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実戦訓練は日常の華

 俺とミヤがハナに案内されたのは、研究エリアの隣区画に存在する実技エリアと呼ばれる場所だ。

 フィジカルエリアとも呼ばれるこの場所は、俺も能力測定を行う際に足を運んでいる。

 射撃訓練場や実地訓練場など、地下施設とは思えないほどの規模と広さが特徴だ。

 要は、体を動かしてトレーニングする場所と覚えておけば問題ないだろう。

 ここで俺たちは専用のフィジカルウェアと呼ばれる訓練着へと着替える。ぴっちりとした特殊ゴム製のベーススーツを着て、主に関節部分など怪我しやすい場所には小さなプロテクターを装着したものだ。

 ミヤは専用の変身道具があるのでベーススーツのみの着用。

 ただこのベーススーツ、使用者の体に吸着フィットするため、ボディラインが浮き立つのが難点。

 

「あー……この服のぱっつぱつなとこが今だに慣れん」

「しれぇって胸おっきいよねぇ」

「言うな、結構気にしてるんだ」


 今が幼女の体でも、体内の感覚はまだ四十歳おっさんのまま。

 やはり豊かな胸というないはずのものがあって、股下にあるはずのものがないというのは慣れるのに時間はかかる。

 トイレも同じで、必ず座ってお花を摘むというのは意外と戸惑う。

 一度間違って男子トイレに入ってしまい、男性スタッフと鉢合わせて苦笑い、という事態もあってそういった生理的行動も神経質になってしまうというのは辛いところだ。

 

「ほんと、越前さんって同年代の中ではずば抜けたサイズでー……」

「じろじろ見るな! 気恥ずかしいだろ!」


 ハナもハナでいろいろな感情が混ざった視線で俺のバストを見つめる。

 やはり自分と比べて気になるものなのだろうか。バストをあげられるなら余計な分を全部ハナに投げつけたい気分だ。

 俺としてはミヤの胸ぐらいストンストンなのが理想的なのだが。

 そんなつまらない夢想をしつつミヤと俺とで整列隊形に並ぶ。

 ハナは電子コンソールを弄くりつつ、俺たちを見て確認するように頷き、話を始める。


「二人共ご存知だと思われますが、ここは一定の行動パターンを再現する『光学ドローン』を使った訓練施設ですー」


 『光学ドローン』などと微妙な横文字を使っているが、要は『映像で構成された仮想標的』のことだ。

 映像に映し出された仮想標的を撃破する、というのが訓練内容となる。

 ハナ曰く、業務内で行う訓練は、こういった対実戦的なものや、災害が発生した状況を想定してでの訓練が多いらしい。

 こういった点は、俺が所属していた特殊機動隊と大差はない。極限状況下の中でパフォーマンスを発揮するための重要な訓練だ。


「今回の訓練内容は、先日撃破して頂いた自立兵器『ケルベロス』の改造型十体の光学ドローンと戦っていただきます。勝利条件は全機撃破。敗北条件は設置される守備フラッグポイントの破壊です。使用兵装は桃井さんのフェイバリットと、越前さんには銃器一式となりますー」

