強化者
「なるほど、事前の情報通りですね」
去っていく強盗犯を追いもせずシンメイはそう呟き、二人の戦いを見ているだけだったシシーに声をかける。
「どうでしたか、シシー君」
「Nの751でしたぁ」
シシー・スーの異能の力は瞳に現れる。
彼女は己の肉体を変異させる能力者『異形』のうち、外見上の変化には乏しいが機能を著しく強化する『強化者』に分類される能力者で、その目で見た対象の気型や気数を判別する事が出来た。
気数はイコールではなくとも、能力者の強さと大きく関わってくるものであったし、気型は血液における血液型のようなもので、これがわかれば異能の力の系統『気系』も何であるかを推察するのに有利になる。
例えば、彼女の気型はV型と呼ばれるもので、これはヴァリアントとしての才能があり、メイカー、コマンダー、パラサイトなどの異能の力が苦手とされている。
V型でありながら、苦手な分類の力を使えるようになる事は稀にありはしたものの、非常に効率が悪く、安定性に欠けた力になりがちであった。
異能は一人一種が基本であり、気型と合った力に目覚めるのが自然で、よほど歪な事情でもない限り、気型の得意分野と気系は一致するものなのだ。
実際、シシーもV型のヴァリアントの能力者である。
「結構いい数値が出ましたね」
「はいぃ、大丈夫ですかねぇ、レンゴクさん600ぐらいしか出てませんでしたけど」
顔合わせをした『狸の葉』で、彼女の能力の証明を兼ねて、レンゴクの気力を計る機会があった。
その時彼女の瞳が計測したレンゴクの気数は600を少し越える程度で、ついさきほど計測したペインターの数値を下回っている。
「心配いりませんよ。彼、本番に強いタイプですから」
「そうなんですかぁ」
「ええ、問題なくペインターを逮捕してくれるはずです」
そう言ってペインターの残していた塗料を簡単に調べ始めるシンメイ。
それから数分ほどして、彼はUPCの通話機能を使いレンゴクと連絡を取り始めた。