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一話「勧誘」

一話「勧誘」

 二十世紀初めより、世界的に魔術というものが民衆にも広がり始めた。

 始まりの地は欧州。古代より多くの魔術師が住むと言われてきた場所。

 魔術はやがて二十世紀半ばにはアジアやアメリカ大陸にまで広がった。

 日本の首都東京にも東京魔学院が創立され、日本でも魔術師の育成が

 始まった。そしてそれから半世紀ほどが経過し、時は2015年春。

 今年もまた東京魔学院に入学式の日が訪れた。式自体はすぐに終わった。

 生徒達は自分達のクラスへと向かって行く。この学校は全寮制である。

 特別な事情が無い限り、学校寮での生活となる。普通の学校で言えば高

 校から大学にあたり、学年は一年から七年まで。特に成績が良い場合は

 飛び級もありうる。カリキュラム自体は普通の高校とあまり変わりはし

 ない。ただ、魔法学という学問が追加されているだけ。国語や数学や英

 語や理科などの一般教養も学ぶ。ただし、この学校で一番重要視される

 のは魔法学の成績である。一年三組では喧騒が起きていた。一人の生徒

 が数人に囲まれている。

「お前・・契約制霊がいるらしいな」

 囲んでいる生徒の真ん中にいる者が聞く。だが、相手は答えない。質問

 を聞いているかどうかさえ疑わしい。契約制霊というのは、人間と契約

 を結んでいる精霊のことだ。精霊魔法で呼び出される一般精霊とは格が

 違う。故に契約制霊を制御するのは難しく大人でさえ苦労する。普通の

 高校生が制御出来るような存在ではない。

「聞いているのか、お前」

「・・くだらん質問に答えるほど暇ではない」

 その一言に質問をした生徒は思わず殴りかかった。だが、その拳が止

 まっている。どれだけその生徒が力を込めようと腕は動かない。まる

 で何かに遮られているかのように。それを見ていた他の生徒か加勢し

 ようとしたその時、囲まれていた生徒が笑う。

「物好きな連中だ。入学早々病院送りになりたいとは・・」

「待て」

 笑っていた生徒の動きが止まる。クラス全員が教室の入り口付近を見て

 いた。生徒名簿を持った一人の教員と別の学年の生徒が並んで立ってい

 る。別の学年の生徒は騒ぎの中心地へと向かい歩いていく。

「Aランク以上の魔法は使用厳禁だと聞いているはずだが?」

「身を守るためだ。・・規律にも例外はあると思うが」

「・・裁くつもりはない。ただ、今後は注意してもらいたい」

 生徒は頷いた。別の学年の生徒はその者に更に近づき耳打ちした。

「放課後生徒会室に来てくれ。・・少し話がしたい」

 よく見るとその生徒は腕に腕章をつけている。学院生徒会公安部と書か

 れた腕章を。学院生徒会公安部と言うのは学院内の秩序を守るために作

 られた組織だ。教員の次に権力を持っているのがこの公安部である。学

 院内ではAランク以上の魔法を使用厳禁としており、その使用の現場を

 見た公安部は教員の代わりに生徒を罰することも出来る。

「騒いでないで、さっさと席に着け」

 ホームルームは十分ほどで終わった。担任が教室から出て行くと公安部

 の生徒に話しかけられていたあの生徒は静かに立ち上がり教室を出て行

 こうとする。だがそれを呼び止める者がいた。

「Aランクの魔法を使えるなん・・お前凄いな」

「何だ、お前は」

「ああ、俺滝川健太。ちなみにさっきのは俺の兄だ。・・お前の名前は?」

「カズキ」

 呟くように言う。カズキは生徒会室を目指し歩く。健太も何故か着いて

 きている。生徒会室の前でカズキは足を止める。ドアをノックし扉を開

 ける。そこにいたのはさっきの生徒だった。

「よく来たねカズキ君。・・健太、悪いがお前は外で待ってろ」

 健太が無言で出て行く。生徒会室は一般生徒は立ち入り禁止となってい

 る。カズキは椅子に座った。目の前に公安部の生徒が座る。

「俺は滝川輝彦。一応、公安部の最高責任者だ」

「・・そんな人間が俺に何の用だ?」

「・・公安部に入らないか?」

 単刀直入だった。カズキは輝彦の顔を見ていた。冗談を言っているよう

 な顔ではない。だが、カズキはその話を受けるつもりはなかった。

「ここの公安部は一年は入れないと聞いた」

「ああ。だが例外はある。Aランク詠唱破棄はここの5年レベルだ」

 魔法にはそれぞれの力に応じてランクが定められている。C〜SSSま

 での九つのランク。魔法を使うためには呪文を詠唱しないといけないが

 慣れてくると詠唱をせずに魔法を使う事もできる。これを詠唱破棄と言

 う。だがこの詠唱破棄はかなり危険なものである。呪文の詠唱は魔法の

 構成などを整えるものであり、それを破棄するということは魔法が不安

 定になりやすい。それを自らの技量でカバー出来るようになるのには少

 なくとも数年の修業が必要である。ただ、この詠唱破棄が出来るように

 なれば魔法の展開が早くなり様々な場面で有利に立てる。この学院の卒

 業試験はAAAランクの魔法いずれかの詠唱破棄となっている。

「君には公安部に入る資格は十分にあると俺は思うが・・」

「断る」

「そうか・・それは残念だ。気が変わったらいつでも言ってくれ。その

 時は歓迎するよ」

「・・一つ訂正しておく。・・俺があの時使おうとしたのはAランクの魔

 法じゃない」

 カズキの言葉に輝彦は唖然とした。Aランク以上の魔法となってくると

 殺傷能力がかなり高くなってくる。それ故に学院内では使用厳禁なのだ。

 授業で使用許可が出る場合もあるが原則として厳禁だ。下手をすれば死

 人が出るからである。

「・・なら俺も一つ忠告しておく。先輩相手にその喋り方は止めとけ。ト

 ラブルの種になるだけだ」

「・・考えておく」

 カズキは生徒会室を後にした。まだこの時、輝彦は気づいてもいなかった。

 このカズキという一年生と自分達公安部が対立することを・・

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