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姫様奪還大作戦

 散開の声とともに、ミヤと俺とモモはそれぞれ三方向へと駆け出す。

 

《リミット・リリースは一分間まで! しれぇはアシストお願い!》

《おーらい!》


 ミヤは重力外装を纏い、軍団型ケルベロスの群れにそのまま飛び込む。

 軍団型ケルベロスはそのまま四方向から一斉に群がるが、牙がミヤに届く直前に、ミヤは右手のコネクトギアに手をかけて、直後、音速に迫る赤と桃の線となる。


限界点突破リミット・リリース

「消し飛んじゃえッ!!」


 直後に一瞬の間に両断され、潰され、機能を停止し爆発していく軍団型ケルベロス。

 肉眼で数える前に、次のケルベロスが爆散し、さらにその次が爆散し。

 高速で、赤子の手をひねるようにミヤは軍団型ケルベロスを撃破していく。

 そしてサポートであるモモもそれに切迫するかのような速度で、斬、斬、斬と軍団を切り刻む。少しして気がつくが、モモの背中には、翼のように広がる二対の日本刀型近接レーザー兵器が搭載されており、高速で通り際に軍団型ケルベロスを辻斬りしていっているようだ。

 俺もその間を縫うように、アサルトライフルを操り、的確に制御中枢ユニットを撃ち抜いていく。

 最初は高所に登り、擬似的にスナイピングしながら、感覚と慣れでそのまま軍団を撃破。

 追いかけたケルベロスが高所に集まり始めると、逃げるように飛び降りて下へと着地。

 一旦アサルトライフルを流れ作業で背中に収納すると、懐から二丁のハンドガンを両手に装備。

 二丁拳銃の態勢で構え、迫るケルベロスをあえて待ち構え、なんとか攻撃を回避しながら至近距離にてケルベロスに直接銃弾を撃ち込む。

 ケルベロスとの距離感を把握し、あくまで相手の攻撃を流すように。そして武道の形を利用し、時には真正面からの射撃兵装の弾幕を、オブジェクトによって回避しつつ、懐に滑り込んで一撃。

 フィクションの世界にはガン=カタと呼ばれるアクション技術があるらしいが、知り合い曰く、俺の戦い方はそれに似ている節があるという。

 一瞬、数に押されて大怪我を覚悟した瞬間もあったものの――


《こっちは任せて!》

「バウ!」

「協力感謝。今のはちょいとヒヤッとした」


 囲んでいたケルベロスを、ミヤがチャージされ刀身が巨大化したレーザーブレードでなぎ払い、残りをモモが背中に装着した巨大なリニアカノンの連射によって片付ける。

 やはり俺より何倍もミヤとモモがたくましい。

 こうして戦闘開始から四十秒。俺の射撃で最後の軍団型ケルベロスを破壊し、一段落――というわけにもいかない。


「玉手は屋上に行ったか……空で逃げる気かあの気障野郎!」

「はやくはやくッ!」


 玉手が昇っていった階段を追いかけ、俺とミヤは屋上へと向かう。作戦の確実性を考慮し、モモは別方向の屋上からアプローチをするようにお願いしておく。

 潔く頼もしい返事がテレパシーで帰ってきたので、後はモモに安心して任せられる。

 階段を昇り、屋上に近づいていくにつれ大きく聞こえてくるモーター音。この音はヘリの特徴あるモーター音だ。

 させまいと必死に駆け昇り、結果、ヘリが到着する直前のところでなんとか間に合った。

 ヘリは無人機で、おそらく自動コントロールによって動かされているものだろう。


「……四十秒で片付けただと? ふぅむ、小生の兵器でも、やはり出来のいい先天技能能力者相手では時間稼ぎにもならんとは」


 こんな時にも研究者をわざとらしく装う玉手。

 片手には毛布一枚だけで今にもはだけそうなヒメ。そして隣には何か無線機のようなものをぎゅっと持ったブロンド幼女。

 ヘリに乗られれば、ヒメの安全のために下手に撃墜は出来ない。この場で拘束し、ヒメを取り戻すのが最善だ。


「下手に抵抗しないほうがいいぜ。ヒメがてめぇと一緒なら、俺たちは地獄の果てまで追い詰める」

「だが小生の考えでは、そばに姫子さんを置いておけば、ある意味では小生も安全だと思うがね?」

「姫子が人質だって言いたいの!?」

「そういうものなのでは? 最も、研究の上ではこれから優秀なパートナーになってもらわなくては」


 「誰があなたとなんて……」と呟くヒメが俺から見える。全裸に毛布一枚だけとは思わなく、まさか変態的行為を、などと変な心配が湧き上がるが、様子を見るとその線はなさそうなので確認はする。

