注入した魔力が切れるまで動
き続ける。だが心を持たない兵士はただの殺戮者でしかな
いと国際魔法機関内でファントムについては反対する者が
多く、結局採用されずに終わった。そこで終わればファン
トムはこの世に存在しない。だが、国際魔法機関で不採用
となったことに不服を抱いた研究者達はファントムの試作
型とデータと共に欧州魔法教団側へと移る。そして欧州魔
法教団ではファントムは正式採用となった。
「心を持たぬ兵器・・」
「校舎の中には一体も入れないで。・・入られたら終わりよ」
「分かっています」
仙波達の放つ魔法弾がファントムに直撃する。だがトラック
からは無数のファントムが出てくる。このファントム達はト
ラックに積まれているのではない。トラックの中に魔法陣が
描かれておりそこから現れているのだ。空間転移呪文の応用
といった所か。トラックごと破壊すれば増援は止まる。だが
ファントムも当然それを理解しているのでトラックを守ろう
とする。
「死すら恐れぬというのか・・こいつらは」
「こんな場所では大掛かりな呪文を使うわけには・・」
四人がファントム相手に苦戦している頃カズキはリンがいる
部屋の前にいた。だが、床が突然消えてなくなる。
「なっ!?」
そしてカズキの目の前には学院長がいた。
「・・どうやら彼らでは貴方を止めれなかったようですね」
「あの四人を呼んだのは・・あなたか、学院長」
学院長は答えない。カズキは舌打ちした。生徒の中では上位
の力とは言え、学院長に勝てるなんてことはまずない。奇跡
が起きたとしても相打ち程度だろう。
「どうして精霊を殺そうとするのです?」
「目障りだ・・精霊は」
「・・精霊戦争すら起きなければ・・自分の運命は変わってい
たかもしれない・・そういうことですか・・」
学院長の言葉にカズキは呆然とする。この人は全て知っている。
知っている上で話していると。カズキの家は精霊使いの一族だ。
だが精霊戦争で精霊使いの大半は世界から孤立してしまった。
今ではそんなことはないが、あの戦争直後は凄まじいものでも
あった。カズキの母親は周囲からの言葉に耐えられず狂ってし
まい、父親も誰とも話さなくなった。いじめなんてものではな
い。世界全てから存在を否定された。そんな感じだ。だが精霊
の存在を否定する否定派と精霊との共存を主張する共存派の対
立が激化し始めた頃、カズキの祖父は精霊との共存を主張し自
らの孫であるカズキを精霊と契約させた。だがそれはカズキ本
人が望むものではなかった。
「・・あの戦争さえなければここまで精霊を恨むことなどなかった」
「彼女に直接の罪はないはずです」
「それは・・」
カズキは口ごもる。リンは確かにあの戦争とは何の関係も無い。
あの戦争に関係していた精霊の大半は人間の手で始末されてい
る。カズキが反論しようとした時上から悲鳴が聞える。
「・・今のは・・」
「リンの悲鳴だ。・・アカツキが先についた・・のか?」
カズキが戸惑う。アカツキには彼ら四人の足止めを頼んだだけだ。
何かがおかしい。達彦達がリンを襲うはずはない。とすれば誰な
のだろうか。その時、廊下で何かが爆発したような音がした。カ
ズキは外に飛び出る。
「これは・・」
ガラスを撃ち破りながら白銀の機械が近づいてくる。一体や二体
ではない。数十体だ。カズキは魔力の壁を作り、銃弾を防ぎ一気
に距離を詰めた。明らかにこの機械からは殺意や敵意を感じる。
友好的な存在ではない。
「・・まるで無差別に破壊しているようだ・・」
機械達は目の前に見える物全てを破壊するかのように攻撃してい
る。明確な攻撃目標など存在しないのだろう。
「ならば・・全て潰せばいいだけだっ」
そのころ、リンの前にはファントムの体当たりを喰らい倒れてい
る達彦と信雄がいた。そしてファントムは二人を蹴ってどけると
リンに近づく。
「何?・・一体・・」
リンは混乱していた。よく状況が掴めない。達彦と信雄の二人は
リンを心配してこの部屋に入ってきた。そしてカズキが来るのを
待とうと話していた時、ファントム数体が突如乱入してきた。二
人は応戦したが、負けてしまい倒れている。ファントムの腕がリ
ンを掴もうとしたその時、一番前にいたファントムの腕がちぎれ
飛ぶ。悲鳴は上げないが、ファントムが少し後ろに下がる。
「・・教団の玩具にしては反応がいいじゃないか」
「・・誰?」
リンの前に一人の男が立っていた。ファントム達が一斉に飛び掛
るが全てばらばらになる。
「・・あんたが、リンっていう精霊か」
「どうして・・私の名前を・・?」
「三好武彦って言えば分かるだろ?」
学院長が呼んだ人だとリンは理解した。だが何か事情があり
来れないと言っていたはず。武彦はファントムの残骸を触る。
「・・そこの二人の治癒は出来るか?」
「応急処置程度なら・・」
「大した傷でもなさそうだ。応急処置だけで十分だろう」
武彦は二人の事は任せたと告げると部屋を出て行く。だがそ
こにはファントムの群れが待っていた。
「子供一人ねじ伏せるだけの簡単な仕事と聞いていたが・・」
『相手は戦意剥き出しだ。・・全て潰すしかなかろう』
「学校の中だってことは忘れるなよ、デュフォン」
デュフォンと呼ばれた虎の精霊は苦笑した。武彦もファント
ムの群れに突っ込んでいく。それを見てデュフォンも突っ込
んだ。そのころ、近くにいた教団の幹部達はアカツキの襲撃
を受けていた。
「・・貴様も教団の軍人だろうっ・・」
「俺は理由があれば裏切るさ。教団の信者とは違う」
アカツキは許せなかった。学校に無差別破壊の命令を出した
教団の幹部達を。リン一人つれて帰るくらい、アカツキ一人
でも出来たはずだ。いくら邪魔になったとはいえ、生徒達を
傷つける必要はなかったはずだ。
「俺は今日限りで教団を抜ける。・・まずはお前達の屍を手土
産に彼らの所へ行くさ」
アカツキの放った魔法弾が幹部の心臓に直撃する。即死だった。
残った数人も同様に蹴散らす。だがまだ学校での騒ぎは収まって
いない。アカツキも学院へと戻ることにした。心を持たぬ兵士達
を処理するために・・




