五話「精霊の願い」
五話「精霊の願い」
「大体の事情は理解しました・・。それで貴方はどうした
いのです?」
「え?」
リンがきょとんとする。学院長は何も言わずリンのこと
を見ている。結局はリンがどうしたいかなのだ。それを
知らない限り達彦達は何の協力も出来ない。
「・・私は・・話をしたいんです。あの人と・・」
「そうですか。では話は簡単ですね。カズキ君を話し合い
の場に引っ張り出せばいい」
学院長は微笑みながら言った。顔は笑っているが目は笑って
いない。たいしたダメージでないとはいえ、やはりあの体当
たりは許せないのだろうか。
「と言っても・・私が干渉するのはまずいでしょうから・・表
向きには君達に動いてもらいます。よろしいですね?」
「はい。ですが・・表向き・・とは?」
「人員などは全て私が用意しましょう。必要であれば国軍にも
連絡を・・」
「それは結構です」
達彦と輝彦が同時に言う。この学院長であれば本当にやりか
ねないから怖い。結局学院長の友人数人が公安部に協力する
ということになった。学院長は先ほどから電話をかけている。
協力してくれる人を捜しているのだろう。
「ええ、そうです。少しくらいの報酬は・・というより君はお金
がないと動かないのですか?え?そもそも日本にはいない?
・・いや、それは知りませんよ・・飛行機代まで私に請求す
るのですか?・・まあ、いいです。ですが・・他の人員は
・・分かりました」
電話を切った学院長の顔が少しひきつっていたのは二人の見
間違いではないだろう。ため息をつき学院長は椅子に座る。
そして協力者の名を口にした。
「三好武彦。・・今日の夕刻には来るとのことです」
「三好・・武彦!?」
「なんだ、輝彦、知り合いか?」
三好武彦。謎の多き日本人。過去などは全く明かされておら
ず詳細は不明。日本人であるかどうかもただの推測でしかない。
名前すら偽名であるかも知れないのだ。精霊戦争や欧州戦争と
言った魔法戦争においての英雄。特に欧州戦争ではベルリンの
悪夢とも言われ、二度のベルリン陸戦では戦力的に負けている
教団側を勝利に導いたことで有名だ。
「よく知ってますね。・・他にも数人連れてくるそうですよ。
ま、楽しみにしてください。彼に会えるなんて滅多にない
ですからね」
学院長が苦笑いで言う。三好武彦はかなり神出鬼没である。
欧州大戦の時はずっとヨーロッパにいたのに、戦争終結時に
は中国で確認されている。かと思えばその数日後にはイギリ
スにいたとも報告されている。世界のいろいろな組織が勧誘
したがっているというのに彼と話をする機会すら作れない。
「凄い人と知り合いなんですね、学院長は」
「今でこそ学院長なんてやってますが・・昔はいろいろと危な
い橋も渡りましたからね」
そう語る学院長は苦笑いしていた。とりあえず達彦と輝彦の
二人は寮に戻る事にした。学院長は今日の夜にでも動く事は
出来るが、明日の夕刻に三好武彦率いる協力者が到着してか
ら作戦をきっちりと考え万全な態勢で明日の夜に決行すると
言った。確かに今日の昼間に公安部を集合させ、話をしてい
きなりその日の夜に決行すれば予想もしないハプニングが起
きる可能性は出てくる。カズキの実力は確かなものだ。油断
すれば負けるだろう。だからこそしっかりと計画を立てなけ
ればいけない。そのころ、ドイツのベルリンに三好武彦は居
た。武彦の横には一人の女が立っていた。年齢は二十歳前後
だろうか。そして二人の後ろにあるベッドの上には一人の少
女が眠っていた。
「ベルリンの悪魔とも呼ばれた男が学生一人を捕まえるために
日本に行くなんて・・笑えるな」
「戦友の頼みだ、仕方ないだろう」
「それで?私はここを守っていればいいのか?」
「西原達も置いておく。・・しばらくは戻らんぞ」
武彦はため息をついた。確かに笑えてくる。過去の戦争では
たくさんの人を殺しておきながら今は平和な日々を送ってい
る。
「西原達も?・・茨城のを動かすのか?時期尚早だと私は思う
のだが・・」
「東京なら茨城が一番近い。それに俺はいい頃だと思う」
女はまだ不服そうであったが何も言わなかった。ここで口論
をしても仕方ない。それに意見を述べた所で武彦が意見を変
えないのは知っている。
「・・留守の間は任せたぞ」
「ああ・・任せろ。この娘は私が守ってやる」
そのころ、東京魔学院の一つの校舎の屋上ではカズキとアカ
ツキが会話をしていた。
「どうやらドイツからとんでもない大物が来るようだな・・さ
すがの君もまずいのでは?」
「・・あんたに協力を頼みたい」
アカツキは微笑んでいた。その言葉を待っていたかのように。
互いの思惑が絡み合いながら、夜は深くなっていく・・