 とりあえず、逃げ道を潰すことが先決だ。


《ミヤ、ヘリを今すぐ潰せるから?》

《やってみる!》


 と、ミヤが限界点突破機能を行使しようとポーズを掲げるが、それを察知した玉手がその前に指を鳴らす。

 すると、俺の体がまるで全身にコンクリートを塗られ、電流が流されたかのような痛みが走り、動かなくなる。

 ミヤも同じ現象が発生しているようで、ミヤは驚いた表情を見せつつ、俺共々金縛りにされたようだ。

 かすかに動いた目は、両手を上げ、俺とミヤにそれぞれ虚ろな視線をぶつけるブロンド幼女の姿が確認できる。


「ッ!?」

「いけませんねぇ。小生には隠し玉があるのに、それを前に余裕を見せてはいけませんよ。そいつの念能力は、殺傷は出来ないものの、拘束力が強いのです」


 玉手は自分のことのように得意げに話す。こうやって対象を動けなくしてから、視線を合わせ精神干渉するというのが常套手段なのだろう。

 俺はともかく、ミヤが手も足も出ないということは、力の強さは本物だ。

 ブロンド幼女はゆっくりと、俺たちの元へと近づいていく。視線が近づく。このままではどちらも精神干渉されてしまう。


「小生の趣味とは別ですが、楽なので、二人とも舌を噛み切った上、飛び降りてもらい死んでいただきましょう。なにせ小生の邪魔をしたのですからね、血の花で街を汚すとよろしい……ッヒヒ。後は反逆罪として、研究センターも破壊せねばですなぁ」