「その銃器は使い物になるんだろ?」

「もちろんですよー」


 前回、緊急兵装の拳銃が使い物にならなかったのでなんとなく尋ねたみた。

 今回はしっかりと本部で支給されている兵装ということで、使い勝手の良さそうなアサルトライフルから歩兵用小型ミサイルポッドまで至れり尽くせりのようだ。


「相手は十体、朝飯後の運動だ。フロントアタッカーはミヤ、俺はバックグラウンドサポートとセンターガード。いけるな?」

「もちろん! ボクに任せて!」

「いい返事だ」


 手始めに腰に強化型ハンドガンを四丁。懐にデュアルレーザーナイフ。背中にアサルトライフルを二丁携え、戦闘態勢を整える。

 ミヤも変身機械を起動しオープン。金属の戦装束に様変わりし、互いに準備が整う。

 それを確認すると、「それでは五秒前ー」とハナが気の抜けたカウントダウン。

 四、三、二、一と秒が刻まれてゆき、画面に浮かび上がるSTARTの文字。

 同時に殺風景で無機質的だった施設の様子が様変わりし、密林地帯の映像が全体に投影される。

 背後に設置されたフラッグポイントと、目前に召喚された光学ドローンのケルベロス。

 時間は長く要さない。早速テレパシーを行使しミヤに作戦司令を下す。

 こういった状況では、タイムロスなしにリアルタイムで会話ができるというのは予想以上に便利なのだ。


〈ミヤはタイマンで撃破優先! 同時に多数を相手にするな、他はこちらで引き付ける!〉

〈オール・ステンバイ! しれぇも気をつけて!〉


 ミヤは瞬時に高速移動によって一体のケルベロスに接近する。

 ミヤが装着している防具は『特殊強化重力外装』と呼ばれるもの、いわば一種の能力制御装置だ。

 コネクトギアと呼ばれる、変身に用いる右腕のハート型機械によって瞬間移送され装着されるそれは、ミヤのコントロールが難しい有り余る力を、細かいコントロールが可能なまでに制御し、任意の『限界点突破リミット・リリース機能』によって一瞬だけながらも全力を発揮できるようにセーブする。

 あれはミヤがミヤらしく戦うために必要な鎧であり、特別に能力を増幅するものではない。

 ミヤの変身要請を受け、粒子転送によってミヤに装着されるわけだが、容量の問題上、持てる特殊兵装は二対の高分子ブレードのみ。

 機能と能力の都合上、ミヤはタイマンには極端強いものの、一対複数のケースでは十分に性能を発揮できない。

 よって、ミヤにはタイマンに集中してもらい、その間、俺がセンターガードとしてフラッグポイント死守しつつ残りのケルベロスを牽制するのがベターだと考えた。

 こうしている間にも、ミヤはステゴロのみでケルベロスを十秒も経たず二体連続撃破をする。

 俺の仕事は、ミヤがケルベロスと戯れている間に、他の暴れん坊共を手懐けることだ。

 まずはせっかちなケルベロス二体がコンビを組んでフラッグポイントを挟撃する。

 それを待ってましたと言わんばかりに、俺はアサルトライフルで片方のケルベロスをヘッドショット。

 特技:射撃は伊達ではない。まずは一撃必殺で一匹撃破。

 次に向かうは、敵討ちと言わんばかりに猛攻してくるもう片方のケルベロス。

 彼女だったんだろうがご愁傷様、と内心冗談を混じえつつ、ケルベロスの巨大な爪をしゃがみこんで回避。

 そのまま転がるように地面を滑り込み、寝たままの姿勢で背中から強化型ハンドガンの弾を三発ほど胴体へと。倒れ込むようにケルベロスは機能停止。

 地面に滑り込んだ隙を見逃さず、違う方向から奇襲を伺っていたケルベロスがバックスタブ。

 俺はほぼ条件反射で振り向きざまに懐からデュアルレーザーナイフを展開し、そのままケルベロスへと一突き。そのまま中枢部分を斬り込み、ケルベロスを蹴飛ばす。

 

限界点突破リミット・リリース

「いち、にぃ、さん――四! 残り一体!」


 ミヤも限界点突破機能を用い、数秒に渡るほぼ音速の超高速移動によって桃と赤の線となり、コンビネーションを決めて一気に四体をブレードによって両断の後撃破。

 しかし限界点突破機能を停止し、着地した直後のタイムラグが絶好の機会であった。

 破壊されたケルベロスの残骸を影にし、最後の一体が急襲。

 フラッグポイントへのクリーンな射線をセーブされ、すかさずケルベロスの二本の砲塔がフラッグポイントに向けてロック。

 

〈しれぇ!〉

「ッチィ!」


 砲塔にロックされ、砲弾が発射される直前、俺は右手に持っていたデュアルレーザーナイフを投擲。

 頭部に設置されたケルベロスのセンサーアイにナイフが勢い良く突き刺さり、センサーアイが破壊。

 砲塔と胴体が一瞬ゆらぎ、砲弾射撃は不発。生じた隙を縫うように、ミヤがすかさずブレードを持ち跳躍。

 背中にある制御中枢ユニットへと刺突され、最後の一体のケルベロスも沈黙。

 一瞬の静寂の後、画面には「MISSION COMPLETE」の文字。直後に環境投影がオフになり、殺風景な施設の風景へと元通り。

 ハナは忙しそうに電子資料の記入を行いつつ、「お疲れ様でしたー」の一言。


「途中ヒヤッとしましたが、及第点だと思いますよー。さすがベテラン『お二人』ですねー」


 まずまずの評価をもらえたので、ひとまずは一段落。互いに「おつかれ」と言いつつ、軽い笑顔。


「しれぇはすごいねぇ。あっという間に三体撃破するなんて!」

「現場の勘頼りだけどな……ミヤには敵わんよ」


 不敵な笑いを交えつつ、挨拶がてらに拳をぶつけ合って訓練は終了。

 短いながらも、俺の初日業務は無事終了したのであった。

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