何でも握る寿司職人
回らない寿司を回すと安くなると思って回したけど食べた分だけお金取られたし、何より店員に怒られたので寿司は回さない方が安全。
男はとある寿司屋に入った。給料日だったから。
男は一番手前のカウンター席に座る。
「大将。適当に握ってくれ」
「あいよ」
寿司職人は赤と青のボタンのあるリモコンを取り出し、青のボタンを押した。
ガシャン!と椅子の背もたれから金属製の拘束具が飛び出す。
「!?」
男が叫び声をあげる前に寿司職人は言い放つ。
「この赤いボタンを押すと、あんた、爆発しやすぜ!?」
「握るってあんた……命運ッ!!」
女はとある寿司屋に入った。夫に内緒で貯めたへそくりで贅沢がしたかった。ついでに女はこの日給料日だった。
一番手前のカウンター席はなんだか焦げ臭かったので、一つ飛ばして座る。
「適当に握ってちょうだい」
「あいよ」
と寿司職人が言いながら取り出したのは、女の給料明細と、女が男と一緒にホテルから出てくるところを撮った写真である。
「奥さん……あんた、夫に内緒でへそくり貯めてるでしょ……?あと、浮気は良くないなぁ……?」
「え……?あたし、弱みを握られたの……?」
馬はとある寿司屋に入った。馬はレーサーだった。人参はあまり好きじゃなかったけど速いし人気だった。例によって給料日であった。
一番手前のカウンター席はなんだか焦げ臭かったし、三番目の席では女が泣き崩れてて気まずかったので一つ飛ばして五番目の席に座ろうと思ったがそもそも馬は人間用の椅子には座れなかった。
「ブルッブルッ(とりあえず何か握ってくれ)」
「あいよ」
そう言って寿司職人が取り出したのは手綱である。それを颯爽と馬に取り付け天井に頭をぶつけながら外へと躍り出た。
「ヒヒーンッ!!(手綱てッ!!)」
少年はとある寿司……屋……?に入っ……うん。乗った。少年は寿司が好きだった。その中でも玉子が好きだった。少年なので給料日ではなかったが親が金持ちだった。
「ねぇ!玉子握って!!」
少年は振り落とされそうになりながら寿司職人に言った。
「あいよ!」
寿司職人も舌を噛みそうになりながら玉子と酢飯を取り出して握った。少年はそれを恐る恐る口に入れる。どんな味なのか、手に汗握る瞬間だった。
「旨い!生まれて初めてこんなに旨い玉子を食べた!!すごい!お礼に君に父さんが経営する会社の子会社の社長のポストをあげよう!」
寿司職人は一瞬の沈黙の後叫ぶ。
「権力……ッ!?」
えぇ!?給料日でもないのに回らない寿司屋で寿司を食べる人なんているのかい!?