四話「憎しみの剣」
四話「憎しみの剣」
「何事ですか?学院長、これは一体・・」
それは真夜中に唐突に起きた。学院の男子寮の方向から爆発音が
鳴り響いた。次の瞬間には男子寮の屋上から煙が上がっていた。
学院長を含む教員達は驚いていた。
「外部からの侵入者とは考えられません・・。彼の残した遺産がこ
こにはあるのですから・・」
「では、生徒が?」
「そう考えるのが妥当でしょう」
また爆発音が聞える。今度は中庭の方からだ。学院長は目を閉じ
ていた。精神集中し、何が起きているかを探っている。数秒後目
を開け、告げた。
「・・どうやら一年のようですね・・。暴れているのは。公安部の
生徒にも連絡を。夕方報告があった精霊の件と関係があるかもし
れません」
教職員はすぐに散らばった。一つのグループは男子寮の方へ。も
う一方は中庭へ。屋上と中庭の両方で使われた魔法は恐らくAA
ランクの攻撃魔法。威嚇のレベルではない。攻撃を仕掛けている
方は相手を消す気だろう。喧嘩にしては少しやりすぎだ。犯人の
目星はついていた。一年でAAランクを躊躇いもなく使える者は
一人しかいない。
「・・全く・・とんでもない問題児だな・・彼は」
男子寮の入り口では輝彦と達彦が合流していた。彼ら二人は精霊
の一件を今日の夕方に学院長に報告していた。そして彼らは何か
妙な事が起こればすぐに知らせて欲しいと学院長に伝えていた。
「・・カズキとかいう生徒・・だろうな」
「恐らくな。・・彼女を消す気だろう。AAランクの魔法なんて威
嚇に使うものじゃない」
達彦は舌打ちしていた。相手が本気でくるならこちらも相応の覚
悟で望まなければいけない。それに恐らく相手は達彦達より格上
だ。手加減なんて出来る相手じゃない。むしろ本気で向かわねば
二人がまずい状況になる。
「・・下級生相手にあれを使うのは嫌いだが・・仕方ない」
「待てよ、お前・・正気か?」
「・・仕方ないだろう。これくらいやらないと・・止めれないさ」
二人は中庭へと向かい走っていく。そのころ中庭ではリンが飛ん
でくる光球を回避していた。光球が当たった壁が音を立てて軋む。
対魔術用の防壁が張られている壁ですらこれだ。あたれば一撃で
瀕死もありうる。
「止めてください・・カズキ様」
「黙れ。・・お前にはここで消えてもらう。今後のためにも」
カズキは剣を持っていた。それを振り下ろそうとする。だがその剣
に何かがからみついた。
「しまっ・・」
カズキの足元に魔法陣が描かれていく。その魔法陣から鎖が伸びて
くる。すぐにカズキは拘束された。捕縛結界。結界の範囲内に入った
者を鎖で縛る呪文。鎖には対魔法処理が施されている。
「・・ただの捕縛結界じゃない・・。動けば電流が走る仕組み・・か」
「そうだ。捕縛結界に俺なりのアレンジを組み込んでる」
カズキは舌打ちしていた。鎖の対魔法処理のせいで魔法は使えないし
更に少しでも動けば電流が走る仕組みだ。これでカズキは動きを封じ
られた。魔法を使えない時点でカズキの敗北は決定している。ここは
輝彦達の指示に従うしかない。
「この精霊は君の契約精霊だな?」
「・・ああ、そうだ」
「ならどうしてその精霊を襲うんだ?」
輝彦の問いにカズキは黙り込む。人には言えない理由があるのだろう。
輝彦とリンの関係はかなり複雑なはずだと考えていた。少なくとも他の
精霊と契約主のようなものではない。精霊を恨んだり憎んだりしている
契約主は精霊をまるで奴隷のように扱う。だがカズキにはそれがない。
カズキはリンの存在自体を否定し消そうとしている。奴隷扱いする連中
より厄介かもしれない。
「君は精霊が嫌いか?」
「・・そんな質問に答える理由はない」
「・・どうやら自分の状況が分かってないらしいな・・お前は」
達彦がカズキに近づく。出来る限り穏便に事を済ませようと考えている
のは輝彦であって達彦はそうではない。もしカズキが反抗的な態度を見
せればいためつけるとも明言していた。それがより早い解決を生むはず
だとも。だが輝彦はそうは思わない。
「・・成瀬、止めろ。彼を殴っても何も終わりはしない」
「そろそろ学院長達もここに来る。その前に・・」
「もう来ていますが・・」
三人の視線が一点に集まる。輝彦の背後にそっと立っている人物。見た
目は二十前後の青年。とても日本人とは思えないきれいな金髪の青年。
それが東京魔学院学院長の高坂昌吾。容姿は若いが達彦や輝彦の父親よ
りも何十年も年上と聞く。この学院長についてはいろいろと噂がある。
精霊戦争に参加していたとか、昔は反政府運動の中心人物だったとか
欧州戦争時には第3勢力として戦争に介入し戦争の早期終結を実現した
とか。その内のどれが本当でどれが嘘なのかは分からない。ただ謎の多
い人物ではある。
「学院長・・」
「困ったものですね、カズキ君。男子寮の方も君の仕業ですか?」
「・・そうです」
「理由は聞くまでもありませんね。その精霊絡みですか・・」
学院長はカズキに近づいた。輝彦は捕縛結界を解く。その瞬間カズキは
学院長に体当たりした。学院長がよろめいた隙に小規模な爆発を起こし
煙を生じさせる。達彦と輝彦はカズキを見失った。煙が消えた頃には当
然カズキはその場にはいなかった。
「学院長、大丈夫ですか?」
「私は無事ですよ。・・君達の方は?」
「特に問題はないです。・・ですがカズキは・・」
学院長は微笑んでいた。その微笑みが何を意味しているのかをまだ輝彦
と達彦は理解出来なかった。
「さて・・貴方にはいろいろと話を聞きたいのですが・・」
「ええ・・構いません」
「では、君達も来なさい。・・私の部屋で詳しい事は聞きましょう」
三人と一人の精霊は学院長室へと向かい歩いていった・・