「ッ!! や、やめて……お願い……!! なんでもするから、それだけは……!!」

「お、その顔。姫子さんやっと協力してくれる気になりましたか?」


 玉手の言葉に絶望感をにじませた顔の姫子は、すがるようにそれを懇願する。

 玉手の言動から察するに、犬型自走爆弾に協力した玉手のことだ。おそらく幼女の持つ無線機は爆弾の起爆スイッチだろう。

 起爆システムさえ破壊すれば危険はないと思われるが、スイッチがあちらの手にある以上、下手に刺激はできない。

 俺は懇親の力で精神を奮い立たせ、ヒメに精一杯のテレパシーを投げつける。


《バーカ。いつもクールなお前が向こうのペースにせられるんじゃねーよ》

《――司令、官?》

《ホントにダメだと思った時も、俺とダチだけは信じろ!》


 強がり半分以上にヒメを止めたものの、俺は打開策を思いつかないままだ。

 このままでは、どういう形であれ俺たちは洗脳状態になる。この状態になってしまうと、何が起こるかが想像もつかない。

 少なくとも良い結果にはならないだろう。

 もがきなんとか無理やりに動こうとするミヤ。そしてギリギリのところで思いとどまるヒメ。

 一瞬、頭をクールダウンさせようと、体は動かず深呼吸はできないままでも、無理矢理にでも精神を落ち着かせる。


《――》


 ――すると、澄んだ水の底から、必死に叫ぶような、細い声が聞こえた気がした。

 ノイズが混じっているわけでもない。まるで水底に沈められた人間が助けを求めているような細い声。

 これは、ミヤでもヒメでも、モモでもない。知らぬ誰かのテレパシーだ。


《――タスケテ》


 今度ははっきりと聞こえた。口を抑えられながらも、それに負けじと絞り出したような、悲鳴に近い何か。

 もし今、誰かに助けを、誰でもいい、今の自分を助け出してほしい。そう思う人物は、確かに目の前に一人いた。

 虚ろな目をし、人形のように扱われているブロンドの幼女が。


《――大丈夫だ》


 そう、優しくテレパシーで目の前のブロンド幼女に問いかけた直後、唐突に幼女の足が止まった。


「……むぅ?」


 玉手は今までにないアクションを見たためか、怪訝な視線を見せるが、俺はまだ問いかけ続ける。

 今、目の前にいるこの幼女が『想定していない動き』をしたということは、感情を奪われた人形に今、再び命が吹き込まれようとしているのだ。


《安心しろ。お前の声が聞こえた……俺はここにいる。見えるだろ?》


 次の問いかけをすると、俺とミヤを襲っていた金縛りが解かれ、幼女の両手が静かに垂れ下がる。

 「続けろ!」と玉手の余裕が崩れたのか、命令口調でそれをインプットしようとするも、幼女はその言葉では動かない。


《よし、いい子だ。さっ、こっちに来い。大丈夫だ、俺を信じろ。どんなになっても俺はお前を助ける》

《……聞こえる――》


 幼女はテレパシーでかすかに自我を取り戻す。そして生気が戻った目で俺の方をじっと見つめ、急ぎ足で俺の方へと近寄る。

 それを見た俺は、ゆっくり両手を広げて、それを静かに受け止める。


「大変だったろう? まっ、ゆっくり休めや。『おかえり』」

「――た――だ――」


 力なくなにかを呟きかけ、その幼女は俺の方に倒れ込み、糸が切れたように意識を失い、穏やかに寝息を立て始める。

 俺はその眠り始めた幼女の頭を優しく撫で、抱きとめたまま玉手の方にハンドガンを向ける。起爆スイッチもしっかりと回収。

 玉手にとってハンドガンが向けられたことは重要ではないようで、俺の腕の中で眠る幼女を見てただただ慟哭し、怒りを醸し、驚愕する。


「自分にかけた精神干渉を、自分の意志で解除したぁ……!?」

「口だけの言葉で女を口説くなんて三十年早いぜ、気障野郎」

「あぐ、あぐあ……!? ひ、姫子さん! 今すぐここから――あれ? あれれ?」


 玉手が抱えていたはずのヒメは、とっくに玉手の手元から消えている。もちろん、ヒメは現在、リミット・リリースを用い音速で動いたミヤによって回収済み。かわいくお姫様抱っこされている。


「へへーん! おまえには、0.1秒の隙があるっ!」

「ミヤに追いつきたければ、お前は光速でも目指せば?」

「あばば……!? そんな馬鹿な話があるかぁぁ!」


 その玉手の言葉だけには同意しておこう。

 ここは保身第一と思い立ったのか、玉手は後ろで待機している無人ヘリに乗り込もうとし――今度はその無人ヘリが、文字通り真っ二つにされ、ただのスクラップと化す。


「ワンッ!」

「いいタイミングだ、モモ」

「モモ偉い! 帰ったらオムライスあげちゃうよ!」

「あえ、あえあえあぁ……」


 鋭く光るモモの背中にあるレーザーブレード。ハナからの通信で、モモの行動サポートは完了している。ヘリがある座標をハナの方で把握すれば、あとはモモが一直線に向かう手はずとなっていた。

 後門の狼。前門には子鬼。

 玉手は目をキョロキョロさせ、ひたすらに逃げる策を考える。溢れる冷や汗も拭わず、ただひたすらに乾いた頭脳をひねる。

 だがそれは彼にさらなる動揺を与えるだけ。正真正銘の逃げ道なし。膝をつき、体を震わせるだけだ。

 俺はミヤに抱きとめていた幼女を預け、久方ぶりに拳をバキバキ鳴らしながら、堂々と玉手の目前に立つ。


「よーし、俺からお前に言いたいことがあるから、よーく聞いておけー」

「しょしょしょしょうしぇいはぁ……!」

「ひとーつ、多くの人様巻き込んで悪事を企むな! ふたーつ、子供に手を出すとは大人として言語道断! そしてみーっつ!」


 俺はとりあえず、このとことん気質に合わない気障野郎への蓄積されたストレスを拳に込め、腰を入れ、大きく振りかぶりながら、一番大事なことを叫ぶ。とてもとても大事なこと。


「女の子を全裸で放置するなぁ! この変態ロリコンやろぉぉぉッ!!」

「ごはぁッ!?」


 かつて新人たちを本気で叱るときにしか輝かなかった黄金の右ストレートを、しゃがんだ玉手の顔面にクリーンヒット。そしてそのまま意識を失い倒れ伏す。

 幼女の体でもあなどることなかれ。体の使い方さえ知っておけば、このように大の大人を本気でノックアウトさせることも可能なのである。

 気を失った玉手の顔を見ると、前歯が吹き飛んでいたが。正当防衛になると思いたい。そう思いたい。

 

「……よ、よかったぁ。おわったーっ!」

「バウバウッ!」


 ミヤとモモが仲良く勝利宣言。ミヤは感極まってヒメの無事を確かめるようにぎゅうっと強く抱きしめる。

 俺もやっと一息つけ、深く大きく深呼吸し、体の熱を粗く抑える。すぐに眠るブロンドの幼女を背負い、地べたにペタンと座るヒメの頭を強く強く、くしゃくしゃと撫で回す。


「……司令官」

「聞こえたぜ。ヒメの声」

「あっ……」

「ほら、言ったじゃんか。困った時に、お節介を焼くのが俺の仕事……いや、『やりたいこと』かな」


 色々言いたいことはある。が、今はただ皆が無事であったことを喜ぶ他ない。


「待たせたな。怖い思いさせてすまん。まぁその……おつかれ」

「しれぇもおつかれっ!」


 こういう時に限って、俺は不器用である。言葉は不器用なので、ヒメの右手に、俺の右手をぶつける。ミヤとも笑顔を交わしながらぶつける。

 モモもお手のポーズで手を上げてきたので、つい笑いながらモモとも手をぶつけてお疲れ様の挨拶。


「――んぐっ……ひぅっ……!」

「……やっぱり子供っぽいじゃねぇか」


 何かの琴線が切れ、ヒメは声を抑えながらも、抑えきれない嗚咽を口から出しながら涙を流す。

 毛布一枚のヒメに、俺が上着として羽織っている大きな軍服をかけて、今度はなだめるようにヒメの頭を撫でる。

 研究センターからの事後処理スタッフも到着し、浦島姫子失踪事件は収束を迎えようとしていた。

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